ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!!   作:ストレンジ.

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#42『Tasty Ghostea』

 

 ナンジャモとのジムバトルを勝利で終えた翌朝、街の南口横の原っぱに再び設営したキャンプの中で目を覚ましたレモンは旅支度を整え『鮮度一番!』のシーフードパスタで朝食を終えると、旅を再開する前に街を一望できる灯台へ立ち寄り、改めてパルデアでテーブルシティの次に栄えるハッコウシティの朝の街並みを目に焼き付ける。

 中央のバトルコートの下にある船着き場を見つめているとクチバシティを思い出さないわけではないが、昼間でもあまりにもきらびやかなビル街は、あくまでも港町として発展した都市街である彼女の故郷のそれとは一線を画する光景で、レモンの胸中にあったぼんやりとした情趣はノスタルジーとしてはっきりと結ばれる前に霧消した。

「そろそろ行かなきゃ!」

 そんな心の機微を契機にするように呟くとレモンは灯台を降り、ハッコウシティを後にするのだった。

 

 やや険しい坂を自らの足で越えると、草花は消え、見渡す限りの土と岩肌の大地が広がる東3番エリアが視界に広がった。そこかしこに採掘のための足場や柵が設置され、運搬用のトラックやポケモンセンターも遠くに見えるが野生ポケモンも見渡す限りエリアのあちこちにおり、都会の喧騒から打って変わって開拓地にでも足を踏み入れたようなギャップからかレモンは少し孤独感を覚えたが、ひとりでないことも承知している。

「ぐるっと回ってみよう!」

「アギャス」

 レモンはモンスターボールから呼び出したミライドンに跨がり、しばらく気ままに東3番エリアを巡ってみることにした。

 

   *

 

 ゾウドウやタンドン、ディグダにアノクサ、見知ったものもそうでないものも、種々(しゅじゅ)のポケモンと出会い、ふれ合い、見守り、戦ったレモンたちは鉱山地帯の探検に一区切りつけてポケモンセンターを経由してから、採掘業を生業(なりわい)にする者たちが多く住まうピケタウンにやって来た。

 町の散策もほどほどに広場のオープンテラスでリュックから水筒を取り出しミルクティーを飲みながら今後の予定についてとりとめなく頭を巡らせる。

「レモンじゃねーか!」

 突然の自分を呼ぶ声に顔を上げるとそこにはなにやら嬉しそうなペパーの顔があった。

「ペパー!?」

「よう」

 同席の確認をとる彼の目線に右手を広げて許可を促し、着席したペパーにマグカップを差し出しミルクティーを注ぐ。礼の会釈こそすれマグカップには目もくれず、彼はまずは話し出した。

「そろそろ連絡入れようと思ってたとこだからちょうどよかったぜ」

「そうなの? ……ってことは見つかったの? ヌシポケモン」

「見つかってはいないんだけどな、この辺りの鉱山のどっかに『潜鋼(せんこう)のヌシ』ってのがいるらしい。調べたところじゃ、その体は半端ねえデカさで、超ロング!」

「へえ、そんなだったら目立ちそうだけど、アタシちょっと探検してたけど鉱山でそんなポケモン見てないよ」

「そうなんだよな……。オレも少しは調査したんだが、んなデカいやつなんて見てねえ。どこにどうやって隠れてんだ……?」

「ん~……洞穴とかは見てないから、そういうところに隠れてるのかも?」

「なるほど、穴か……それならデカくても人目につかないのかもな」

 そこまで話し合ってからペパーは目の前のティーカップを手に取って口をつけた。

「それじゃ鉱山の洞穴を見て回ろっ──」

 

「んぼぇえっ!!」

 

「!!?!?」

 いきなりペパーが奇妙に顔を歪ませ、とっさに頭を横に向けながらも口に含んでいたティーカップの中身を驚きと苦悶の声とともに吐き出す姿に、目の前のレモンは目を点にして呆気にとられた。

「っぇほっ……ぇえ!」

「な、ななななななな、ペパー……!?」

「れれレモン……なにを飲ませたぁ……っ?」

 困惑するレモンにこれまた困惑と焦りに囚われたペパーがティーカップを目の前に突き出す。

「……? ちょっと待った……それ、どこから出したの?」

「は?」

「いや、だって……アタシの、そっち……」

 レモンの人差し指の先を見ると、そこにはミルクティーの入った手のつけられていないピンクのマグカップが置いてある。ペパーはマグカップからティーカップを持った自身の右手に視線を移し、レモンも謎のティーカップを見つめた。こちらも色こそピンクだが、マグカップとティーカップでは当然形は違っていて、レモンの無地のマグカップに対してティーカップには顔のような模様があしらわれている。

「やば~ん!」

「げべっ!」

 突如ティーカップが鳴いた、と同時に困惑で力の抜けていたペパーの指を引き剥がし、レモンの額にぶつかっていった。

「やばば~」

「っ! ポケモンだぜコイツは!」

「えぇ……!?」

 額を押さえて『おどろかす』の痛みをこらえながらレモンはペパーと一緒に宙に浮いたティーカップをまじまじと見た。今にもこぼれ出しそうなほどに中身が波打ち、ティーカップの顔に見える模様の口に当たる部分が大きな丸を描いて、次の瞬間ふたりの前から逃走を図るように宙を滑り離れていく。

「あ! 待て~!」

「うわ、待ってくれレモーン!」

 ティーカップを追いかけ走り出すレモンに少し遅れて、マグカップを持ってペパーも彼女に続いた。走りながらマグカップの中のミルクティーを勢いよく口に含んで、先ほど口にしたティーカップの中身の余韻を洗うようにいっぱいのミルクティーで頬を膨らませてからごくりと飲み込んで口直ししてようやくペパーに余裕が戻る。

「アイツは確か『ヤバチャ』ってポケモンだぜ!」

 背後から追いつきつつあるペパーの言葉を聴いてレモンはスマホロトムを展開して図鑑を確認してみた。ヤバチャ、こうちゃポケモン、ゴーストタイプ──。

「あのヤバチャ、図鑑に載ってるのと色が違うよ!」

「マジか! 色違いちゃんだな! 捕まえるか!?」

「うん! ビビッときたからねー!」

 ペパーと並走しながらレモンは素早く逃げ続けるヤバチャに必死に追いすがろうとする。息を切らしながら、ふとペパーが尋ねた。

「なあ、おい……ミライドンで追いかけりゃいいんじゃねえか?」

「ああっ!」

 すっぽりと頭から抜けていたことを指摘されるやいなや、レモンは、そういえば彼から預かったことを思い返しながらモンスターボールを繰り出しミライドンを呼ぶと同時に素早く背に跨がる。ライドにもすっかり慣れたものだった。

「ジャンプ、ミライドン!」

「アンギャア!」

 みるみるうちにヤバチャとの距離を詰めたところでミライドンが大きくジャンプし、逃げるヤバチャの前に躍り出る。

「ヘイ、ヤバチャ! バトルしなくちゃ!」

 立ちはだかりヤミカラスを呼び出して戦闘を誘う。ヤバチャは意を決し中身──本体が波打ち、おどろおどろしく揺らめく黒い炎を飛ばした。

「『おにび』か! いい技覚えてやがる!」

「ヤミカラス、『ナイトヘッド』!」

 『おにび』を受けてレモンは、状態に関係なくそのポケモンの持つ強さをゴーストエネルギーとして引き出しダメージを与える技を繰り出させ、ヤバチャに浴びせた。

「やばんば!」

 臆せずヤバチャが反撃に出る。ティーカップをくるくる回し、絞り出すように本体から液状様のエネルギーがヤミカラスに降りかかる。

「グゥ……エ!」

 ゴーストタイプへの耐性を持つヤミカラスではあるが、『おにび』で火傷を負った体に染み込んでいく『たたりめ』の痛みは無視できるものではく、小さな鳴き声を漏らした。

「こらえてヤミカラス! 『アクロバット』を!」

「アアアーッ!」

 火傷に蝕まれながらも自慢の翼でヤミカラスが変幻自在に舞い、ヤバチャにぶち当たっていく。

「キレはあるが、火傷じゃ本気を出せない技なんじゃねーか?」

「問題なし! 目的は捕獲だし!」

 そうは言いつつも内心、『きょううん』が発揮されて過度にヤバチャを傷つけてしまう可能性を恐れてはいたが、すかさず二度目の『たたりめ』でヤミカラスに反撃を加える相手を見て、そんな心配は無用であることをレモンは悟る。

「もうちょい頑張って! 『あやしいひかり』!」

 適度に負傷させ、加えて混乱させることによってレモンはヤバチャの抵抗力を抑制させる。そこに、いよいよとばかりに微量ながらポケモンの回復機能を備えたボール、ヒールボールを手に取り構える。

「うん、ベストマッチ!」

 ヒールボールと色違いのヤバチャを見比べ納得がいったように一言発してから、レモンは動きのおぼつかないヤバチャへと注意深く狙いを定めて肩から腕、腕から手、手から指先へと、淀みのない繊細なコントロールが発揮されることをイメージし祈りながらボールを投げた。

「やば~」

 気の抜けた鳴き声を、ヒールボールがヤバチャの姿ごとかき消した。

 ポケモンを閉じ込めたボールが二度、三度と震え、やがて静止した。レモンに新たな仲間が増えた瞬間だった。

「イエス! ヤバチャ、ゲットだぜ!」

「やば~!」

「おわっ」

 仲間入りの挨拶とばかりに、さっそくヤバチャがヒールボールから飛び出し、驚くレモンの目の前で楽しそうに浮遊する。

「ずいぶんイタズラ好きそうな、むじゃきちゃんだな。ま、おめでとさん」

「へへ、サンクス。そういえばヤバチャの味……どんなだった?」

 レモンが尋ねるとペパーは思い出したように眉をしかめて苦々しく重い声を出した。

「強烈な『苦っ!』だな……。にがスパイスみてーな旨みなんてまったくない、舌の上でこうげき高めの苦味とエグみがダブルで『じだんだ』踏んでるみてーな味だったぜ……」

「わーお……ひと味違そう」

「忘れ難い……忘れたい味だぜ……それより話を戻そうぜ」

「あ、ヌシの話だったよね」

 ヤバチャの騒動で町の入り口をやや離れ、レモンたちの前には再び鉱山地帯が広がっている。このどこかに巨大なヌシポケモンが潜んでいるという。

「さっそくになっちまうが手伝ってくれるか?」

「もち! 洞穴を巡ってみようか」

「そうだな。……オマエも、世話になるかもしれねーし、ヨロシクな」

「やば~」

 じっとりとした視線を送りながらもペパーは、彼の舌に著しいショックを与えたヤバチャへも期待を込めた挨拶を交わそうとする。それを知ってか知らずか、ヤバチャは楽しげな表情で軽い調子で返事の鳴き声を上げた。

 新たな仲間を迎えレモンは意気揚々とペパーと共に潜鋼のヌシ探しを始めるのだった。

 

 

 

(つづく)

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