ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!! 作:ストレンジ.
ふたりはテーブルシティの手前にある町、プラトタウンにほんの少し立ち寄り、屋台『あまいやつめたいや』でそれぞれアイスクリームを買うと、どこかを観ることも誰かになにかを尋ねることもなく、吹き抜ける風と同じようにするりとあっという間に町を抜けてテーブルシティへの道をアイス片手に歩いていく。
「いいの~? さっそくおこづかい使っちゃって」
ストロベリーアイスを食べながらネモがちょっとだけ意地悪そうに微笑んでレモンに言った。
「いいの! ……だって町に入ってすぐに目につくところで売ってるんだもん」
同じようにチョコミントアイスを楽しみながらレモンははにかんだ。
「ネモこそ生徒会長が買い食いしていいの~?」
「お行儀はよくないかもだけど……でもさ、ポケモンだってトレーナーだってお腹が減ってはポケモン勝負ができぬ、ってね!」
「アイスってお腹を満たすための食べ物ではなくない?」
「この場合満たすのはお腹っていうか、気持ち? ベストコンディションでバトルするためのアイス!」
「なんかこの後バトルする流れになってない……?」
「しないの?」
「まあ……するけど」
「だよね! でもレモンさ、さっきから野生のポケモンとバトルになったとき、みんな倒しちゃうよね。捕まえないの?」
灯台からプラトタウンまでの道中、レモンは野生ポケモンに出会い戦闘になった際、そのすべてを倒してきていた。未使用のボールはあるものの今のところ捕まえたポケモンはおらず、手持ちは変わらずクラベル校長から渡されたクワッスと両親からの贈りものである色違いのコンパンの2匹のままであった。
「うーん、なんていうか、ビビッときたときだけ捕まえるようにしたいんだよね」
「ビビッと……とは?」
「うまく言えないけど……ポケモンと出会ったとき、「こいつだ!」って感じるときない? クワッスも、コンパンのときもそういう……納得感? みたいなものがあったんだよ。なるべくそう思えた子だけ捕まえたいな~って。ビシバシ捕まえていっても、まだ駆け出しトレーナーのアタシじゃお世話しきれないかもしれないし」
「うんうん、責任感を持つのはいいことだね。でもポケモンがいないと戦略の幅が広がらないから、ある程度は増やさなきゃね。仲間の数はぜったいバッチリ多い方がいいって言うし!」
「そうだね……いろんなポケモンといっぱい出会って感じて、考えてみる!」
「あっ、じゃあさ……」
そわそわした様子でネモがレモンの数歩前に立つ。
「今からこの辺りで……15分くらい? あまり時間はとれないけど、いろんなとこ歩き回ってポケモン探してみなよ! で、捕まえるかどうかはレモンの判断に任せるけど、時間になったらあのテーブルシティに入るためのおっきな門の前にあるポケモンセンター! あそこで待ち合わせて、街に入る前にバトル! どうかな?」
矢継ぎ早に楽しそうにレモンにそう提案するネモ。レモンにポケモンとふれ合う機会を設けるとともに、手持ちを増やし、戦法に広がりを与えてバトルのレベルを上げようという彼女なりの作戦だった。
「待ち合わせって、ネモはどうするの?」
「わたしも周りのポケモンチェックしながらレモンとは別行動でポケモンセンターへ向かうよ。今のレモンの手持ちを知っちゃってるから、いっしょにいるとわたしが有利になりすぎちゃう」
フェアにいくためのネモなりの気遣い。もっともネモと今のレモンには圧倒的なまでの経験の差というものがあるわけだが……。
「これからひとりで冒険することもあるだろうし、この辺りは安全な場所だから、とにかく歩き回ってパルデアとポケモンに慣れてみよう! じゃ、スタート!」
開始を告げるとネモは足早にレモンから離れていった。要領を得ないなりに、とにかくレモンは道を外れて草むらを移動してみることにした。
*
何度目かの野生のポケモンとのバトルで、まだまだ未熟ながらもレモン、そしてパートナーのクワッスとコンパンは経験を積んでいった。
「いないなぁ……ビビッとくるやつ……」
しかし肝心のポケモン捕獲の方は、レモンがなにかを感じる個体との出会いが今のところないようで、手持ちは変わらず2匹と戦えないミライドンのままだった。
うーん、とりあえず1回なんでも捕まえた方がいいのかな? 育ててからなんかしっくりくるのかもしれないし……。でもそもそもビビッとこないと捕まえようって気になれないんだよなぁ……。
あれこれ考えながらレモンは見かけたコダックやハネッコ、ヤヤコマ、タマンチュラなど周辺の野生ポケモンに次から次へと出会ってはバトルをして、やはり捕まえることなく倒していくのだった。
「茶色いウパー!? こんなのいるんだ!」
「ピチューだ! かわいい!」
「でっかいアメンボ……え、あれもポケモンなんだー!」
そうやっていろいろなポケモンと出会っては新鮮な驚きと喜びを噛みしめる。レモンのその感情は嘘偽りのないものだった。それでもやはり捕まえることはせずに、倒すか遠くから観察するだけに留まっていた。
「おーっ、コンパン『ねんりき』覚えたんだね! 『ねんりき』で格闘相手に百人力! 目指せワンリキー百人抜き!」
タマンチュラを倒した木の下で、新たな技を覚えたコンパンに賞賛のラップを贈るレモン。手持ちは増えないまま、ネモと合流する時間が近づいていた。
「まあ、今じゃなくてもそのうち会えるよね! ビビッとくるポケモン!」
「フリャ!」
「もう時間だし行こっか。手持ちは増えてないけど、そのぶん強くなったからネモもちょっとはびっくりするんじゃないかな~……ん?」
そのとき、レモンのすぐ隣でコテンッ、となにかが落ちる音がした。音に反応してレモンとコンパンがそちらを見ると、濃いピンク色の大きな果物が落ちていた、とレモンは一瞬思ったが、果物に顔があるのを見てそれはポケモンであることにすぐに気づいた。
そして果物のような見た目のポケモンであることを認識したその瞬間、レモンにイマジナリーでんきショックが走った。
「ビビッと……きたあぁぁぁ~っ!!」
衝動に促されるままレモンは、そのポケモンやコンパンが臨戦態勢に入るよりも素早く懐からボールを取り出し投げた。
レモンの行動に反応できなかったのか、あるいは運命のようなものをポケモンも感じたのか、なんの抵抗を見せることもなくボールは捕獲成功の合図を示して、果物ポケモンはあっけなく捕まった。
「あ! ママからもらったゴージャスボール!」
そこでレモンは今現在ひとつきりしか持っていなかったゴージャスボールでポケモンを捕まえたことに気づいた。
「いや……いいか、ビビッときたんだし! ていうか、はじめて捕まえたポケモンだし! うわー、そうじゃん!」
自分で言って驚くレモン。今の果物ポケモンが、レモンにとって自力でボールを投げて得た最初のポケモンだったのだ。
「えーと、この子は……フルーツポケモンの、アマカジ!」
「ぴゅおうっ!」
捕まえたアマカジをさっそく出して、ポケモン図鑑と交互に確認する。
「おぉー、確かに甘い匂いが……お腹減ってくるなぁ……」
「フリリィ……」
図鑑の説明を見てアマカジの香りを確かめるレモン。横にいるコンパンもうっとりしているような反応を示す。
「あ! ネモのとこに行かなきゃなんだった! なにはともあれアマカジ、ゲットだぜ! よろしくっ!」
「ぴゅう~♪」
アマカジと挨拶を手早く済ませると、ポケモンたちをボールに戻してレモンはネモの待つポケモンセンターまで走っていった。
*
「パルデアのポケモンセンターはシンプルだねー」
「そのぶん予算がかからないのか、けっこういっぱい建ってるから、わたしたちにはありがたいけどね!」
たどり着いたガソリンスタンドのような見た目が特徴のパルデアのポケモンセンターでネモと合流し、ひとまずポケモンたちをセンターに預け回復させてから、ふたりはテーブルシティの入り口の大きな門の前の通りを隔ててそれぞれ位置につく。
「さて、と……レモン! 仲間は増えたかな?」
「うん! 1匹だけだけどね。しかも時間ギリギリ!」
「おぉーっ、おめでとう! じゃあそのポケモンの歓迎も含めて……始めるよっ!」
ネモの言葉をゴングに、合流早々テーブルシティ入り前の最後のバトルが始まった。
「いくよホゲータ!」
「クワッス、カモンっす!」
最初の1匹は初戦同様、校長からもらったポケモン同士の組み合わせとなった。
「捕まえた子ではないんだね」
「ちょっとバラしちゃうと、ホゲータと相性が悪いからね」
「捕まえたばかりの子をいきなり出さずに、わたしの手持ちをふまえたポケモンの選出……いいね、実ってきてるよ……!」
白い歯を見せてネモが歓喜の表情でクワッスを迎え入れる。前回と同様今回も相性の不利に臆さないネモにレモンは警戒の色を顔に浮かべる。
「ホゲータ、『たいあたり』!」
先手も前回のバトルと同じくホゲータの『たいあたり』。意趣返しとばかりにレモンもその流れに乗る。
「クワッス、『なきごえ』で攻撃をダウンだよ!」
「できるかなっ!」
短くネモがそう叫ぶと、クワッスに駆けていくホゲータのスピードが上がり、鳴くよりも早く、ホゲータは胴体からクワッスにぶち当たっていった。
「えぇっ!?」
「レモンがポケモンを育ててるなら、当然わたしだって育ててるからね。強くなるのはお互い様……だよ!」
「ホゲ!」
余裕のある笑みで、驚くレモンに目配せするネモと胸を張るホゲータ。息の合ったふたりに、手負いのクワッスも負けじと立ち上がり、一瞬振り返ってレモンを見た。
「クワッス……よし!」
強くなるのはお互い様……だもんね、ネモ!
クワッスの顔を見たレモンは不敵に笑い調子を取り戻し、拳を握った。
「クワッス、ホゲータをよく見て、アタシの声をよく聞いて……!」
まず技ではなく集中をクワッスに促すレモンに、ネモはすかさず流れを崩しにかかる。
「遠慮はいらないよホゲータ! 思いっきり『たいあたり』!」
相手に動かれる前に仕留めるべく、ホゲータはスピーディーにふたたびクワッスに突っ込んでいく。
「よく見て……まだだよ……」
初戦でホゲータを倒したときのようにレモンはクワッスに見の姿勢を徹させるが、ネモはもちろんこの流れを覚えている。
「……いまっ! 『みずでっぽう』……」
「相手をよく見てるのはこっちも同じだよ!」
迎撃にあたってクワッスが繰り出したのが前回の『はたく』ではなく『みずでっぽう』だったことには、ホゲータの弱点なこともあり内心少し驚いたネモだったが、それでも迎撃のタイミングを的確に読んでおり、『たいあたり』中でも難なくホゲータに『みずでっぽう』を避けさせることに成功した。
「まったく通用しないとは言わないけど、ちょっと前にやったばかりの同じ手は……」
「……からの『つばさでうつ』!」
「……っ!? ホゲータ、ジャンプ!」
忠告をしようとしたネモは、自分の声を遮って発したレモンの言葉に一瞬呆気にとられたが、やはりそこはチャンピオンランク保持者とだけあってすぐに状況に対応するべくホゲータに指示を出す。
「ホ? ゲェ~……!」
しかしトレーナーは反応できてもパートナーが必ずそれについていけるとは限らない。ホゲータはネモの指示で跳んでかわそうとはしたものの、行動に移る前にクワッスの翼が見事にヒットした。
「うーん、今のは動きは厳しかったね! お疲れさま!」
地に伏したホゲータをモンスターボールに戻すと、ネモは少し目を閉じて気を取り直す。
「次はこの子! お願い、パモ!」
ネモが次に繰り出したのはねずみポケモンのパモ。クワッスのみずタイプが弱点とするでんきタイプのポケモンである。
弱点ゆえレモンはポケモンの交代を考えたが、ネモと別行動の際に把握した『じしんかじょう』の特性を見込んでクワッスを続投させる。
「クワッス、素早く『はたく』でバトルは決着!」
とはいえでんきタイプの技を受けるのは致命的。強化された攻撃でパモに動く隙を与えずに戦闘不能にしようとレモンは素早く判断し、指示を出す。
「パモ! 大丈夫、よけられるよ!」
「キュ!」
ネモの指示通りクワッス以上に素早い動きでパモは『はたく』をかわし、相手との距離をとる。
「強敵に手かげんはしない! パモ、全開でいくよー!」
パモにそう言うとネモは黒く輝くモンスターボールを手に取り構えた。
「テラスタル!」
ネモが叫ぶと黒いモンスターボールは輝きを増し、光線と、その余波のような風がボールを中心に巻き起こり、一瞬ボールはさらに激しく輝く。
光と風が治まったあと、夜空の色に輝き出したボールをネモはパモに向けて
「さあパモ! テラスタルな『でんきショック』、お見まいだー!」
パモの全身が強く輝くと、その小さな体からは予想もできないような激しく鋭い電撃が発され、レモンが対応をする間もなくクワッスを襲った。
「クワッスぅーっ!!」
弱点を突かれたクワッスは瞬く間に戦闘不能となり、レモンはたまらずモンスターボールに戻す。
「いったい、なにをしたの……?」
弱点の電気技だったとはいえ、パモの『でんきショック』のあまりの威力に、訝しむレモンは対戦中であったものの思わずネモにそう問いかけた。
「……………………あ」
訊ねられたネモはなぜか奇妙な顔をして、それから数秒の沈黙の後、目を見開いた。
「教えてなかったあああああああ!!」
ネモが頭を抱えてテーブルシティの門前でそう叫んだ。
*
「いやあ~申し訳ない! レモン強いからトレーナーなりたてなのも『テラスタル』教えてなかったのもすっかり忘れちゃってた!」
ポケモンセンターで回復の終わったクワッスのボールを受け取ったレモンに両手を勢いよく合わせて謝るネモに、レモンは好奇心の眼差しを向ける。先ほどの戦闘はネモの願いで途中で幕を閉じ、引き分け終了ということで話が落ち着いたが、あのパモの見た目と強力な技の秘密を尋ねたくてうずうずしていた。
「でさでさ! テラスタルってなんなのさ!? あのパモのライク・ア・『じゅうまんボルト』の『でんきショック』! そのヒミツ、もちろん訊いとく! させてよナットク!」
「テラスタルっていうのはねー、原因みたいなのはわたしもわからないけどパルデアで起きる現象で、この『テラスタルオーブ』をポケモンに使うとキラキラになって、特別な力を引き出すことができるんだ!」
ネモはさっきの戦闘でも見せた黒く輝くモンスターボールのような球体を取り出した。
「誰でもテラスタルが使えるわけじゃないから、別に使えない人とのバトルでテラスタルするのは反則とかではないんだけど、フェアにいきたかったのにレモンに教えるの忘れたまま使っちゃった……ってわけ」
「そのテラスタルは……アタシはできるのかな?」
誰でも使えるわけではない、というネモの言葉に若干の緊張を覚えながらレモンは尋ねた。
「もちろんもちろん! わたしが手続きしてあげるよ! とりあえず……行こっか!」
そう言ってテーブルシティへの門を見上げるネモにつられてレモンも門を見る。早くも感無量といった気持ちがこみ上げてくるのを押さえながら、ふたりは仲良く門を開いてパルデア最大の都市へと足を踏み入れた。