ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!!   作:ストレンジ.

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#06『On the Lighthouse(and it's twice as nice with spice)』

 

 レモンとネモと謎のトカゲポケモンの3人がコサジの小道灯台に到着する頃には朝陽はより強く燦々と照りつけていた。

「まだ時間に余裕あるとはいえ、ここまで来るのにずいぶんとかかっちゃったね」

 大きく伸びをしてリラックスするネモの身長の高さにさりげなく憧れの念を抱きつつレモンは灯台を見上げた。故郷のクチバにも灯台はあったがこんなに間近で見るのは初めてだった。洞穴での騒動は風に流されていったかのように辺りは明るく、そして穏やかだった。そのあまりのギャップにレモンは風で草木が揺れる音に幸福感のような充足を感じた。

 

「オ、オイ!」

 

 そんな灯台の朝の静寂は男性の大声でさっそく破られた。驚いたネモとレモンが声のした方を見ると、灯台の左側にある扉の前にふたりと同じくグレープアカデミーの制服姿の男の子が立っている。彼は3人のもとへ駆けてくると険しそうな顔でトカゲの目の前に立った。

「なんで、いるんだ!?」

 問い詰めるような調子で男の子は声を張り上げた。レモンもネモも困惑して返す言葉がなかった。

「オマエらに言ったんじゃないさ」

 少し態度を和らげて、すぐそばでわけがわからなくなっているふたりを横目で見て男の子は付け足した。

「きみ、ペパーだよね? 文系クラスに通ってる……」

 状況はわからないものの、どうやら知っている顔らしく、ネモはペパーという少年に話しかける。

「ネモ、知ってる人?」

「ってほどでもないけど、見ての通り同じアカデミーの生徒だよ。それに、フトゥー博士っていうポケモン博士の息子さんなんだ。だから、ちょっと有名」

「……父ちゃんは関係ねぇ」

 ネモの言葉を聞いたペパーはまた少し険のある態度に戻って、ふたりの方に向き直り言った。ところどころメッシュの入った、うねりのある長いブロンドの髪で片目が隠れているが、一方の左目は大きく開かれ、きれいに整ったまつ毛もあって静かな迫力がある。身長はネモより少し低いくらいだが、背中のアウトドア用の大きなライムイエローのリュックも相まって実際の体格よりも大柄に見えた。

「そんなことより、なんでコイツがいるんだよ?」

「えっ……と、この子の鳴き声聞いて、どこにいるか探してたらネモとアタシが崖から落ちちゃって、でもそこで見つけて、弱ってると思ったらサンドウィッチで元気になって、洞穴からここまで戻るときに助けてくれて、でもまた元気なくなっちゃって……」

「洞穴でヘルガーと戦ったときは今と違う姿で、すごい強かったんだよ!」

「……そうか。ま、この姿じゃ戦えねえさ」

「なんで?」

 3人は“おすわり”の姿勢で静かにたたずんでいるトカゲに揃って向き直った。

「『ミライドン』の本当の姿は戦ってるときのフォルムだからな。今の姿じゃ駆け回るくらいしかできないさ……けっこう速くはあるけどな」

「ミライドンって、その子の名前? なんで知ってんの?」

 さも当然のようにペパーがそう話すと、すかさずネモが口を挟んだ。

「アギャギャス!」

 しかしそこで今度は、名前が判明したトカゲ、ミライドンがなにかを訴えるように鳴き、こちらに来る前にペパーが立っていた扉を見た。

「おっと、“研究所”には入れねえよ。鍵かけたからな」

「研究所?」

「……オマエ、見かけない顔だけど」

 ペパーは、ミライドンからレモンに視線を移して怪訝そうな顔をした。

「あっ、はい! アタシはレモン! 今日からアカデミーに通う一年生! ポケモントレーナーはまだまだ初心者! 会ってみたいなカラカラ、ツタージャ! ってな感じで、よろしく!」

「はあ……?」

 癖のラップを交えたレモンの自己紹介にペパーは眉を曲げてぽかんと口を開けた。

「ハッ! ミライドンは普通のトレーナー、ましてや初心者が扱えるポケモンじゃねえ」

 それからどこか吐き捨てるような調子でレモンにそう言い放った。

「じゃ、どういうポケモンなの?」

 その態度にムッとしたネモは少し強い口調でペパーに訊くが、彼は一瞬だけネモを見て、質問には答えずすぐレモンに視線を戻す。

「ミライドンの世話が務まるか、オレが試してやろうか?」

 そして唐突な提案をレモンに投げかけた。この“試す”とは、すなわちポケモンバトルであることをレモンもネモも察した。

「試す……? あの、ミライドンはきみのポケモンなんじゃないの? よく知ってるみたいだし……」

「違えよ。知ってはいるけど……。とにかく、連れてくならオマエの実力、見せてみな!」

「なんか、ヤな感じ……質問にも答えてくれないし……」

 半ば一方的なバトルの誘いをしてきたペパーに、ネモは不服そうな顔を隠さない。

「レモン、断っちゃっていいんだよ! そもそもこの子が人のポケモンじゃないなら連れてくのにペパーの言うことなんか関係ないし! それに、」

「ハッ、生徒会長さんには聞いてないぜ! オレはコイツに聞いてんだ! さあ、どうする!?」

 ネモの言葉を途中で遮ってペパーはレモンに返答を迫る。

「いいよ……やる!」

「よし! そうこなくちゃな。モヤモヤ気分、晴らさせてもらうぜ!」

「モヤモヤ気分はこっちだよっ! レモン、本当にいいの!?」

「うん。正直、なんでバトルするのかはよくわかってないけど、初心者のアタシに経験値は必要でしょ? それに……仲間が増えたばかりだし!」

 レモンはそう言ってフレンドボールを手にとってネモに見せた。

「あー、そうだよね……。うーん、()るならわたしと、って言いたいとこだけど、色んな相手と戦った方がより良い経験になるだろうからね。レモンがそう言うなら、頑張って! わたし、ミライドンと応援してるね!」

「うん、ありがと!」

「ギャス」

 ネモはミライドンを引き連れてふたりから少し離れると、臨戦態勢に入ったレモンを見守った。

 

   *

 

「うっし! ……いくか!」

 景気入れに自らの頬を叩いてから、ペパーはレモンに見せつけるようにモンスターボールを突きつけた。そこから一瞬の間を置いて、ボールを投げた。

「むちゃあぁ~!」

 ペパーが出したのはレモンにとって馴染み深いポケモンのホシガリスだった。

「ホシガリスだ! うちにもいるよ! ペットだからバトルはできないけどね」

「そうかい。でもそんなこと聞いちゃいねえ! そっちも早くポケモン出しな!」

「ぅおっとっと……」

 ペパーの催促に少しだけうろたえながらレモンは右手に力を込めた。

「クワッス留守番、出番はコンパン!」

 まだまだボールを投げ慣れていない、ややぎこちないサイドスローから放たれたフレンドボールから淡い緑の光がフワッと広がりコンパンが姿を現す。

「おっと、キラキラちゃんか! でも色違いと強さは関係ねえ。やるぜ、ホシガリス!」

「ちゃあぁ~!」

 ホシガリスは不敵な笑みを浮かべ、コンパンを用心深く見つめる。

「『たいあたり』だ!」

 そしてペパーの言葉に素早く反応するとホシガリスはコンパンに向かって一目散に駆け、木の実を含んだ頬袋をかばうように頭を上に向けながら胴体をぶつけていった。

「コンパン、『かなしばり』で『たいあたり』はさしあたり敗れたり!」

 たいあたりにめげることなくコンパンは指示通りすかさず『かなしばり』を放った。ホシガリスの身体を一瞬、渦状の半透明の波のような念が覆う。これによって少しの間、直前に繰り出した技、この場合『たいあたり』をすることはできなくなってしまう。

「だったら次は『かみつく』だ、ホシガリス!」

 技をひとつ封じられはしたものの、果敢にペパーとホシガリスは次の一手を繰り出してくる。頬袋の木の実をこぼしたりすることなくホシガリスは口を開け、発達した前歯でコンパンに噛みついた。

「フリャ~!」

「ファイトだコンパン! 『ちょうおんぱ』!」

「フャ……ミュミャミュミュミュ~……」

 レモンの激励と指示を受け、コンパンはひるむことなく噛みつかれたままホシガリスに今度は『ちょうおんぱ』を放った。

「ちゃあぁあぁああ~!?」

 至近距離で技を受けたホシガリスは前歯をコンパンから離し、甲高い声で不快そうに鳴いた。

「コイツは……マズイかっ……!?」

 ペパーが歯ぎしりしてホシガリスを見ると、どこか足元が覚束(おぼつか)なさそうにふらついている。見事に混乱状態にかかっているようだった。

「うおぉ! 頑張るんだホシガリス! 相手をよく見てっ! かみつけ!」

「むぅ~? むぅ~?」

 懸命に指示を出すペパーだが肝心のホシガリスは明らかに命令を理解できているようには見えなかった。

「むちゃぶり~」

 叫んでホシガリスは突如大きく跳び上がった。そこからコンパンに襲いかかるように思われたが、そのまま地面へ頭から落ちていってしまった。

「ホシガリスぅ~!」

「よし! 一気にいこう! 『たいあたり』だよコンパン!」

「フミャーっ!」

 混乱でまともに行動できず地面に頭をぶつけてフラフラしているホシガリスに渾身の『たいあたり』をコンパンがお見舞いすると、吹っ飛ばされたホシガリスは絞るように呻き声をひとつあげて横たわったまま動かない。

「んーっ……オレの、負けだな」

 素直にそう呟いたペパーの声でバトルは決着した。

 

「お疲れさまコンパン。休んでホリデー!」

 ネモ戦に続いて本日2度目の勝利となったレモンは自信をつけるとともにパートナーをいたわる慈しみの心も忘れることなく、キズぐすりでコンパンを癒してからボールに戻した。

「捕まえたばかりのポケモンじゃ話にならねえか。腕はズブズブのシロウトちゃんではないみたいだな」

 肩を落としてうなだれるペパーだが悔しがるとか落ち込んでいるようには特に見えず、少しするとおもむろにモンスターボールを取り出しレモンに見せる。

「ほらよ、ミライドン連れてくならコレ持ってけ」

「これは……?」

「コイツを制御するモンスターボールさ。ピカチュウじゃないんだ、ずっと連れ歩くにはデカすぎるだろ。コレに入れとけ」

 ペパーはミライドンを顎で指してそう言いながらボールを持った手を小刻みに振ってレモンに受け取るよう盛んに訴える。

「え……そんなボール持ってるってことは、やっぱりきみのポケモンってことなんじゃ?」

「いーや! これは……ま、なりゆきってやつさ。いいから受け取ってくれ」

「だったらなんでそんなの持ってんのさ?」

「ホラ! 受け取った受け取った!」

 ペパーは最終的にレモンの手をつかんでボールを握らせるとさっさと手を離した。

「やっとボール手放せたぜ……じゃあな」

「えっ」

 レモンがポカンと口を開くと、言うが早いがペパーはレモンとネモがこれから向かうであろう先の道へとさっさと走り去ってしまった。

「ちょっと! シカトしすぎじゃない!? ……学校! ちゃんと来なよー!」

 ペパーが去っていった方へネモが声を張り上げ、その声の残響も去ると、辺りには穏やかな静寂がまた訪れた。

「…………」

「ギャッス」

 レモンはペパーから渡されたモンスターボールをそっとミライドンへ向けてボタンを押してみた。すると他の手持ちポケモン同様ボールの中へと戻っていった。

「おぉー、ホントに戻った」

「アイツ、なんでこのボール持ってたんだろう。今度会ったらわたしが勝負して問い詰めてやるっ!」

「アハハ……次から次へといろいろあって、ぜんぜん休憩になってないね」

「だよねー、あっ、じゃあせっかく灯台に来たんだし、休憩がてらゆっくり景色でも見ようよ! 上行こっ!」

 

   *

 

「そらとぶタクシーで見たときも思ったけど、パルデアは自然がすごいねー! どこを見ても絶景!」

 ネモに誘われ梯子を昇って灯台の踊り場へ来ると、レモンは疲れも忘れて灯台からのパルデアの眺めに夢中になった。見渡す限りの草原、森、湖に岩山、遥か遠くには雪山もかすかに見える。

「自然もたくさん、ポケモンもたくさん! で、あそこにあるのがこれから向かうテーブルシティで、あのおっきいモンスターボールのモニュメントがグレープアカデミーの目印!」

 ネモが指さした先にあるテーブルシティの広大な建造物群をレモンは不思議な気分でぼんやり眺めた。

「半年前は旅行先だったけど、今日からはあそこで生活かぁ……なんかまだ夢みたいな気分!」

「夢はあと少し歩けば覚めるよ……あ、もちろんいい意味でねっ!!」

「夢が覚めたら夢のような現実が待ってる……頑張らないとなー! あっ、そういえば手前にある町はなんてとこ?」

「プラトタウン。コサジタウンよりはちょっと大きくて、登下校のときの休憩所的な町だね。寮暮らしだとそんなに寄ることもないかもしれないけど」

 レモンは他にも周辺について何度かネモに尋ねてその説明を聞きながら、これからの生活の期待を高めていき、そこからさらに3分ほど経った頃にはいても立ってもいられなくなっていた。

「うーん! この景色とネモのパルデア紹介聞いてたら、すっかり元気になった感じ!」

「そう? それなら……いよいよ向かおっか! わたしたちのアカデミーへ!」

「うん!」

 ネモとレモン、ふたりは弾ける笑顔で灯台をあとにするとテーブルシティへと小走りで向かう。

 

 

 

(つづく)

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