楽園に雷光は走る   作:時空未知

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アビドスストーリー……それも過去にまつわるやつ、更新しましたね……。
いや、嬉しいんですよ?それはマジなんですけど公式の設定、乖離しちゃうかも……乖離したら若干修正入れるつもりなんでよろしきおねがます。


悪夢は廻る(2)

 

押し寄せてくるカイザーの軍勢。

ホシノが、大切な先輩がいない。

そんな状況にも関わらず、生徒たちは心を奮い立たせ、前に進んでゆく。

先生も、いつも以上に冴えわたる指揮でそれに答える。

圧倒的物量をものともせず、彼女達はついに校門にたどり着いた。

その正面。カイザー理事が、傲慢に、彼女達を見下ろしていた。

 

「ふむ。学校まで出向こうと思ったのだが、お出迎えとは感心だ」

 

まるで、ここの主が自分であるかのような物言い。

そんな理事に普段は温厚なノノミが真っ先に噛みついた。

 

「……これは何の真似ですか? 企業が街を攻撃するなんて……いくらあなたたちが土地の所有者だったとしても、そんな権利は無いはずです!」

[それに、学校はまだ私たちアビドスのものです! 進攻は明白な不法行為! 連邦生徒会に通報しますよ!]

「スカウトなんて、最初から嘘だったってこと? ……いや、それよりもホシノ先輩はどこ?」

「この悪党め……ホシノ先輩を返して!」

 

それに続けてアヤネが、シロコが、セリカが、理事に敵意を剥き出しに声を上げる。それに対して理事が怯むことなく、ただ、自身の勝利を確信し笑ったままだった。

 

「……くくくっ、何を言ってるのやら。それに、そのことについてはこいつの方が詳しいだろう?」

 

そう言って理事は背後に顔を向ける。

それと同時に進み出てきたのは、特務士官、その人だった。

特務士官は昨日あった時と変わらず、親しげに、彼女達に手を振った。

 

「やっほー、みんな昨日ぶりだね。会いたかったよ〜?」

「え、?」

「声が……?」

 

予期せぬ事態に一瞬、彼女達の動きが止まった。

原因は、特務士官の声が大きく異なっていたこと。

あのガビガビとした質の悪いボイスチェンジャーのかかった、よくも悪くもその異質な見た目にあった声ではなく、

柔らかい、のびのびとした少女の声。……要は違和感がひどかった。しかし、驚いたのも一瞬、シロコが厳しい表情を彼女に向ける。

 

「…ボイスチェンジャー、かけなくていいの?」

「ん~……うん。あくまで私の事を知ってるホシノちゃんに聞かれたくなかっただけだから」

 

言うかどうか少しばかり迷っていたようだが、

結局、特務士官はそう答えた。OBであることを隠すつもりはないらしかったので、恐らくは、どの先輩か特定を避けるために使っていたのだろう。そう、検討をつけて、今度は先生が話しかける。

 

「"……ホシノはあなたの上司…カイザーのスポンサーが連れて行った、そういうことだよね?"」

「連れて行ったとは人聞きが悪いな〜。私たちはホシノちゃんを助けただけだよ」

「"助けた??"」

 

ケロッとしてそう言う特務士官に、先生は思わずそう聞き返した。その言葉に彼女はこくりと頷く。

 

「そうだよ。やさしいあの子がこの学校に囚われたままであっていいはずがない。もっと、青春を満喫するべきだよ。

それに……こんなもののよ為に命を散らしていいはずがない。

私はホシノちゃんを守りたいだけ。もちろん、みんなもね。私はみんなを迎えに来たんだよ?」

「ふざけないで……何が助けるよ、何が守るよ…!」

「私達の大切なものは私達が決める。カイザーにも、諦めたあなたにも、決められる筋合いはない」

 

やさしく……それでいて独善的で、執着のようなものが垣間見える特務士官の言葉。それを生徒達は真っ向から跳ね除けた。

しかし、特務士官は特に気にしていないようだった。

 

「うんうん。それはそうだよね。今まで大切にしてきたものをはいそうですかって、簡単に捨てられるわけがない。私だって同じだよ。……だからね、」

 

特務士官は腰に装備された斧の片方を抜き放つと、サブアームを操作し、右手に特異な形の銃を受け取る。

 

「申し訳ないけど、ちょっと痛い思いをしてもらうね?」

「「「「!!」」」」

 

特務士官が戦闘態勢に入ったのを見て、反射的に身構える生徒達。特務士官はまだ仕掛けることなく、先生の方にカメラアイを向けた。

 

「先生、あなたは黒服さんに連れて行ったらダメって言われたからみんなと一緒に居させてあげられないの。ごめんね」

「"……大丈夫だよ。私だって、このまま引き下がるつもりはないから"」

「そもそも、先程もアヤネちゃんがいった通りこれは明確な違反行為……連邦生徒会が黙っていませんよ」

 

先生も、特務士官を、そして今なお悠々とこちらを見下ろすカイザー理事を決意を宿した目で睨みつける。

それに追従して、ノノミがそう宣言した。

連邦生徒会……ここキヴォトスの最高権威。いくらカイザーといえど、そこに目をつけられてはただでは済まない。

……そう、目をつけられたなら。

 

「連邦生徒会に通報だと? 面白いことを言うじゃないか、今すぐにでもやってみたらどうだ?」

 

カイザー理事が、ノノミの言葉に答えた。

その言葉は、ニタニタと笑みを必死で噛み殺しているような声色だった。

生徒達のヘイトが一斉にそちらを向く。

……ただ、アカネだけがその言葉に息を飲んだ。理事は続ける。

 

「だが、君たちはこの状況について、今まで何度も連邦生徒会に嘆願してきたのだろう? それで、一度でも動いてくれたことがあったか?」

「…………」

 

誰も、答えない。ただ、理事を睨みつけているだけだ。

その様子を、理事はふ、とあざ笑う。

 

「無かったはずだ。何せ連邦生徒会は今、動けないからな。いや、連邦生徒会でなくても良い。今までどこか他の学園が、君たちのことを助けてくれたことはあったか?」

 

……答えは否、その時、先生の背筋を悪寒が駆け抜けた。

 

(……待って、何かおかしい。なんで理事はこんなに余裕ぶってるの?まさか、こんな大規模な軍事行動がバレないとでも思ってるの?……そんなわけがない)

 

そして、その悪寒を裏付けるように理事は告げた。

 

「……そろそろ分かっただろう? 誰一人、君たちに手を差し伸べる者はいない。そして、アビドスの最後の生徒会メンバー、小鳥遊ホシノが退学した。アビドスの生徒会は、もう存在しないも同然。君たちはもう、何者でもない」

「…………!」

「"……嘘"」

「公的な部活も、委員会も、生徒会も、自治区すらも無いアビドスは、学園都市の学校として自立・存続が不可能だと判断するしかあるまい──やれやれ、仕方ないな、この自治区の主人である我がカイザーコーポレーションが、あの学校を引き受けるとしよう。そうだな、新しい学校の名前は『カイザー職業訓練学校』にでもしようか」

 

カイザー理事の言葉が本当なら、アビドス対策委員会は公式の委員会ではないことになる。だとすれば、このカイザーの横暴を、公的機関が止める手段が全く存在しないことを意味する。

その意味が生徒たちにも伝わったのだろう。明らかに動揺が広がる。

 

「え……? な、何を言ってるの……!? 生徒会が無くても、アビドスには対策委員会がある! 私たちがまだいるのに、そんな言い分が通じるはずないでしょ!」

 

セリカの必死な言葉。

……誰が聞いても、言葉とは裏腹に動揺していることは明らかだった。

 

[…………それは]

「それはね〜、セリカちゃん」

 

その言葉に答えようとしたアヤネを、特務士官が遮った。

先程から全く変わらない、柔らかい声で。

 

「…………何よ」

「みんなの対策委員会はね、最後の生徒会長がいなくなって、生徒会がなくなった後にできたの」

「…………えっ?」

「だから、正式な承認を受けていない。存在自体がおばけみたいに形がないんだよ?」

「え、えっ……!?」

 

特務士官の言葉が、少しずつ、少しずつセリカの虚勢を削ぎ落としてゆく。

 

「ア、アヤネちゃん、嘘だよね!?私たちは、アビドス対策委員会は……!」

 

信じたくない、信じられない。セリカが通信先の少女に必死で呼びかける。しかし、それに応じたのは、勢いのない。掠れた、小さな声だった。

 

 

[……全部、先輩の言ってることは事実です]

「……そん、な」

 

 

しん、と、その場が静まり返った。誰も、一言も発さない。

そんな彼女たちを見て、理事は何か言おうとしたようだか、それを特務士官が制した。

彼女は、武装を収納し、臨戦態勢を解くと、装甲車から降りて後輩達にゆっくり、ゆっくりと近づく。

 

「みんな、大丈夫だよ。確かに、今までの日々が無駄になってしまうかもしれない、努力が無意味になってしまうかもしれない」

 

それに気がついた生徒達が慌てて銃を構える。しかし、最初にあった覇気は何処か欠けていた。特務士官はなお、歩みを止めない。

 

「でも、借金から、アビドスの呪縛から解放される。それに、ここまで駆け抜けた日々は無意味なんかじゃない。誇っていい証だよ。ただ、辛いことが終わるだけ」

「……そんなこと、私たちは望んでいません。私たちの望みは、このアビドスを、復活させること。学校が廃校になるなんてそんなこと……!」

 

ノノミが必死に反論する。

そんな彼女達に、特務士官は迎え入れるように手を広げた。

 

「安心して。新しい居場所は私が作ってあげるから」

 

特務士官はかくんと、笑いかけるように首を傾ける

 

「みんなはもう十分にがんばった」

 

彼女はそう言って、後輩たちの努力をねぎらう。

 

「もう休んでいいんだよ」

 

彼女はそう言って、後輩たちに柔らかな言葉をかける。

 

「ホシノちゃんも、待ってるから。だから、こっちにおいで?」

 

……そのアーマーの奥に、どんな人がいるのかはわからない。ただ、その人は、柔らかい、純粋な善意でこちらに笑いかけているのだろう。

……手に持っている銃が、端末が、今にもこぼれ落ちそうだ。

それを、何とか取り落とさないように、必死で握りしめる。

 

「……ねえ、先生?」

「"……何?"」

「先生は生徒の安全を願うもので、傷つかないように、守るべき……そうだよね?」

 

特務士官が、カメラアイを動かし、ゆっくりと、先生に言葉を紡ぐ。

 

「私にこの子たちを任せてくれないかな?絶対に幸せにする、約束するよ」

「"……私は、生徒の判断を尊重する。どうするか決めるのはこの子達だよ"」

 

先生は、特務士官の言葉にそう答えた。

しかし、それが特務士官にとっては少し不服だったようだ。

 

「……子供が間違った方向に進みそうになったら、無理矢理にでもそれを止める。それが大人じゃないのかな?」

「"……私は、あなたの示す道が必ずしも正しいものであるとは思えない"」

 

間違っていると曖昧な言い方ではあったが、先生は特務士官の言葉を退けた。特務士官はしばらく黙っていたが、やがてカメラアイを後輩たちに戻した。彼女達は、未だ特務士官の方を睨みつけている。その時、ポツリと声が響いた。

 

[……今ここで戦って、何かが変わるんでしょうか?]

 

……アヤネだった。仲間たちが先生の通信機に一斉に驚いたような視線を向ける。しかし、彼女の言葉は止まらない。

 

[今も、すごい数の兵力がこちらに向かって来ています……。たとえ、戦って勝てたとしても……その後はどうすれば……? 学校が無くなったら、もう戦う意味がありません。学校をどうにか取り戻せたとしても、私たちにはまだ、大きな借金が残ったまま……]

「アヤネ……」

 

少しずつ、少しずつ仲間たちの構えている銃の銃口が降りてゆく。

 

[取引された土地だって戻ってきません。何より、ホシノ先輩もいない、生徒会も無い、こんな状態で……私たちみたいな非公認の委員会なんかに、これ以上、一体何が……]

 

誰もが、少なからず心のそこで思っていたこと。それがポツリポツリと表に現れる。

 

[どうして、どうして私たちだけ、こんな……ホシノ先輩……私たち、どうすれば……]

「……」

 

さく、と

 

砂を踏みしめる音を立てて、特務士官が一歩踏み出した。

俯くシロコ、セリカ、ノノミに向けて、少しずつ歩み寄る。

 

そして……

 

 

 

ドガアアアアン!!!

 

 

 

大まかに北方向で、沈んだ空気を消し飛ばすような凄まじい爆炎が上がった。

誰もが、その方向に思わず顔を動かす。

 

「なっ!?き、北の方角で大きな爆発を確認!合流予定のブラボー小隊が巻き込まれて!」

「何っ!?」

 

爆発に巻き込まれたらしいカイザーPMCから、すぐさま連絡が飛んでくる。

あまりに突然の報にカイザー理事が驚愕の声を上げる。

しかし、そう悠長に驚いていられるほど猶予はなかったようだ。続けざまに爆炎。

またカイザーの小隊が巻き込まれたとの報告が飛んでくる。

……心なしか、爆発がこちらに近づいてくるように思える。

 

「何が起きている!?アビドスの連中はここにいるので、のわっ!?」

 

先程までの余裕はどこへやら。切羽詰まった様子で声を上げる理事だったが、

その声は至近距離で起こった爆発により無理やり封じられた。

そして、その爆炎の奥から、

コツ、コツとハイヒールの音を響かせ何者がやってくる。

 

 

「全く、大人しく聞いていれば何を泣き言ばかり言ってるのかしら……」

 

 

よく通る、芯の入った声が一帯に響いた。

 

「目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、わが道の如く魔境を行く……」

 

その足跡の主の姿が、だんだんと露わになる。

更に、その主に追従して人が1人、また1人と背後に現れる。

そして、煙を先端の何者かが勢いよく振り払った。

 

「それが、あなたたち覆面水着団のモットーじゃなかったの?」

 

現れたのは、便利屋68、陸八魔アル、その人だった。

 

[あ、あなたは?]

「何をすればいいのかわからない、どうすればいいのかも分からない。やることなすこと全部失敗で終わる……ここを潜り抜けたところで、この先にも逆境と苦難しかない……」

 

アヤネの声には答えず、アルは淡々と言葉を並べてゆく。

正に、今のアビドスの彼女達を示したような絶望的な状況……

 

「だから何なのよっっっ!!」

 

それを、アルは一声で打ち払った。

 

「仲間が危機に瀕しているんでしょう!?それなのに、くだらないことばっかり考えて、このまま全部奪われて、挙句そんな輩にいいようにされる……それで納得できるわけ!?

あなたたちはそんな情けない集団だったの!?」

 

アルの強い言葉に、糾弾であり励ましであるその言葉に、アビドスの生徒たちの表情が徐々に、徐々に変わってゆく。

なおも何か言いたげなアルの肩を、ムツキがポンポンと叩いた。

 

「いやいや、アルちゃんその辺で勘弁してあげなよ。メガネっ娘ちゃんは繊細なんだから、こういう時もあるって」

「"便利屋のみんな……!"」

[ど、どうしてあなたたちが……!?]

 

先生が、アヤネが、それぞれ声を上げる。疑問も入り混じったものではあったが、先程までとは全く違う声色。

やはりその声に答えることはなく、ムツキは理事と特務士官をそれぞれ一瞥した。

 

「あはっ。それにしても、私の可愛いメガネっ娘ちゃんを泣かせた罪は重いよ?

だからもうこれは……ぶっ殺すしかないよねっ!!!」

 

普段いたずらっぽく笑ってばかりのムツキ、それが獰猛な表情で敵を睨みつける。

 

「ふふっ、ふふふふふ……準備はできています、アル様。仕込んだ爆弾もまだまだたくさんありますので……」

「はぁ。ただ、ラーメンを食べに来ただけのはずなのに……埋めておいた爆弾で、敵の増援を遮断。その間に敵の指揮官を無力化させて、指揮体系を崩壊させる。これで相手集団を一気に瓦解させる……本来なら、風紀委員会相手に使うはずの戦術だったけど。ま、予行演習ってことにしておこうか」 

 

ハルカはいつも通り、アルの為に全てを捧げる、という表情で。

カヨコは呆れながらも何だかんだ自身の社長のする事に異論はないようだ。そんな彼女達を理事は機械のため表情が全く変わらないはずなのに明らかに憎悪がこもっているとわかる表情で便利屋達を睨みつけた。

 

「便利屋ども……貴様ら、飼い犬の分際でよくも……っ!」

「うるさいわね、そんなの知ったこっちゃないわよ!あなたなんかより先生の方が、一緒に仕事がしやすかった!それだけの話!」

「あはっ。雇い主を裏切ることくらい、悪党としては当然でしょ!そんなことも予想できなかったの?」

 

その勢い若干押されつつもアルが毅然とそう言い返すと、ムツキもそれに追従する。そんな彼女達を、生徒達と先生は惚れ惚れと見つめていた。

 

[便利屋の皆さん……]

 

アヤネは一言そう呟くと、慌ててメガネを押し上げて表情を整える。

 

「そうだね、確かに悪党としては正解」

「……お陰様で目が覚めました。私たちに今、こうして迷ってる時間はありません」

「そうだよ!何よりもまず、ホシノ先輩を取り戻さないと!!」

 

シロコも、ノノミも、セリカも、先程の表情から一転、決意を込めて自身の得物の銃口を正面に突きつける。

 

「"あはは、先生としたことが……不甲斐ないな、私は"」

 

先生はそう言って恥ずかしそうに頭をかくと、脇に抱えたシッテムの箱を改めて構えた。彼女達の目にはもう一点の曇りもない。

その様子を、呆然と見ていた特務士官。そんな彼女にシロコは言い放った。

 

「ホシノ先輩を助ける、今大事なのはそれだけ。だから先輩、あなたの提案は受けない」

「"……だ、そうだよ、特務士官。残念だったね"」

 

……アビドスの少女達は特務士官の提案を蹴った。ならば、先生としてそれを全力でサポートするのみ。

対する特務士官はよろ、よろと一歩、一歩後ろに後ずさった。

その身体が、コツンと理事の乗る装甲車に当たる。

理事はと言うと、先程便利屋に向けていた視線を、アビドスの方へ移していた。そして……

 

「くっ、この期に及んで無意味な抵「あぁーあ」!?」

 

その声は、特務士官が発した声によってかき消された。

悲しげで、苦しげで、それでいて憎悪の籠もった不気味な声。

辺りがしんと静まり返った中、特務士官は動かなくなった。

ただ、その声だけが……その中から聞こえてくる。

 

「どうしてかな……どうして、どうしてこうなっちゃうかな……なんでかな……なんでなんで失敗しちゃうかな……いつもいつもいつもいつもいつも……っ!!」

「と、特務士官?」

 

部下のただならぬ雰囲気に、先程まで激昂していたはずの理事が恐る恐る声をかける。特務士官はしばらく静かになった。

 

「……はぁ、理事さん、戦闘準備」

「な、貴様、私が一応指揮官……」

 

沈黙の末に特務士官はただ、諦めたように一言そう言った。

明らかな命令口調に、思わず理事が反論しようとするが、そんな彼を特務士官のカメラアイがギロリと睨んだ。

 

「戦闘準備」

 

一言、有無を言わさぬ迫力で特務士官がそう言った。

 

「ぬっ……わ、わかった……」

 

気圧された理事は大人しくそう言うと装甲車を後方へ下がらせる。その代わりにPMCの兵がずらりと展開してゆく。

特務士官は未だその場から、突然システムが落とされたように動かない。そんな彼女をシロコは睨みつけた。

 

「……何をする気?」

「……できればね、私だってこういう手段はとりたくないんだよ?穏便に済ませたかったんだよ?

だけどね、もういいや」

 

そう言う否や、その身体がようやく動き出した。特務士官の右手に改めて奇妙な形の銃が、左手に斧が握られる。更に、2基ついたサブアームもそれぞれ武器を保持し展開する。

 

「そうだなー。まず、そこの邪魔な子たちは皆殺し。その後みんなを捕まえる」

「へあっ!?」

「!!!」

 

特務士官はまず最初に便利屋を、次にアビドスの生徒たちを銃口で指し示した。よくわからない上に異様な雰囲気のオートマタに突然「お前らを殺す」と宣言され、

アルがいつものポンコツっぽい表情になり、それ以外の少女達は一斉に身を硬くする。

 

「な、なななな、なななな……」

「社長、落ち着いて……誰だか知らないけど、多分、気を抜いたらあいつの言葉通りになるよ」

 

カヨコがそういった瞬間、ブウン、という音が辺りに響き渡った。音源は特務士官の持つ斧。それが、オレンジ色に赤熱していた。

……キヴォトスの人間といえど、斬りつけられればただでは済まないだろう。

 

「"……皆、構えて"」

 

先生自身も、そう指示を出して、特務士官の一挙手一投足を見逃すまいと固唾を呑んでそれを見ていた。

自身に刺すような視線が集中するが、特務士官は怯むことはない。ただ、ブツブツと何か呟いている。

 

「……何でわかってくれないかな、何で、何で、何で何で何で……私は、私は間違ってない、うん。間違ってない。間違ってない間違ってない……」

 

 

グポン

 

 

特務士官のカメラアイが煌めいた。

 

 




どもー、時空未知です。
ということで今回の作品はいかがだったでしょうか?
楽しんでいただければ幸いです。
本格的に今作におけるユメ先輩の異常性が出てきました。
アビドスの運命はいかに?取り敢えず殺してやるぞ陸八魔アル。

それはさておき私はヤンデレというかどこか精神に異常をきたした女の子が大好きです。特にヤンデレは愛が暴走して対象を監禁しちゃう人が好きです。
ということでユメ先輩の設定をどん。やっと出せた……


ユメ*テラー
ゲマトリア所属、元アビドス高等学校3年の生徒会長の成れの果て。
ビナーの活動により瀕死の重症を負った所を黒服が利用する為に保護。契約を経てR.P.D.が施術され、更にその過程で神秘が増大したことを受け、本来ホシノに施される予定だった反転の実験が施された。
四肢が関節の手前で途切れており、義手義足。顔の左半分に大きな傷跡があり、左目は失明しているためガーゼをつけている。
冷徹かつ打算的な性格で、自分の行動が邪魔されることを極度に嫌悪するが、自分が心を許した人とアビドスの生徒たち、特にホシノに向ける態度は昔とあまり変わらず、のほほんとして柔らかい。しかし、そのスタンスは大きく異なっており、黒服から色彩の存在、そしてそれがもたらす未来を知らされた結果、アビドスの生徒達の身の安全だけを追い求めるようになった。その過程でアビドスが廃校になることすら許容している。というか思考回路が監禁系ヤンデレのそれに近い。
黒服からは実験体でありながら信頼されており、ある程度の自由行動が許されている。
生身の状態の戦闘能力は皆無で、走る事すら難しい。
しかし、専用のアーマーを纏った場合、反応するのが困難なほどの機動力で駆け回りながらの戦闘が行えるようになり、その戦闘能力はキヴォトスでも上から数えたほうが早いほどとなる。
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