プロローグ
暗い宇宙の海。
破壊された人の営み、コロニーで形造られた暗礁宙域。
その荒廃した薄暗いビル群にぽっかりと空いたクレーターの中に、
赤黒い一本角の機械の巨人が横たわっていた。
全体的に損傷が目立ち、黒いバイザーには光はなく
その姿は戦い疲れた戦士が傷ついた末に眠っているようだった。
[When I was young I believed there was a sun that goes up and a sun that goes down]
巨人の胸の奥から、微かに音楽が漏れ出す。
聞いているだけで気恥ずかしくなるような、甘い、甘いラブソング。
[In my heart I always thought they were two things And the moon and the stars in the night]
その音源はコクピット内に取り付けられた小型ラジオだった。
その中ではパイロットスーツを着た黒髪に浅黒い肌の青年が眠っていた。
その四肢は腕は肘、足は膝から先がぷっつり途切れており、代わりに取り付けられた金具が
大型の機材に青年の身体ごと固定されている。
[were the same li-ghts that lit up the streets They were the same to my young eyes]
眠りに落ちた青年とその本当の身体とも言うべき巨人を宇宙の静寂と柔らかい歌が包み込む。
ゴォ
突然、その静寂が打ち破られた。
遥か彼方から、スラスターの光が凄まじい勢いで近づいてくる。
突っ込んできたのは盾を前面に構え赤の光の刃を今にも突き出さんとする二本角の巨人。
左半分が抉り取られた顔面からセンサーの黄色い光が迸る様はさながら悪鬼。
そのコクピットの中で、金髪の青年が殺意を剥き出しにセンサーが映す先を睨みつけていた。
「このジャズが聞こえた時がお前の最後だ!義足野郎オオオオオ!!」
青年が絶叫のそれに近い雄叫びを上げる。その光刃、ビームサーベルの先端が寸分の狂いもなく
沈黙した赤い巨人のコクピット目掛けて突き出される。
刹那
辺り一帯を雷光が駆け抜けた。
その稲光はまるで巨人に力を託さんとするかのようにクレーターの中心一点に集結する。
その電流が、眠りにつく青年の金具を打った。
「…!」
グポン
青年が覚醒すると同時、赤の巨人も息を吹き返し、バイザーに浮かんだピンク色の単眼が正面を見据えた。
迫るは己の息の根を止めんとする二本角の白い悪魔。
[Tears of sadness and the tears of joy After the crying it is all the same]
青年の脳裏にほとんど反射的な思考が駆け抜けた。
その意思を受け取った巨人は、背部のサブアームを展開すると
マウントされたシュツルム・ファウストを掴み上げそのトリガーを引いた。
点火。
一拍遅れて大型の自走式炸薬弾が放たれる。
「なっ…!?」
白い悪魔を駆る青年の目が、驚愕で見開かれる。
そして…
赤い巨人が放ったシュツルム・ファウストは
白い悪魔のコクピットに
白い悪魔のビームサーベルは
[It all comes down to the thought those tears are fro
ラジオがビームの飛散粒子で焼かれ、音楽が途切れる。
身を焦がす灼熱。少しずつ自分の意識が消えてゆくのを感じながら、
黒髪の青年はポツリとつぶやいた。
「カーラ、ごめん。帰って、来れなかった」
対する金髪の青年は大量の鉄の質量に押しつぶされながら、
かろうじて生きているメインモニターの映像を見ていた。
「なぜ、だ…」
その先にはコクピットが赤熱している憎き敵。
確実に殺した…だが、足りない。
戦争の狂気に身を染めて、圧倒的な力を手に入れて、
散々お膳立てはされていた。
だというのに、その結果が
「なぜ、やつに…勝てない」
瞬間、青年の姿が爆炎に包まれた。
双方の攻撃はお互いの機関部に致命傷を与え、ほぼ同時に起爆し、その姿を爆炎の花へと変えた。
UC:0079 一年戦争末期、サンダーボルト宙域にて
地球連邦軍
ムーア同胞団所属イオ・フレミング少尉
及び乗機、フルアーマーガンダム
ジオン公国軍
リビングデッド師団所属ダリル・ローレンツ少尉
及び乗機、リユース・サイコ・デバイス装備高機動型ザクⅡ
乗機、双方共に撃墜。
パイロット両名はその命を散らした。
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暗い空。その黒いキャンパスを彩る青い幾何学的な円。
そんな奇妙な景色の元、広大な平野の中を無数の風力発電機が
ゆっくりゆっくりと回っていた。
…奇妙なことがあるとすれば、その所々で煙が上がり、何基かの発電機が倒壊していること。
そしてその間を頭上に光輪を浮かべて
ヘルメットをかぶったたくさんの少女が闊歩していることぐらいか。
少女達は誰もが思い思いの銃器を持っており、辺りにただならぬ雰囲気を漂わせていた。
そんな彼女らを、遠方から除く影があった。
人影の数は5人。その誰もが何故か武装してメイド服を着用していた。
「……少なく見積もって大隊規模。話には聞いていたがこれほどとは」
対戦車ライフルのスコープから顔を上げ、良く目立つ金色の瞳とは対照的に
夜に溶け込むような黒い肌に腰までかかる黒い髪を持つ少女がぽつりとつぶやいた。
「さすがに骨が折れそうですね……
できるだけ持ってきたとはいえ、私の
その声に答えたのは薄い小麦色の髪と、同じ色の瞳の眼鏡をかけた少女。
彼女の言う掃除用具が入っていると思われる大きなバッグから
ちらりとダイナマイトがのぞいたのは気のせいだろうか。
そんな彼女を先ほどの少女がジト目で見る。
「……今回の任務はあくまでカタカタヘルメット団に占拠された風力発電施設の奪還だ。
今回はいつも以上に気を使って施設への被害は最小限に抑えるようにと
ユウカに口を酸っぱくして言われただろう?」
「大丈夫ですよ」
「いつも大丈夫じゃないから言ってるんだが……リーダーもだぞ」
少女はそう言ってため息をつくと今度は別の人影のほうを向いた。
小柄な体躯に短いオレンジ色の髪と瞳。メイド服の上から革ジャンを着たその人物は
少女にそう言われると軽く得物の二丁のサブマシンガンをもてあそびながら答える。
「るせぇな、わーってるって。気をつけりゃいいんだろ?」
「そうそう!あんまりカリカリしててもいいことはないよ?」
リーダーといわれた少女の投げやり気味な回答に
アッシュグレーの長髪に青い瞳を持ったにこにことした長身の少女からの援護射撃。
「……そうだな」
少女は察してはいたものの今回の任務が無事で終わることを諦めた。
そして、少女は後方で目を閉じてワイヤレスイヤホンから流れる音楽を
エアドラムを叩きながらノリノリで聞いている人物のほうを向いた。
「コールサイン04、きみのことだから大丈夫だとは思うが…作戦の内容はわかっているな?」
「ああわかってるさ、コールサイン02」
04と呼ばれた長い金髪を首辺りで纏めた少女はそう答えると手を止めてイヤホンを取り外した。
見開かれた瞳の色は薄い青。
その右手には独特の形状をした二連ライフル、左手に大型のシールド。腰に簡易ロケット砲。
背中のスライド式のマウントラックには取っ手をつけて
そのまま肩に乗せれるようにしたマイクロガンにバズーカ。
更にシールドの裏には電磁バトンやハンドグレネードと…
何故かポケットティッシュが取り付けられており、他の4人と比べて過剰なほどの重装備だった。
「目標は7時間前にここを占拠したヘルメット団どもの掃除と風力発電施設の奪還。
敵戦力は膨大で、戦車の存在も確認。その上施設の破壊は厳禁……
施設のことを考慮に入れれば相当難易度の高い任務になるってところか?」
「そうだ。ほんと、いつも音楽を聴いてばかりなのに指示の内容はよくきいているな」
「っふ、それは皮肉か?」
「いや、素直にほめているつもりだ。気に障ったならすまない」
「大丈夫だ、ジョークだよ。長い付き合いだ、あんたのそれに悪意がないことぐらいわかるさ」
心なしか申し訳なさそうな表情になる02と呼ばれた少女に
04は笑って肩を軽くすくめた。
そして、彼女たちは会話がひと段落着いたところで改めて正面の風力発電施設を見た。
「うし、作戦通り、あたしと01が正面から突っ込んで、
03と04が側面から敵を挟撃、02は狙撃支援。間違いはねえな?」
「コールサイン01、問題なーし」
「コールサイン02、同じく問題はない」
「コールサイン03、問題はありません。早くお掃除を始めましょう?」
「コールサイン04、問題はない」
リーダーの少女は己の二丁サブマシンガンを構え凶暴な笑みを張り付け、
01と名乗った少女は楽しそうな笑みを浮かべ、アサルトライフルの安全装置を取り外す。
02と名乗った少女は静かに正面をにらみつけ、己の対戦車ライフルのトリガーに手をかけ、
03と名乗った少女は眼鏡の位置を調整すると、
いつでもそれが取り出せるようにバッグのチャックを大きく開く。
そして、04と名乗った少女はリーダーと同じような好戦的な笑みを浮かべると
メイド服のポケットに入った音楽プレイヤーを素早く操作し、
ワイヤレスイヤホンの接続を切るとボリューム操作のつまみに手をかけた。
本当にわずかではあるが、ポケットの中から音楽があふれ始める。
「行くぞ、
そうリーダーが言うが早いか、少女たちは暗闇に散開した。
ところ変わって風力発電所の中、
その境界となるフェンスのそばを、十名ほどのヘルメットをかぶった少女は巡回していた。
「……はあ、いい加減疲れた。眠い……」
「しょうがないじゃん。ミレニアムの奴ら、全然金払わないんだもん」
彼女たちはカタカタヘルメット団。
要所、学校を退学になるなどした不良生徒で構成された武装集団だ。
彼女たちが風力発電所を占拠した理由は簡単。
最近ここ、学園都市キヴォトスで起こった前例にない大規模な混乱に乗じて
大金を手に入れるためである。
そのため、金を持っている大規模な学校の風力発電施設を襲撃して身代金を請求したのだが……
その返事はいつまでたっても来ない。
風力発電機をいくつか壊して威嚇しても見たが効果はなく、
襲撃も何もないため当初あった士気もガタガタになっているが現状だった。
「うう、もう一回メイン施設のミレニアム製のシャワー室。使いたいな……」
「しょうがないじゃん。あれ、2人しかないんだから、あんたが使えるの多分明日の昼だよ。
それに今回の作戦が成功したらあのシャワー室だって買えるよ、きっと。
だからほらがんば……」
その少女の言葉が最後まで続くことはなかった。
ドゴッ
正面に続くフェンスの一部が突如爆散したのだ。
「「「「「!!」」」」」
少女らの緊張が一瞬で高まる。
「敵襲!?」
「わ、わからない。もしかしたら味方の戦車が誤射したのかも……」
「なわけあるか!早くセーフティーを……」
その時、少女たちの耳に何かが聞こえてきた。
爆心地で炎が立てる音とも、遠くで聞こえ始めた銃声とも違う、
乱雑で、破綻して、それでいてどこか整合性が取れた激しい音楽……
「なんだ、この音……」
「……まっ、て、聞いたことがある」
一人が唐突に音楽が聞こえてきたことに対する純粋な疑問の声を上げる中、
別の一人が強張った声を上げた。
ただならぬ様子に全員の視線が向く中、その少女はぽつ、ぽつと話し始めた。
「1年前、ミレミアムで起こった大規模な銀行襲撃事件。
それを、たった一人で鎮圧したやつがいる……」
少女が語る間も、徐々に、徐々にその音楽は近づいてくる。
しかし、その場にいる全員が、彼女の話すその噂に聞き入っていた。
「ミレニアムの特殊部隊、メイド部所属の2年、迅雷イオ、
3年の美甘ネルと肩を並べるレベルの戦闘狂の化け物。
戦闘中大音量で流し続けるほどのジャズ好き……まともに戦って勝てる相手じゃ」
「その通り、勉強とは熱心なこった」
刹那、よく通る凶暴な声がその場に響き渡った。少女らが慌てて振り向くも遅い。
視線の先には自分たちのほうへとむけられた二連ライフルの銃口。
ガアンッ
凄まじい銃声があたりに響き渡ったかと思うと瞬く間に集団の中から2人の人間が吹き飛んだ。
それをほかの団員が認識するが早いか、
馬鹿みたいに装備を背負っているとは思えない速度でイオが接近、
一人の胴体をシールドの先端でうがった。
「うぎゃっ!?」
その一人の身体がくの字に折れ曲がったかと思うとその場に崩れ落ちる。
その意識の有無を示す頭上の光輪、ヘイローは当然のように消えていた。
「ひっ……!」
「う、撃て!増援を、誰か!誰かっ!!!」
「こ、こっちにくるなーっ!!」
そこでやっと意識が追いついた無事な団員達が必死で銃を撃つが、
イオは冷静に盾を構えてそれを受け流すと、シールド裏のグレネードの一つを手に取ると
敵に向かって投げた。
きれいな放物線を描いたそれは、団員たちの足元に正確に着弾した。
爆発。
イオが爆風が収まったのを確認してその方に目をやると、
全員が煤まみれになって地に倒れ伏していた。
「……う、うう」
どうやら、辛うじて意識を保っていた団員がいたようだ。
先ほど、メイン施設のシャワー室を使いたがっていた少女だ。
ヘルメットの一部が破損し、中から紺色の髪と猫耳、黒い瞳が露わになっている。
その一人にイオはゆっくりと近づくと、顔のところでかがみこんだ。
ジャズの音が一際大きくなる。
「ひ、あ、あう……」
「なあ、お前さ」
恐怖で腰が抜けて動けなくなっている少女にイオはにっこりと笑い、話しかけた。
その笑顔から発せられる異質な雰囲気に少女は縮み上がった。
「じょ、情報なら私が知ってる限り全部教える!
あ、ちが、ご、ごめんなさい!謝る!だから何もしないで、見逃して!」
支離滅裂な言葉を吐く少女。しかし、イオは静かに首を振った。
「いや、そういうことじゃない。ちょっと頼みたいことがあってな?」
「へ?」
……後に、この時逃げなかったことを彼女は永遠に後悔することとなる。
と言っても、彼女が逃げたからといって未来が変わったかどうかは甚だ疑問だが。
しばらくして……
「ははっ、どうしたてめえらっ!俺はここにいるぞ、撃ってみやがれっ!!!」
ジャズが鳴り響く戦場の中、
イオは戦車複数台を含む敵の大舞台相手に大立ち回りを演じていた。
戦車には腰の小型ロケット弾、敵の集団にはガトリング、
時折とんでくる攻撃はすべて避けるか盾でいなし、
スナイパーライフル持ちは怨敵といわんばかりに、見つけ次第確実に2連ライフルで撃ち抜く。
彼女のそばに寄ろうものならゼロ距離射撃か、電磁バトンで意識を刈り取られる。
素早く敵の集団を潜り抜けながら
大量の武装を的確な場面で余すところなく使う天才的な戦闘センス。
しかし、彼女がここまで暴れているのには他の要因があった。
「いにゃあああああっ!?たすけ、だれかたすけてええええええ!!!」
それはバズーカを封印する代わりに肩に背負われた、
先ほどのヘルメット団の少女が原因であった。
その痛々しい表情が見えやすいように丁寧にもヘルメットは取られていた。
イオを撃とうとすれば嫌でも泣きわめいて助けを求める彼女のことが目に入る。
ヘルメット団とて不良学生とは言うものの一人の人間だ。
それに躊躇が生まれるのは当然のことで………
「お、お前!人の心がないのかっ!?」
「はっ、戦争に人の心を求める馬鹿があるかっ!!」
「あだっ!?」
自分たちがやった暴挙はさておき、治安維持部隊がとるとは思えない外道そのものな行為に
思わず声を上げた勇敢な団員は、ライフルを食らってあえなく意識が飛ばされる。
「さて、次はどいつだっ?」
……イオが周囲の部隊を鎮圧するのに、さほど時間はかからなかった。
「ふう。ここ一帯は片付いたか?」
辺りが炎と死屍累々となったヘルメット団になったところで、イオはようやく動きを止めた。
ほっと一息つくと、口元の通信機を操作する。
「こちらコールサイン04。持ち場の敵はあらかた掃除し終わった」
[コールサイン02、了解……誰かの泣く声が聞こえる気がするが気のせい……ではないな。
その戦法はやめろとあれほど……]
「む、別に一般人の目に留まってないからいいだろ?あの時のことはさすがに反省してるぜ?」
[そういう問題では……]
「あっ!た、たすけてくださいいいいい、こ、この悪魔に肉壁にされて……」
「ったく、人様を悪魔とは失礼な。ま、敵の本隊を叩くまで付き合ってもらうがな」
[はぁ……わかった、じゃあ連絡に入る]
肩の少女から悲痛な悲鳴が上がるがイオは気にも留めない。
通信先の02は馬耳東風に言葉を聞き流すイオにため息をつくと、言葉を続けた。
[コールサイン00、01、03全員防衛網を殲滅。
総員合流し次第予定通りメイン施設を叩くが、もう建物の心配はしなくていいぞ]
「?そりゃあなんでまた……」
事前に言づけられていた指示とは全く異なる言葉にイオは首をかしげるが、
周囲を見渡してみてその言葉の意味に気が付いた。
イオの担当した区画の風力発電機がほとんど倒壊していないのに対し、
他の区画……特に、同期の03が担当しているはずのエリアの発電機が極端に少ない。
「……毎回言うようで悪いが、俺の行動よりあっちのほうが問題じゃないか?」
[毎回同じ回答をするようで悪いが、これはもう予定調和というほかないだろう?]
その言葉にイオはため息をついた。
「あと、気を使ってるんだろうが既に手遅れなレベルで建物の被害が出たからといって
建物にそれ以上気を使わなくていいとはならないと思うぞ」
[む、そういうものなのか?]
「そう言うものだろ……」
時たまポンコツになる2人目の同期メンバーのことを思ってイオは再びため息をつくと、
くしゃみを一つしてシールドに取り付けてあるポケットティッシュを手に取った。
どもー、時空未知です。
ブルーアーカイブはハーメルンの2次創作とアニメに触発されてつい最近始めました。
まだまだにわかですがよろしくお願いします……
さて、何でこんな設定がとち狂った作品を書こうと思ったのか、
見切り発車していざ過去の自分に問いかけてみますが何もわかりませんでしたありがとうございました。
ほぼ同名のユーザーネームでpixivにも小説投稿してるんですが
エタらせた試ししかありません。この作品もどうなるかわかりません。
できる限り続けられるよう善処するのでよろしくお願いします……