ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!!   作:ストレンジ.

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そろそろ書くか……♠️
 


#41(Side:NemoFilament)『Crused Slips』 

 

「んなっ、んなっ……なんっ……と、いうことでしょうか……」

 声の限りに叫びそうにそうになったところをなんとか働いた理性でこらえ、目を見開いたクラベル校長は、目の前にいるレホールとネモを呆然と見つめた。

 レモンがハッコウシティのジムテストをクリアしナンジャモに挑んだ日の朝、テーブルシティの校長室では小さな動乱が起きていた。騒ぎの主であるレホールは充足された心持ちでクラベルを見つめ返し、結果的にレホールの企みの片棒を担いだネモは申し訳なさそうな表情をしつつも溌剌とした声で校長に頼み込んだ。

「大丈夫です校長先生! もしレホール先生の言う『災厄ポケモン』が本当に存在してても、わたしが責任をもって倒して捕まえてきますからっ!」

「……伝説に伝わる災厄ポケモン……。眉唾物ですが、万が一を考えればポケモンリーグへ知らせるべき……」

「校長、そんなに事を大きくしてどうする? ただでさえ忙しい身だろうに、心労に絶えないだろう。我がアカデミーのチャンピオンがやる気に満ちているのだ。生徒会長に任せればいい」

「そもそもの心労の元はあなたの行動によるものなのですが……。しかし、ネモさんに任せるというのも校長として、大人として無責任というもの……」

「それを言うなら! 知らなかったとはいえ災厄ポケモンを封印していた『杭』を抜いたのはわたしなので! その責任を果たさせてくださいっ!」

「……ネモさん。未知数の強さを秘めたポケモンとのバトルがしたくてたまらない、という欲求が前に出すぎていませんか?」

「それは……そうですけどっ、でも責任を果たしたい気持ちも本当です!」

「そうだ。だから彼女は生徒会長なのではないか。それにだ、現場へはもちろんワタシも同行するし生徒を教え守る教師の立場としての責任を果たす」

 ネモに続いてレホールも毅然とした調子で校長に語る。

「不要だろうが、ワタシも戦う準備を整えてある。それでもどうしようもなくなった場合の逃走用のポケモンもな……。さらに校長にひとつ、より災厄ポケモンの捕獲を確実にするための提案をする。それを受ければ作戦は完璧といっていいだろう」

「……どんな提案でしょうか?」

「いたってシンプルなものだ、マスターボールをひとつお貸し願おう」

 『マスターボール』、レホールの口から出たその言葉の響きにポケモントレーナーたるネモは胸を高鳴らせた。

「なるほど! 理論上どんなポケモンも捕まえられるんだから、それなら万が一があっても心配ありませんね!」

「確かに……マスターボールさえあれば、極論戦わずとも事態を収拾できるでしょうからね」

「むろん安易には使わない。あくまで最終手段だ。質は劣るが捕獲用のボールはあらかじめワタシが用意している。マスターボールはあくまでご老人の心をいたずらに乱さないための最大の保険さ」

「あなたがアカデミーの仕事だけに集中してさえくれれば、そんな保険は最初から無用ですよ……」

「それは無理というものだな、諦めたまえ」

「あなたという人は……はぁ」

 恐れを知らない自信に満ちたレホールと、好奇心のほとばしるネモの瞳を見比べて、クラベルは観念したようにため息をついた。

「こうなってはレホール先生を止めた方が、よりマズい事態を招くような気がしてきましたよ……」

 そう言ってクラベルは目の前の机の引き出しをおもむろに開けて中からその品を取り出した。

「ほう、用意がいいな。こうなることを見越していたとは思えないが」

「貴重とはいえ生徒に特別な贈り物として差し上げることもありますからね。ネモさんにも前回の宝探しでチャンピオンになったときにお渡ししましたね」

「はい! 部屋に飾ってありますよ!」

「おや、まだお使いには……?」

「どんなポケモンに使うか悩んじゃって、なかなか使えないんですよね~。たたでさえわたしボール投げるのヘタだし……」

「いっそ災厄に使ってみるか?」

「えっ……いや、ダメとは言い切れないですけど、ちょっと考えさせてください……」

「フフ、冗談だ。貴様のマスターボールは貴様のものだ。なにに用いるか、好きなだけ見極めるがいい……では校長、お借りしよう。事が終われば報告とともにすぐにでも返却する」

「現場の監督はレホール先生にお任せしますからね! くれぐれも不測の事態のないように……!」

「ククク、不測の事態のない生活など退屈極まりない……が、もちろん心得ている。ワタシとて、災厄の神秘を解き明かすためにもパルデアを窮地に立たせるわけにはいかないからな」

「……あなたがそういうことを言うと、本当に事態のスケールが大きくなって怖くなってきます……」

「ではそれが取り越し苦労であることをなるべく早く証明するとしようか。ネモ、準備はいいな?」

「もちろんです! それじゃ、行ってきますね!」

 快活に答えるネモに期待を込めながらクラベルは校長室を後にするふたりの背中を見送り、無事と問題の解決を祈った。

 

   *

 

 そらとぶタクシーで南一番エリアへ降り立ち、そこからさらに少し南東へ歩き目的の場所へとたどり着いたふたりの前には、紫色の光を不気味に放つ、不可解な紋章が描かれた円形の大きな蓋のようなものが岩壁に飾られていた。

「む……鎖が解かれている!」

「先生、これってなんなんですか?」

「これこそが災厄ポケモンを閉じ込めているとされる祠の入り口だ……が、前に調査に来たときにはあったはずの鎖の封印が失くなっている。この祠に対応する『杭』をすべて抜き取ったからだろう。封は解かれ、あとは開けるだけ……」

「開けるっていっても……こんな大きい蓋なんて動かせないですよ! あっ、そうか! ポケモンたちの力で……」

「いや……誰でも『杭』を抜くことが可能ではなかったようにこの封印も同じものかもしれない。ネモ、祠に触れてみろ。『対応者』の貴様になら、入り口を開くことができるのかもしれない」

 レホールに従いネモは祠の入り口を閉じる巨大な蓋にそっと手の平を置いた。すると数秒後に地響きのような音が目の前から鳴ったと思うと、その音とは裏腹に蓋はネモが触れている箇所を中心にそこから溶けるように朽ちていき、あっという間に瓦礫ひとつ残さず消えてしまった。

「消えちゃった……」

 

「カキ……シルス……」

 

「ッ! いたぞ……退がれネモ!」

 その言葉にレホールとともに反射的に大きく後ろに飛び退いたネモは、解放された祠から慌てる様子もなく出てくる謎のポケモンの姿を見た。

「カキ、シル……ス!」

「あれが……災厄ポケモン!?」

「ククッ……伝説は……(まこと)だった!」

 好奇心と不安の混じるネモとその横で歓喜に震えるレホール、固唾を飲んだふたりの双眸(そうぼう)が見据える先に、草や木の葉がふたつの山なりに連なった形をしたポケモンがいた。木の葉の堆積した頭部と思われる山からは二本の交差する蔦のような触覚が左右それぞれに伸びており、それぞれの蔦の間には目と思われる器官がある。尾部らしき方の山には長い板が身を守る殻のように巻かれている。レホールはその長い板に着目し、注意深く観察した。

「あの背に巻かれた板は……木簡! さながら木簡の束で形成された殻! 災厄ポケモンが生まれるほどのエネルギーを持った木簡……内容が気になるな。呪詛の類だろうか……」

 災厄ポケモンについて熱心に推察を繰り広げるレホールを見て、ネモは自分の使命を思い出し、目の前の未知なる強敵との戦いを想い、全身が熱くなっていくのを感じた。

「カキシルス……カキ……シルス!」

 不安や恐怖はなく、目前の存在の動きに集中するネモは、災厄ポケモンが自分に禍々しい戦意を向けてきているのがわかった。

「パルデアを荒らし回らせはしないっ! みんな、とことん()るよっ! 」

 腰に携えたモンスターボールに言い聞かせるように叫ぶと、ネモはそのなかからひとつのボールを手に取り軽く投げ放つ。

「ウルガモス、『ほのおのうず』!」

「ぷひぃぃぃぃぃぃ!」

 未知の災厄ポケモンにネモがまず相対させたのは、たいようポケモンのウルガモス。今回の宝探しのときとは違う、鍛えて能力を成熟させた以前からの馴染みのポケモンたちを連れてきた、その先鋒役だ。草や葉から成形されたような見た目の相手のイメージからくさタイプを予想したネモは確実にその弱点をつけるむし・ほのおタイプをぶつけた形になる。

 ネモの速攻に、『ほのおのうず』に包囲された災厄ポケモンはしかし、炎による締め上げを受ける前に背部に携えた木簡の束を複数空中に展開し自身のまわりに浮かべた。災厄ポケモンを囲う木簡がそれらを囲う『ほのおのうず』を受けると、紫色の炎を上げて木簡も『ほのおのうず』も消滅し、ウルガモスの攻撃を遮ってしまった。

「消えた!?」

「あの身体の木簡は『みがわり』……のようなものか? ネモ、攻撃を続けさせろ!」

「それなら今度は……『むしのさざめき』!」

「ぷぅふぃぃぃぃぃぃぃぃ……!」

 ウルガモスは翅の微震によって音波を発生させ、災厄ポケモンに放つ。すると相手は今度は木簡を組み合わせ六角形の盾のようにして前面に展開し、『むしのさざめき』の音波を受け止め無力化し、またしても紫の炎を上げながら消えていった。

「『音』の攻撃も防げるの!? 『みがわり』なら防げないはず……」

「図鑑でヤツのデータを確認してみたが……名は『チオンジェン』、タイプは『あく・くさ』……出会ったばかりではこの程度のことしかわからないが……」

「とりあえずタイプの予想は当たってオッケー、だけど、あの木簡が厄介ですね……」

「まさに『災厄』と呼ぶべき脅威だな……すべての攻撃を防がれてはダメージを与えることができん。打開できそうか?」

「とにかく、いろいろどんどん! 攻めるのみ!」

 木簡による防御壁を前に、ネモはそれでも笑顔でレホールに答え、ウルガモスの入っていたボールをかざした。

「戻ってウルガモス!」

 早々にウルガモスを退き、ネモはボールを持ち替えて新手をくり出す。登場したのは強力な力を持つドラゴンポケモン、カイリュー。

「『しんそく』っ!」

 カイリューが場に姿を現すなりネモが電光石火で指示を飛ばす。命令を聞き入れたカイリューは次の瞬間、一瞬でチオンジェンの目の前に迫り、拳による一撃を加え、それは木簡による防御壁の介入する余地を与えなかった。

「グェェェェェェ!」

「よしっ、入った!」

 チオンジェンの横面に一撃を食らわせたカイリューの背を見てネモが小さくガッツポーズする。が、横でレホールはチオンジェンの背から木簡の連なりが射出されていくのを睨み、歯噛みした。

「だがそれ以上の攻撃を許す気はないようだ!」

 ネモを煽るようにレホールが声を張り上げたとおり、竜巻のようにチオンジェンの周囲を旋回し始めた木簡の束は、さらにその数を増やしていき、板のバリヤーとでも言うべきドーム型に形成され術者の姿を隠した。

「この数、そしてあの防御力……災厄の抱える呪力は並大抵ではないぞ! どう出るつもりだ!?」

「リスク覚悟で開こう、突破口! カイリュー、狙いを定めて……」

 一瞬、レモンの姿を思い浮かべてからネモは木簡ドームの中のチオンジェンを見据えるように前方へ指を差した。カイリューがそれに従い、防御壁に向かって口を開いた。

 

「『はかいこうせん』!!」

「バウウウゥゥゥゥゥ~!!」

 

 カイリューの口から凄まじいエネルギーが光線状に発射され、木簡ドームに炸裂する。ドームは光線を受けた箇所から紫色の炎を上げ消えていくが、そばの木簡が次々とスライドし新たな壁となってチオンジェンに光線が届くのを防ごうとする。

 それでも『はかいこうせん』の威力を前に木簡は消尽していき、やがてすべての木簡は『はかいこうせん』と相殺されチオンジェンを守るものがようやくなくなった。

「防御を解けたのはいいが……」

 レホールが油断なく戦いを見守りながら呟いたとおり、攻撃のチャンスを得ながらも『はかいこうせん』の反動によってカイリューはその動きを止めざるを得なかった。

「……カキ……シル……ス」

 動けないカイリューを前にチオンジェンは全身を赤黒く発光させ、エネルギーを溜めた。

「耐えてっ、カイリュー……!」

 手出しのできない状況にネモが拳を握った、次の瞬間にチオンジェンから禍々しい衝撃波が放たれた。成す術もなく波にさらわれカイリューの巨体が宙を舞った。

「バゥ……ゥゥッ!」

 ダメージを受けながら、しかしネモに鍛え抜かれたカイリューは素早く起き上がりチオンジェンに目を向け直した。その姿に安堵するネモだったが、同時に周囲に違和感を覚えた。

「なんだこれは……」

 自分より早く状況に反応したレホールの声を耳にしながらネモも事態を把握し、驚愕した。

「木が枯れてる……!? 地面も!」

 チオンジェンの飛ばした衝撃波の影響内にあった樹木の枝葉が枯れ落ち、地に生えていた草花は萎れ、生気に満ちた緑の色を失い茶褐色の姿でうなだれ、横になっていた。レホールが冷静に地をまさぐりその感触を確かめると、土までもが水分を失い枯れきり、彼女の手の上で塵のようにか細くなった土くれは微風に飛ばされていった。

「凄まじいな。今の技は生気を奪うのか……!?」

「カ、カイリュー平気なの?」

「バウッ」

 衝撃波の周囲の自然への影響にネモはふたたびカイリューを心配し、その姿をよく観察したが、決して十全な状態でないとはいえ彼女のカイリューは鳴き声をひとつ上げてその健在ぶりを示した。

「いかんネモ、木簡が回復し始めたぞ!」

 レホールの言葉に敵に向き直ると、チオンジェンの背を先ほど同様、木簡が少しずつ覆いつつあった。

「さっきの技……あれで生気を奪って回復した!?」

「あり得るな! 木簡による防御と生気を奪う謎の技……これが国を破滅に追いやったポケモンの力か!」

「攻撃が防御につながる隙の無さ……これは確かに強い……!」

 災厄ポケモンの強大な力を目にしたことは、レホールにとってもネモにとっても追い風となり、怖じ気づくどころかますます相対する意志を強め、戦意を高まらせた。

「まださっきより木簡の数は少ない……ここは全速力で決めるっ!」

 決意を新たにネモはさらに違うモンスターボールを手に取り、片手でカイリューを制した。

「カイリューはそのまま待機! 行っておいでマルマイン!」

「ギギーゴガァーゴォ!」

 ネモの次なる一手はモンスターボールにも似た見た目をしたボールポケモン、マルマイン。

「『ちょうはつ』だー!」

「ギギッ……ガガガガ!」

 ネモの命令を受け、チオンジェンへ眉を歪め(あざけ)るような笑みをマルマインは向けた。

「……ショス!」

 技が効を奏したようでチオンジェンは怒気に満ちた低い唸りを上げ、先ほどとは別の暗い紫色に瞬くエネルギー弾を放ってきた。

「『あくのはどう』かな!? マルマイン、『ボルトチェンジ』!」

「ギャギャギャ!」

 電気エネルギーをまとい、自身に飛んでくる『あくのはどう』をかわしながらマルマインはチオンジェンに高速でぶつかっていった。

「シルスァ!?」

 攻撃を受けてマルマインへ向けようとしたチオンジェンの怒りは、直後困惑へと変わる。攻撃を完了したマルマインは猛スピードで後退し、すでにネモのそばにまで戻っていた。

「シルシルシル!」

 相手のペースに飲まれつつある状況を気に入らなさそうに怒りに任せてチオンジェンが『あくのはどう』を連発する。

「『こうそくいどう』!」

「ガガガガガガガ!」

 歯を見せつけ笑顔でマルマインは襲い来る『あくのはどう』の連弾を俊敏な動きでかわしていく。

「そのまま『ボルトチェンジ』で突っこんじゃえ!」

 攻撃をかわしきり、指示どおりそのままふたたび『ボルトチェンジ』を食らわせ後退する。だが怯むチオンジェンの回りでは木簡が徐々に数を増やしながら滞空し始めていた。

「……『ボルトチェンジ』!」

 確かめるようにみたびネモが『ボルトチェンジ』を命令し、マルマインが突っ込んでいくが、半ば予期していたように木簡がマルマインに立ち塞がり攻撃を受け止め消えた。

「あの速さに対応できるのか!?」

「それならもう一度全部壊すまで! マルマイン、『ボルトチェンジ』ラッシュ!」

「グギガゴガガガガガー!」

 連続『ボルトチェンジ』のヒット&アウェイで反撃されるのを防ぎつつ木簡の全破壊を試みるネモとマルマイン。だがその素早さをもってしても消失する木簡より、復活し新たに宙に浮かぶ木簡の数が多くなりつつあった。

「シルセー!」

 機を見たチオンジェンの号令のもと、おびただしい量の木簡が宙を旋回し主を囲み、ふたたびドーム状に防御壁が形作られる。

「シル・ス!」

 そしてそこからドームと化した木簡の一部を少しの間だけ窓のようにスライドさせ隙間を作り『あくのはどう』を次々と放っていく。

「マルマイン、よけてよけて……そのまま『ボルトチェンジ』!」

 矢継ぎ早に連打される波動の弾を避けながら一瞬の間を突いて反撃に転じるマルマインを、しかしチオンジェンは予知していたかのように攻撃のための隙間を閉じ『ボルトチェンジ』をガードするのだった。二度、三度とネモとマルマインは同じように相手の攻撃の一瞬の隙を狙って『ボルトチェンジ』による直撃を試みるものの、もはや対応しきったかのようにチオンジェンは木簡でことごとく防いでいってしまう。

「決定打に至らんな……このまま持久戦で木簡を破壊し尽くすつもりか?」

「いいえ、こうなったら奥の手でいきます! ……ごめんマルマイン、覚悟して!」

「ギギ……ゴガァゴォ~!」

 ネモの『奥の手』を察したマルマインは少しだけ及びがちな彼女の表情にニヒルな笑みで返し作戦の後押しをする。それに頷き、ネモはテラスタルオーブを取り出してマルマインにかざした。

「必ず……勝つ!!」

「ギー……ガゴゴゴゴゴゴ!」

 オーブの力を得たマルマインの頭頂部に、透き通るように輝く白銀の巨大なダイヤモンドを模した冠が現れた。

「カキ……」

 マルマインの異変にわずかにチオンジェンの動きが淀む。しかしネモたちがそれに対応するより前に、チオンジェンは全身に力を込めた。

「シルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシルス!!」

 戦闘の膠着状態を脱そうとするネモたちの狙いを読んで、ありったけの『あくのはどう』を撃ち込み相手のペースを乱そうとする。

「うわっと!? マルマイン気をつけて……カイリュー、わたしたちを乗せて! さっ、レホール先生!」

 地を穿ち、樹木を半ば消し炭にしながらなぎ倒していく『あくのはどう』の雨あられを必死に避けていくマルマインを気遣いながらレホールへと手を伸ばし、共にカイリューの背に乗り空へと上がってチオンジェンの攻撃からふたりは距離をとる。

「『ボルトチェンジ』!」

 空中で指示を出すネモに従ってマルマインは何度と知れずチオンジェンの木簡ドームに突撃をかける。攻撃が防がれて、自身の入っていたモンスターボールを携える空中のネモの元へバネのように猛烈なスピードで後退するその勢いでマルマインは中空を舞う。

「シルセァ!」

 空に上がったことで動きの自由を失ったと見たチオンジェンはドームに隙間を開け、『あくのはどう』を撃ち込み始めた。

「こうそくいどおぉっ!」

 その隙間を狙い、ネモは今度は『ボルトチェンジ』ではなく『こうそくいどう』を敢行させた。空中で一瞬静止したマルマインが、『ボルトチェンジ』の後退速度を越えるスピードで、『あくのはどう』の飛び交う宙を経てチオンジェンの木簡ドームへと突き刺さるように接近していく。

 すかさずネモはチオンジェンの方に視線を移す。放たれた『あくのはどう』を何発か受けながらも強引にそれらを突破し、開け放たれた窓枠に嵌まり込んだボールのように木簡ドームの狭い隙間に引っかかったマルマインの後ろ姿が彼女には見えた。それを認識するのとほぼ同時にネモは腹部に渾身の力を込めて自分自身が攻撃を放つ思いで大声を上げた。

 

「『だ い ば く は つ』!!!」

 

「ギギギギギギギギ……ッ♪」

 歯ぎしりのような声を上げて、ドームの隙間に引っかかったままマルマインは中のチオンジェンと目を合わせ、笑った。頭上のテラスタルジュエルよりもまばゆい光がマルマインから放たれ、大きな爆発と共に黒煙と炎が広がった。

 地をえぐり土煙を巻き上げ、チオンジェンの技で萎れた草花は焼け消え、枯れた樹木が炭となり飛び散っていく、そんなマルマインの爆発をネモは空から用心深く見守った。

 

 爆発が治まり、爆心地になんらの動きも見られないのを確認し、ネモはカイリューを地上に降下させた。地上に降りてからも万が一のために戦闘態勢を解かせず、ボディーガードのようにカイリューを側に付けレホール共々爆発の跡に踏み入った。

「マルマイン、ご苦労様」

 焼け焦げた姿で力尽きているマルマインを回収してから、ネモもレホールもその数歩隣に目がいく。そこには(すす)を被ったように全身を黒くしたチオンジェンが横たわっていた。

「さすがにあの爆発は防げなかったか。ではネモ、捕獲を」

「了解! 動かなければボールを当てるのはカンタンですね」

 懐から空のハイパーボールを取り出して、ネモはそっとチオンジェンへボールを落とした。中にチオンジェンが吸い込まれていき小さな揺れを何度か起こしてから、ボールは完全に静止した。

「うむ。災厄ポケモンとて、戦闘不能であれば市販のボールでも問題なく捕獲できるようだな」

「ふぅ~っ、手強かったですね。けど……うん、楽しかったなあ!」

 チオンジェンの入ったボールを握り感触を確かめながらネモは勝利の余韻を笑顔に滲ませた。

「それじゃ校長先生に報告しに戻りましょっか!」

「ああ。だがすでに正午を回っている。どこかで昼食にしよう。任務達成の労いだ、好きなものをおごってやろう」

「えー! ありがとうございます先生! そうですね……どこのお店にしようかなー」

 災厄ポケモンとの激しい戦いを終えたばかりでもマイペースを崩さないネモとレホールはテーブルシティへ帰還すべく、戦禍の残る地をカイリューの背に乗って離れていくのだった。

 

 

 

(つづく)




ZA面白いっすね(メガピジョット愛で中)
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