ルフレ(女) in フォドラ   作:オノギ

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変化

 

ガルグ=マク大修道院 ベレスの部屋

 

 

【赤き谷】での課題を終えた私はレアへの報告・マヌエラによる健診ののち自室で改めて報告書等をまとめていたわけだが、その途中に軽い疲れを覚えベッドに仰向けになっていた。

 

「…」

 

否、これはどうにも疲労や倦怠感とは違う気がする。感情の起伏に乏しい己には稀な鬱々としたこの感覚。

だがきっかけは判っている。課題を終え生徒達と共に帰路につく間、自分に向けられた警戒感らしき視線に覚えた気持ち。

会話を弾ませながらも同時に、少しでも不自然な行動をとればすぐさま攻撃が放たれるという境界線上での張りつめた緊張感。

傭兵としてそんなもの慣れきってるはずなのに、どうにもやるせなさが湧いてきて。

 

 

自分が自分でない様な…浮遊感と云った類の何かを覚えていたのだ。

 

 

事情はどうあれ、(ジェラルト)と大司教が今以上近しい関係になるとは思えないように、人の相性の良し悪しはある。

 

以前、ルフレは言っていた―――

 

『人を嫌う理由に定型的なモノも、普遍的なモノもありはしません。

思想だけじゃない、1つの解答に対する理解や解釈にだって一人ひとり違いがあり、そんな些細な違いが諍いのきっかけになりうるし、果ては大きな戦いに発展することだってあります。だからこそ可能な限り、相手の事を知っていくのが理想でしょう――』

 

彼女の意見には賛同する一方で実践は難しいと思った。

 

確かにこれまで傭兵業の中で、その請け負う仕事が何故争いごとにまで発展したのか、という自分の中での疑問を残したまま表面上の解決をしてきただけの事例は少なくない。

だが傭兵なんていうものは所詮依頼人から任された業務のみを遂行する雇われでしかないため、それ以上の事はしてやる必要はないし、不必要に関わりたいとも思わなかった。知らないほうが良い事だってあるはずなのだから。

 

そんな私は今や教鞭を振るう立場にある。その職務に適正があるとは未だに思っていないが、生徒と教師という間柄で相手の事を良く知る必要性が生まれたのだ。

 

言い換えれば社会性を、個々人の判断基準の調和を要求される立場に置かれた。

 

――であるからして、誰かへの非難が自分に関係がないからといって無視するべきではないだろう、という当たり前かもしれない。されど今までの己に備わってなかった観念が生じた。それが傭兵時代との大きな違いで――

 

(ああそうか―――)

 

今にして気づいた。己の変化に。

 

 

ソティスがルフレの事を訝しんだときもそうだ。

 

大修道院に来る前までの自分であったのならば、きっとルフレのことをとやかく言われても、それほどムキになっていなかっただろうと思う。如何に仲の良い間柄であっても、他人にとってもそうではない。どう言われたところで、それも一つの評価として酷く客観的に流していた。

 

だけれど今は違う。

 

士官学校での教師生活を通して依頼人や標的と云った一期一会の刹那的関係でなく、ある程度の期間を共に過ごす中長期的関係性が構築された。

誰かを知る機会が増えたことで相手の動作だけでなく、その理由を探る機会が生まれ、更には相手を俯瞰して見れる環境に身が置かれたことで、相手を知る時間が与えられた。

そうして生まれた―――自分の常識の範囲で相手を推し量ることが許されない、という価値観。

 

故に私はあの時、相手に対する理解を求めたのだ。

嘗てルフレの言っていた事と沿う様に―――()()()()()()()()()、ということの証左だ。

 

「…」

 

 

私は人知れず笑った、と思う。

 

 

―――

――

 

大修道院 謁見の間

 

 

「―――報告は以上になります。」

 

ルフレは先のガスパール領での任務過程を大司教レアに報告し終わった。

 

 

だがその最中、レアは終始納得している様子で首肯していた一方で傍に控えていたセテスは所々で眉間にしわを寄せていた。

というのも――

 

「君が今口頭で報告した内容なのだが、武具の消耗記録に所々誤りがあるはずだ。今回騎士達に宛がった兵装に無いものが含まれていたからな。」

「っ!失礼しました。どうにも傭兵団とで混同してしまっていたようです。」

 

「…いや、気にするほどのことではない。私も―――っ!」

 

セテスはそこで言葉を詰まらせた。お互いに平素の冷静さを欠いている。

やはり彼女にとっても後味の悪い結果だったのだろう、とセテスは同情しつつ、態々訂正をかけたことで責める形となってしまった己の言動を恥じた。

 

そうした寂寞の漂う空気の中、レアはゆっくりと口を開く。

 

「まずはご無事で何よりです。貴方には大変苦労をかけました。ですが民衆の武装蜂起を事前に止めるだけでなく、その背後で糸を引く存在さえも炙りだせました。赫々たる成果、天上の主もさぞお喜びでしょう。

主のご加護もあってのことでしょうが、ベレスと同様貴方も私の見込んだ通りの逸材です。」

 

「いえ。私自身が未熟でした。それに護衛対象である使者の負傷は私の失態です。」

 

項垂れたルフレにそのようなことはありません、と首を振るレア。

 

「西方教会の介入は私達教団としましても予想外の出来事です。貴方が居なければより多くの死傷者が出たことでしょう。寧ろ最小限の犠牲に止めることができたものと私は考えます。」

 

「そうは仰いますが随伴した生徒二人には大きな"傷"を与えてしまいました。きっかけは私が課題協力を頼んだことに尽きます。その点に於いて全面的に私に非があります。」

「案ずるに及びません―――確かに、生徒に如何ばかりか心的負荷をかけたことは事実でしょう。ですが、その協力要請を貴方は強要しましたか?」

 

「…いえ。」

 

「本士官学校は生徒の自主性を重んじています。学術・武術・魔道など多岐にわたる教育課程の中から己に合った技能を取捨選択し研鑽に努めることと同じく、時として戦闘以外での判断も各々に委ねる機会が多分に設けられてます。

 

そう。当指導下で此度、彼らは貴方の申し出を拒否するのではなく受領することを選んだのです。

特にロナートの義息にあたる生徒には、品行方正な将来への良き見地に役立ったものと思います。

 

貴方はやりきれぬ思いに身を滅ぼさぬよう、きちんと休養してください。」

 

彼らの魂が救われることを祈ります、と告げ彼女は静かに目を閉じた。

ルフレとその場に居たセテスも黙祷を捧げた。

 

目を開くと場の空気を変えようと言わんばかりにセテスがさて、と続けた。

 

「つい先ほど金鹿の学級での課題報告もあったところだ。無事完遂された。ベレス達にも目立った負傷者は居ないと報告が上がっている。」

 

依然優れない顔色ではあったが、ほっと胸を撫でおろしたルフレ。

そうして彼女はその場を後にした。

 

 

 

「―――捕らえた西方教会の司祭二人には然るべき処罰の前にロナートが所持していた、という暗殺計画含めて事情を聞かなくてはなりませんね。」

 

静けさを取り戻した空間の中でレアは確かな怒気を乗せた言葉を放つ。対するセテスは咎めることもなくうむ、と返す。

 

「それにもう一方の【赤き谷】での課題。ベレス達による盗賊討伐に於いて、未知の爆発物が使用されたというものが気になるな。先程のルフレの報告にあった件とも状況的に似ている。

 

…これは最近出回っているという噂の爆発物であろうか。」

 

レアはコクリと頷いた。

 

「その可能性は極めて高いでしょう。私も実物を目にしたことはありませんが、以前のアロイスから受けた報告にも酷似しています。

そして、その爆発物の出処と有力視されているのが―――アビス

 

再び降り立った沈黙に考え込むよう顎に手を添えるセテス。その表情は険しかった。

 

「――差し当たり西方教会の中枢を担う司教達の討伐隊を編成しますが、アビスのより綿密な調査も同時並行で進めねばならないでしょう。」

 

「しかしどう進める?修道士たちにはアビス内を一掃すべきだ、という過激な声は度々挙がっていたわけだが、今回の件も交えた爆発事件で、それらの温床と考えられるアビスはより立場が悪くなったといえよう。」

「その通りです。つきましては彼らを仮統率するアルファルドを交え僉議(せんぎ)の場を設けたいところではありますが、事と次第によっては早急に―――セテス?

どうかしましたか?」

 

「え……ああいや、その通りだろう。」

 

何でもない、とセテス。

 

「ゴホン……それで。今現在は少数の騎士達をアビスに遣り、探っているのだったな。甲冑を纏わず地下の住人に扮させたうえで。」

 

「はい。しかしながら彼らは“地上を追われた者同士”という共通事情からか、相応の連帯感があるのでしょう。統制の取れた独自のコミュニティを築き上げており、顔を(つぶさ)に見られると地上の者であることを看破され、すぐさま追い返されてしまうようです。」

 

「フム。どうしたものか―――」

 

セテスは胸中別件で思い悩んでいた。

そう、他ならぬレアの件で。

 

このほどガルグ=マク大修道院の年代記まで持ち出したりと、不必要に文献を漁っていることは知っている。それに以前フレンとの対話で交わした内容。

 

彼女としても最近のレアに違和感を覚えていたようで、それとなく訊いてみた。

 

結果、私と同意見だった。

 

 

(レアは以前より……()()()()())

 

文句など言えない。

良い事ではあることは間違いない。

 

だが、これまでの彼女を本質的な意味でもよく知るセテスとしてはあまりにも不気味に映った。

 

(やはりきっかけは―――)

 

 

「…はぁ」

 

ルフレは浅く溜息を漏らす。

レアにも伝えたように、自分としても悔いの残る結末ではあった。彼女は仕方ないことだと慰めたが、ジェラルト傭兵団の一指揮官としての矜持も然ることながら、生徒二人の身に降りかかった憂き目は100%己の過失にある。

 

意識していなかったが教師としての自覚が多少なりとも芽生えていたらしく、それが相俟って非常に重くのしかかっているらしい。

 

(難しいものですね、教師というのは)

 

ルフレは素直に思う。傭兵時代同僚の死は幾度と見届けてきたが、そもそもに死と隣り合わせの仕事。今まで家族であるベレス達二人を除いて、他人の事情に際してこれほど心労することはなかった。

 

私はふと、以前ベレスが言っていたことを思い出した。

 

『私達は心が読めるわけじゃない以上、相手が何を考えているかわからない。例え血のつながった家族であってもソレは同じ。だから人は相手を知ろうとするけれど、其処には自分の価値観と絶対的に合わない事があるはず。

家族でもない相手の嫌な側面を知って衝突するくらいなら、損得感情のみで相手を推し量った方が良いだろう――』

 

彼女の意見には賛同する一方で、私個人としては複雑なものだった。

 

確かに傭兵としての主な任務は人殺しが伴うモノばかりで、標的の事など知る由もない。寧ろそれがいいのだろう。相手の心情など知らなければ、余計な同情も生まれず遂行しやすいのだから。ジェラルトとて同じ意見のはずだ。後ろめたい事情あっての依頼であるときは、私達傭兵を通して足がつく可能性もあるため、今後一切の依頼を受け付けないことも暗黙の了解と化しており、依頼人との関係も希薄だ。

だけれど相手を知る事で分かり合えることもあるだろう、とする自分が居たのだ。

 

それが今や副担任とはいえ教鞭を振るう立場にある。その職務に就いていることに未だ実感がわかないが、意図せずして相手の事を良く知る機会が生まれた。ベレス達とは違う新たに構築された付き合いの対象。自分たちが教え導いていかなければならない存在が生じたのだ。

 

否応なしに社会性や協調性が重視される世界に放り込まれた以上、相手を知り、時に合わせる必要がある。考え方次第では私の従来の考えに沿う形となったのかもしれない。

 

だけれどそんな周囲環境の変化とは別に、騎士達からの不審な目も顕著なわけで―――

 

 

(ああ…そういうこと)

 

今にして気づいた。己の変化に。

 

大修道院に来る前までの自分であったのならば、ロナート卿の命を優先させる手段を取ったかもしれない。いや、それ以前にこの課題への参加をどうにか大司教を説得して回避していたのではないだろうか。

 

そうしなかった理由として、本件が自身が所属する組織の生徒に関わる、という(しがらみ)も大いに関与していることと思う。ベレス達の事もあって意図的に同伴させたアッシュではあるが、それでもなお使者に次ぐ護衛対象と認識した。

()()()()なら平時の私と変わらない。

 

しかしながら私は――義理の息子という立場でアッシュがロナート卿と同席することが許された様に、教師としての権限を行使すればあの場に居ることは可能だった。

 

だけれど敢えてそうしなかった。

 

知りたくなかったのだ。ロナート卿の胸の内を。

調べた限りの経歴から推察される彼の人物像は悪人とは程遠い善人。況して義息たるアッシュも同席するともなれば他ならぬ私が情に流され、教会を裏切ってでもロナート側に付いた可能性が否定できない。

 

そうなれば自ずと私もアッシュも教会から“敵”認定されることが目に見えている。

私はもしかしたら数少ない教員と大司教の気に入っているジェラルトの娘という立場から、刑を免れるかもしれないがアッシュの場合は一生徒でしかない。死罪とまでいかなくとも何らかの刑は下されるだろう。

それを無意識の内、恐れたのだ。

 

私はあの時あの瞬間、知らない事を望んだ。

相手の事情の不理解を求めたのだ。

 

嘗てベレスの言っていた事と沿う様に―――()()()()()()()()()、ということの証左だ。

 

 

「…」

 

結果としては不出来だったが、私は無意識の内に笑みを零してしまっていた。不謹慎だ、と物理的に頭をぶんぶん振って切り替える。

 

 

(とはいえ―――)

本件を通して2つ収穫があった。

 

1つは私達親子に疑心を向けているのはセテスであり、レアはほぼ意識していないことが分かった点だ。

 

今回の任務で騎士達は予想通り、道中片時も私への意識を外さなかったことからこの隊員達は私の監視も編成した指揮官から同時に依頼されたのだろう。

 

だからこそ先の報告で一芝居打つことにした。

 

任務説明に於いて私は()()誤った内容を伝えた事である。

 

特に異を唱えなかったレアに対してセテスは明確に指摘してきたのだ。騎士の人数どころか具な兵站事情まで把握しているとなれば、今回の隊を編成した張本人くらいだろう。

 

元よりセテスからは不信感が滲み出ていたが一方でレアの考えは不明瞭だったため、今後明確に注意すべき相手が絞られた事は大きい。

 

そしてもう一つ。

 

私はあの現場で―――ロナート卿の執務室で起きた出来事で伝えていないことがある。

現在内ポケットに入っている、爆風と同時に足元に転がってきた細い円筒状の物体のことだ。

爆発の影響だろう、端は拉げてしまっている。

 

(恐らくあの爆撃を行った司祭は死ぬつもりは無かった…であれば、これは制御に用いたとみるべきですね)

 

しかしながら、その制御もままならず暴発して巻き込まれてしまった、と私は見ている。

結果としては敵方の失策でしかなかったわけだが、もしその仮説が正しいとすれば生じる一つの懸念。

 

この制御が上手く機能していたならば、きっと強力な武具になる―――そしてそれが教団側の手に渡っていたとしたらソレをどうするか?と。

 

「…」

 

大司教の人となりを未だに把握できないでいるが、少なくとも仇なす反徒への容赦の無き粛清(救済)は徹底している。それ以外にも国内の治安維持、ひいてはセイロス教の更なる勢力拡大のためにその術を行使しないとも限らない。

 

今回の件で西方教会の上層部は立場を失うだろう。そして中央教会がより一層力を増すこととなる。その勢いに乗じてセイロス教の更なる布教に努めたとしたら?

只でさえ関係の悪い帝国をはじめ、敵対勢力を相手に真っ向から挑もうと画策したら?

 

その際、世に知れ渡っていない殺傷性の高い武器が手許にあったとしたら?

 

……不安は尽きない。然れど所詮は憶測の域を出ない。

だがレアの強かさは本物であることもよく理解した。本人は勿論の事、セイロス教徒の司祭たちが勢力拡大を挙って具申しても十分にありうる事態だ。

 

その戦禍を拡大することに繋がる可能性があるのならば、この件は"闇に葬りさる"か。

もしくは―――

 

 

 

「あっ!ルフレ先生っ!!」

 

「!…フレンさん。」

 

 

とてとてと距離を詰めてくる彼女。好奇心旺盛で、元気な挨拶をかけてくれるいつもの声色と違ってやや焦燥が滲んでいた。

 

「もしかしてセテスさんに御用ですか?それでしたら謁見の間に居ましたよ。」

「いえ、ルフレ先生に用事です。実は部屋の前を通りかかった際たまたまマヌエラ先生にルフレ先生を呼ぶよう頼まれました。」

「マヌエラ先生が、ですか?」

 

呼ばれる心当たりがなかったため私は首を傾げた。

 

「はい。課題完了後の健診連絡です。」

「見ての通り負傷はしてませんが。」

「あれ?でもその羽織…それに何か変な匂いが…」

「!…鼻が良いのですね。これはその…気にしないでください。怪我ではないので。」

「?それでしたら良いのですけど。兎も角、これから大きな演習や課題があった後は目立った怪我がなくても、ベレス先生共々定期健診を受けてほしいって言ってました!」

「…承知しました。わざわざありがとうございます。」

 

ペコリと頭を下げどういたしまして、とその場を後にするフレン。

 

―――いずれにせよ西方教会の件からもわかる通り、教団は一枚岩ではない。そこにはロナート卿の件も含む教団にとって後ろめたい事情は他にもあるだろう。西方教会の叛意が人々の救済度外視・利権目的の悪徳一色に基づいていたのか疑問は残る。

故にレア率いる中央教会が正義だとは思わない。

 

だが安全を担保するために出来る限り従順な姿勢で臨もう。傭兵時代と然して変わらない意識で。

ただ私…いや、ベレスとジェラルトに危害が及ばなければ良いのだから。

 

セテスが先程の拙い演技で私に同情し、剰え不信を解き、気を弛めてくれる程度の相手であれば良い。

だがそれでも疑いは晴れず、仮に二人に刃を向けるのであれば―――

 

 

誰の目にも明らかな()()はある。

 

 

私は自然と振り返り、同じ髪色の小さな背を目で追った。

 

 

 

―――

 

アビス

 

ガルグ=マク大修道院から市街地にかけての下層に存在する陽光届かぬ地の淵。

葉脈の様に張り巡らされた地下道に舗装されていても手入れの行き届いた道はなく、所々に崩れた壁石が散乱している。

 

そんな深部にある、同様にして荒れながらも黒板や机や椅子は規則的に並んでいたりとアビスでもいっとう異彩を放つ部屋があった。

 

「―――教団の奴らめッ!!ここにきて攻勢に出てるって感じだぜ、お頭。」

 

くそっ!と1つの怒号が響き渡る。

それを受けたお頭と呼ばれた男―――ユーリスは腕を組みながら応える。

 

「そうみてぇだな。ある筋からの情報じゃ、かの有名な“雷霆様”まで近々投入されるかもって話だ。」

 

「ほお、雷霆ねぇ…一度拳を交えてみてえもんだな。」

傍に控えていたバルタザールが闘争心を燃やしながら力強く握りこぶしを合わせた。

 

「ま、穏便には済まねえだろうが…俺らとの喧嘩に躊躇いを持つとも思えねえ。

…つーか、ハピ。お前また()()やってんのか?」

 

ハピと呼ばれた少女は部屋の隅に居たが、ユーリスの問いかけに振り向きつつ気だるそうに答えた。

 

「あーまあそう。今話してたみたいに、最近襲撃多いじゃん?

だから溜息つきそうになることが多いから、その予防としてって感じ。」

「見てて気分のいいもんじゃあねえな。」

「私もそう思うし。だから念のためだってば……そういえばコニーは?」

 

「さあな。何か騒がしかったし、自室で研究とやらやってんじゃねえのか?

…しっかしユーリスよお。お前にしちゃあ、この件随分後手に回ってねえか?」

 

ユーリスは煽り文句に反論するでもなく、面目ねえと嘆息した。

 

「だがお前も知ってんだろ。只でさえ俺らアビスの住人は立場悪いってのに、わけわかんねえ濡れ衣着せられかけてんだぜ?」

 

ユーリス達アビスの住人にも伝わっていた―――地上で時折問題になる正体不明の爆発物の件。

アビスの住民の多くは貧困層で、生きるべく身を寄せ合って暮らしているわけだが他方陽の目の当たらない都合上、盗賊の隠れ家や闇の組織の取引現場としても機能していることは事実だ。

それらをどうにか矢面に立たせないよう上手く取りまとめているのがユーリス達だったが限界はある。

手の届かない、はたまた認識外にある犯罪もきっとあるだろう。

 

その一つが例の爆発物。現物を見たことは無いが、地下でそれらを取り扱う連中が居ても疑問は無い。

少なくとも地上の者達にとってはその温床と考えられてしまっている。

 

「出処の一つ掴めりゃいいんだがなぁ―――あん?どうした?」

 

バルタザールは何気なく呟いた願望だったが、それを聞き届けたユーリスはどうにも複雑そうに眉をしかめていた。

 

「ソレなんだがよお…どうにも触れると火傷じゃ済まない気がしてならねえ。」

「駄洒落…ってワケでもなさそうだな。

 

……それはお前の“勘”ってヤツなのか?」

 

「……さて、ね。」

 

どっちつかずの不明瞭な回答。

これまでに見たことのない彼の様相に、バルタザールは教団との確執などとは全く異なる、只ならない事態に巻き込まれている気がしてならなかった。

 

 

 

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