ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!!   作:ストレンジ.

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#04『Friend & the Third Kind』

 

 用意を完全に整え、ママが玄関先でレモンの出立を見送ろうというところでネモが息を切らして合流する。

「あなたがネモちゃん? レモンといっしょに登校してくれるんだってね。さっそく友達ができて私も嬉しいわ。よろしくね」

「いいえっ、こちらこそよろしくお願いします!」

「学園のパンフレット読んだけど楽しそうね~。先生がたも、みんな素敵そう!」

「それは保証しますよ! 授業も楽しいし、レモンもすぐ馴染めると思う!」

 屈託のない笑顔でネモが言うと、ママも満足そうに頷き、それからレモンを見た。

「寮生活、慣れないうちは大変かもだけど、しっかりご飯食べるのよ」

「うん。ママに教えて貰ったし、たまに自分でも作ってみる!」

「それがいいわ。……じゃあ、これ! おこづかいとお弁当ね!」

「ありがとうっ!」

 ママから包みを受け取り、鞄に入れる。今日のお昼まではママのサンドウィッチが食べられる、それはレモンにとって大きな励みとなった。

 

「さて……それじゃあこっちはとっておきのプレゼント! まずはママから!」

「え……?」

 そう言ってママがレモンに差し出したものはモンスターボールだった。全体が黒く、上部に赤と金のラインがあり、ボールの開閉部のアタッチメントも金や銀で豪奢にあしらわれている。

「復習よ。このモンスターボールは、なんて名前のボールでしょう?」

「ゴージャスボール! どうしたの? これ」

「実はこの前の買い物のときにプレゼントに買っておいたの。高いから1個だけだけどね……。よさそうな子と出会えたら使ってみてね」

「うわぁー、ありがとう!」

 思わぬ贈り物にはしゃぎながらゴージャスボールを受け取ったレモンに、ママはさらに意味深に微笑みながらまたなにかを差し出した。

「今度は……パパから!」

「えっ? パパからって……」

「実は昨日届いてたのよね~……さて、このボールは?」

 そう言われてレモンは受け取ったボールをよく見る。上半分が緑色のボールに、その緑色の部分に装飾用の赤のパーツが左右にそれぞれふたつずつ、それらの中央に黄のパーツがひとつ、扇状に並んでいる。

「こんなボールあったっけ……?」

「わたし知ってる! たしかに珍しいボールだから難しいかもね。わたしも持ってはいないし」

「ではネモちゃん、答えは?」

「フレンドボールでっす!」

「正解! う~ん、残念ながらネモちゃんにあげるわけにはいかないのよね。パパ、がんばって探して捕まえたらしいから」

「捕まえた……それって……!」

「そっちのボールにはポケモンがいるってこと!?」

 ママの一言にネモとレモンが目を光らせた。

「私のカメックスと働くようになるまでポケモンのこと、ほとんど知らなかったパパがレモンのためにゲットしてきた素敵な子よ! ……ボールは私がトレーナーだった頃に使わなかったものだけどね」

「お母様のボールなんですか!? どこで手に入れたんですか?」

 ネモが心底驚いた様子で尋ねるのをレモンは意外そうに見つめた。

「そんなに珍しいボールなの?」

「ガンテツさんっていう、人間国宝の職人さんが作ったボールなんだよ。気に入った人にしか作らないらしいから、すごい貴重なボールなんだ!」

「ネモちゃん、詳しいわね。ポケモントレーナーだった頃、ジョウトに行ってたときに迷子になってたガンテツさんのお孫さんと偶然会ってね。お家に送り届けてあげたらお礼にって作ってくださったの! ……勿体なくて、この通り使わないままになっちゃってたんだけどね。パパが貰ってもいいかって訊いてきたときにはビックリしちゃった。でも、こうしてレモンに託すことになったのは嬉しいかも」

 トレーナーとしてのママの足跡を辿っていくように改めてフレンドボールを見る。陽光のぬくもりと爽やかな海風を感じてレモンは一瞬、故郷のクチバにいるような気がした。

「ママの歴史か……」

「そんな大それたものではないわよ……。そして中には、パパの頑張りとレモンへの応援があるのよ」

「それをレモンが受け取る……フレンドボールっていうより、ファミリーボールって感じかも? わたしもどんな子がいるのか、すごく気になってきちゃった!」

 わくわくして見守るネモの期待に目配せで応えてからレモンはフレンドボールを軽く放った。

 

「フリィ~!」

 

 柔らかな緑の光を放ち、ボールから出てきたのはレモンも知っているポケモンだった。

「コンパン!」

 その名を呼ぶと、ネモがはしゃぎながら付け加えるように言った。

「わ! しかも色違いだよ、この子!」

「色違い……?」

「あっ、そういえば色違いのことはまだ教えてなかったわね。本来とは違う色を持つポケモンのことを言うのよ」

 ママの簡易ポケモン講座にネモが興奮気味に補足する。

「コンパンだと、普通だと目と口が赤いのが、この子は青いでしょ!? そういう体のどこかの色が違うのが色違いポケモン! めったに見れない珍しいものなんだから!」

 そう言われて、この色違いのコンパンをあちこち探し回った末にママから譲ってもらったフレンドボールでゲットに奮闘したパパの姿が容易に想像でき、とてもあたたかな喜びがレモンの胸に広がっていった。

「パパ、あとで電話しなきゃ……! ママもありがとう! よろしく、コンパン!」

「フリャ♪」

 頷くようにコンパンはその場でぴょんぴょん跳ねた。落ち着いたところでボールへ戻すと、ママがふたりを優しく見つめた。

「レモン……楽しいことも大変なことも、いっぱい経験してらっしゃい! でもいつだって帰ってきて、お休みしてもいいんだからね」

「うん! たまには帰るよ……ママのサンドウィッチも食べたいし!」

「うふふ……ネモちゃんも素敵な学園生活を! よかったらこの子のこと、気にかけてあげてね」

「はい! どんどん気にかけますっ! レモンはこれから強くなりますよ!」

 言われなくとも、という勢いでネモは胸をはって応えた。その言葉に気休めではない意気込みを感じて、ママは自分のことのように気持ちがウキウキしてることに気づいた。

 

「それじゃあ、ふたりとも……気をつけていってらっしゃい!」

 

 それまでとは違う、少し冷たい風が吹いた。レモンはひんやりしたその感触の心地よさを味わいながら、自分の家とネモの家の中間にあるコサジの小道からテーブルシティ目指して一歩を踏み出した。

 

   *

 

 歩き始めてすぐ前方にゆるやかな坂道が広がる。さっそく野生のポケモンたちがそこかしこにいる。今日までそらとぶタクシーでしかコサジを出たことがなかったレモンにとって姿になんとなく見覚えはあっても、生態はもちろん名前すらまったく知らないポケモンたちだ。うろつくもの、こっちの様子をじっとうかがっているもの、眠っているもの、たまに吹く強風で空に飛ばされるハネッコ……。目の前に広がるそういった光景を前に当然ながらレモンの好奇心はうずく。

「おおおお……!」

 矢も楯もたまらず手近なポケモンの目の前まで走っていきポケモン図鑑のアプリを起動する。

「グルトンっていうのか……体から虫ポケモンが嫌う、ハーブのような香りを……ふーん……」

 図鑑の説明をぶつぶつ読みながらグルトンに顔を近づけようとするレモン。

「ンガッ!」

 そんなレモンに驚いたグルトンは当然のように臨戦態勢をとる。

「おわっぷ!? クワッス、アタック!」

 慌てながらも素早く反応して小気味のいいテンポでクワッスでグルトンを攻撃しようとすると、次の瞬間、モンスターボールが飛んできてグルトンが吸い込まれていった。レモンがきょとんとしていると、ネモが困惑の笑みで近づいてきてモンスターボールを拾った。

「レモン、野生のポケモンにいきなり近づくのは危ないよ……。向こうから近寄って攻撃してくるのもいるくらいなんだから! 近づくときは十分に気をつけないと!」

「びっくりしたー! ありがとう! 捕まえたんだ?」

「とっさにね。当たってよかったよ。わたしボール投げるの得意じゃないから……」

「難しいものなの? ポケモン捕まえるのってアタシまだやったことないや」

「あーそっか、じゃあちょうどいいんじゃない? 実際にこの辺のポケモン捕まえて練習してみたら……」

 

「グギャォォォ!!」

 

 ふたりの会話は突如として響いた謎の大きな声によって中断された。明らかに人間のものではなさそうな声だった。

「……な、に? 今の……」

「わからないけど……ビックリした……」

 辺りを見回すとポケモンたちも謎の声に驚いたようで隅の方で縮こまったり、飛行できるものは何処かへ飛び去っていってしまった。

 

「オオオ……」

 

「あ、また! 知らない鳴き声……強いポケモンだったりして!」

 さすがチャンピオンというべきか、驚きつつもネモは声の主に興味津々で、辺りを忙しなく見回して出どころを探そうとしている。

「そっちから聞こえてこなかった……?」

 そう言ってレモンは坂の途中、柵が壊れたあたりを指さした。

「あそこ? 行ってみよう!」

 

 ネモといっしょに走って向かうと壊れた柵の先は崖になっていて下には海岸が広がっている。

 落ちないように注意してふたりは壊れた柵を越え、膝と両手を地面につき四つん這いになって崖から海岸を見下ろした。

「あ!」

 レモンが短く叫ぶと、今度は指を差すまでもなくネモも気づいたようで、ふたりは海岸の同じ箇所を見ていた。

 距離があっていまいちよくは見えないが、青紫色の大きな塊と、その前に小さくて黒い、おそらくポケモンらしき生物がいるのが見える。

「あの小さいのはデルビル、かな……。で、あの大きいのも……ポケモン? なのかなぁ。動いてるようには見えないけど……」

「宇宙船とかだったりして!?」

「宇宙船みたいなポケモンかぁ……!」

 なんでもポケモンに結びつけてしまうネモに苦笑しつつも感心しながら、レモンが用心深く崖から身を乗り出して青紫色の塊に目を凝らそうとする。

 

「アギャアアアアオ!!」

 

「わ! また鳴いた!」

 青紫色の塊が、口を開けて鳴く姿をレモンとネモは見た。鳴き声に驚いてふたりとも反射的に身体が強張(こわば)る。次の瞬間、手から地面の感触が消えた。

「あ……?」

「えっ?」

 自分たちが四つん這いになっていた地面が崩れるのが、レモンには一瞬見えた。

「おぉぉぉぉぉぉ!?」

「うわぁぁぁぁおぅっ!!」

 叫び声をあげてふたりは崖下に落ちていく。

「レモン! スマホロトム持ってぇ!」

 落下中にネモの大声が聞こえた。レモンは無我夢中で言われた通りに懐からスマホロトムを取り出した。昨夜ケースカバーを取り付けて悦に浸っている自分を第三者の視点から見ている映像が頭に浮かんだ。

「おおおおおおおおっ、おおぅ……?」

 両手で持ったスマホロトムが重力に逆らっていくのを腕と肩が感じる。浮遊によって落下スピードにブレーキがかかって、レモンもネモも大事なく海岸に着地することができた。

「大丈夫……?」

「うん……ちょっとだけ肩が痛いけど。スマホロトム、こんなことできたんだ……」

 つぶやきながら、落下の恐怖が尾を引きながらもふたりとも件の青紫色の塊へと目をやる。

「デルビルはどこかに行っちゃったみたいだね……」

「なんだろう、この……ポケモン?」

 眼前の未知の存在についてレモンはネモに尋ねた。そのポケモンと思しき生物は、ドラゴンのような爬虫類然とした見た目で、肌は機械のような光沢感がある。よく見ると目はドット絵のような小さな点が寄り集まって画面に表示されているかのような見た目だった。

「うーん……モトトカゲってポケモンに似てる気がするんだけど、モトトカゲって進化しないはずだし……」

 ネモとレモンが興味の塊となって注視している間、謎の生物はとてもおとなしく、先ほどのように吠えもせずに体を横たえてぐったりしている様子でふたりの視線を受けるがままだった。

「この子、ぐったりしてる……」

「うん……でもケガが見当たらないんだよ。キズぐすりを使おうにもどうすればいいやら……」

 キズぐすりを手に持ったままやきもきするネモの横でレモンは謎のトカゲの顔をじっくり見る。

「……これ、食べる?」

 レモンはリュックを下ろすと中からママからもらったとっておきのサンドウィッチを出し、トカゲの前に差し出してみた。

「アギャ?」

 トカゲは力なくひと鳴きすると目の前のサンドウィッチに顔を近づけ匂いをかぎ、そして咥えるとガツガツ食べ始めた。

「アギャアス」

 サンドウィッチを食べ終えると、トカゲは四本の足でしっかりと立ち上がった。

「元気になった……のかな?」

「きっとそうだよ。ママのサンドウィッチだからね」

 理由になってない理由をレモンが言うと、今度はネモがトカゲの顔、目をじっと見て、その視線が自分たちの後ろに注がれていることに気づいた。視線の先を確かめるべく振り返ったネモにつられてレモンも背後を振り返る。ふたりの目に飛び込んできたのは入り江の崖に空いた洞穴(ほらあな)への入口だった。

「ギャオス」内藤

 洞穴へ向けてトカゲが歩きだした。数歩進むと後ろを振り向き、ついてくるよう促すようにネモとレモンを見やる。

「ついて来いって言ってるよね……」

「そうみたいだけど……あそこは危険なところなんだ。野生のポケモンもたくさん住み着いてるし……。でも、歩きってなるとあそこからじゃなきゃ上に戻れないんだよね……うーん、『そらをとぶ』か『なみのり』が使えるポケモン連れておけばよかったなぁ……」

「いざとなったらあのポケモンが助けてくれるんじゃないかな。こうして先導してくれてるんだし!」

「強そうではあるよね。レモンのお母様のサンドウィッチのおかげで元気になったみたいだし……」

「そうだよ。見るからに強そうだし、それにアタシはポケモン2匹になったし!」

 少し悩んでいる様子のネモをレモンは後押しした。

「うん……でも危ないポケモンに出会ったらすぐ逃げよう! 約束!」

「OK!」

 そんなやり取りを交わしてから、ふたりはすっかり洞穴の入口前まで到達しこちらを待っている様子のトカゲへと早歩きで向かっていった。

 

 

 

(つづく)

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