ルフレ(女) in フォドラ   作:オノギ

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大修道院

―――

――

 

パリィン

 

 

 

耳を(ろう)する程の勢いでガラスが割れたような音がした。

それと同時に、竜巻を彷彿とさせる黒い渦に巻き込まれ、そのまま昇天してしまう―――そんな筆舌に尽くしがたい浮遊感を覚える。

 

総じて経験の無い事であるはずなのに不思議と馴染みのあるものに感じられた。自分の望んだ感覚であり、自分の求めた結果であるとすんなり納得できた。

 

 

なぜそのように思ったのか。

 

そんな疑問が浮上する間もなく、二人の意識は覚醒し刮目(かつもく)する。

 

 

 

((本当に時間が巻き戻ってる....!))

 

気付けばベレス・ルフレ共々、自身を殺めんとする得物の前に飛び出す数刻前だった。

 

寸前までの記憶―――ソティスを名乗る少女の“時を巻き戻す”という不条理この上ない発言に反した確かな自信と、それを裏付ける見たことない魔法陣の展開。

如何に理解の範疇を超えた事象を目の当たりにしてきたところで、巻き戻った現実を前に驚きは隠せない。

 

 

だが時間は一刹那とて無駄には出来ない。呆けたい心根を押し殺しながら、中距離と間を置く二人は互いに視線を交わす。

 

そうしてベレスは迫るコスタスの下へ、ルフレは弓を構えた盗賊の下へと向かう。

構図は前回と同じ失敗した状況を辿っているが、初速が圧倒的に異なる。

 

 

ベレスはエーデルガルトを突き飛ばすことなく、余裕をもってエーデルガルトの前に剣を構えてコスタスと対峙し、ルフレは矢を放つ前の盗賊にサンダーの焦点を合わせた。

 

やがてコスタスの斧が弾き飛ばされる鈍い金属音と、耳を劈くような鋭い雷音が同時に辺りに鳴り響く。

 

「っ!!!くっそおおおお覚えてやがれっ!!!」

 

吹き飛ばされ体勢を崩したコスタスは叫びにも似た声色で吐き捨てると、配下たちと共に這う這うの体で森の奥深くへと逃げて行った。

 

自身を取り巻く状況の目まぐるしい変化で置き去りにされていた情緒が漸く追いついたことにより、盗賊という悪を相手にしていたという道義に基づく追撃の意識が頭を過ったが、村の防衛という当初の目的を果たした以上、とりあえずはここが引き際だろう。

 

臨戦態勢を解いたベレスとルフレはエーデルガルトに向き直った。勝手な真似をして叱られると思ったのだろうか、顔をギョッとさせている。

 

 

「怪我は無い?」

「え!...ええ。大丈夫よ。」

 

「これからはあんな無茶な真似しないでくださいね。その命、貴方だけの物とは限らないですよ。」

「そうですね―――ベレス、ルフレ。二人とも本当に有難う。」

 

エーデルガルトは深く頭を下げた。

 

とそこへ村の南側の制圧に向かっていたジェラルトの隊が駆け付けてきた。

同じくしてディミトリとクロードもベレスの来た林からやってくる。短いながらも二人の闘いを見てきたベレスにしてみれば、迎撃できると判断して残党を任せたわけだが、不安は拭いきれなかったので目立つ外傷のない二人を見て内心ホッとする。

 

「エーデルガルト、無事だったか!!」

「....ええ。」

「それはなによりだが....勘弁してくれよ。ついさっきまで俺達だけで血走った盗賊達を相手にしてたんだぜ。」

「それは申し訳ないことをしたわね。謝るわ―――」

 

3人が安堵した調子で話し合ってる中、ジェラルトが何か神妙な面持ちでベレスとルフレに問いかけた。

 

「ベレス、ルフレ・・・・お前たち今何か―――」

 

「うおおおおおっ!!セイロス騎士団、只今参った!!

賊ども、覚悟せええええ・・・・・い?」

 

けたたましい声とともに現れたのは白い甲冑に身を包む一団だった。

盗賊で無いことは明らかだったが、先頭の棘ばった甲冑に身を包む男を筆頭に強い威圧感を放っている。これまで各地で自警団や衛兵らと出会ってきたものだが、どの者達と比較しても高い練度が窺える手合いだった。

 

それを見たベレスたち傭兵は顔をこわばらせ、エーデルガルト達3人は人心地がついた様子で衣服に付いた土や泥を掃い、何故かジェラルトは頭を抱えていた。

 

 

 

「―――いやあ、それにしてもお久しぶりですなあ!!ジェラルト団長。」

「相変わらずうるせえやつだな、アロイス。俺はもう団長じゃねえよ。」

 

出会いがしらに凄まじい声量で名乗りを上げていた男の名はアロイス。この場に来たセイロス騎士団の指揮官として教団から派遣されてきたらしい。それにしても"団長が居なくなってから20年"と言っていたのが気になるところだ。

 

物心ついた時には傭兵として活動し、古株の団員とも幾度となくお世話になったものだが彼らから父がセイロス騎士団に居たなどという話は聞いたことが無かった。

一体いつから父はセイロス騎士団に所属していたのだろうか。そもそもこれまで気にも留めてなかったが、彼は一体いくつなのだろうか?

2人が謎多き父への考察を重ねるうちに話は進み、ガルグ=マク大修道院に行くことになった。

 

そんな折、藪から棒にアロイスがベレスに話を振る。

 

「おや、そちらの若者はもしや団長のお子さんですか?」

 

ベレスは逃げ遅れた盗賊の一味だと口にした。

彼女は偶にこういうところがある、とルフレは頭を抱える。

 

「あっはっは!!またまたそんな冗談を。団長と雰囲気がそっくりではないか。

して、そちらの親し気な若者は共に研鑽を重ねてきた戦友ですかな?」

 

振られたルフレはどう答えたものか、とジェラルトに目線を送る。頷くジェラルトはやれやれと云った様子で頭を掻きながら答えた。

 

「あーアロイス。そいつも娘だ。」

「なんと!!これは失礼した。言われてみれば確かに団長・・・というよりかはそちらの娘さんと雰囲気が似ておりますぞ。」

 

ルフレが何か嬉しそうだった。そんな彼女にベレスはどうしたのかと首を傾げた。

 

そんなこんなでアロイス共々、名前くらいしか伝えられてなかったエーデルガルト達三人と改めて自己紹介し合った。

3人共出自の国を違える貴族のようで、大修道院に併設されている士官学校の生徒らしい。自分たちも彼らに倣って答えたい所であったが、仕事柄依頼人が露呈するような話はなるべく避けたかった手前触れず、こちらから話せる事は同じくらいの歳だろうから他人行儀でなくていいくらいが関の山だった。

尤も3人も現段階で深い身の上までは話そうとしなかった。出会って間もないが故の心の距離だとかではない、そういう立場なのだろう。ベレスたちも薄々感じ取っていたが、3人とも予想以上に高い身分なのかもしれない。

そんな彼らを普通に戦力として数えてしまっていたことに、ベレスたちは一抹の後ろめたさを覚えたが、当の3人がそれに言及することなかったためこちらも触れなかった。

 

ただ気がかりなのが道中訊かれた"どの国が一番好きか"という問いへの答えだ。

 

ベレス・ルフレ共に一年以上所定の場所に定住するという経験は無かったため、コレと言って特定の場所を好きになったことはない。国単位となると国境すら意識してなかった。

しかしどうにも答えなければ納得しない空気だったので、“自分が今居る場所が好き”と答えになってるか怪しい文言でその場を凌いだ。ベレスもルフレの意見に被せる形で"どこでも素晴らしい場所があるから、それを守るのが大事"と述べた。

 

それを聞いた3人は寂しいような、だけど納得してるかのような何とも微妙な表情をしていた。

きっと感触としては悪くないと思う。

・・・・そう思いたい。ディミトリとエーデルガルトに至っては先ほどまで勧誘らしきモノを言われたのだから。

 

『願望でないと良いがの。』

 

「「っ!!」」

「?どうしたのかしら?」

 

山中を共に歩く中、何故か瞬間的に強張った二人を見てエーデルガルトが心配そうに尋ねる。

 

「いえ、大丈夫です。ところで―――大修道院はどういった場所なのでしょうか?」

 

不自然さを悟られない程度に咄嗟の質問を投げかける。同意する形でベレスも知りたいと続けた。

 

「二人とも行ったことがないのか?良ければ俺が案内しよう。」

「ま、言ってみればフォドラの縮図のような場所さ。」

 

もうすぐ着くだろうと口にする二人を余所に、エーデルガルトは考え込むような仕草でベレスたちに告げた。

 

「...それにしてもホント不思議なモノね。各地をまたにかける有名な傭兵団なのに、ジェラルト殿に次ぐ双翼の二人が修道院に足を運ばなかっただなんて。」

「ジェラルトがセイロス騎士団に居たってことも初めて知った。」

 

3人はベレスの言葉に目を丸くした。

 

「そうなのか。意外だな。」

「セイロス騎士団で団長やってたって云やあ、人親としても箔がつくだろうに。」

「...私にもわかりません。ただどういう意図があれ、与えられた役割を全うするだけですから。」

 

ストイックだねえとクロード。彼に関しては、どこかこちらを探ろうとしている感がルフレには拭えなかった。

 

「まるでセイロス教を避けているかのように、ね・・・」

エーデルガルトもまたクロードとは別の方向で探っているような印象がある。そして――ー

 

「おいおい、二人とも余計な詮索はよくないぞ。」

そう口にするディミトリは一見、裏表のない好青年に思えるのだが深い闇を抱えているような気がした。

何故そう思ったのかはわからなかった。

 

 

 

時は大樹の節。寒気を纏いながらも、新たな一年の始まりを告げる柔らかな風に髪を靡かせながら、大修道院に設けられた外殻から見下ろす端麗な人物が一人。

 

言わずと知れたセイロス教の大司教レアである。

 

 

彼女は眼下のはるか下方を―――大修道院へと続く門を潜る一行を眺めていた。

 

「ジェラルト・・・」

 

先頭を歩く男に焦点を合わせた。

およそ20年前の記憶に焼き付いた姿と何ら変わりない。あの時以来、彼の老いは止まったままだ。

尤も、中身は自身の良く知る気高きセイロス騎士として仕えた彼ではないだろう。

大修道院で起きた火災を利用してまで此処から抜け出したのだ。その理由には凡そ見当がついている。そしてそれ故にレアに不信感を抱いていることも―――

 

僅かに眉を顰めながら、彼の後ろを歩く人物に目を移す。

 

「....あの者は..?」

 

2人の内の一人、青みがかった深緑の艶やかな髪の人物は間違いない。嘗てジェラルトが大修道院から連れ出した赤ん坊だ。

愛するあの子の―――シトリーの面影が色濃く残っている。だが、その隣を歩む白銀の髪の人物にはまるで心当たりが無かった。

他の傭兵と違う扱いなのは明らかで、ジェラルトとその娘が信を置くほどの傭兵団の若き精鋭なのか、などと考えを巡らせていると―――

 

「っ!!??」

 

胸の奥に鋭い痛みが走った。次いで感じたことのない悪寒が身を襲う。

疝癪(せんしゃく)にも迫るソレは思わず意識を失いそうなほどの衝撃ではあったが、よろめいたところで爪を突き刺さんばかりの力強い握り拳を作り、痛みで無理やり意識を保たせた。

 

(...今のは一体―――)

 

 

 

―――

――

 

大修道院

 

 

【謁見の間】に呼ばれたジェラルトと一旦別れ、ベレスとルフレは同じく2Fに位置する談話室で待機していた。

 

「ここがガルグ=マク大修道院なのですね…」

 

ルフレは設けられた小窓から修道院外観の眺望を臨み、改めてその広大さに圧巻されていた。

これまでフォドラ各地を旅してきて、教会も何度か行ったことはあったが比較にならない規模である。千客万来を数える大衆の中で修道士も段違いに多く、各地でセイロス教の宣教師として影響力を持つと思わしき者も確認できる。

 

また同時に大修道院を構成する各要所にも目が行く。

以前より噂には聞いていた。歴史ある荘厳な建造物であるだけでなく、その立地と堅牢さから要塞と言っても差し支えないほどのものだと。

たしかに外敵が攻め入るには、空を舞う竜騎兵を以てしても物量にモノを言わせただけの正面突破では無謀に過ぎるだろう、という傭兵団の一指揮官ならではの戦略に見立てた思考に耽入ったところで、奸計(かんけい)であると気持ちを改めた。

 

「これから私達どうなるのだろうか。」

 

突にベレスが話題を振ってくる。ルフレは口元に指を立てながら答えた。

 

「盗賊として捕まったのではないですし、あのアロイスさんの様子を見ても歓迎ムードではあったから、邪険にはされないと思います。」

 

一方で先刻、挨拶だけ交わしたセイロス教を取り仕切る大司教―――レアが頭をよぎった。

顔色の優れなかった彼女を前にしたジェラルトは、どういうわけか顔を強張らせ、不穏な空気を漂わせていたためベレス共々居心地の悪さを実感していた。しかも話の内容や態度を見る限り完全に敵対してるというわけでもないのが不思議なものである。

その確執にセイロス教を避けてきた理由があると考えられるが、経緯はどうあれジェラルトも元々セイロス騎士であったようだし、今頃はその古巣に戻るよう説得されているのだと思った。

であれば、私達も彼に付き従う形でセイロス騎士として働くのではないだろうか、とベレスに伝える。

 

「騎士....悪いイメージはないけど、何かと窮屈そう。」

「うーん、確かに....でも、ファーガスみたいに王や貴族に仕える近衛騎士って感じではなさそうですし、今回の件でアロイスさんが送られてきたように、フォドラ内の治安維持とかが主な感じしますね。」

「じゃあ今まで通り、積極的に荒事に関わってくってことかな。」

「恐らくは。ただ教会の指示で教会の騎士団を率いてとなると、これまでの傭兵団より規模は大きいでしょう。であれば気を引き締めなければなりません。」

「そうだね。頑張ろう。」

「はい!」

 

 

「おーい、お前ら!」

 

互いに奮起し合っていると、ジェラルトの声が耳に入った。

 

「話はついたぞ。面倒なことになっちまったみてえだが。」

「面倒?」

 

ベレスは首を傾げた。ルフレもそれに続く。

 

「ああ。さっきのガキどもから此処は士官学校が併設されてるって話は聞いたよな?

んで、お前らにその学校の教師として学級の一つを任せたいらしい。」

 

「えっ!?...教師ですか...」

 

ルフレとしても流石に予想外だったため当惑の表情を浮かべた。他方ベレスは驚きこそしていたが、案の定顔にはほとんどでていない。

 

「全く・・・俺も無理だって断ったんだがなあ。アロイスの野郎がお前たちを推薦してたみたいだ。」

「・・・先ほどの発言で気になったのですが、私達二人で一つの学級を担当するってことですか?」

 

「そうだ。お前らはこれまで傭兵団の新入りの指導くらいはしてきただろうが、当然学校の教師経験なんざまるでねえ。だから二人で協力しながら受け持つってことになった。

ベレス。お前が担任でルフレが副担任って形でな。」

 

二人は互いに顔を見合わせたのち、ベレスがそっと口を開いた。

 

「・・・ルフレが担任の方が良いと思う。」

それはベレスの率直な感想だった。

自覚しているが、自分は感情表現が得意ではない。教えること自体に特段抵抗はないが、時には生徒の個人的な悩みを聞いてあげたり、共に食事をするなんて機会もあるかもしれない。そんな状況下で仏頂面の私と居ては生徒は気が滅入ってしまうのではないだろうか。

だが、その旨を伝えるとルフレから反論の声が挙がった。

 

「私は逆に思いました。自分で言うのも変ですが私は理屈っぽく、それでいて変な時に感情的になってしまうので、常に冷静なベレスの方が物事に左右されず正しく生徒を導けると思います。勿論私もベレスと同様に傭兵を指導していますが、どちらかというと自分で学ぶことの方が好きですし・・・・それに私は上に立つ誰かを補佐するほうが身の丈に合っていますよ。」

 

「・・・言われてみればそうかもな。」

 

確かにベレスもルフレも戦略を練りそれを行動に移すという能力は備わってるが、その精度や早さはルフレに軍配があがる。

だがルフレの場合、先陣を切って指揮するというよりかは作戦を考えながらもジェラルトやベレスを前に置いて、自分は奇襲をしかけたりと重要ながらも裏手に回ることが多い。傭兵団で唯一魔道の心得があるため代えが利かないから慎重になるという意味合いもあるだろうが、それを差し引いても一歩引いている感は否めなかった。

現にジェラルトとベレスは方々で知られる異名を持ちながらも、二人に決して劣らない活躍をしてきたルフレにはそれが無い。傭兵には物珍しい魔道職が居るってことくらいが精々だった。存在際立つことなく、上の者を支える根っからの軍師気質なのだろう。

 

とそこで談話室の入り口から軽快な声が聞こえてきた。

 

「こんにちは~~。あら?貴方がこの学校の新任の先生?渋くて中々イケてるじゃない!」

 

制服姿でない妙齢の女性と壮齢の男性が3人の下へとやってくる。

 

「あー、俺じゃねえんだ。新任教師ってのはこいつらだ。」

 

ジェラルトはベレスとルフレの二人を顎で指した。

 

「えっ!!・・・確かに新任ということで二人体制っていうのは聞いていたのだけれど、少なくとも貴方がその片割れだと思っていたわ。」

「我輩もそう認識していた。名うての傭兵が教師に就くと聞いていたものでな。」

 

「この二人も一応は傭兵だ。そういうことで俺はもう行く。」

 

ジェラルトはぶっきらぼうにその場を後にした。

 

「よろしくね!それにしても二人とも随分若く見えるけど・・・」

「ふむ。しかし二人体制とはいえ大司教が教師としての資質を見出したのだろう。であれば年齢は関係あるまい。」

 

そうして4人は互いに自己紹介を済ませた。

 

教師というにはやや露出の多い恰好をした女性の名はマヌエラ。帝国の有名な歌劇団の元歌姫で、現在教師兼医者をしているとのこと。

一方、左右対称の立派な髭を貯えた男性の名はハンネマン。こちらも教師だけでなく紋章学者という肩書きを持っていた。

 

成程。確かに彼ら二人の来歴とを比較すれば元傭兵の新米教師では心もとない。それだけなら大司教の采配には納得である。根本的に正しいかどうかは甚だ疑問だが。

 

それはそれとして、聞いた3学級―――黒鷲、青獅子、金鹿。それぞれの級長が先の盗賊の件で共闘したあの3人だったというのは素直に驚いた。

しかも各々が学級ごとにフォドラを分割する3勢力の次期当主とは何とも数奇なものである。ホントに彼らの代の教師として全うできるのであろうか。

 

 

「それで私達はどの学級を担当すればよろしいのでしょうか?」

 

挫けてはならないという何とも空漠(くうばく)たる意地だったが、努めて不安の色を滲ませないよう本題に入った。

 

 

 

 

「教師の初仕事として貴方達に好きに選んでもらおうかしら。

―――って言いたいところなのだけれど、実はもう決まっちゃってるのよねえ。」

 

 

 

 

その教室を聞いたベレスたち二人は互いに顔を見合わせた。

 

「とりあえず今日の所は校内を見て回るといい。あと、我輩の部屋にも立ち寄ってくれたまえ。」

「?それは一体―――」

「私室というよりは研究室なのだがな。君たちに紋章の力があるかどうか調べさせてほしいのだ。」

 

「紋章・・・前にルフレが言ってたやつ?」

ベレスの確認にルフレは首肯した。

 

「女神より人に授けられた力だとか・・・・これを保有している者は筋力や魔道など何かしらの能力が発達する、くらいの認識しかありませんが。」

「大まかに言えばその通りだ。それが君たち二人にも宿っているかどうか知りたい。」

 

その要望を伝える彼の声はどこか熱を帯びている。このハンネマンという人物は正しく研究畑に身と置く者なのだろうと二人は悟った。と同時にベレスがルフレをちらりと見る。彼女の言わんとすることを解したルフレは小さく頷いた。

 

 

 

 

「...ベレスは分からないですけれど、私は昔調べる機会がありましたので把握してます

―――確か【ドミニクの小紋章】を持っているらしいです。」

 

 

意外だったのかマヌエラもハンネマンも少し目を見開いた。

 

「ほう。それでは魔道の素質が紋章を持たぬ者より高いやもしれんな。見た所、君ははじめから魔道の心得があるようだ。とすれば実に理に準じた経過を辿っていると言えよう。」

 

今後も励むと良い、とお世辞程度の教師らしいアドバイスを言い残すと、もうルフレには興味が失せたと言わんばかりにベレスに来訪することを念押ししてハンネマンはその場を後にした。

ごめんなさいね、とマヌエラも呆れた様子で彼を追うように部屋を出て行った。

 

 

 

「....濃いね。」

「....そうですね。」

 

2人とも何がとは言わなかった。

 

 

 

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