ルフレ(女) in フォドラ   作:オノギ

1 / 15
一話目です。


出会い

 

同盟領 とある離れの酒場にて

 

 

「へいっ!お持ちしましたぜお客さん。」

「おう。済まねえな。酒場だってのに酒も頼まねえで。」

 

店主がカウンター席に着いた一人の大男に、注文通りアルコールの入っていないドリンクが入ったジョッキを渡す。

 

「いやあ、その様子じゃあ仕方ねえだろ。寧ろ殊勝な心掛けだぜ。」

店主は勢いよくグイと飲む男の隣の席に置かれた籠をチラリと見遣る。

その中には布に包まれた赤ん坊が居た。

 

「それにしても珍しい。こんな酒場に赤子連れだなんて。」

「悪ぃな。だが、この子はその‥‥泣かねえもんだから、店にデケェ迷惑はかけねえはずだ。」

 

泣かない?

そんなことがあるのだろうか?しかしくぐもった声の割には妙に自信があるように言い切るもので、男が嘘をついているようには見えなかった。

確かにその赤ん坊は此処に来てから泣かないどころか、そもそもに挙動が少ないと今にして思う。代わる代わる目に映る大人たちの顔ぶれを前に、怯えも興味も示す様子はなかった。

 

「此処に店構えといてなんだが昔は盗賊の被害もあったし、あんまり治安の良いトコじゃねえ。お客さんはしっかりしてそうだが、たらふく呑んどいてしまいにゃ金払わず逃げるって奴も月に何回か居るもんだ。今居んのは‥‥まあ、ツケに回しやがる馬鹿ばっかだがマシな方だ。

子供を思うんなら、もっと別の街とかで宿取った方がいいぞ。」

 

「忠告は有難く受け取っとく。だが、今あんま人目の付く所には行きたくないんでね。」

 

赤子連れて夜逃げってか、などと軽口をたたく。

だが実際、男が非常に複雑な事情を抱えているのは明らかだ。でなければ粗野な男達が集う場所で喉を潤そうなどという発想には至らないだろう。

 

「まあこのご時世、訳ありの奴なんざ腐る程いるから俺もこれ以上は言わねえよ。」

 

使い古された装備品に身を包むその男は貴族だとかの偉い立場の人間ではなさそうだが、その辺のゴロツキとかいう風にも見えない。何よりもガタイがよく、そんじょそこらの力自慢じゃ相手にならないだろう。

誰かに追われていたとしても、2,3人なら正規の軍人であっても軽くひねれそうな威圧感がある。

それこそ、フォドラにその名を轟かすセイロス騎士団だとかに追われてでもいない限り大丈夫そうだ。

 

と、そこでジョッキを空にした男はぶんっと勢いよく首を左右に回して店主に言い放つ。

 

「外で何かあったみたいだ。」

 

男の先程までの大らかな声色は、刃のような鋭利なものへと変貌していた。

只事では無い様子に店主は驚きながら、同じように店内を注視していると、出入り口の方から大声があがった。

 

「盗賊だぁああっ!!!盗賊が現れたぞっ!!」

 

その声に店内が大きくざわついた。

 

 

 

はあはあと息を切らして駆け込んできた男によれば近傍の民家が盗賊に襲われ金目の物が奪われた挙句、何人かの女子供まで連れ去られてしまったらしい。規模こそ大きくなかったみたいだが、只でさえ貧しい村であるため被害は甚大であった。

 

その事情を聞いた者達はやがて自分も殺されてしまうと顔を青くする者、仕返ししてやろうと勇みたつ者と様々であった。

例によって堅気でない者も含む広い客層が、却って場の落ち着きを保つのに役立っていたわけだが、そんなことはどうでもいいとばかりに店主は頭を抱える。

 

「はぁ、クッソっ!!!ここいらは、んな碌な金持ってる奴なんて居ねぇってのによ!!」

 

興奮していた客の一人が店主に言い放つ。

 

「おい店主。連中シめてくるからよお、これまでのツケはチャラってことにしてくれねえか?」

「俺も行くぜ。どっかで休憩でもしてる村の警備連中と合流すりゃあどうにかなるだろ。目にもの見せてやるぜ。」

 

俺も頼む、とその場にいた酔いの回っていない者達の同調する声が挙がった。

「...お前ら、ここぞとばかりに....」

 

 

「待てお前らっ!!」

 

店内に怒号が響き渡り、辺りは静まりかえった。

それはいち早く異常に気付きながらも、事の成り行きを静観していたカウンター席の大男だった。

その見かけない男の圧を前に逡巡する客の男達。

 

やがてハッと正気を取り戻した男の一人が負けじと声を荒げた。

 

「この事態を前に止めようってのかお前?言っとくが俺はなあ....」

「別に追撃自体を止めはしねえよ。だが、何の考えも無しに戦おうってんなら犬死にするってだけの話だ。」

 

「...どういう意味だ?」

「余所者の癖に知った風なことを....」

「まさか、お前盗賊の一味ってんじゃねえだろうな?」

 

思い思いに不満の声を上げる男達。中には今にも殴り掛からんと身構える者までいた。

だが、それに臆することなく大男は面倒くさそうに吐き捨てた。

 

「ったく、んな奴が此処で呑気にしてられるかよ....さっきそこのお前が言ってた警備兵ってのは多分今日は来れねえぞ。」

「何だとっ!?」

 

思いもよらない発言に周囲に動揺が走った。

 

「何でも、隣の街に名の知れた貴族が来訪してるようで、足りない分の警備がそっちに回されてるらしい。」

「....なんてこった...クソがっ!!」

 

何故余所者であるはずの男がそんな事情を知っているのか?

そんな疑問の声が上がることなく、皆一様にやるせない思いを口々に吐露した。

 

「だがこのタイミングでってのに心当たりがある。俺も昔の仕事がらこの辺りには来たことがあってな。そんで、その時からキナ臭い話を耳にしてたもんだ。

―――お前ら、ここら一帯を治めてる領主のことを知ってるか?」

 

「.....ああ、知ってる。嫌な奴だよ。金がねえって知ってんのにアホ程課税してきやがる。」

「全くだ。俺なんか以前、徴収しにきた役人追っ払ってやったよ。んで、それが何だってんだ?」

 

「やっぱりな―――恐らく盗賊はその領主に雇われた連中だろう。」

 

 

「はぁ!?アイツがいけ好かねえ奴ってのは知ってるが、どうしてそう言えるんだ。」

「さっき俺が言った貴族の来訪ってのは何日も前に予定されてたことじゃねえ。一日二日くらい前に急遽決まったって話だ。そんなもん、ただの盗賊が知るわけがねえ。

大方、満足に金を納められない住民への罰を兼ねた取り立てってところか。」

 

「はああっ!?なんだよそれ。ふざけんなっ!!」

「あの野郎…最近は大人しくしてるって思ってたら――」

「ってことは、盗賊達は今頃奴の屋敷に行ったってことか。なら場所はわかってる。手前ぇら、急いであいつごととっちめるぞっ!!!!」

 

おおおおっ!!!と活力に満ちた奮起が店内に響き渡るが、大男はソレを待て待てと諫める。

 

「気持ちは分かるがまずは落ち着くことだ。こういう時逸る奴はすぐに死んじまう。

―――俺の見立てが正しいってんなら、無計画な襲撃とは思えねえ。屋敷に行ったところできっと罠が張られてて返り討ちに遭うだろうな。」

「じゃあ、どうしろってんだよ?」

 

「俺もその屋敷は知ってる。あそこなら正面からじゃなくて、裏手から奇襲をかけりゃあいい。」

 

「無茶言うなよ。知ってんならわかるだろ?

あの屋敷の裏のほうはかなりの荒地で至る所に底なし沼がありやがる。こんな夜更けじゃあ、碌に歩けもしねえし、他にも魔獣が出るなんて噂もあるんだぜ。」

 

 

ザワザワ

 

魔獣―――その言葉に周囲がどよめいた。

魔獣と呼ばれるモノは個体差はあるものの、基本的に訓練した兵士複数名を要する相手だ。当然、兵士でもない自分たちでは一丸となって戦えたとしても死傷者がでるだろう。

だがそんな不安の空気を余所に、大男は首をフルフルと振った。

 

「魔獣ってのは恐らく屋敷を守るためのデマだろうな。先日そこに近いところを通ったが、狼一匹出て来やしなかった。考えても見ろ。金に汚い高慢な奴が、んな危険なところに屋敷を構えるか?」

 

「言われてみれば‥‥」

「それでも、底なし沼の方はどうしたらいいんだ?」

 

「夜目が利く奴はいねえのか?こういうのは慣れってもんなんだが‥‥」

 

そう問われると男たちは一様に呻いた。魔獣が出ると噂されていた森に好き好んで入る者などおらず、当然の如く底なし沼の見抜き方なんてのも知らなかった。その様子を一瞥すると大男はガリガリと頭を掻きながら口を開いた。

 

「はあぁぁ‥‥仕方ねぇな。俺も行ってやる。」

「っ!あんたいいのかっ!?」

 

「此処のやつらにも借りがあるし、盗賊が暴れてるってのを見過ごすのも気分が悪い。

―――店主。悪いが、この子を一旦預けていいか?」

 

「あ、ああ。それは構わないが…」

店主は赤ん坊の入った籠を恐る恐る受け取った。

 

「よしお前ら、命が惜しくなけりゃ酔いがまわってねえ奴だけ俺と来い。他は取り乱しちまってる住民を宥めてきてやんな。」

「わかった―――ところで、あんたの名前は?」

 

 

 

「俺はジェラルトだ。」

 

 

―――

――

 

「あのジェラルトって人、まじかよ‥‥」

「ああ。こんなあっさり着いちまうなんて――」

 

ジェラルトの指示の下、人を集めて屋敷の裏手の森に向かった一行は初めは酷く怯えていたものである。

 

というのも相手側の意表をつくため、松明を使わなかったからだ。

沼は勿論の事、酒場で聞かされた魔獣なんて居ないという話も、理は通っていてもすんなり納得できるモノでは無かった。

何時沼に引きずり込まれたり魔獣に襲われたりするか、とヒヤヒヤしている者も多かったが、先頭を行くジェラルトがあまりにもスイスイと進んでいくためやがて皆の足取りは軽くなっていった。

 

暗闇の中、障害となる岩や倒木なんてのもあったのだがジェラルトはそれにもいち早くに気づき、最短ルートを確保し誘導したことで全員予定よりもかなりはやく着いたものだ。

 

そうして一行は目論見通り、相手の意表を突く形での奇襲が成功した。

しかも―――

 

「盗賊も不意を突かれてたとはいえ、まるで相手になってなかったな。」

 

最早夜目が利く先頭なんて言葉に収まらない。

 

当人があまりにも強かった。その屈強な身体から繰り出される一撃は豪快ながらも繊細で、相手の防具の隙間を縫うようにして的確に致命傷を狙ったものだった。

そんな彼の奮戦を前にした盗賊達は敵わないと悟り、倍以上の人数であったはずが皆散り散りになって逃走を図ったのだった。

 

そして現在は逃げた盗賊を何人かが追っている最中である。

 

 

「おしっ!こっちは片付いたぞ!!」

 

屋敷の門が勢いよく開かれると、扉の先に居たジェラルトが言い放った。

みれば彼に首根っこを掴まれた初老の男が居た。その屋敷の主にして件の首謀者と挙げられていた領主だ。

 

「は、離してくれ。ワシは何も知らんっ!!!」

 

喚く領主を前に男たちは声を荒げた。

 

「馬鹿言うな。お前の屋敷から盗賊が出てきたってのが何よりの証拠じゃねえか!!」

「......っ!ふんっ。そんな奴らワシは知らんぞ。そいつらが偶々見つけたこの屋敷に逃げ込もうとした所を、追ってきたお前さんらが仕留めたってことじゃろう。」

 

「こいつ、よくも白々しく....」

「ああ。どうにかして吐かせよう。」

 

「ヒィィッ!!?? ワ、ワシに手を出してみろ。同盟内の貴族たちが黙っておらんぞ!!」

 

「まあ待て。すぐに確たる証拠ってのが出るだろうよ。ホラ来た。」

 

ジェラルトがそう言うと、屋敷の奥から男が出てきた。ジェラルトと共に屋敷内部を制圧しに向かった者の一人だ。

 

「ジェラルトさん。見つけましたぜ。この屋敷の地下への入り口を。」

 

 

 

「~~~~~~~っ!!」

 

 

それを聞いた領主は言葉にならない悲鳴を上げた。そうして観念したようにぐったりと俯いた。

 

「じゃあ其処に向かうとするか。恐らく、お前らから奪っていった金や攫われた女子供が居るだろう。早く解放しに向かうぞ。この爺さんは任せた。」

 

ジェラルトはそう告げると、領主の老体を男達に向かって放り投げる。

殺すんじゃねえぞ、と釘を打って彼は屋敷の地下へと向かう。

 

 

 

 

「―――どうだ。全員救出できたか?」

 

既に地下へと先行していた男達が安堵した様子で女子供を連れ出す様子を見て、結果など見るまでもなかったが確認する。

 

「ああ。連れ去られた人たちは全員救出できたし、以前の盗賊被害で奪われていた物も確認できたぞ。」

「これを役所に突き付けりゃ、あの爺も言い逃れできねえだろ。」

「ホント、あんたには何てお礼を言ったらいいのか‥‥」

 

「同じ酒場で呑んだよしみって奴だ。

―――さてと、じき役所の連中が来るだろうが、全てお前たちの手柄ってことで俺の存在は他言無用で頼む。」

「え....それは構わないがいいのか.....?」

 

それほど規模が大きくなかったとはいえ、盗賊の討伐をした以上ある程度の謝礼金が渡されるはずだ。そうなれば当然一番の功労者であるジェラルトが多く報酬をもらうものだが、本人が名乗り出ないのであれば他の者達に均等に渡ってしまう。

それでは流石に申し訳ないと男達は告げたがジェラルトはそれも不要だ、と一点張りだった。

 

 

「おーーーーいっ!!誰か来てくれ!!!!」

 

そこで、地下の奥から声が響いた。

屋敷の制圧で完全に緩みきった空気を一変させる強張った声色に、何事かと一行は地下の奥に向かった。

そして辿り着いたその先―――

 

「ん....そいつは....」

 

ジェラルトの困惑した声に続いて、それを見た男たちが憤慨する。

 

 

 

呼んだ男が抱えていたのは布に包まれた赤ん坊だった。

 

 

 

「オイオイ......盗賊の奴ら、赤ん坊まで攫ってきたのかよっ!!」

「どうかしてるぜ。」

 

ふざけやがって、と男の一人が近くにあった酒樽を力強く蹴飛ばした。

 

「保護した者達の中に、親族は居なかったのか?」

怒りの声を上げる者達を横目にジェラルトは冷静に問いかけた。

 

「全員に聞いてみたんだが見たこと無ぇって。盗賊の誰かの餓鬼ってことか?」

「いや。それなら拉致した連中と一緒にしておくわけがない―――盗賊に生き残りは居ねえのか?」

 

男たちは床に転がってる何人かの盗賊の遺体に視線を落としながら、首を横に振った。

 

「...済まねえ。領主の爺一人生きてりゃ他は只の悪人だって、全員始末しちまった。生き残ってる奴は皆この屋敷から逃げ出しちまってる。」

「セイロス教の教えに背いた当然の報いってもんだろう。」

「その通りだ。死んで当然の奴らだ!」

「そうは言ってもこの赤ん坊はどうするよ.....ああくそっ!あの爺さんが知ってるとも思えねえしな...」

 

ジェラルトは神妙な面持ちで続けた。

「....一応聞いておくが、この辺で身寄りの無え赤ん坊ってのはどうなる?」

 

「....知っての通り俺たちは碌な稼ぎもねえ。上もソレを知ってるから、其処の出の赤子なんて‥‥」

「盗賊に売っ払われちまうよりかはマシだろうが、保証は出来ねえ。教会にでも行ければいいが‥‥」

 

 

それを聞いてジェラルトを苦虫を嚙み潰したような顔で俯き、独り思考に耽る。

 

 

 

 

思い浮かんだのは一人の麗人。この国にその名を知らぬ者は居ないセイロス教の大司教たるレアである。

嘗て自分が仕えた主君であり、尊敬した人物だ。

 

・・・・尊敬していた人物だった。

 

酒場の店主に預けているあどけない顔の我が子が、自然と脳裏に浮かんでくる。

 

レアによって生まれてきたばかりの実の娘に何かしら手が加えられたのは確かだ。

でなければ泣かず、心臓が動かないなんてこともありえない。それがどういう意図あってのものかは見当もつかないし実際の所知りたいとも思わない。

だが兎にも角にも、その身寄りのない赤子にジェラルトは実の娘を―――ベレスと重ねてしまっていた。

 

勿論教会に関わる全ての者が赤子に対して同じ様なことをしでかすとは考えにくい。特例中の特例だろう。そんなことは解っている。

しかし、人を救うはずの教会に預けられたから一安心とは考えられないのも事実だ。

 

(この赤ん坊の事を知ったらあいつは・・・・・シトリーなら・・・・)

 

一頻り考えたジェラルトはゆっくりと顔を上げ、どうしようかと思い悩む男達に告げた。

 

「一つ提案なんだが―――」

 

 

―――

――

 

「―――行くのかい?」

 

酒場に戻ってきたジェラルトに声を掛ける店主。一時はどうなることかと不安に染まっていた顔が、今では嘘みたいに穏やかであった。

 

「嗚呼。世話んなったな。」

「こっちこそ、アンタには感謝してもしきれない。この村の連中にとっちゃあ、あんたは救世主様だぜ。」

 

「やめてくれ。そういう湿っぽいのは好きじゃねえ。」

「アンタはホント謙虚だな。

‥‥それで、これからアンタどうするんだい?見た所旅人って感じだが?」

 

「農家でも営んでひっそりと暮らしてえって思ってたんだが、あいつらがな.....」

 

そう言いつつ店の玄関先に居るであろう者達に意識を傾けた。

 

現場の立ち合いとして村の男達に任せたのち、早々に屋敷から酒場へと戻ったジェラルトだったが、うち何人かが何故か付いてきたのだ。

 

『なんで付いてくるんだ。』

 

『そりゃあ弟子入りってやつだぜ。ジェラルトさん。』

 

『はあ?』

『だってアンタ、あんな強えクセに旅人だかを続けてんだろ?勿体ねえって!!』

『勿体ねえってお前な・・・』

『俺からも頼むぜ。今此処に居る奴はみんな子供の頃に親を失っちまってる。それでも、いずれ力つけて騎士や兵士になりたいって昔は頑張ってたもんだが、あの領主にへこへこしてる兵士たちを見てこんなもんなのかって酷く幻滅したもんさ。

それで目標もなく酒場に入り浸ってたって時にジェラルトさんが現れたってことだ。』

『赤ん坊連れてんだろ?あんたに何かあった時のためにも悪くねえ話だと思うぞ。これでも腕には自信があるんだ!』

『そうだっ!!これは運命・・・・いや、絆って奴だぜ!!』

『手前ぇら、勝手な事を―――』

 

 

「―――んで、気づいた時にゃ人集めて一緒に傭兵団立ち上げようって話になっちまっててよ。」

「はっはっはっはっ!まあ気のいい奴らだ。それにアンタだって、本当に嫌ってんならあいつら蹴散らしてでも此処を出ていくだろう?」

 

くっと呻くジェラルトは大きなため息をつき、得意気な顔を浮かべる店主にまあなと答えた。

 

「残念なことに俺には多少腕が立つってことくらいしか取り柄がないのも事実だ。まあ細々とやらせてもらうさ。」

 

「これは俺なりの予言だ。俺はこの酒場を営んで何人も人を見てきたもんだが、その経験から言わせてもらえばアンタは筋金入りの巻き込まれ体質ってのだと思うぜ。細々やろうってんなら却って目立つもんよ。」

 

「不吉なことを言ってくれるじゃねえか。

・・・・っと、モタモタしてるわけにもいかねえ。そろそろ出る。」

 

「気を付けてな。ベレスちゃんも。

―――ああ、あと引き取ることになった赤子にも。そういや名前はなんていうんだ?」

 

「・・・・さあな。だが、その子と一緒に包まれてた本に名前っぽいモノがあったからソイツを付けた。」

「適当だなオイ。」

 

全く以てその通りだ。その分厚い本はただ紛れ込んだ無関係なものかもしれないし、所縁のあるものだとしてもその赤ん坊の名を記すとは考えにくい。

だがそこに記されていた名前は不思議としっくりきたのだ。

 

 

「名は―――ルフレ」

 

 

 

ルフレ=アイスナー。

 

 

ジェラルトは実の子であるベレス=アイスナー共々、二人を伴って傭兵団を立ち上げたのだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告