ポケットモンスター バイオレット a.k.a Lemonade Tornado!!   作:ストレンジ.

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Grapeful Days
#08『Start Dash! Star Trash?』


 

 門を抜け、何度目かのテーブルシティへとやって来たレモンだが、相変わらず彼女にとってこの街はまだ新鮮な刺激に溢れた、きらめく宝石の詰まった宝箱のような都市だった。半年前の家族旅行と引っ越してきてからの何度かの買い物では、未だ入ってないお店も目にしてない施設もたくさんある。なによりこれから行くグレープアカデミーこそがレモンの胸をときめかせ、締めつけてやまない憧れの場所、いよいよそこが自分にとって新たな生活の中心になるという現実。

「ヤバい、むっちゃ興奮してきた……!」

「あはは、ぐるーっとひととおり見てきたら? わたしは先に行ってレモンのテラスタルの手続きしてきちゃうよ」

「ありがと、そうする!」

 ネモといったん別れて街を散策しようとするレモンだったが、中央広場の大きなバトルコートまで来たところで旅行のときに見たネモのバトルを思い出し、ひときわ気分が高揚していても立ってもいられなくなる。

 テラスタルってすぐにできるのかな? さっきの勝負は途中で終わっちゃったし、教えてもらったらさっそくネモとバトルのやり直しだなー!

 散策を切り上げて、気持ちのままにレモンはアカデミーへ続く長い階段を意気揚々と上り始めた。

 

   *

 

 息を乱すことなく中腹までやって来たレモンだったが、階段を上り終えてすぐ目の前の道の真ん中で騒がしく話す生徒たちがいるのを見て足を止めた。

「さっきから黙ったままでなんなの、キミさ? 仲間とまぶしい青春送りたくないの!?」

「……別に」

「ああもう! こちとら勧誘ノルマあるんだから、さっさと『スター団』に入りなさいよ!」

 着崩した制服に星形のサングラスを着けたヘルメットを被った男女が、メガネをかけた女の子と話している……というよりは強引になにかに誘ってるようだった。

「ノルマとか知らないし……」

 小声でそう言ったメガネの女の子は、モンスターボールの刺繍が入ったパーカー姿にもふもふと柔らかそうなイーブイを模したバッグを背負った、髪こそところどころ赤と青に染めてはいるもののおとなしそうな子にレモンには見えた。

 これは……アクシデントの予感……!

 そう推察したレスキュー隊員の父親をもつレモンの血が騒いだ。人助けは人助けでも父親のそれとは違うものの、とっさに足が動いたレモンはかばうように女の子の前に立った。

「ん? なんか用? 今その子とお話し中だから、入団希望ならちょっと待ってね!」

 浅黒い肌をした男子生徒の方がレモンにそう言って場を制そうとした。

「入団希望? ……なんの?」

「このカッコ見てわかるでしょ。あたしら、泣く子も笑うスター団。知ってるよね?」

「知らないけど……」

「……もう! なんなのよ、キミまで……。せっかくスター団に入ったのに、こんな扱い……底辺じゃん」

 アカデミーどころかパルデアに来て日が浅いレモンにとって、学校のおそらく部活か同好会の類いなど知るはずもないのだが、それを知らない女生徒はスター団なるものを知らないというレモンの発言に苛立ち、プライドを傷つけられたようだった。

「ナメられっぱなしだと団の面目まる潰れ! 勝負するっきゃ、なくなくない?」

「ナメてるわけではないんだけど……」

 女生徒に諭す男子生徒にレモンは困惑しながら誤解を解こうとしたものの、ふたりの耳には届いてないようで勝手に話が進んでいく。

「そうね! あんたは最初のメガネちゃんを見張ってて! ナマイキな乱入ちゃんはあたしがお星さまにさせちゃうわ!」

 レモンの返答も聞かずにふたりは数歩下がってバトルのためのスペースを確保する。避けられないと察したレモンはゴージャスボールを手に持って身構えた。

 

「スター団、ナメんじゃないわよ!」

 そう言ってから女生徒はおもむろにやや中腰になり両手を前に出してジグザグに動かし、『☆』の形を宙に描いた。

「だっっっさ!」

 その動きを目にしたレモンが思わず声を漏らした。

「あんた、やっぱナメてんでしょ!」

「ごめん、声に出ちゃった……」

「泣かす!」

 すっかり女生徒を怒らせてしまったレモンは軽く萎縮しながらも力強くボールを投げた。

「アマカジ、初陣!」

「ぴゅう!」

 捕まえたばかりのアマカジが元気よくボールから飛び出した。

「ゆけっ、シルシュルー!」

 女生徒も威勢のいい声でどくねずみポケモンのシルシュルーを繰り出す。緑色の大きな両の目の間の鼻のような形の口先に毒が染み込んだ紫色の前歯をもつポケモンだ。

「『どくどくのキバ』!」

 シルシュルーが濃い紫に光る前歯を誇示し、アマカジに飛び込んでいく。

「アマカジ……あ!」

 深く考えずにアマカジを出したレモンはスマホロトムでなにかをチェックし、言葉に詰まった。

「んーと……! 『はねる』っ!」

「ぴゅう! ぴゅう! ぴゅ~うっ!」

 咄嗟の指示にしっかりと従ってアマカジはぴょこんと跳ねた。一切の効果のない技だが、幸運にも元気いっぱいに跳ねたことで『どくどくのキバ』を回避する形になった。

「はぁっ!? なんで『はねる』でそんなことできんのよ!」

「気をつけろ! ただのナマイキな生徒じゃなさそうだぜ、その子!」

 驚愕する女生徒に男子生徒が注意を促す。実際のところレモンが『はねる』を命じた理由は、回避を指示、つまり「よけろ」と言うよりもアマカジには『はねる』をさせた方がより確実に攻撃を避けられるような気がしたからという直感に従ったためだった。

「アマカジ、きみ攻撃技覚えてないんだね……」

 機転を利かせた『はねる』の使用の後、レモンは小声でつぶやいた。スマホロトムで見ていたのはアマカジの技構成で、捕まえてから今のバトルまで確認するのを失念していたのだ。

「じゃあ……『なかよくする』!」

「ぴゅう! ぴゅ~うっ♪」

 次の一手をレモンが命じると、アマカジは笑顔でシルシュルーに近づき親しげにぴょんぴょん跳ねて動きを誘った。

「シュル……シューッ! シュー♪」

「ぴゅうっ♪」

 アマカジにつられてシルシュルーも楽しげにいっしょにジャンプする。敵と親しくなることで全力で攻撃するのをためらわせ、攻撃力を抑えることに成功した。

「があああ! 敵と仲良くすんなし! キバがダメなら『アシッドボム』よ!」

 シルシュルーが今度は毒の前歯から紫色の球体を発生させ、アマカジ目掛けて放物線状に飛ばした。

「アマカジ……『はねる』!」

「ぴゅおう!」

 レモンは『アシッドボム』がアマカジに着弾する直前を見計らってまたしても『はねる』で避けさせた。すっかり『はねる』を回避技のように用いているレモンとアマカジである。

「いいね! 『はねる』は避けるを兼ねる!」

「兼ねないわよフツー!」

 思いがけない技の使い方に女生徒は大きくペースを乱され隙ができる。そこに次の一手をレモンはねじ込む。

「『くさ』に『どく』はサクサクどくのが策さ! すかさず交換、たまらずコンパン!」

 アマカジを素早くボールに戻し、早くも慣れた手つきで新たなボールを投げてコンパンに交代させた。

「とびきりの眼力で『ねんりき』お願い!」

 場に出たコンパンに即座に指示を出す。コンパンの体表の辺りの空間が陽炎のようにわずかに歪んで見え、色違いの青い複眼がほのかに光る。するとシルシュルーが同様の陽炎に包まれ空中に浮かんでいき、そこから地面に叩きつけられた。なすすべもなく弱点を突かれたシルシュルーは一撃で戦闘不能に陥った。

「ああっ! そんな……」

 敗北を悟った女生徒は肩をがっくり落として斜め下にそっぽを向いて負けを認めたくないようだったが、次の手持ちを出そうとしないことからバトルがレモンの勝利で終わったことは明らかだった。

「後輩がやられた……? こうなったら先輩であるオレが相手をするしかないのか……!?」

 敗れた女生徒の先輩である男子生徒は身構えつつも怖じ気づいてレモンとのバトルに消極的な態度を見せるのを隠さない。

「ちょっとちょっと! なにやってんのー!」

 膠着しようとする場に活を入れるようなネモの大声が響き、全員がアカデミーへの階段からこちらへ降りてくる険しめの表情をした彼女に目を見張る。

「ゲッ、生徒会長……」

「めんどくさいヤツに見つかっちまった……」

 レモンのそばへと歩いていくネモに、いかにも厄介そうな顔でスター団の男女ふたりはひそひそと話す。

「もう! ダメだよレモン!」

 そうネモに言われてレモンは最初、生徒同士、あるいはテーブルシティ内でのポケモンバトルには生徒会や教師陣からの許可を得なければいけない決まりでもあるのかと早合点した。

「ポケモン勝負するなら、わ・た・し・と! でしょ!?」

 しかしどうやらそうではなかったようで、ネモは自分を差し置いてレモンが他の生徒とバトルしてることに少々妬いているようだった。

「ああ、うん、それはそうなんだけど。この子がそっちの、スター団っていうふたりに……」

 

「うわ、あの子なんか生徒会長と知り合いっぽいんですけど……」

「てか会長とバトルするつもりっぽかったっぽいんだけど……? そんな相手、オレたちじゃ勝てるワケねー……」

 ここまでの経緯について話し合っているレモンたちを横目にスター団のふたりも小声でこの後のことを話し合うが、徐々にヒートアップして声が大きくなっていく。

「ちょっと! あたしだけバトルさせといて、自分の番が来たら逃げるってんじゃないでしょーね!?」

「逃げるってか、戦略的撤退ってヤツ! オレがかなうわけないっしょ!? もっと上の団員呼んでバトってもらわなきゃ……」

「後輩が泥かぶってんのに自分だけキレイなまま帰ろうってワケ!? 拭えないなら、せめていっしょに泥かぶんのが先輩としての矜持(きょうじ)なんじゃないのっ!?」

「だったら先輩に対するその態度はよくないんじゃないかなぁ!? てか、こムズい言い回しすんなよ! オレたち不良よ!?」

「はぁ~!? そんなのカンケイないんですけど!? そんなこと言ったら『チーム・セギン』のボスなんて元生徒会ちょ」

 

「スター団!!」

 

「ぉわあっ!?」

 言い争っている間に目の前にまでやって来ていたネモに気づかず、スター団のふたりは突然の声に驚く。

「また強引な勧誘して! これはケジメをつけてもらわなきゃ……いけないよね?」

「ぐっ、ヤバい……」

「逃げようなんて考えるからよ。おとなしく当たって砕けなさい!」

 自身の前で観念せざるを得ない状況にすっかり尻込みしている男子生徒に、ネモは微笑んで口を開く。

「本来なら生徒会長としてわたしがこの場を収めるべきなんだろうけど……せっかくだからレモンに任せちゃおうかな!」

「へ……?」

 虚を突かれ困惑するスター団に一度背を向け、ネモはレモンを見た。「いいの?」と嬉しげに言うレモンに頷いてから、ふたたび向き直る。

「というわけだから! さ、準備準備!」

 有無を言わさずスター団にバトルの用意を促すネモに、男子生徒は従うしかなかった。

「結局こうなるのか……いや、生徒会長よりかは、まだアイツの方が勝つチャンスはある! ……はず、だ……きっと……うん」

 自信なさげに自分自身を励まして男子生徒は覚悟を決め、モンスターボールを握った。

「よぉし、やってやる……! いけっ!」

 深呼吸してから投げたボールから現れたのはヤングース。茶色い体毛に身体の前後だけラインが入ったような金色の毛並みと、ギザギザの鋭い牙をもつ四足歩行のうろつきポケモンだ。

「クワッス、いくよ!」

 レモンもボールを投げてクワッスを出したが、一呼吸も置かないうちに別のボールを取り出して相手に見せるようにつきつけた。それは黒い色のモンスターボールで、中央でクリスタルが青く輝いている。

「あ……それってテラスタルオーブ……」

「うん! さっきネモからもらったんだ!」

「へえ……使う、よね……?」

「うん! ダメ?」

「……いや、オレは使えないけど、お互いが持ってなきゃ使っちゃダメなんてルールはないからね……」

「よーし!」

 はりきるレモンを前にもはや完全に観念したかのような意気消沈ぶりを見せる男子生徒だったが、ヤングースを見てなけなしの気力を奮い立たせる。

「テラスタルオーブ、スイッチ・オーン!」

 しかし命令するよりも早くレモンが動き、テラスタルオーブを発動させ、彼女の周囲に風が舞う。

 

「ふおおおおぉぉぉ……! 感じるバイブス、これがパルデアバトルの輝く聖典(バイブル)……!? これがレモネード・トルネードの、第一球だあっ!」

 

 サイドスローでテラスタルオーブをクワッスに投げ込むと、ネモとのバトルのときにパモが見せたようにクワッスが光る結晶に包まれてそれが弾けると、中から宝石の如くに輝くクワッスが姿を見せる。頭頂部には水の出ている噴水を模したクリスタルが生えている。

「みずタイプのテラスタルだね! みずの技を使ってみて!」

 ネモに言われて指示を出そうとするレモンを前に男子生徒はテラスタルの迫力に気圧されてあたふたしてしまい、ヤングースへの指示が覚束(おぼつか)ないでいる。

「クワッス、覚えたての『アクアジェット』をGO!」

「プル!」

 クワッスが短く鳴くとその身体を震わせ、みずタイプのエネルギーをまとい、高速でヤングースに突っ込んでいった。

「ギャアアアアアアン!」

 攻撃を受けたヤングースは一切の行動をとれないままひんし状態に追い込まれてモンスターボールに戻っていった。

「うわぁ……キラキラだぁ……」

 男子生徒は悔しがる様子もなく、ただただテラスタル状態による攻撃に呆気にとられているようだった。

「……っあ、そ、それじゃあこの辺で!おつかれさまでスター!」

 ひと呼吸置いて我に返った男子生徒は団特有のものらしきあいさつをして一目散にこの場を去っていった。

「あたしも! おつかれさまでスター!」

 女生徒も同じように男子生徒の行った方へ駆け足で立ち去り、場にはネモとレモンとイーブイバッグの女の子が残された。

「……スター団は、いわゆるやんちゃな生徒の集まりでさ。出席率も低いし集団で暴走してるし、先生たちも困ってるみたい」

「ああ~……そういうタイプの青春を満喫する人たちの集まりなのか~」

「そういうタイプの青春って……ふふっ」

「あのっ……!」

 スター団が去り、レモンは彼らについてネモから話を聞いていると、割って入るような形でイーブイバッグの女の子がふたりに声をかける。

「……ありがと……ございます……先、行くんで」

 短くそれだけ言って女の子はアカデミーへの階段を走って上っていってしまった。

「イーブイのバッグ、もっふもふ! 見ない顔だったけど、あの子も転入生かな?」

 ひとりごとのように言って女の子を見送ってからネモはレモンへと向き直る。

「いざこざも解決したし、いよいよ学校へ向かいますか! 地獄の階段……頑張って上ろうね!」

 言われてレモンはアカデミーへ続く最後の長い階段を感慨深げに眺め、大きく深呼吸してからネモを見て、ふたり同時に階段を上り始めた。

 

   *

 

「はっ……ひゅうぅ~~~……」

「ネモ、おつかれさまでスター!」

 階段を上り終え、息を整えるネモの横でレモンは先ほどのスター団のあいさつと珍妙な『☆』ポーズを真似てみせた。

「あはは……スター団に間違われないでね……」

 思いの外疲れた様子のネモを気にかけつつも、レモンはついに目の前にまで迫ったアカデミーに目を見張った。

「やっぱり大きいね……」

「寮も校内だし、グラウンドが屋上にあるし、エントランスが図書館でもあるうえに広いからね。学校の仕事を手伝うポケモンたちもいるから、とにかく大きくて賑やかだよ」

「あ、大丈夫?」

「だいじょーぶ、いけるよ」

「じゃ、レッツゴー!」

 少し立ち止まってネモに体力と笑顔が戻ったのを確認してからレモンはふたたびふたりで歩き始め、正面扉の目の前にたどり着く。そして扉に手をかけ、開き、ネモといっしょについに憧れのアカデミーの中へ足を踏み入れたのだった。

 

 

 

(つづく)

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