ルフレ(女) in フォドラ   作:オノギ

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傭兵の噂

ガルグ=マク大修道院 士官学校

 

 

年の初めであり、新入生達を迎えてからまだ日は浅い。

今年は級長がフォドラを分ける各勢力の次期当主ということもあってか、同じクラスの者達は既に挨拶を済ませ一定の関係が構築されているものの、他クラス同志ともなれば顔合わせすら碌に済ませていない者達が多く、ここしばらくはたどたどしい雰囲気が続いていた。

 

今日も同じような空気が流れるかに思われたが、どこか違っていた。

 

あちらこちらで飛び交っている共通の話題。

級長3人が命の危機にさらされたという襲撃事件とそれを助けた傭兵団の噂。更には当該の最功労者2人が、修道院や学校の各所を見て回っているという情報に基づくものだった。

 

 

 

金鹿の教室(ヒルシュ・クラッセ)

 

「えー!!噂の傭兵さん、この教室に来てたのっ!?」

 

級長のクロードに次ぐこのクラスの顔とも云える人気者:ヒルダが驚きの声を上げた。

 

「はい...先ほど...」

 

おどおどしながら彼女の問いにマリアンヌは答えた。

ヒルダが街へ買い物に出かけていた間に件の傭兵が来たらしく、それを聞いた彼女は残念だと落ち込んだ。

 

「どんな人達だった?女性二人って聞いたけど。」

 

「..え....えーっと―――」

 

 

「師匠に似て二人とも強そうな感じだったよ。」

 

2人の会話が耳に入ったレオニーが尻すぼむマリアンヌに代わり答えた。ヒルダは一瞬【師匠】という単語がなんのことかわからなかったが、そういえばと思い出した。

 

「師匠って、"壊刃"のジェラルトさんのことよね?」

「ああ!!私が一番尊敬する超一流の傭兵さ。腕っぷしがすごく強いって知ってるから、その二人の子供も剣や槍とかが得意なのかなって思ってたけど、一人は剣が得意で、もう一人は魔道が得意みたいだ。指導者としても優れてるって流石だなあ。」

 

目をキラキラさせるレオニー。傭兵団長を務めながら、自分の専門外の教育を両立していたのであれば確かに一種の偉業である。

 

「あ、でもお二人とも訓練用でしたけど帯剣はしてましたよね?」

 

そう言葉を紡いだのは元々レオニーと対話していたイグナーツだった。

確かに貴族の通う士官学校ということもあり、自衛という意味合いも兼ね武具の携帯は認められている。

 

であれば誰が持っていても不思議ではないが、帯剣している者は元々剣術を得意としている者が多かった。況して魔道を得意とする者であれば、簡易な魔法を自衛手段に用いるため、剣を所持する者はごく限られるだろう。

 

「じゃあ、どちらも得意ってことなのかな。」

「もしかしたら魔法武器かもしれませんね。」

 

「あーそんなのあったっけ....魔力は私てんで期待できなさそうだからなあ。コツがあれば使えるってんなら、また会ったとき教えてほしいもんだけど。」

「レオニーちゃんは真面目だね~―――でも、そういうのなら金鹿の誇る魔道の才女!リシテアちゃんとかも使えるんじゃないかな。

ね、リシテアちゃん。」

 

「...」

「...リシテアちゃん?」

 

隣の席に居たリシテアに話しかけたのだが反応が無かった。目を遣れば彼女の手元に教科書などは置いてなかったが、どうにも何やら考え込んでいる様子だった。頭が良くて日ごろから何か考えてそうな雰囲気ではあるが、そういうものとは違った煩慮らしき寂しげな空気感に思えた。

 

「...っ!!あ、はい!

すいませんヒルダ。」

 

「えーと、ごめん。もしかして頭の中で勉強の復習とかしてた?」

「いえ、少し考え事を....でも話は聞こえてました。

すいません。私も魔法武器の使用は試みたことがないので、レオニーの力にはなれなさそうです。」

 

「気にしなくていいって。ま、私も堅実に弓とか槍とかの方があってるだろうしね。」

「ホントたくましいなあ―――それにしても、今教室に居る人でその二人に会えてないのあたしだけかあ。なんかショックだなぁ~~。」

 

「でも挨拶に回ってたから、また会えると思うよ。師匠もこの修道院で騎士として戻ってきたようだし、二人も師匠の子供だってんだから騎士になるんじゃないかな。」

「そうですね。それに二人とも僕たちと同じくらいでしたし、この学校の生徒として編入してくるなんてこともありえますね。」

 

「なるほど、それもそっか―――あ、おーいローレンツ君。貴方はクロード君たちを助けたっていう傭兵さんに会った?」

 

教室に戻ってきたローレンツに声を掛けるヒルダ。

 

「...ああ、ヒルダさんか。勿論お会いしたとも。両名とも粗野な傭兵にしておくには勿体ない逸材だと感じたよ。

余計な事をしてくれたものだが...」

「ちょっと、ローレンツ!!師匠を馬鹿にする気?」

 

傭兵という存在そのものを貶された気になったレオニーが突っかかる。

 

「!!いや、すまない。ジェラルトさんの事を愚弄する意図は全くない。この大陸では傭兵として名実ともに随一だろう。

だが傭兵は元々、身寄りのない者達による日雇い労働が前身であることが多い。そうなれば教養のない者の割合は必然的に高くなるだろう。勿論、ジェラルトさんと率いる傭兵は該当しないだろうが―――だが言い方を誤ったな。」

 

「いや、私もちょっと力が入っちゃった。ゴメン...」

 

「はい!二人とも。仲直り仲直り・・・ところでローレンツ君、何か不機嫌そうだったけど...?」

 

今のやり取りをする前からローレンツが浮かない顔をしていたのを、ヒルダは見逃さなかった。

バツが悪そうな表情でローレンツは答える。

 

「何、大したことないさ。当のクロードにちょっとした憤りを覚えていてね。」

「何かあったの?」

「人にモノを尋ねておいて、ソレに心当たりがないと答えてみれば勝手に幻滅して去っていったのだよ。全くとんだ男さ...」

「あ、あはは」

 

事あるごとに衝突しがちな二人らしいと納得した。

とそこで――ー

 

「おーい。学校中で何か話してるみてえだし皆も集まってるし、オデが居ない間になんかあったのか?

・・・・・もしかして何か美味い食い物が届いたとかかっ!?」

 

ズカズカと教室に入ってきたラファエルの第一声にその場に居た全員苦笑した。

 

 

 

青獅子の学級(ルーヴェン・クラッセ)

 

 

 

「なんだ騒々しい。」

 

戻ってきて早々にフェリクスは毒づいた。

クラスだけではない。廊下ですれ違う者達も一様にヒソヒソと話している様子に居心地の悪さを実感していたため、例に漏れなかった自分のクラスの様に嘆息したのだった。

 

「お帰りなさいフェリクス。漸く訓練が終わったんですか?」

 

教室に戻ってきたフェリクスにアッシュが話しかけた。

 

「とりあえずはな。それでアッシュ。黒鷲の方も何やら異常な雰囲気だったが、これは一体何の騒ぎだ?」

「さっきまで殿下達を助けたっていう傭兵の二人がこの教室に挨拶に来てたらしいですよ。」

 

“らしい”と口にするのも当然。

実を言うとアッシュ―――というより、青獅子の主要メンバーは二人の傭兵に会えていなかった。

何故なら先ほどまでディミトリの提案でアッシュ、フェリクスを含めて訓練場で訓練していたためである。

 

メンバーは二人に加えてディミトリの従者であるドゥドゥ―やイングリット、メルセデスと複数名のクラスの生徒たち。訓練に参加していた者たちは教室に居なかったため、自ずと会うことはなかった。

本来ならアネットとシルヴァンにも声を掛けていたのだがアネットは魔法の復習がしたいと書庫に赴いており、シルヴァンはサボっていた。

そうしてディミトリ達が切り上げたあとも、遅くまで訓練していたフェリクスが今終わって戻ってきたという顛末だった。

 

 

喧騒の理由が二人の来訪であるというその答えにフェリクスは半分納得していた。各勢力の未来を担う3人が窮地に立たされ、それを救ったのだ。加えて腕が立つと聞いている。

ともすれば話題に上るのは当然であるのだが、何やらこの教室内で交わされる当話題はどこか

―――色めいたものが多かったのだ。

 

頭を抱えながら、不承不承でアッシュにそのことを言及する。彼は苦笑いを浮かべながら口を開いた。

 

「それは「そりゃあ、その二人が可愛かったからってもんよ。」・・・っ!」

 

話に割って入ったのはシルヴァンだった。何かを察したフェリクスはため息を吐きながらシルヴァンをにらみつける。

 

「...やはりお前の仕業か。」

「そうよ!シルヴァンがそのお二人の外見的特徴ばかり吹聴してまわるものだから――」

 

近くに居たイングリットがフェリクスに乗っかる形でシルヴァンを責め立てた。

 

「まあまあ、落ち着けって二人とも。居なかったみんなの代わりに、俺が殿下を救ってくれたお礼を伝えといたんだから、さ。」

「貴方が殿下の誘ってくださった訓練を怠ったからでしょう!」

 

「でもそうねえ。その点に関してはシルヴァンに感謝しなくちゃね。」

おっとりとした調子でメルセデスが助け船を出した。

 

「だろ~。分かってくれるのはメルセデスだけだぜ。」

「メルセデス。彼を甘やかさないでください...」

 

「...フン。容姿などどうでもいいが、双方それなりの腕前らしいじゃないか。であればいずれ手合わせ願いたいものだ。」

「うへえ、フェリクスは相変わらずだな。まあ、その辺は殿下が詳しいでしょ―――ね、殿下。」

 

突に、教室の奥でドゥドゥ―と場の成り行きを見ていたディミトリに話しかける。フェリクスたちと同様、教室内の雰囲気に内心頭を抱えていたために、それを落ち着かせる思いも込めて訥々と話し始めた。

 

「ベレスの方は剣士でフェリクスの想像通り、かなりの剣の使い手だったな。ルフレの方は実のところはっきりと戦闘を見たわけではないが、熟練した魔道士と認識している。だがベレスと同様に武道に心得のある立ち振る舞いだったし、剣士としての才も持ち合わせているかもしれない。」

 

「まあ猪が言うのだからそうなのだろうな。俺としては好まんがそれはそれで面白そうだ。」

 

「フェリクス...」

"猪"という言葉に反応したドゥドゥ―が低く唸る。

 

「気にするなドゥドゥ―。いつものことだ。」

話がひと段落して皆バラバラに解散したころ、アネットが教室に戻ってきた。

 

「お帰りアン。ねえ、貴方はディミトリ達を助けてくれた傭兵の二人に会ったかしら?」

「ただいまメーチェ。それがね、あたしも会えてないの。」

「そう。また会えるかしらね。」

 

「・・・なあアネット。突然で悪いが訊きたいことがある。」

 

メルセデスとの話が途切れたのを見計らってディミトリが話しかけた。

 

「はい。なんでしょう殿下。」

 

「勘違いだったらすまない。俺たち3人を助けてくれた内の一人―――名をルフレと言うのだが、俺の記憶が正しければお前の話の中で耳にしたような気がしてな。何か知らないだろうか?」

 

アネットは一瞬目を見開くと、困ったような調子で続けた。

 

「...その話、よく訊かれますね。殿下で二人目です。」

「っ!?既に誰かに尋ねられたのか?」

 

「はい。ついさっきクロードとすれ違った際藪から棒に。といってもあたしも話せることはそんなになくて...

あたしやメーチェの通っていたフェルディアの魔道学院の卒業生に、短期留学ながら凄い成績を収めたっていう人が居て、その人の名前がルフレだったと思います。」

 

「あらそうなの?よく覚えているわねえ。」

 

「あたしも卒業した人たちはどんな道に進んだのかな?って気になって調べたことがあったってだけだから。

・・・・でも当時お会いしたことありませんし、それ以上の事はわからないです。」

 

「いやいい。有難う。

それにしても魔道学院の卒業生か。」

 

盗賊団との戦闘において、途中クロードとの会話で漏らした内容を思い出す。

 

王国民である自分が聞いたことがあるかもしれない、という曖昧な仄聞(そくぶん)を元に、ルフレが魔道に精通しているという事実とを併せ王都にある魔道学院に関係しているのでは?という推論に行きついたのだろう。

最初は同じ学校に通っていたと聞くローレンツに尋ねても何もわからなかったから、偶々出会ったアネットに白羽の矢が立ったというところか。クロード本人とて当たれば良いくらいの簡素な手探りであったのだろうが、相変わらず抜け目のない奴だと呆れながらも感心する。

 

(成程...王都の...)

 

「殿下...どうかされましたか?」

「いや。大丈夫だドゥドゥ―。」

 

過去王国で学んだという実績がある。

だからなんだ?といわれればそれまでなのだろう。

しかし優秀な人材の略歴にその過去が刻まれているのであれば、ほんの微かなモノであっても縁を感じずにはいられない。

 

ファーガス神聖王国は常に北方の民の襲来による危険にさらされたり、やせ細った大地故の飢餓だったりと問題は山積みである。

やがては王冠を戴く身として、この先の未来を描くにあたって優秀な人材は欲して止まない。

 

だからこそ――

 

(残念でならないな)

 

 

 

黒鷲の学級(アドラー・クラッセ)

 

アドラステア帝国出身の者達が多く集う其処は、他の2クラスとは明らかに毛色の違う空気が流れていた。

 

そんな教室に向かう二人の男女の姿があった。フェルディナントとペトラだ。

 

「―――そういう武具もあるのか。」

「はい。ダグザの技術使った、ブリギット、好んで使う、です。」

「成程。私も異国の文化として無意識に排斥していた側面があるだろう。こうして知ると馬鹿にできないどころか、帝国が参考にすべき物が多々あると実感できるな!わざわざ有難う。」

「いえ。私も以前、フェルディナント、薦めてくれた年代史、タメになる、でした。有難うございます。」

 

「それは良かった。これからもお互い切磋琢磨して―――何事だ?」

「!」

 

黒鷲の教室の入り口が見えてきたころ、フェルディナント達は異変に気付いた。

何故か黒鷲の生徒たちが教室に入らず、皆尻込みしている様子だったのだ。

 

「あ、フェル君、ペトラちゃん!!」

 

他の生徒たちと同様に教室の前に居たドロテアが二人に気づき声を掛けた

・・・何故か彼女の腕にしがみついているベルナデッタを伴って。

 

帰りたい。帰りたい。おうち帰りたい....

 

蒼褪めた顔で呪文を唱えるように呟くベルナデッタを見て只事では無いと悟った二人。

 

「何かある...ありました、ですか?」

「あー今は中に入らないほうが良いっていうか・・・」

 

「?・・・・もしや貴族を狙った刺客がっ!?」

「中、敵、居ますか?・・・・排除します。」

 

そう言うや否やペトラは訓練刀を抜き、臨戦態勢に入った。

 

「ちょ、ちょっと待ってペトラちゃん!!敵とかじゃないから。中にエーデルちゃんとヒュー君が居るってだけだから!」

 

「であれば何故皆教室に入らないのだ?」

「う~ん、私もあまりわかってないのだけどね。ホラ、あの噂。

エーデルちゃんたちを助けた二人の傭兵さんの話知ってるかしら?とっても綺麗な。」

 

「ああ!ベレスとルフレの事か。それなら知っている。何ならつい先ほどお会いし挨拶を交わしたぞ。」

「わたしも二人に会う、しました。二人とも素敵、そして強いです。あとルフレ、ブリギットの文字、読み少しできる、言ってました。すごい、思います。」

 

「あらそうなの‥‥ってそれはそれとして、さっき教室にも挨拶に来てくれて、当然その場に居た私達も会ったわ。

....で、その二人絡みの問題らしいのだけれど...兎も角、そっと中を見てみればわかるわよ。」

 

ドロテアに促され、疑問符を浮かべたままフェルディナント達は教室の入り口付近に向かった。

 

 

瞬間―――

 

「「!」」

 

冷たさを帯びた空気が肌を撫ぜた。

 

中てられたのは実際に気温も下がっていると錯覚するほどの"気"。フェルディナント達は新入生ながらも演習で好成績を収めた将来有望な生徒。特にペトラは故郷ブリギットにて狩猟も嗜んできたこともあり、こと戦闘センスに於いてはこのクラスで指折りの実力者だ。そんな二人を瞬間的に硬直させるほどの鋭い圧ともなれば、他の一般生徒が怖気づくというのも道理である。

 

得体のしれないソレの正体を知るべく、二人は恐る恐る中を覗き見た。

 

其処には長椅子に項垂れた様子で座ったエーデルガルトと、机を挟み見下ろす形で腕組みしているヒューベルトの姿があった。

 

 

 

「―――エーデルガルト様、お伺いしましょうか。」

「...構わないわ。」

 

「有難うございます。

先日の野営演習の事前視察。今や校内求めずとも耳に触れる其処での事件と、エーデルガルト様含む3人の級長の救出譚。

事件当時校舎に居た私はそれを知り、件の両名をはじめとする傭兵団の方々への感謝の気持ちで一杯でございました。

―――ですが、本件に纏わる“とある噂”を耳にしたことを境に、彼らへの謝意の表明とは別にこのような場を設ける必要があるのでは、と思った次第にございます。私としても本意ではありませんが。」

 

「....」

 

「闇も深い早暁に起きた咄嗟の事件でありながら、入り組んだ地形を活かした作戦の早期立案、そして運用とその現場指揮。かのお二人は見事な采配をされたものとお見受けします。

そしてその作戦に一端であれど、エーデルガルト様も貢献されたものと臣下として誇らしい気持ちでした。

 

―――しかしながら、それに水を差す不遜な文言を宣う輩が居たのです。

 

 

"エーデルガルト様が作戦を放棄して先行したと聞いた"などと。」

 

「....」

 

「戦場に赴いてもいない愚かな鼠輩の僻事(ひがごと)であろうと一蹴していたのですが、事と次第によってはそれを流布した者を()()必要があります。故に根元を断つべく、修道院に先だって帰投していた騎士からお話を伺ったのです。

すると、なんと噂と同じような回答が返ってくるではありませんか。」

 

「....」

 

「それでもセイロス騎士は現場に遅れて到着した―――即ち報告書を読んだうえでの内容でした。臣下として信じられなかった私はならば、と当事者である二人にお聞きするのが確実と思い至りました。

幸いにも両名こちらに参られて、先ほどまでドロテア殿を交えて談笑しておりましたね。

 

そして貴方様の記憶にも新しいと思いますがつい先刻、私はお礼がてらその場でこの噂が真かどうかを尋ねました。

それに対し、お二人ともやんわり否定しておりましたね。

 

―――ですが、表情変化の読み取れなかったベレス殿に対して、ルフレ殿は幾分か目が泳いでいるように見えました。」

 

「....」

 

「私の主君を信じる気持ちと、ある程度の嘘であれば見抜ける私の眼識がどうも相克(そうこく)しているのですよ。

こうなれば誠に申し訳なく存じますが、貴方様に問うより他ありません。

 

この噂が真か偽か、を。」

 

「....相違ないわね、その噂に。」

 

 

 

............................

「....」

 

===

 

「―――いや~美味かったな、リンハルト!」

「・・・僕は君が食べてる姿だけで胸やけしそうだったよ。」

「仕方ねえだろ、美味いんだから。それに美味そうに食べてくれるほうが嬉しいって食堂のおばちゃんも言ってたぞ。」

「美味しそうに食べるのと喉の奥にかきこむ事はイコールじゃないよ。全く―――ん?」

「どうした・・・あん?なんだあの集まり?」

 

「あ、リン君、カスパル君!!」

 

「ドロテア・・・とベルナデッタ。何かあったの?」

 

帰りたい。帰りたい。おうち帰りたい....

「?」

 

「フェルディナント達もあそこに居るし、皆なんで教室入らねえんだ・・・もしかして中に不審者がいやがんのかっ!?

よっしゃ!俺に任せろ。やってやるぜっ!」

 

「ちょ、ちょっと待って!!―――」

 

===

 

 

「―――貴方様は日々、何事にも先走りがちなカスパル殿を諫めていらっしゃいますな。何かと敵に見立てて排除しようとするペトラ殿のことも。更には何者に対しても怯えるベルナデッタ殿の扶助を率先したりと様々。

実力がありながらも理性を差し置いて自我の先立つ彼らを律し、驕らず、昂らず、正しく先導するそのお姿は、暗き闇に沈んだ帝国が陽の下へと舞い戻る行末を象徴しているものと兼ねてより思っておりました。」

 

(...教室の表だと今はドロテアがそれを担っているみたいね。)

 

「...何か?」

「いえ。続けて。」

 

「...そして本件―――当初の作戦での役割を放棄し、単身敵本隊に乗り込んでいかれたとか。

私の眼には導かれる側の極めて無鉄砲な言動に映りました。

畏れながら私の浅知恵では考えが及ばず、その行動の真意、是非ともご教授願いたいところでありますな。」

 

「ごめんなさい。申し開く点のない只の失敗よ。だからそんな意地悪な言い方しないでくれるかしら?」

 

「...はあ...制圧間際の敗残徒相手だったとはいえ、褒められた事ではありませんな。

...その命の重み、使命をお忘れになったわけではありますまい。」

 

「!・・・もちろんよ。一時とて忘れたことはない。

今回の件は私だって終わり良ければ全て良し、などと開き直るつもりは無いわ。甚く反省している。

とはいえ口約束で満足する貴方じゃないでしょう。この先の行動で示していくわ。」

 

「期待しておりますよ―――」

 

(でも、改めてわかったわね。)

 

どんな過去を背負おうと、どんな志で臨もうと、どんな将来を夢見ようと結局はただの一人の人間に過ぎない。

この歪んだ帝国を―――フォドラを根幹から変えるには、次期皇帝という肩書きだけでは何も変えられない。

 

セイロス教に染まっておらず同じ目線で共に歩み、切り拓く先、立ちはだかる敵を前に支えてくれるヒューベルトのような優秀な者が他にも必要不可欠なのだ。

 

 

 

だからこそ―――

 

(残念でならないわ)

 

 

 

 

 

 

 

「...あの答えでよかったのかな?」

「い、一応...ヒューベルトさんの眼がその...嘘だと言ってくれって告げてましたし...きっと最適解かと。」

「でもあの後、エーデルガルト蒼褪めてたよ。」

「...」

 

二人は黙ってうなずき合うと、考えるのを止めた。

 

「―――あ。いた。」

 

しばらく歩いていると徐に声を上げるベレス。

彼女の指さす方角には金鹿の級長であるクロードがいた。

 

「お?お二人さんお揃いで。態々俺を探しにきてくれた感じか?」

 

「まあそうですね....ローレンツさんから聞きましたよ。

彼の話から察するに私の事を探っているようですが。」

 

「おっと、気を悪くしたってんなら謝ろう。でも勘違いしないでくれよ。

悪気はないんだ。ただ興味のある人間を知りたかったってだけだぜ。結果的に優秀な成績で王都の魔道学校を卒業したって情報以外得られなかったしな。」

 

「はあ...それが都合の良い言い訳でないといいのですが・・・期待してますよ。」

「私も期待しよう。」

 

 

「そうかい...なら応えないとな。改めてよろしく頼むぜベレス先生、ルフレ先生。

 

金鹿の教室へようこそ。癖あるがいい奴らだっただろ?」

 

 

 

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