ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!!   作:ストレンジ.

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#40『Inspiration in Situation』

 

 レモンの色違いコンパンの前に対戦相手として現れたナンジャモの新たなポケモンは、でんこうポケモンのルクシオ。夜風に黒い毛並みをなびかせ四つ足で堂々とした立ち姿を見せたのも束の間、前足の爪先に電気エネルギーをほとばしらせ、攻撃体勢に入る。

「『スパーク』!」

 ナンジャモの溌剌とした声に導かれるようにルクシオはコンパンへ飛びかかり、標的を捉えると爪先に閃光が走る。

「コンパン、お返しに『どくのこな』!」

「フ……リャリャリャ……!」

 爪先から放出された電撃を受けたコンパンは、相手が攻撃後に距離をとろうとするその前に毒の粉を振り撒き、ルクシオを毒に侵す。コンパンから離れ、侵食する毒による苦痛を眼光鋭く険しい顔つきで耐えながらルクシオは次の一手の指示とチャンスを待つ。

「動かないならこっちから! 『アシッドボム』をガシッと求む!」

 ルクシオの動きを見極めるよりも先手を打つことにしたレモンが『アシッドボム』をコンパンに指示すると、それを待っていたかのようにナンジャモが動きを見せた。

「かみつけ、ルーくん!」

「きゃおぉ~っ!」

 (いなな)きとともに『アシッドボム』を受けながらルクシオは突撃をかけ、 コンパンに牙を突き立てる。

「フリャォ~……!」

「もういっぱ~つ!」

 鋭い一撃に怯んだコンパンへ、ルクシオは執拗に噛みついて追い込みをかける。

「踏ん張れコンパン! 『むしのさざめき』!」

「フ……リャッ!」

 レモンの指示に気力を振り絞ったコンパンは噛みついているルクシオにゼロ距離で『むしのさざめき』を浴びせる。

「きゃお~~んっ!」

 『アシッドボム』で脆くなった耐性で音の波をもろに受けたルクシオは衝撃で宙を舞い、地面に落下し目を回す。

「追い詰められてからがジムリの本領……ラスボスのご登場だー!」

 傷ついたルクシオをボールに戻して新たなボールを構え直してナンジャモはひときわ張り切った声を上げる。その勢いのまま両手で思い切り空中へ放り投げられたボールから、マジカルポケモンのムウマージが現れた。

「さらに取り出したるは、きらめきオーブ! ()でよひらめき豆電球~!」

 そこからナンジャモは即座にモンスターボールをテラスタルオーブに持ち替えて、出したばかりのムウマージにすかさずそれを投げつける。円錐形様のムウマージの頭部の上に輝いたのは、電球を模したテラスタルジュエルだった。

「『むしのさざめき』!」

「『あやしいひかり』!」

 ナンジャモの切り札登場とテラスタル化で盛り上がる観衆をよそに、ふたりは素早く動き指示を伝える。一瞬早かったコンパンの『むしのさざめき』を受けながらもムウマージの『あやしいひかり』が瞬き、コンパンの身体がふらつきだす。

「パン、パン……コ?」

「コンパンはこんらんだ! ムウマージ、チャンスの『チャージビーム』を撃て~!」

「ううぅぅぅ~」

 前後不覚に陥ったようにその場でふらふらと足踏みするコンパンに向かって、地の底から静かに浮かび上がってくるような鳴き声とともに、ムウマージの胸元あたりから激しい光が一瞬ほとばしり、次の瞬間には電気の太い光線が発射されコンパンに浴びせられた。

 『チャージビーム』の直撃を受けたコンパンはその場に横たわる。青い瞳がわずかに色を失っており、戦闘不能状態であることは明らかだった。

「戻ってコンパン……くうぅ」

 レモンは短く苦悶の声を漏らす。残る手持ちはヤミカラスとウェルカモ。どちらも通常のタイプに加え、テラスタイプもヤミカラスはひこう、ウェルカモはみずと、変わらずでんきを苦手とするタイプなため相性上の不利を拭えないまま戦うことになってしまう。

「それでも……ツキがある、ヤミカラス!」

「アァーッ!」

 黒いもやを伴ってヤミカラスが現れる。敵の急所を見極め得るヤミカラスの特性、『きょううん』をもってすれば攻撃を受ける前にムウマージを倒せるかもしれない、レモンはその可能性に祈り、ヤミカラスに突撃を敢行させる。

「突っ込めヤミカラス! 『つばさでうつ』!」

 低空飛行で素早く直進しムウマージの目の前まで来たところで、ヤミカラスは右翼を振るった。ムウマージの横っ面に翼が打ち払われ一瞬のけ反るが、横目で敵を見据え続けながら不敵な笑みでムウマージは主の指示を今かと待っていた。

「翼のお返し~! 『チャージビーム』!」

 再びムウマージの胸元に小さな複数の丸い光が灯り、一点に収束すると素早く光の束が放たれた。

 近距離から撃たれた『チャージビーム』はヤミカラスに回避の猶予を与えず、直撃を浴びせる。

「ん……ぅ」

 バトルコートに四肢を横たわらせたヤミカラスを見て息をもらすレモンに残されているパートナーはウェルカモのみ。苦境から祈る気持ちで短く空を見上げたレモンは、星と月とを隠す雲とわずかな肌寒さにひらめきを得たようになにかに思いあたると同時に、顔に小さな冷たい感触を感じた。

「こいつは……あれだっ!」

 詳細不明の言葉を上げ、倒れたままのヤミカラスの身体が濡れる前に急いでダークボールのボタンを押してヤミカラスを戻す。コートには薄暗いシミが次々とでき始め、そのスピードは少しずつ早くなり始める。

「雨のリズムを知ってるかいっ!?」

 威勢を取り戻したレモンの言うとおり、一帯には雨が降り始めていた。雨、ポケモンが受ける天候からの影響、そしてみずタイプのウェルカモ。ひとつの道筋が自分の前に現れたような気持ちがレモンを奮い立たせる。

「ウェルカモ、勝てるとも!」

 モンスターボールを放り投げ、現れたウェルカモに向かってナンジャモが動きを見せる前にレモンは次いでテラスタルオーブを素早く構えて振りかぶった。

「雨+みずテラスタル! こいつはヤバげ!? ムウマージ急いで『チャージビーム』!」

「『アクアジェット』ぉっ!」

「ウェール!」

 ムウマージから断固として先手を打とうと、力んだレモンの『アクアジェット』の叫びが場内に響くと、雨を受ける頭上のテラスタルジュエルを輝かせてウェルカモは水しぶき状のオーラに身を包んで大砲のごとく一直線にムウマージ目がけて飛んでいく。

「え、うそ速……」

 『アクアジェット』の素早さに呆気にとられたナンジャモのその言葉が終わるよりも先に、巨大な青い弾丸と化したウェルカモがムウマージを派手に弾き飛ばす光景をロトムパッドが捉えていた。

 観客たちの近くの方にまで飛ばされたムウマージは、それから数秒経っても起き上がることはなかった。その事実に観客たちからはにわかにざわめきの声が上がり始め、

 

 ヘドロくちばし

  〈 おおおおおお!

 

 かいがらバッヂ

  〈 まさに恵みの雨だね

 

 アント網

  〈 相性が良くないなら先手を取ればいいじゃない

 

 配信のチャット欄でもチャレンジャー、レモンたちの勝利を讃えるコメントが流れていく。

「んおーっ! 決着がついたとたん止むとかなんなのさーっ!」

 ムウマージをボールに戻しレモンへと歩み寄りながらナンジャモは空に向かって叫んだ。彼女が言うように雨はほんのわずかの間の通り雨だったらしく、すでに止んでいた。

 

 スライ・ウィルソン

  〈 チャレンジャー氏、“もってる”ねぇ

 

 エレキン

  〈 レモン氏に ¥5000

 

「ぐおー! エレキン氏からレモン氏宛の追いスパチャ! 賞金に上乗せして渡しておくぞーっ!」

「わあ! エレキンさん、どもです!」

 思わぬプレゼントを貰いながらレモンはナンジャモがバトル勝利の証のジムバッジを取り出すのを今かと待った。

「気を取り直して、お待ちかね! レモン氏にボクに勝った動かぬ証拠! ハッコウバッジを進呈なんじゃ! 皆の者、スクショタイムだぞー!」

 差し出されたナンジャモの手からジムバッジを受け取り、それからふたりは握手を交わす。それを見てバトルコートとチャット欄、ふたつの場所からふたりを労う反応が贈られた。

「そんなこんなで今夜の『ドンナモンジャTV』はこれにてお開きっ! お相手は~、あなたの目玉をエレキネット! 何者なんじゃ? ……ナンジャモと、グレープアカデミーから新進気鋭のチャレンジャー、レモン氏でした~! サラバダー!」

 

またみてね!

 

   *

 

 配信が終了し三々五々の活気を取り戻すバトルコートで改めてレモンとナンジャモは顔を合わせ言葉を交わす。

「んにゃ~レモン氏、改めてお疲れ&勝利オメデトー! 天気を味方につけてパワーアップだなんて映え映えのバエだったよ。視聴者数も上々、チャンネル登録も増えてボク的には負けても実質勝利ってカンジ! できる範囲内で全力出したし、お互いWin-Winな結果に終わったんじゃないかな~?」

「はい! 後がヤミカラスとウェルカモだけになったときは焦ったけど、アタシも楽しかった! お疲れ様でした!」

「いいね! チャレンジャーの力と笑顔を引き出せて、ジムリのナンジャモとしてもたいへん満足であーる! この街(ハッコウシティ)はいつでも明るいけど夜道に気をつけて引き続き宝探し頑張ってね~! レモン氏がチャンピオンになったらまたコラボ案件、かけちゃうかもね!? そうしたらチャンネル登録数ももっとシビルドンのぼり……ぬふふふふ」

 自分の言葉にひとり盛り上がり怪しげな含み笑いを浮かべるナンジャモ。そんな彼女を見て微笑みながらレモンはこれからの旅路を漠然と想い、こちらも含み笑い気味になるのだった。

 

 

 

(つづく)

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