ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!! 作:ストレンジ.
掘削された巨大な穴のごとき窪地や、岩壁に空いた横穴を見つけてはレモンとペパーはヌシの姿とスパイスを求めて探索をくり返した。しかし捜索を続けても成果は上がらず、戦闘を重ねパートナーたちの成長の一助にはなれど、肝心の潜鋼のヌシとやらが見つかる気配は一向になかった。
「ぐあー、どこにいんだよ今回のヌシはぁ!?」
「んー……もしかして地中の奥深~~~く、とか? だとしたら巣穴を見つけるのも大変そう……」
まだ見ぬ新たな秘伝スパイスを想い、じれったそうな声をペパーが上げ、レモンはヌシの所在に頭を巡らせ悩ませる。
進展が得られないまま快晴の空から照りつける陽が高くなった頃、あちこち動き回って空腹の胃に逆らえなくなったふたりは一度ピケタウンに戻って昼食をとった。
ペパーが煮え湯ならぬ苦い紅茶を飲まされたオープンテラスで作戦会議を軽く挟みながらそれぞれのポケモンたちも含めた大所帯の賑やかなランチタイムだったが、鉱山という広大で漠然とした探索場所以上のあてがないペパーとレモンは各々のサンドウィッチを味わいつつも首を捻らせる。
「もうちょい北の……川沿いとかも探してみるか?」
「洞穴とかはなさそうだけど、もうその辺くらいしか見てないとこないもんね」
「マジに地中深くだったらどうすっかな……地下を掘り進めるヤツはいないしな」
思案しつつもめいめい楽しげに昼食をとっているポケモンたちを見てふたり、特にレモンが顔を綻ばせる。
「ホント、ポケモンってフシギダネ~。こんなにメノクラゲに似てるのに、生態も棲む場所も違うなんて」
そう言って彼女が注目したのは、はじめは色違いのメノクラゲだと思っていた、水場ではなく陸上で活動する、メノクラゲに瓜ふたつの見た目をしたきくらげポケモン、ノノクラゲ。水中で漂うメノクラゲをクチバの海で見慣れていたレモンにとって、細長い2本の足で地に立つノノクラゲは奇妙と驚きに溢れた姿だった。
「ノノクラゲはな、逃げ足がめちゃはえーんだ。色んなやつから逃げられて、こっそり近づいてようやく捕まえたのがコイツさ」
ペパーがそう言ったのを聴いてノノクラゲはテラス席の間を縫って周りをちょこまかと走り回ってみせた。それにつられてレモンのウリムーも、短い四肢をばたばたと動かして後を追うようにノノクラゲへ向かっていった。
「ノノクラゲが気になるのかな」
「同じじめんタイプのよしみかもな。遊ばせてやりたいところだが、そろそろヌシ探索・午後の部開始といきたいところなんだ。みんな、またよろしく頼むぜ!」
ペパーが号令をかけるとポケモンたちは準備完了といった風情でボールの中に帰るのを待っている仕草を見せ始め、それが済みランチの片付けも終えたところで一向は再度鉱山へとヌシ探しの冒険に出た。
*
鉱山地帯の北部へと赴いたレモンたちだったが、午前と同様捜索の成果は芳しくなく、ペパーはすがる思いで川の流れを注視していた。
「“潜”鋼のヌシってんなら、穴の中とは限らねぇよな……水中に潜ってる可能性だってある。シェルダー、頼むぜ!」
「シェル!」
シェルダーが川の中に入り探索を始める、レモンも、ウェルカモに手伝ってもらおうとモンスターボールを手に取ったところであることを思い出す。
「そうだっ、ミライドン!」
空いた方の手でもうひとつのモンスターボールを掴み放る。出てきたミライドンに確認を促すようにある命令をする。
「川渡りだミライドン! フロートモード……ってやつ!」
「アンギャア」
ライドしながらおもむろに川へとミライドンを向かわせる。岸で小さくジャンプしたミライドンは、危なげなく川面へと着水しレモンの様子を窺うように首を回して彼女を見た。
「おおー……」
「おっ、泳げたのかお前……」
突然のミライドンの行動に一瞬肝を冷やしたペパーだったが、川面での光景を見て気を取り直すとレモンの次の動きを見守った。
「このままウェルカモと川を探してみるよ! シェルダーは反対側を探してみて!」
「わかった! よしシェルダー、お前はそっちをチェックしてくれ! デカくて長いポケモンがいるかもしれねぇ!」
「シェ!」
そうやってペパーは川岸からシェルダーに指示しながら、レモンはミライドンと共にウェルカモを従えて川を渡りながら潜鋼のヌシ探しに明け暮れた。
*
結局、川での探索ではなんの成果も得ることはできず、とぼとぼとした足取りで虚無と徒労に染まった顔をしたペパーを励ましながら、レモンは辺りを見回してヌシの痕跡を諦めずに探しつつ鉱山地帯の中央方面へと戻る道中、進行方向側から大きな物音がした。ふたりが歩みを進めるともう一度、地面に巨大なものが叩きつけられるような音が鳴り響き、ペパーの口角がわずかに上がる。
「オイオイオイ……ヌシが暴れてる音なんじゃねぇの!?」
そう言うやいなや大地を揺るがす音の方へと走り出す。レモンも後に続き彼を追うと、すぐそばに物見塔の控える採掘場の広場の真ん中に、うねるように動く巨大な塊が見えた。
それはいくつもの体節で構成された、頭から背にかけては濃い、顎から腹部にあたる部分は薄いオレンジ色の体を持つ巨大なポケモンと思われる生物だった。ふたりが遠くからその姿に釘付けになっていると、ポケモンは巨体をしなるようにうねらせ地面に頭から突っ込んでいった。
突撃の地点に、誰かがいる。レモンには遠くからでもその人物がグレープアカデミーの夏服を着ていることに気がついた。その人物はポケモンの巨体をかわすと、横にいた、これもポケモンと思われる小さな生物に合図を出したようなそぶりを見せ、それからそのポケモンが巨大ポケモンの頭目掛けて炎を吐いたのが見えた。
「なんつうデカさ……てか、あそこにいるのって」
「ネモだ!」
レモンはパートナーと共に巨大な驚異に相対している人物の正体に気づいた。ペパーと走って近寄っていくと、それは紛れもなくネモであった。
「委員長ーッ! どういうことだ!?」
「え、ペパー!? レモンもいるじゃん!」
「なんでネモがヌシポケモンと!?」
唐突に登場したふたりの学友に意識を向けつつも、ネモはハンドサインを出して巨大ポケモンと対峙していたパートナーに敵と距離をとるよう指示を出し自身の隣に控えさせた。
「あっ、ミミズズが!」
敵が増えたと見てヌシポケモンもまたネモたちから離れ、後方の岩壁の前で敵を背にする。そして目の前の壁を破壊し岩に穴を空けると頭を下げ、もぞもぞと全身を細かく揺らし振り返ると、その口に白く光る塊を咥えているのが見え、レモンとペパーは既知の驚きに胸を小さく高鳴らせ、未知の事態にネモの瞳は燃えた。
「スパイスだね!」
「ああ! 来るぞ!」
「えっ、なになに!? なんだかスゴくなりそう!?」
「ミミズズゥゥーーッッ!!」
秘伝スパイスを摂取したヌシはネモたちに向かって威圧的に吠え、首の辺りに空いていた穴から複数の拳のようなものを突き出し、その巨体をもって立ちはだかった。
「デケぇし長ぇ……ヌシの品格ありありちゃんだな!」
「腕まで生えちゃったよ……!」
「違うよレモン、腕に見えるけどあれは体毛!」
「ズァーーッ!!」
様子を窺う3人と一匹に向かって有無を言わさず潜鋼のヌシ、ミミズズが頭を突っ込ませる。すんでのところでネモと彼女のパートナーは左に、レモンとペパーは右に避けて、ふたりも戦うべく各々のポケモンを出した。
「スパイスの栄養で元気ハッスルちゃんなヌシポケモンだ。ワケあって助太刀させてもらうからな生徒会長!」
「そういうわけでよろしくネモ!」
ノノクラゲとウェルカモが登場し、ネモのポケモンと3対1でミミズズに対峙しようとふたりがその旨を言葉にする。
「ひとつお願いがあるの! このミミズズ、あたしにゲットさせて!」
「ヌシ捕まえちまう気かっ!? まあヌシ自体が目的じゃねぇし、いいよなレモン?」
「もち! ただし倒すのは早い者勝ちってね!」
「ありがとっ! いくよアチゲータ!」
「チゲチゲ!」
バトルへと素早く集中を切り替えると、ネモは場に出ているパートナー、彼女が今回の宝探しにあたって校長から受け取ったホゲータが進化した姿であるところのアチゲータに攻撃体勢を整えさせる。
「ズンッ!!」
「チゲェ!」
しかしミミズズが回避された『ずつき』に続けて、尾を振るい横薙ぎに『アイアンテール』を放ってきた。反撃のタイミングを崩されつつもアチゲータはジャンプでこの攻撃もかわすことに成功する。
「『アクアジェット』!」
ミミズズの注意がアチゲータに向いたのを狙って今度はウェルカモが速攻の一撃を果たす。
「続くぜノノクラゲ! 『メガドレイン』!」
「ズミミミミ……!」
『アクアジェット』を受けた直後に養分を吸いとられるミミズズだが、ひるむことなく尾を振り回しウェルカモとノノクラゲを弾き飛ばす。
「さすがはヌシか。弱点突かれたからってスキは見せねぇか」
「大きいし体力ありそうだもんね」
「ん? ……ペパー、レモン、ミミズズのタイプはなーんだ?」
「え?」
いきなりのネモの問いかけに虚を突かれたふたりだったが、互いに見当違いをしていたことを指摘されたことに気づく。
「じめんタイプじゃ……ない?」
「ピンポーン! 正解は、はがねタイプでしたー!」
「なにぃ!? 百歩譲ってもむしタイプ……いや、潜“鋼”って、そういうことか!?」
「四の五の言ってもテラスタルしない限りタイプは変わらないよ、ペパー」
「まあいいさ、どっちみちノノクラゲにおまかせ、だぜ!」
気を取り直して勇ましくミミズズを指差すペパーに反応してノノクラゲが力強く立ち上がる。戦意も体力もまだ失っていないようだ。
「よし、くらわせろ! 『マッドショット』!」
「え」
だがペパーが下した命令を聞いたネモは小さく驚いてミミズズを凝視した。ミミズズは『マッドショット』が顔面に当たる瞬間、大口を開けその一撃を飲み込んでしまった。
「ホントに食らいやがったぁ!?」
「あちゃ……」
「ミミミミ!」
ちょっぴり困った風に後頭部を両手で押さえるネモにペパーは説明を求めて握った右手を震わせた。
「いったいなんなんだアイツはぁ!?」
「あのミミズズの特性は『どしょく』! じめんタイプの技は食べられちゃうから効かないよ!」
「そんなのアリかよっ!」
「ちゃんと学校来て勉強することだね!」
「むー……アタシも知らなんだ……」
技を捕食し体力を得たミミズズは荒々しい動きに磨きをかけ、尾部を激しく振り回しアチゲータたちに迫った。
「よけろよけろ!」
「アチゲータ、ジャンプして『やきつくす』!」
『アイアンテール』の乱れ打ちをかわし中空を舞ったアチゲータが口から多数の小さな火球を勢いよく吐き出してミミズズの首にヒットさせる。
「ヲヲヲヲヲン!」
「おお、効いてるぜ!」
「弱点ガンガン突いてこ!」
「待った! ミミズズがプルプルしてるよ」
レモンの指摘にふたりがミミズズの様子を窺うのに徹する。全身を起こし仁王立ちのような体勢で小刻みに震えているミミズズは、やがて──
「ミュミュミュミュミュミュミュミュ!!」
「のわっ!?」
制御の利かなくなった機械のように体をのたうち回らせて、ミミズズは地面に全身を激しく何度も打ちつけた。奇怪で俊敏な動きに自身の回避もままならないレモンたちの不意を突いて、アチゲータがミミズズの体に叩きつけられた。
「あっ!」
「戻って!」
危機の中でも判断力を失わずにネモが倒れて動かないアチゲータを確認して即座にボールへと戻す。アチゲータを仕留めてもミミズズは変わらずのたうち大地を巨大な体躯で叩き鳴らし続ける。
「ウェルカモ、空に向かって『アクアジェット』!」
「ウェル!」
猛攻の合間を縫ってウェルカモが『アクアジェット』で空中に打ち上がる。それを見たミミズズがわずかの間動きを止めた。
「『アクアカッター』!」
ウェルカモを見つめるミミズズに水の刃が牙をむく。しかし次の瞬間、ミミズズは下半身を素早くしならせ、バネのように空へ跳び上がり攻撃を避けてしまった。
「そんな、跳べるの!?」
「違う……あれは」
ネモがなにか言い終わる前にミミズズは、重力に従う他ないウェルカモを見下ろしながら空中で全身を横たえ、彼と同じように重力のエネルギーに従った。ミミズズの巨体と地面にウェルカモは挟まれ、押し潰される。
「『ボディプレス』……ッ!」
ネモが吐息を詰まらせながら押し出すように言った。横たわらせていた体を素早く跳ね起こし、ミミズズはノノクラゲの方へと向き直る。
「『しびれごな』っ」
「ズン!」
ミミズズの狙いがノノクラゲに向いたことに素早く対応したペパーだったが、技の指示とほぼ同時にノノクラゲが『ずつき』を受けてしまう。地面を抉りながら鋼の頭を押し込まれていくノノクラゲは、しかしパートナーの指示を聞き入れていた。
「ズッ……ミミィィ……?」
地を這うミミズズの勢いが衰え、緩慢な動作で不快そうに体をくねらせる。手痛い一撃をくらいながらもノノクラゲは『しびれごな』を撒いていたのだ。
「『きんしのちから』をなめるなよ、ってんだ! すげーぜ! ノノクラゲ!」
正念場での粘り強さを称賛するとペパーはノノクラゲをボールに戻す。
「チャンスだよ、レモン!」
新たなボールを投げながらネモが叫ぶと、レモンは『ボディプレス』の餌食になったウェルカモの帰還したモンスターボールをしまい、ゴージャスボールを握りしめた。
「パモット!」
「アママイコ!」
互いに次のポケモンをくり出し、レモンはさらに必殺の一手をアママイコに放つ。
「テラスタル!!」
かくとうテラスタル化したアママイコ、パモットが、痺れで思うように動けないミミズズに素早く接近をかける。
「「『ローキック』!!」」
それぞれの右脚による一撃がミミズズの下腹部に炸裂する。
「ズ……ミ、ズ……」
弱点を激しく突かれたミミズズは太い呻きを上げて、力なく自身の体を地に打ちつけた。土煙が舞い、レモンたちが顔を覆い土煙が晴れるのを待つと、眼前には倒れ伏して動かなくなったミミズズの姿があった。
「やった……よな?」
「やったよ! ネモ、ボールボール!」
「そうだったっ! モンスターボールは、ととと……!」
リュックから未使用のモンスターボールを慌ただしく取り出してミミズズに向けて投げる構えをとる。しかしネモはそのポーズのまま動きを止め、9秒、10秒と時が流れていく。
「おい、なんで投げない?」
「静かに! ボールがハズレちゃうでしょ!」
「ハズレる~? こんな近くの、動かないめちゃデカポケモン相手に?」
「いいからちょっと黙ってて!」
「まあまあペパー、言うとおりちょっとお口ジュペッタしとこ」
そうしてレモンとペパーが静かに見守るなか、少ししてネモがミミズズへボールを軽い力で投げた。
「そいっ!」
ボールは右に反れ、ミミズズの巨体のすぐ横に数回バウンドし地面に佇んだ。
「Oh……」
「生徒会長……特性『ぶきよう』ちゃんか?」
ごく近距離で巨大なミミズズへ放ったボールを外す光景に、レモンもペパーも少しの間スパイスのことを忘れて、ボールを投げた後の構えのまま固まるネモに生暖かい視線を注いだ。