当時、美濃関学院中等部二年生であった江藤可奈美は、同校の嘱託教員となっていた。
また「禅演部」なる部活を創設し、その顧問兼部長に就いてた。
部員には、かつての学友で現役刀使である「安桜美炎」、そして他校から弟子となった同じく現役刀使の「内里歩」がいた。
他にも荒魂や幽霊の様な少女などが加わるが、それはまた別のお話・・
刻は2023年、夏。
多忙により副部長から幽霊部員となった美炎の穴を埋めるべく、副部長昇格試験が行われようとしていた。
試験は、同部の儀式担当である「燕結芽」の立ち合いのもと、特殊な空間内での実戦形式で行われる。
しかしこれは、衛藤可奈美が歩に課す免許皆伝の業を兼ねるもので・・・
二人には、特別大きな意味のある試合であった。
第一話;免許皆伝 前編
瞼を閉じるー
目に見えない物が感じられてゆく
「双方、構え」
耳を澄ますー
雑念を閉じ、五感はもっと研ぎ澄ます
「
油断はしてはいけない
何たって、相手は私の弟子なのだから
始めから手加減もしてはいけない
私は、この子の"師匠"なのだから・・・!
「準備は出来てるよね
おねーさんたち?
じゃあ・・始め!」
まずは相手の出方をうかがう
いつでも
お互いの距離は五メートルといったところだろうか
この仕合の主催者の趣味で、この仮想空間とも言うべき夢の世界では
どこまでも真っ白な地平線が見えていて、ほとんど一切の構造物が存在しない
彼女、
最も、歩ちゃんが今とっている構えは私のソレとは違う
歩ちゃんの構えはやや防御に寄っている
それは、私が他流派のー他人の技を使って攻め込むことをするのを知っているからだ
相手の動きを見てから守勢に切り替える、というのは難しい
よって先んじて防御の姿勢を見せているのだ
一分ほどの静寂が場を包んでいた
その様子を遠巻きから
いつもの、不敵な笑みを浮かべながらー
息を整え、私から仕掛けようと迅移を出しかかる
気取られないように構えは変えず、刀は出来るだけ動かさないようにして・・・
「はッ・・と!?」
その瞬間、歩ちゃんの刀の切っ先が視界に入ったので、慌てて後ろに下がった
すかさず歩ちゃんも間合いを詰めて打ち込んでくる
こちらの息を読んで、歩ちゃんの方から彼女の最大深度の迅移で仕掛けてきのだ
キンッ・・キンッ・・
と、暫くの打ち合い
強く打たれた剣は両手でしっかりと受け、こちらの体勢をなるべく保ちながら押し返す
出来るだけ、相手の体勢を崩すように
浅いとわかる振りは可能な限り躱し、素早く振れる中で、剣筋が相手の急所を通るところに刀を滑らせる
次の相手の選択肢が狭まるように、次の相手の動きを誘導するようにー
攻撃を回避できた途端に相手を仕留めようと斬り返す
ーという打ち方を私はあまりしない
受けた一撃がほぼ確実に剣士としての致命傷となる真剣仕合においては、攻撃を急ぎ、隙をさらすのは禁物だ
相手の攻撃には確実に当たらず、また相手には確実に当てられる瞬間にのみ必殺の攻撃を打ちたい
私がこの奇襲に順応してきた頃を見計らって、歩ちゃんはまた迅移を使って一気に十五メートルほど下がった
護りの構えを見せてからの奇襲・・・
やはり侮れない
「あはは、いつになくこっわい顔をしてるよ?
確かに結芽ちゃんの言う通りかもしれない・・・
普段の立ち合いなら私がこんなに険しい顔をする事は無いだろう
この立ち合いがお互いにとって重要なものであるということもあるけど・・
さっきの奇襲で無意識に緊張が高まり、若干身体が強張ってしまっている・・気がする
再びの静寂
私の顔も眼も歩ちゃんの方をじっと向いている
しかし歩ちゃんはうつむいていて表情とかは読み取りづらい
息づかいも一定に整えられていて、隙が無い
刀使には「
動体視力には自信があるんだけど・・・
先に動いたのは、またしても歩ちゃんだった
歩ちゃんは一段階の迅移で十メートルほど突っ込んだ後、踏み込む前に抜いていた彼女の二本目の御刀、「脇差-村正」を右手で投擲した
さらに続いて二段階の迅移でこちらに飛んでくるところまでが見えたー
ーどうしよう?
迅移で得た加速度と、
正直いまからでは、迅移でもって躱そうとしても間に合わない可能性がある
かと言って、片手で振った剣では受けきることも出来ないだろう
しかし両手で受ければ大きな隙を晒すことは必至・・・
脇差-村正にやられる前に歩ちゃんの方を斬るか・・・?
残念ながら、これも難しい
何故なら歩ちゃんは、両手で刀を頭の上に持って、両脚と身体を伸ばして棒の様にして突っ込んで来ているのだ
これでは、今みえている急所を狙っても、体勢を変えられれば致命傷にはならないだろう
そうなれば、その先は未知数・・・
そのせいで敗けてしまうかもしれない
かくなる上はー
私は、再び瞼を閉じた
次の次の次の・・・・、一手を視線から読まれないようにー
私は最速で、今携えているもう一つの御刀である「刀-村正」の柄を左手で握った
歩ちゃんの投げた脇差は、左前方から角度をつけて私の正中線をとらえていた
私はそれをを外側へ払うように、渾身の力で刀-村正を抜刀し振り当てた
ガキュイーーーーンッッ!!!・・・
普通の日本刀とは違い、ほぼ剛体としての性質を持つーつまりは、折れも曲がりもしないー御刀どうしの大衝突
辺りには凄い火花の光と音が飛び散った
そんな剣を受けた私の左腕は忽ち筋線維が断たれ、骨は砕け使い物にならなくなった
そして衝突の勢いを利用し、左半身を奥、右半身を前にした半身になった
そのまま少し左肩を突き出し半歩進みー
左肩を歩ちゃんが両手で持つ御刀ー「
間髪入れず、右手で握った私の御刀ー「千鳥」で歩ちゃんの背中に斬りかかる
歩ちゃんは振り向きざまに左手で私の剣を受けるが、力は足りず
私の一撃を受けるとも弾くとも、また反らすともならない防御で、左手の制御を失った
「フッ!」
刀が弾かれるか、左手首を殺されるか(握られる)かという気配を察してか、歩ちゃんが骨喰藤四郎を放り右手に持ち替える
そこを私は逃さない
「はぁ!」
もう一度右手で上から千鳥を振りかぶり、確実に肩から歩ちゃんの左腕を飛ばす
閉じていた瞼をようやく開いた
ここまではおよそ、心(の)眼でみて、読んでいた通りだ
刀使が複数人居て、みな片手を失うほどの負傷をしている・・・
普段の荒魂との戦いなら、まず写シを解いて両手を使えるようにしている場面ー
しかしこの剣士同士の一対一の立ち合いにおいては、別の選択肢が生まれていた
刀使ひとりが張れる写シの回数には各々に限度がある
そして、いま味方となるのは自分の身ひとつだという事だ
キッキンッ・・!
お互い息が整いきっていないうちに、今度は私から仕掛けた
右手で外から内へ、歩ちゃんの首の右側を通るように滑らせた強打を
歩ちゃんは何とか反応して鍔の近くで受ける
反応が遅れ、弾くほどの力を込めて刀を持っていけなかった歩ちゃんの、咄嗟の受け
一方私の方は、身体の外から内へ十分な力を込めて打った一撃だ
骨喰藤四郎の棟が歩ちゃんの首に食い込んでいく
このままではマズいと歩ちゃんは、右手で私の剣を受けたまま・・
捻りを伴って、脚を上にして身体を上方へと飛ばした
八幡力を用いれば、刀使によっては最小限の屈伸動作で高く跳ぶことが出来る
地上での左半回転あたりの対応を予想して、私が放った右足中段の蹴りが空を振った
いくら刀使といえど、上空からの着地の際には硬直ー隙ーが生じる
私はその瞬間を狙おうと、出来るだけ早く右足を戻し体制を整えようとしていた
お互いに、写シを張りなおす様な間は未だ無かった
しかし歩ちゃんは、また私の想定外の行動を取った
着地したのは足ではなく刀、骨喰藤四郎だった
ーすごいバランス感覚だーなどと感心している場合ではない
骨喰藤四郎に乗って立つ彼女の右手には、私の刀ー村正が握られていた
着地した瞬間に身をかがめ、さっき私の左腕ごと地面に落ちたのを拾ったのだ
「面白い!」
思わず声に出してしまった
声を出せば息を読まれる
よって、大きく力を練る際など、そのリスクをメリットが上回る場合にしか
声は出さないようにしていたんだけど・・・
「あ~あ」
遠くの方で、結芽ちゃんもわざとらしく笑っている
口を閉じ息を整える頃には村正の切っ先が私の右腕めがけて飛んできていた
歩ちゃんがまた投げたのだ
流石にあの体勢からの最速投擲だと、勢いも強くはないし
さっきのブーメラン状ではなく、ダーツみたいに一直線にしか飛ばせないが・・・
ここで急所を狙わないのは、より確実に私の攻撃能力を失くす為だろうか?
もし外しても・・と歩ちゃんは乗っていた刀の底から降りて、その柄に手を掛けつつある
歩ちゃんの考える、私が取り得る選択肢は3つほどだろうか
1、今握っている千鳥を村正に当て、可能な限り逸らす
2、迅移で大きく距離を取り、写シを張りなおす
3、右腕は犠牲になるが、手首のスナップで刀を飛ばして、歩ちゃんを牽制し写シを張り直す隙を作る
いや、3は無理かな
2を望みつつ、1の可能性を見据えているといったところだろうかー
しかし私はーどれも選ばずに
写シを解いた
「衛藤さんッ!!」
今度は歩ちゃんが叫んでいた
私はその声に向かって胴を歩かせた
そして右手に持った千鳥を村正に滑らせ勢いを殺していく
眩しい火花の熱で、手の甲が、制服の袖が軽く焼けていく
千鳥の刃先が村正の鍔に当たろうかという所で、私はその先の柄を左手で掴んだ
勢いに任せ、腕と刀ごと大きく身体を右回転させて、再び歩ちゃんと相対する
息を整え、二刀で構える
写しは張れずとも、それぐらいの時間はあった
歩ちゃんの方も、私と相対していたー
今度は、両手で御刀を握って
しかし、あちらにも写シは無かった
やっぱり、こうなっちゃったか・・・
この試験の、本番はここからだよ・・
と、私は歩ちゃんの目を見やる
歩ちゃんはー
小さく、でもしっかりと頷いてくれた
どうやらここから先も付いてきて来てくれるらしい
私の「禅演部」、その副部長昇格試験と柳生新陰流免許皆伝ー
文字通りの「真剣勝負」が始まろうとしていた
初めましての方ははじめまして、レッドです。
(二次小説は)初投稿なので、お手柔らかにお願いいたします。
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では~