ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!!   作:ストレンジ.

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#05『Awaken Unknown』

 

 洞穴の中はネモの忠告通り野生のポケモンがそこかしこにいた。洞穴自体の広さもあって密集しているというほどではないにしても、視界にはほぼ常になんらかのポケモンが映っているといった具合だった。

「向こうから近づいてくるのがいたら逃げてほしいけど、崖から落ちないよう気をつけて!」

 ネモが注意するように洞穴内の崖に柵はなく、その下は湖になっていて落ちれば溺れてしまうのは間違いない。ふたりは注意しながら粛々と先を進んでいくトカゲに足早についていく。

 

 トカゲに脅威を感じるのか野生のポケモンたちはレモンたちを遠巻きに見ているだけで近づいてくるものはほとんどいなかった。時おり地中から姿を現すディグダと戦闘になることはあったものの、相性で有利なクワッスの活躍でレモンたちは滞りなく洞穴内を進んでいくことができた。

 しかししばらく進んだところで3人は行く手を塞がれてしまった。

「ウソ!? 行き止まり……?」

 進んでいた道は岩壁で行き止まりになっていた。

「はぁ……戻らないとだね……。分かれ道が何ヵ所かあったから、そっちを調べないと」

 言葉とは裏腹に、ネモは苔むした地面に注意を払いつつその場にしゃがんで溜め息をついた。

「……トカゲさん、戻りたいんですけど……」

 レモンがこれまで先導していたトカゲの背中に声をかけた。ネモが頭を上げてトカゲを見ると、壁の目の前に立ったまま動こうとしない。ネモが横から覗き見てみるとトカゲは目を閉じていた。

 まさか眠っているのかと思ったそのとき、トカゲの全身が光り始める。ほんのりと熱と震動を感じる。

「ちょっ……レモン! 離れて!」

 異常を察したネモは慌てて立ち上がりレモンの手をとって来た道を走って戻り、光に包まれているトカゲと距離をとった。

 

「アギャアアアス!!」

 

 雄叫びをあげると光が弾けて消えた。トカゲは岩壁に向かって腕を振るう。すると大きな音ともにと壁が砕け、道が開けた。

「……通れるようになったね」

 小声でレモンが言った。振り向いてふたりを一瞥するとトカゲは相変わらず粛々とした様子で先に進んでいくのでレモンとネモも気を取り直してふたたび後をついていく。

 破壊され周りに散らばった岩石を乗り越え、その先の開けた場所でふたりはトカゲに追いついた。

「明らかに、変型? してるよね……」

 回り込んで正面からトカゲを見ると、先程までとは微妙に姿が変わっていることに気づいた。瞼の端から伸びていたアンテナのような突起は、雷のようなギザギザと曲がった太いものになっており、色も銀から黄と青紫のグラデーションに変化している。首や尻尾の色合いも同じような感じに変わり、脚部にいたってはそれまで地に着いていた足の部分は折り畳まれジェットエンジンの噴射装置のように変型し、浮遊して移動するようになっていた。

「さっきよりも強そうな見た目だよね! お腹いっぱいで本気を出せるようになった感じなのかな?」

 全身をチェックするふたりをよそにトカゲは表情も変えずに出口目指して進み続ける。観察を中断されたふたりもやはり同じようについていく。

 

   *

 

 しばらく進んでいくと、たくさんの地面を踏み鳴らす音が道の先から聞こえてくる。

「気をつけて! なにか来てるよ……!」

 ネモとレモン、トカゲも立ち止まり、音の正体を確かめるべく前方に釘付けになった。

「ガアッ、ガアッ!」

 足音に加えて鳴き声をあげてやって来たのは、デルビルの群れだった。

「あらっ、かわいい!」

「ダメダメ! ここに生息してるデルビルたちは暴れん坊なんだ!」

 デルビルの群れに目を輝かせるレモンをネモが慌てて静止した。見ると確かにデルビルたちは牙を剥き、こちらを睨みつけて臨戦態勢をとっている。

「だったら倒っす! クワッス! みずでっ……」

「ギャアアアス!!」

 デルビルと戦おうとレモンがクワッスに命令しようとした瞬間、トカゲが吠え、恐れをなしたデルビルの群れはあっさりと来た道へと退散していった。

「すごーい! 油断はできないけど、ボディーガードがいて安心だね」

 一声でデルビルを退けたトカゲの顔を見上げながらネモが言い、一段落した心地でレモンはクワッスをモンスターボールに戻そうとした。

 

「ルガアアアア!!」

 

「うわっ!?」

 デルビルの件から間髪入れずに、先ほどよりも低く太い、凶暴そうな声がレモンたちの頭上の方から聞こえると、なにかが3人の目の前に降ってきた。

「うわ!」

「ひょっとして、さっきのデルビルたちの親玉!?」

 現れたのはデルビルが進化したポケモン、ヘルガーだった。さっきとは違い1体だけだが、当然デルビルよりも体格は大きく、射るよう目つきで3人を睨んでいて今にも飛びかかってきそうな迫力を放っていた。

「アギャアアアッ!」

「ルガアアア……!」

 その迫力の通り一筋縄ではいかないようで、デルビルの群れを退けたトカゲの叫びにも引き下がるどころか、ひるむことなく吠え返して対抗の意志を示す。

「アアアアアアゥッ!!」

 しかもヘルガーの鳴き声を聞いて、先程のデルビルの群れが戻ってきてしまった。多勢に無勢、ネモとレモンは今までよりも数段緊迫した面持ちでモンスターボールを手に身構えた。

「ガアアアアアッ……!」

 地を蹴って大口を開けてヘルガーがトカゲに飛びかかった。トカゲはものを切り裂くように腕を振るって噛みつかれる前にヘルガーを吹き飛ばす。接近を防がれたヘルガーは素早く体勢を立て直し、そこからすかさず『かえんほうしゃ』を放った。隙のない動きから繰り出された攻撃だったがトカゲは難もなくこれをかわす。今度はトカゲがそのまま前進して鋭い爪を横薙ぎに振るうが、ヘルガーも柔らかな身のこなしで上段の足場へ跳び移り攻撃をかわした。

 

 膠着状態のトカゲとヘルガーの一方、多数のデルビルを相手にしているふたりは、相性で有利なレモンのクワッス、ネモの的確な指示に忠実に従うホゲータの活躍で、数で不利な状況をものともせずに既に多くのデルビルたちを撃退していた。特にクワッスはデルビルを倒すたびに疲れるどころかよりパワフルに動いていることにレモンはなんとなく気づいていた。それがクワッスの特性『じしんかじょう』によるものであることをレモンが知るのはまだ先のことであるが、ネモは自身の経験と知識から確信には至らないものの察していた。

 しかし、そうして少しずつ数を減らしていくデルビルたちを互角の勝負を繰り広げながらも群れのリーダーたるヘルガーは見逃していなかった。

 

「ォォォォォオオオオオ……!!」

 

 そのヘルガーの叫び声は、今までのものとは違っていた。ストレートな暴力性よりも、地の底から冷たく漂ってくる不安と痛みを予感させるような、怨嗟に満ちた雄叫びだった。

「しまった!」

 ヘルガーの雄叫びが2匹に牙を剥いたのと、ネモがその叫びの意味に気づいたのは同時だった。ヘルガーの声を聞いた途端、まるで条件反射かのようにクワッスもホゲータもモンスターボールの中に瞬時に戻っていってしまったのである。

「やられた……『ほえる』だよ今のは!」

 パートナーがボールへと戻ってしまった状況は飲みこめても、その理由まではわからないレモンに諭すようにネモがそう言った。

 それは戦闘を強制終了させる技だったが、ヘルガーの狙いはそれだけではなかった。叫び声を聞いて、洞穴の奥から新たなデルビルの群れが駆けつけ、あっという間にレモンたちを囲んだのだった。

 劣勢を強引に断ち、自分たちにとって有利な状況に盤面を塗り替えて、ヘルガーとそれに従うデルビルたちはふたたび戦闘の火蓋を切ろうとしていた。一度途絶えた“流れ”を取り戻すのは難しい。レモンにとってはクワッスの『じしんかじょう』の特性を帳消しにされるという、能力的な側面からも流れを崩されているので尚更だった。

「これは……多すぎるっ!」

 それまでよりもさらに多くのデルビルが駆けつけ、あまりの数の暴力に、ネモもレモンもポケモンを出し直すことをためらった。これ以上大量の敵を相手にするにはパートナーのポケモンたちには強さも経験も不足していることは駆け出しトレーナーのレモンでも察せるほど明白だった。

「……逃げられると思う?」

 戦闘再開は不可能、そうなればとれる手段は逃走しかない。レモンは無理なお願いをするようなぎこちなさでネモに尋ねた。

「……ハードだね」

 ネモは一言、苦笑混じりに言った。デルビルの群れを前にした自分たちと、その親玉であるヘルガーと相対しているトカゲ。レモンの「逃げられる?」の言葉にはネモだけではなくもちろんトカゲも含まれている。ゆえに困難を究めていた。

 ふたりを囲んだデルビルの群れは、その包囲を狭めつつある。もはや『ひのこ』を吐かれれば、ただでは済まない状況がネモとレモンの眼前にある。

 

「ヲヲヲヲヲヲヲヲヲ!!」

 

 それまでのどの声よりもけたたましい叫びをトカゲがあげた。これにはデルビルだけでなく、ネモとレモンも怯んで身体をこわばらせるほどで、トカゲの目の前にいたヘルガーもさすがに緊張を覚え、一瞬の隙を見せた。

 そしてトカゲはその隙をまさに狙っていた。脚部のバーニアを短く噴射しデルビルの包囲網の内に飛び込み、素早くネモとレモンをそれぞれ左右の腕で抱え上げ、今度は先ほどよりも高く飛び上がると、上部にあった外に繋がっている崖の上に着地した。

「なんてすっごい……」

「身のこなし……」

 トカゲの突然の早業に、状況が把握しきれていないふたりは唖然としながら小さくつぶやいた。

 

   *

 

 腕から降ろされ地に足を着き、ひと心地つきながら体勢を整えてレモンとネモは互いを見比べ、それからふたりしてトカゲを見た。

「アギャッ……ァァァァァァァ……!?」

 ふたりの目の前でトカゲは力の抜けたような奇妙な声をあげて、その場に力なく倒れ込んでしまった。姿もふたりがはじめて見たときのものに戻ってしまっている。

「戻っちゃった……疲れちゃったのかな? 大丈夫かな……」

 ネモはキズぐすりを取り出すとしゃがみこんで横になっているトカゲを観察する。

「ダメだ。ケガしてるってわけではないみたい。またお腹すいたのかな……」

「サンドは何度も出せないよ……小道に戻れたし、戻ってママに作ってもらおうか?」

 危機を脱して余裕を取り戻し始めたふたりはトカゲの対応に頭を悩ませるが、少しするとトカゲはゆっくりと立ち上がり頭を上げ前を向いた。

「あっ、よかった! ちょっと元気になったみたい」

「ギャオス……」

「よーし、じゃあ灯台でちょっと休憩しよっか」

 トカゲの声は力ないものだったが弱りきっているというようなものでもなく、ネモはすぐ先に見えるコサジの小道の灯台を指さした。レモンとトカゲ、ふたりを気遣うネモの3人は、静寂とともに小道に戻りつつあった野生のポケモンたちに気をつけながらゆっくりと灯台へ歩いていった。

 

 

 

(つづく)

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