ルフレ(女) in フォドラ   作:オノギ

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3話目です。


邂逅

 

「この林に潜伏していた盗賊は一掃しましたね。この先に敵の本隊が居るはずですので向かいましょう。ベレスの隊と挟撃する手筈となってます。」

 

「はい!敵もほとんど散ってますし、このままベレスの隊とで畳みかければすぐ終わりますよ。」

 

「油断しないでください。追い詰められた敵程なにをするかわからないですから。」

 

ルフレはやや気の抜けた調子の部下達を戒めるように告げた。

 

「この先ですね....ん?」

 

「どうかしましたか?」

「イヤ、盗賊なんでしょうか?何か赤いマントみたいなのが見えて...」

「っ!!」

 

それを聞いたルフレは、すぐに先ほどベレスに一任した一人の少女―――エーデルガルトに思い当たった。隊員の指す方角、目を凝らしてみれば肩掛けの赤い外套とシルクの様に美しい白銀の髪が映り、如実に彼女であることを物語っていた。

 

素人らしからぬ気迫から作戦に組み込んではいるものの、彼女含めた依頼人達を盗賊の本隊とぶつける指示をベレスが出すとは思えない。間違いなく本来の作戦からは逸脱しているであろう。

 

 

「急がないと・・・・っ!!」

 

 

 

「ルフレ達と挟撃する地点に、先にエーデルガルトは向かったんだね?」

 

「すまないっ!!俺たちが付いていながら―――」

「目を離した隙にいつの間にかね。何がアイツをそんな熱くしてんのやら。」

 

ベレス達と落ち合う予定だった地点に来たのはエーデルガルトを除く2人だった。

各々交戦している間、彼女だけが気づいたら先行していたようである。既に盗賊達も疎らだったこともあって、彼女なら後れを取ることは無いだろうと深刻には捉えていなかった。

しかしそのことをベレスに報告するやいなや、本来のルートでの行軍を他の傭兵達に託し、エーデルガルトが辿ったであろう方角へと駆けだしたのだった。ディミトリ達もそれに続く。

 

「少なくても油断ならない。追い詰められた鼠は猫をも殺す。」

「その言葉が正しけりゃ、捕食/被食の関係が逆転しちまうぜ・・・・って、そんなこと言ってる場合じゃねえな。」

「盗賊の本隊はどれほど残っているでしょうか?」

「統制が取れてるのは10、20人くらいだと思う。」

 

今回の迎撃で恐らく敵の半数以上は戦意を喪失していることだろう。しかし、この盗賊団の頭が倒れていない以上、一矢報いるくらいの芯を持った輩は残っているはずだ。

 

「居た・・・・っ!!」

 

立ち並ぶ木々の先、目立つ赤い外套が舞い踊るかのように揺らめいている。エーデルガルトは交戦中のようだ。

しかも、その周囲の盗賊達の気を配る様子から、戦っている大柄の相手はこの盗賊団を率いる頭だろう。そろそろルフレ達と自分の隊も彼らに接敵する頃合いだが、それまでの間に彼女が殺されるかもしれない。

 

 

「くらえええ!!」

「っ!!」

 

茂みの奥に潜んでいた盗賊がベレスに斬りかかる。

瞬時に身をひるがえし、剣で切っ先を弾く。

 

「オイ!そこの二人は貴族に違いねえ。討ち取るぞおおッ!!」

 

男が断末魔の様に叫ぶと茂みの奥から更に5人現れた。

散り散りになった盗賊の残党だろう。逃げ出そうとしたところにディミトリ達を発見し、付けてきていたというところか。

 

「ベレス!!此処は俺達に任せてくれ。エーデルガルトの方を頼むっ!」

 

今は時間が惜しい。ベレスはコクリと頷くと再びエーデルガルトの方へと一目散に駆けた。それを横目で見送りながらディミトリは呟く。

 

「やはり咄嗟とはいえ、その場を任されるというのは嬉しいものだな。」

その顔は緊迫したはずの状況にそぐわず、薄笑が滲みでていた。

 

「やれやれ...付き合わされるこっちの身にもなってほしいもんなんだが。」

「そう言うな。敵は6人。1人で3人を相手取れば問題ないだろう。」

 

「えーっと王子サマ、俺の得物は弓だってのを忘れちゃいませんかね...?」

 

 

ガキンッ!!!

 

「ぐぅ...!」

「お頭っ!!....くっそ、あの女なんて力してやがる.....ッ!」

 

固唾をのんで戦いを見守る盗賊らが憎々しげに毒づく。

 

突如林の奥から現れた貴族と思わしき娘。

逃げてきた道すがら運悪く迷い込んできたのかと初めは“キズモノにしない程度”に盗賊達は軽い気持ちで相手しようと思っていたが、その細腕から繰り出される斧の横なぎで剣諸共味方が吹き飛ばされるのを見て周囲は挙って血相を変えた。

 

そして悟った。

この女は迷ったのではなく、自分たちを()()()()()()にやってきたのだと。

 

そうして臆す部下の前に鼓舞するかの如く出てきたのが、この盗賊団の首領たるコスタスだった。

他の者達と比較してもガタイがよく、彼ならば―――と盗賊達は思いを託す気持ちで見守っていたわけだが終始劣勢。いつしかコスタスが少女の猛攻を耐えるという構図になっていた。

 

「はあっ!」

「ぐおおっ!!」

 

そして遂にエーデルガルトの一閃によりその巨躯が宙を舞った。

 

「っ!?」

 

同時にエーデルガルトの斧が刃先から砕けた。耐久値の限界だったのだろう。

得物が無くなり常備している短剣を抜く。本来なら最悪という他ない場面だが敵は統率者を失ったことで総崩れ状態だ。おまけにそろそろベレスたちがくるだろう。

 

いずれにせよ躍起になって深入りしすぎた。

彼らと合流しようと意識を傾けたが―――

 

「っぅう....やりやがったなあっ!!!」

 

 

気絶するには威力が足りなかったようだ。

コスタスは斧を持ったまま勢いよく立ち上がると、エーデルガルト目掛けて突進するように向かった。

 

この武器では応戦できないと撤退すべく足に力をいれる。しかし―――

 

「っ!」

 

微かな後ろ目で見えたのは己を射んと捕捉する盗賊の姿。エーデルガルトの斧が折れた際、取り乱さず攻撃の機会をうかがっていたようである。

前方から斧を振りかぶるコスタス。後方からは狙いの定まった矢。考える限り逃げる術は無かった。

 

(取り乱しすぎたわね...)

 

そもそもに全て"自分が仕掛けた事"とはいえ熱くなりすぎた。挙句、敵地のど真ん中に独り先行してしまうとは。

あまりにも呆気なく、そして惨めで不甲斐ない己の死を悟った。

 

 

戦場で敵を前に強く瞑目(めいもく)するなどご法度だ。しかしながら、迫りくる死を前に瞠目(どうもく)していられるほど自分は成熟できていなかった。

 

然るべく降りた生死の帳。

暗闇の中、どちらが先にその命を終わらせるのだろうかとどこか俯瞰的に耽る。

 

 

(お父様....ごめんなさい........っ!!??)

 

思い起こされる衰弱した父。

そして許されることを望んでいない虚の無念を漏らしたその時、痛みが身体を襲った。

 

だがそれは斧による裂傷でも矢による刺突のような激しいモノでも無かった。

疼痛にすら満たない劣弱な殴打痛。そして痛みですらない己の足が地を離れる浮遊感。

 

 

それらの感触を以て初めて自分が横から突き飛ばされたのだと解した。

 

 

勢いよく開かれたエーデルガルトの眼に映ったのは、つい先刻まで自分の居た場所と入れ替わるようにして立ちつくすベレス。さらには飛んできた矢の側に飛び込んできたルフレだった。

 

 

―――

――

 

 

「....ここは一体...?」

 

ルフレは放心したように霞んだ声を漏らした。

それもそのはず。気付いたら真っ暗闇の中に居たのである。

落ち着きを払うべく直前までの言動を思い起こす。

 

確か私は―――エーデルガルトを庇う形で勢いよく飛んでくる矢の前に飛び出したのだ。

 

隊から一旦離脱して林を抜けてどうにかエーデルガルトと、同じく来ていたベレスの下へと辿り着いたわけだがエーデルガルトにとってあまりに絶望的な状況だった。

既に盗賊は矢を放っており、さすれば矢をどうにかするしかなかったわけだが標的が小さく、それに狙いを付けて魔法を当てるほどの技量はなかった。

であるからして身代わりになるべく敢行した跳躍。そして理を辿り訪れた己の危機。当たり所によっては死なないだろうが、予想される創傷箇所的にみれば致命傷は避けられない。少なくとも傭兵団に復帰できるかは怪しい。

 

見えてはいないが、ベレスもエーデルガルトを庇って盗賊の前に躍り出たことだろう。

斧による斬撃である以上、自分以上に命の危険がある。

 

せめて―――せめて彼女の方は助かってほしいのに。

....だけれどベレスと同じ行動ができたことが嬉しかった。彼女との間で志を共にする確かながあったと納得することができたのだから。

 

そうして悔しさと“姉妹”である故の相似点の気づきとが入り混じり、やや競り勝った嬉しさの末、場違いな安心感を覚えたまま意識を失った。

・・・・・それが(きた)る未来であるはずだが、そのまま命の灯火が消えるでもなく何故か訳の分からぬ場所に居たのだ。

 

(転移の魔法でしょうか...それとも私の知らない.....!)

 

道なき道を進んでいると、闇夜で発光しているかの如く鮮明に姿かたち露わな二人の人物が居た。

 

 

一人は見紛うことないベレスであったが、もう一人は見たことが無い人物だ。

暗くてわからないが高い祭壇のような所から、ベレスに何やら説教を垂れているようである。

 

意味はまるでわからないが五体満足のベレスの姿に安堵しつつ、相対している者が少なくとも彼女の命を脅かす敵ではないだろうと判断したルフレは、二人に存在を誇示するよう足音を立てて彼らの下へ歩みを進めた。

 

「えっ!!・・・」

「お主は・・・っ!?」

 

2人が近づいてくるルフレに気づいた。

 

「ベレスっ!!・・・・・・・ここは何処?」

 

 

ルフレの問いにベレスは“夢の中”と所在なさげに答えた。

それを聞いていた少女はお主は起きとるじゃろうっ!!と声を荒げた。

 

「ベレスの()を通して見ておった。お主、確か名はルフレじゃな?」

 

「!.....はい...」

 

「そう警戒せずともよい。少なくともワシはそやつの―――ベレスの敵ではない。お主にも伝えておこう。ワシの名はソティス。はじまりのものと呼ばれておる。」

 

(ソティス.....っ!?)

 

父―――ジェラルトは言明こそしなかったが、この国を統べるセイロス教を避けていたのは明らかだった。私自身、信心深くないし、どうしても知りたいとも思わなかったがジェラルトの態度は気になった。

背徳感こそあったが、ジェラルトやベレスの知らない内に私はセイロス教の経典を一部手にしたのだった。

そしてその教えに記された女神の名がソティスだったはずだ。

 

「失礼しました。私はルフレ=アイスナー。そちらにいるベレスの姉妹です。

―――先程の話を聞く限り貴方はベレスの夢に度々出てくる方でしょうか?」

 

相手の真意がわからない以上、こちらも余計なことは話すべきではないと話題を変える。

 

彼女を見上げて初めて気づいた。ベレスが夢で見たという、真っ暗な空間にある祭壇のような玉座で一人座っている緑髪の少女。外観的には一致しているし、ここが夢と現実の狭間だというのなら今しがたの戦地とかけ離れた場所であることも腑には落ちる。何故そんな場所に自分がいるのかはまるで見えてこないが。

 

「その通りじゃろうな。如何にしてお主が此処に迷い込んだかは知らぬが、ここはワシーーーひいてはベレスの精神世界とも呼べる場所じゃ。」

「...俄かには信じがたいことですが、私と二人が繋がったってことでしょうか....?」

 

「ふむ。ワシも原因はよくわからん。如何せんワシとて先刻、己が名を思い出せたくらいでの。

兎角、今はこの状況の打破が最優先じゃろうて。」

 

聞けばソティスが時を止めたことでベレスが斬られることも私が射抜かれることもなく、意識が瞬間的に途切れてこの空間に来たそうだ。

突っ込みどころ満載ではあるがソティスの言うように、ここでじっとしているわけにもいかない。

 

「咄嗟の判断で時を止められたのであれば、時間に干渉する力をお持ちということですよね?

でしたら、周囲の時間を止めたまま私とベレスの身体だけを動かすというのは・・・?」

 

「そのような都合の良い真似ができるかっ!!第一ワシはお主の身体に関与することなぞできん。」

 

怒られてしまった。

見た目自分よりも若い女の子に怒られるというのは、経験が無かったがどうにも堪える。

 

どうしたものかと困っていると、ベレスが徐に口を開いた。

 

「単純だけど、時間を巻き戻すっていうのは?」

「うーん、でもベレス。さっき言った方法が取れない以上は――」

 

「・・・それじゃっ!!止めた時を巻き戻せばよいのじゃ。」

「・・・ええっ!!??それはできるのですか?」

「試してみんことにはわからぬが、粗放な全体制御ともなれば先ほど言うた手よりもやりやすいはずじゃ。」

 

驚愕するルフレを前にふふんと得意気に鼻を鳴らしながら、彼女は空に手をやり何かを詠唱しはじめた。

 

時間を巻き戻すなんて普通じゃ考えられない。

現代の魔道にそのような高等な魔術体系が確立しているならば、広く知られているはずだ。そして間違いなく禁忌となっていることであろう。そんな術を容易く使えてしまうなど、はっきり言って異常に過ぎる。

 

それこそ夢の中の幻影でもない、()()()()()でもなければ―――

 

 

「よしできそうじゃ!

よいなベレス。それにルフレよ。巻き戻せる時間は僅かじゃが、何が起きるか事前に知っておれば互いに命を守る事も容易かろう。

 

さあ炎をその身に宿せし者達よ!時のよすがを辿りて、己が未来を見出せ!!」

 

その宣告を皮切りに祭壇一帯が光に包まれると、眼下に居た二人は消失した。

共に現世へと戻ったのだ。

 

再び転じた光差さぬ暗闇の中、ソティスはぺたんと玉座に座り込む。

 

「・・・・・はて?

ワシは今、“共に”炎をその身に宿しているという旨を口にしたかの。」

 

問いかけるように闇に向かってそう呟くが当然返事はない。

その炎という単語も何故口走ったのか。

否、そもそも自分の事もベレスの事さえもよく理解できていないのだ。

 

だが、それ以上に偶々迷い込んだだけの者などわかろうはずがない。であるのに何故―――

 

 

 

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