楽園に雷光は走る   作:時空未知

14 / 25
手放したもの。守りたかったもの。(2)

 

一方その頃……

 

「ふう…危ない危ない」

 

戦場から離れた場所で、特務士官はそう呟きつつ自分がさっきまでいた場所を見やった。今だ銃撃音と爆撃が相次ぐ戦場……

想定以上にPMCが頑張ってくれているらしい。あの様子だとヒナも、ダリルもこちらを追撃する余裕はないだろう。

特務士官は一息つくと、自分の状態を確認する。

装甲がいくらかへこんだことと、右脚の軽微な破損。

そして、コクピットへの貫通孔が1つ……

 

「……うう、痛たた…今になって痛みが…」

 

早々に撤退して正解だった。あのまま戦闘を続けていたら取り返しのつかない損傷を受けるところだった。

特務士官とて、黒服の情報からダリルがこちらのアーマー情報について握っていることを前提に立ち回ったていたつもりだった。しかし、実際はそれだけでは片付けられないほどの対応と反射行動……当に、このアーマーのことを隅々まで知っているような反応……

 

「もしかして、カーラちゃんの言ってたパパってあの人なのかな?」

 

特務士官はポツリとそう独り言を漏らす。

しかし、まあいいかと呟いて立ち上がると、近くの瓦礫に視線を向けた。

 

「誰だか知らないけど、そこに隠れてるのはわかってるよ」

「……まさか、バレているとは思わなかったわ。流石、と言ったところかしら」

 

瓦礫の奥からよく通る声が響いたかと思うと、4人の人影が姿を現した……便利屋68だ。

ムツキはいつものような蠱惑的な笑みで、

カヨコは鋭く睨みつけるように、

ハルカは最大の怨敵を見つけたかのように、

そして、アルは……余裕そうに必死で見せているのが丸わかりな表情を浮かべていた。

 

(う、うそでしょ〜!もう撤退しようと準備してたらいつの間にか一番来て欲しくない人が近くに来てるし、隠れたのに見つかっちゃうしっ!?ど、どどどど、どうしようどうしようどうしよう!?)

 

「ふふん、私は高性能なレーダーを積んでるからね、あなた達の位置は丸わかりだよ?」

 

アルの表情を見たからか、特務士官が小さくエッヘンと胸を張る。

 

「…その割に攻撃してこないんだね~。てっきり私達……というかアルちゃんにさんざん煮え湯を飲まされたから復讐しに来るかと思ったけど」

「ムツキちゃん、だったね?あの時はこの上ないぐらい怒ってただけだからね。いや〜、見苦しいところを見せちゃったな〜」

 

一度も聞いていないはずのムツキの名前を言い当てつつ、のほほんとした口調でそう言う特務士官。そんな彼女に、カヨコは視線を厳しくする。

 

「……私達の事は既に調査済み、ってことね」

「そうだよ、カヨコちゃん。身体が壊されちゃったせいでしばらくやることもなかったしね……みんなのことは調べさせてもらったんだよ」

 

そこで一旦言葉を切ると、特務士官はカクン同時に首を傾げた。

 

「それで、何しに来たのかな?便利屋68のみんな?」

 

特務士官の口調が、一気に落ち込んだ。あたりの空気が緊張を帯びる。気に入らない回答をしたらその時点で殺す。とでも言いたげな様子だった。

アルがフリーズするが他の社員たちはそれに動じず相手の様子を伺う。

 

「……あなたこそ何をするつもりなの、特務士官?」

「カイザーPMCはそろそろダメみたいだからさ、適当に戦ってから三行半叩きつけて逃げようとしてるだけだよ?」

「とぼけても無駄だよ。アビドスにあれだけ執着してたあなたがここで諦めるはずがない。疲弊したあの子たちを追撃して、今度こそ自分の手の内に収めようとしてる……違う?」

 

カヨコの鋭い言葉に、特務士官は一瞬動きを止めると、諦めたように肩をすくめて首を振った。

 

「すごいな……カヨコちゃんは、全部正解だよ。

1つ文句があるとすれば、私はみんなを助けたいだけなんだけと……まあいいや。それで、その事を知ったからってどうするつもり?」

 

ジャコン

 

特務士官のサブアームが展開し、両手に斧が握られる。今にも、彼女達に斬りかからんとするかのように。

 

「あの時と違ってシロコちゃんはいない。あなたたちに勝ち目はない……すぐに何処かに行ってくれるなら見逃してあげてもいいよ?余計な戦闘はしたくないし……」

 

特務士官から、仄暗い殺気が溢れ出す。その重圧に、思わずカヨコ達も身を引く。

……しかし、ただ1人、揺らぐことなく特務士官を見つめる人がいた……アルだ。その瞳には先程までの怯えも、焦りも、何一つ無い。ただ、静かな怒りのみが、そこにはあった。

 

「……さっきから聞いてれば何なのかしら。初めて会ったときもそうだったわね。人の話を聞かないで、自分の最善だけを押し付けて……」

「……どういうこと?」

 

特務士官が底冷えするような声でアルに問いかける。

ぼんやりと光るカメラアイが、じっと彼女を見つめる。

しかし、アルはそれを堂々と見つめ返した。

 

「あの子達があなたの助けを望んでいないこと位、わかっているでしょう!!それに、監禁まがいのことをして、それであの子達を守る、ですって?冗談にも程があるわ。何もわからない、何の自由もない場所で、ただぬくぬくと過ごせだなんて……そんなこと、耐えられるわけがない!」

「……みんな、みんなこれから起こることを知らないからそんなことが……」

 

特務士官が小さく、弱々しくつぶやく。しかし、その言葉をアルは鼻で笑った。

 

「はっ、これから起こること?そのことが何なのか、私達は知らない……でもね、」

 

そこでアルは言葉を区切り、息を一つ付くと、堂々と言い放った。

 

「いつ、どこの誰がそれに、あの子たちが立ち向かえないなんて決めたの!!」

「そ、それはっ……!」

 

特務士官はその言葉を否定しようとした。

しかし、声が出なかった。彼女の知っている来たるべき厄災は、あくまで黒服から聞いたものに過ぎない。自分の身体に流れ込む異質な力の一端が、その厄災由来であることも知っている。

しかし、それだけだ。それが真に何であるか……どれほどのものかすら、彼女にはわかっていなかった。

それに、頭の片隅にずっと、ずっとあの場面がこびりついて離れなかった。

 

(先輩、あなたの提案は受けない)

 

シロコ達が、自分の後輩達が自分を拒んだこと、自分のことを間違ってるといったこと、

それが、心に深く深く突き刺さっていた。アルは続ける。

 

「共に戦ったからわかる……あの子達は、アビドスは強い。力も、そして心も。

だから、これだけは言えるわ。あなたみたいな偽善者に守られるほど弱くない!!」

「う、あ……あ……」

 

特務士官が、ザク、ザクと後ずさった。

その口から、感情がぐちゃぐちゃに入り混じった声が零れる。

そしてその末に、特務士官は固まったように動かなくなった。

 

「ありゃ、思った以上に効いたみたいだね?」

「……そうみたいね。もういいは、みんな、撤収よ」

 

ピクリとも動かなくなった特務士官を一瞥すると、アルは今度こそ戦線から離脱するために背を向けた。

その時、

 

 

「……る、さい」

 

 

特務士官から、声が漏れた。

アルたちが慌ててそちらの方を振り向いた。

特務士官に動きはない、ただ、止まったままだ。しかし、

 

「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいっっ!!!!」

 

特務士官の中から、最早悲鳴のような声が溢れる。

 

「私が守らなきゃいけないの、私が守らなきゃダメなのっ!!

私が……私のせいでアビドスは取り返しのつかない所まで破綻した、私のせいでホシノちゃんがたくさん傷ついた、ホシノちゃんだけじゃない………私のせいで、私のせいでシロコちゃんもノノミちゃんもセリカちゃんもアヤネちゃんも、みんな、みんな苦労してる……」

 

それは贖罪と懺悔か。

特務士官の中に閉じこもった少女から、次々と声が溢れ出す。

ガクン、と、アーマーが、サイコ・ザクがつんのめるように足を前に踏み出すと、アルたちに向けて斧の刃を向けた。

アル達は、反射的に戦闘態勢に入る。

 

「アビドスから……私が残した呪縛からみんなを解放しなきゃ」

 

そう、全部背負うのは私だけでいい。

傷つくのも、私だけでいい。

過去の罪の清算のために、何より、みんなのために。

じゃないと……を、梔子ユメ(バカな自分)を殺して生まれた

特務士官(今の自分)に、何の意味があったの?

 

「……邪魔」

 

サイコ・ザクの凶刃が、アル達に踊りかかった。

 

________________________

 

[……カイザーPMC、完全に撃滅しました]

「そう、ありがとう」

 

一通りの索敵を終えたのか、ホッと一息ついてそう報告したアコ

の言葉に、ヒナは一言礼を言うと、目の前の状況に意識を移した。

特務士官と名乗るアーマーを装備した人物の急襲……短時間のみであったにも関わらず彼女と、それに触発されたPMCの゙一転攻勢により風紀委員会にもかなりの損害が出ていた。

一般委員は半数以上が戦闘不能。

チナツはビッグ・ガンの爆発に巻き込まれ軽傷、

イオリも特務士官の襲撃により軽傷、物資の損耗は更に激しい。

……また万魔殿から揚げ足取りをされそうだ。

ヒナはこれからのことを思い溜息をつくと、すぐ近くでチナツを介補しているダリルに話しかけた。

 

「チナツ、ダリルもお疲れ。特にあなたがあそこで相手に損傷を与えていなければ、もっと被害が拡大していたかも」

「……ありがとうございます委員長。しかし、自分としては不甲斐ないばかりです。出来ることならあれを捕縛したかった」

 

反応こそ返したものの、続けた言葉通り沈んだ表情でそう言うダリル……先生との会話の時、後であれについて話すとは言っていたが、一体特務士官、というより装備していたアーマーと彼女に一体何があったのだろうか?

 

[……何をそんなに心配しているのか知りませんが、念の為入手した音声データから特務士官の正体が誰か、位は調べておきますよ。そこからあのアーマーの正体までわかれば御の字ですけどね]

「……行政官、心遣いに感謝します」

 

アコなりの気遣いなのだろう。

……あの時のダリルの様子は控えめに言って異常だった。

あの会議が終わった後も次の日まで姿を見せることはなく、

集合したときもその表情は精彩を欠いていたように思う。

それに、自身が不利になるにも関わらずいつも持ち歩いている音楽プレイヤーのボリュームをめいいっぱい上げたあの行動……

あの時の特務士官をみる視線は、昔、風紀委員会に入る前の彼女の時と似たものだった。

 

何かから追い立てられるような、忘れようとするような瞳。

 

あれは……

 

「……委員長?」

 

……気がつくと、ずっと物思いにふけっていたようだ。

ダリルがこちらを心配そうに見ている。

 

「……なんでもないわ。気にしないで」

 

ヒナはそう言うと、視線を逸らした。

 

 

________________________

 

 

……サク、サク、

 

 

砂塵の舞う夕暮れの砂漠の中、

何者かがゆっくり、ゆっくりと廃墟と化したアビドス高校の本館の側面を進んでいた。

 

 

「……やっと、終わった」

 

 

掠れた、疲れ果てた独り言が発され、砂塵に消える。

黒く砕けたヘイロー……特務士官だ。

装甲は傷がない場所を探すほうが困難なほど硝煙で黒く汚れ、あるいは着弾の衝撃でひしゃげ、破断している。

動力系も背面のスラスターは至近距離からの爆発によるものか黒煙を上げており、動力パイプも大部分が破断、関節からはスパークが飛び散っている。

武装は辛うじて二振りの斧が残っているのみ。

何より、胸部装甲が砕け、ユメの金色の瞳がちらりと覗いていた。

 

……便利屋68との戦闘。それはユメの想像以上に厳しいものとなった。普段少し頼りないアルがゾーンに入ったことによって発揮された神がかった連携。更にユメ自身が自棄になったことにより

戦闘に彩を欠き、彼女達が全滅するまで戦闘を続けた結果、辛うじて全員を気絶させたものの、

サイコ・ザクは動けていることが奇跡と呼べるほどの損害を受けていた。

……この状況では、いくら消耗しているとはいえ後輩たちに勝てるわけがない。

しかし、彼女は止まらない……いや、そもそもそのことを理解できているのすら理解していないのだろう。

 

「……早く、みんなのところに行かないと」

 

どこか、ぼんやりとして、壊れてしまいそうな口調、足取りのまま、

ユメは廃墟の中を進む。

その脳裏を、いくつもの光景が駆け巡る。

こちらに銃を向けるシロコ、自分の理想を否定し、そして最後まで抗ったアル、そして……昔の自分ならこんな事をしないと今の自分を否定したホシノ。

 

「私、は……間違って、ない」

 

掠れた声で自分を慰める。

そう、間違ってない。間違ってなんてない。

だって、こうしないとみんなが死んじゃうから。みんなを守らないといけないから……あれ、

 

「どうして、みんなを守りたいんだっけ?」

 

ふと、ぐちゃぐちゃとした思考の中で、そんなことが思い浮かんだ。

……だんだんと、思考が澄んでくる。

 

みんなが、大切だから。

みんなに、幸せでいてほしいから。

みんなの…………

 

…………

 

……

 

 

 

「ただいま」

 

 

声が、聞こえた。

 

決して、大きなものではない。

決して、自分に向けたものではない。

 

でも、ユメには確かに聞こえた。

 

声の主は、知っている……知らない、わけがない。

 

大体数十メートルほど先の、自分がいる建物の日陰から出た、すぐそこ。

 

桃色の髪の小柄な少女が、うれしそうな、それでいて泣きそうな、笑顔で笑っている。

 

次の瞬間、その身体が駆け寄ってきた後輩たちの波に飲まれた。

 

「おかえり、先輩」

「もう……本当に心配したんですからね」

「そうよっ!もう、どこにも行かせないんだから…!」

「せめて次からは連絡の一つはください!」

「うへ〜、みんな、ごめんね……」

 

シロコも、ノノミも、セリカも、アヤネも、表情は一人一人少しずつ違う。

でも、誰もが安堵し、そして笑顔でいるのは確かだ。

みんなの顔が、夕日に照らされてキラキラと、輝いて見えた。

 

あぁ、そうだ……みんなの、みんなの笑顔が大好きだから。

 

笑顔を失いたくないんだ。

 

「……あぁ」

 

後ろでみんなもその様子を見守る先生も、うれしそうだ。

 

私の元からホシノちゃんを助け出して、救って、よかった、よかったと笑っている。

……守りたかったものを壊していたのは、私の方だった。

 

あぁ、四肢を捧げて、アビドスを切り捨てて、神秘すら捨て去って……

 

私の、してきたことは、一体、なんだったのだろう………

 

 

 

 

「……あれは…!」

 

ふと、ホシノ達と揉みくちゃに抱き合っていたノノミが、

うって変わって緊迫した声を上げた。

ノノミの視線の先を見ると、すぐ近くの建物の影に、特務士官の姿があった。

 

「"……みんな、残念だけど、再会を喜ぶのはもう少し後みたい"」

「……全く、こんな時に邪魔しに来るなんて……!」

 

セリカがそう毒づく。

武器を持っていないホシノは一歩下がり、シロコたちは武器を構え、前に進み出る。

……しかし、特務士官は一向に動く様子がない。

ただ、じっと、影の中からこちらを見るのみだ。

それに、その機体は大きく損傷しているようにも見える。

 

「……様子が、へん?」

「確かに……いつもならこちらに声をかけできますよね?」

 

生徒たちもそれを訝しんでいるようだった。

 

 

……その時、先生の脳裏に、つい最近の不気味で、特異な記憶が蘇った。

 

[ホシノは、アビドス砂漠のPMC基地の中央にある、とある部屋にいます。今は、私たちの手厚いもてなしを受けているところでしょう]

 

目の前の机について、不気味な笑みを浮かべる黒い、ひび割れたなにか。

……自らを黒服、と称したそれはそう私に告げた。

特務士官の言葉通り、ホシノは丁重に迎えられているらしい。

……それだけわかればいい。後は、なんとしても取り返すだけだ。

私は、ふう、と息をつくとくるりとそれに背を向けた。

……それを見て、黒服はふと、思いついたように先生に話しかけた。

 

[本来であれば、ホシノには[ミメシス]で観測した神秘の裏側、つまり恐怖。それを、生きている生徒に適用することができるか。そんな実験の実験体として使う予定でした]

["……どういう意味!?"]

 

実験、という不吉な言葉……

いや、それ以上に、予定だったとは一体……?

先生の反応を見て、黒服はクツクツと笑った。

 

[そのままの意味ですよ。と、言いましても、思わぬ実験体が手に入ったのでホシノはもう必要ない。という意味ですが……

時に先生、アビドス最後の生徒会長についてはご存知ですか?]

["……ホシノから少しだけ聞いてるけど、まさか……"]

 

先生の表情が更に険しくなる。

しかし、黒服はやはり動じることは無い。

 

[少し誤解があるようですが……私共は、砂嵐に見舞われ、更に瀕死の重傷を負った彼女と取引をしただけですよ。即ち、命を助け、アビドスの借金の半分の肩代わりをする代わりに、自身の一切の権利をこちらに預ける……と。当時の彼女の神秘は微々たるものでしたが、まさか、あそこまで膨大になるとは思いませんでしたが……]

["そんなことはどうでもいい!ユメは、どこにいるの…!"]

[……やはり、わかりませんね。過去の人間にどうしてそこまで?今のアビドスが危機に瀕しているのは彼女がカイザーに言われるままに、唯一残っていた旧オアシス付近のなけなしの土地も全て抵当に入れてしまったことも原因の一端だというのに]

 

先生の問には答えず、黒服は遠回しにユメを批難する。

即ち、今、先生達が危機に陥っているのは、梔子ユメが原因であると。会ったことすらない上にそんな彼女の身を案じる必要があるのかと。

しかし、先生は首を振った。

 

["……そうだとしても、彼女は、私の大切な生徒だよ。なにかあったら……!"]

 

先生はそう言って黒服を睨みつける。

黒服は、先生のその様子がたまらなく嬉しい、とでも言うかのように身をふるわせたが、然程経たないうちにそれは止まった。

 

[先生、やはりあなたはすばらしい人だ……しかし、彼女はホシノの為に実験に同意しました。在りし日の梔子ユメは、もういない]

 

 

 

……あの時の黒服の言葉。

はじめは特務士官の言葉通り、梔子ユメは実験の犠牲となり、その命を散らしたのかと思った。

けれど、思えばあの言葉の中で、黒服は一度もユメが死んだとは言っていなかった。

思えば、特務士官はやけにアビドスの事情に詳しかった。そもそも、もし、本当に諦めて転校したのであればあそこまでホシノ達に執着するだろうか。

……もし、もし、あの時、特務士官が言い放った言葉が、過去との決別を示していたのなら。

 

「"……まさか"」

 

先生がそう呟いたその時、

 

 

「きれい、だな」

 

 

特務士官の内から、声が溢れた。

誰に向けたものかはわからない。

ただ、嗚咽が微かに交じった、澄んだ声だった。

 

「……どういうつもり?」

 

シロコが銃を構えたまま、ジリジリと近寄る。

しかし、その言葉に特務士官が応えることは無かった。

彼女は、ゆるゆると背を向けると、ゆっくりとした動作で暗闇に姿を消した。

 

……誰も、その姿を追うことはなかった。

ほとんどの生徒達が、訝しげな表情を送る中、ただ一人、ホシノだけが、蒼白とした表情になっていた。

 

「そん、な……嘘……嘘……」

 

その小さなつぶやきは、誰にも聞かれることはなかった。

 

________________________

 

時はしばらく流れる。

辺りはすっかり夜の闇に包まれ、アビドスの市街地を数少ない住宅地に光が灯る中、その上空を一台のヘリコプターが航行していた。

 

その真っ暗な格納庫にて、傷ついたサイコ・ザクの目の前でユメはただ一人、ぽつんと、金属の膝に顔を埋めて座り込んでいた。

 

その時、奥の扉が開いた……黒服だ。

 

「ククッ、手酷くやられたようですね。それに……どうも、フラれてしまった様子で」

「……傷心中の女の子に、そんなのはあんまりじゃないですか?」

 

ちらりとユメがそちらの方を見てからそう言うと、また顔を伏せた。その目に、消して少なくない量の涙が見えたことも、その言葉が、僅かに震えていたことも黒服はわかっていたが、生憎、黒服はそれを理解はしても気にするような感性を持ち合わせてはいないではない。

 

「クックック、私はあくまで探求者であなたの上司であり、先生ではありません。私がそのようなことを気にする性格でないのは既に知っているでしょう?」

「……でも、少しぐらい、慰めてくれてもいいじゃないですか」

「こういうことは柄ではないのですけどね」

 

ユメが、ポツリとそう言う。

その様子に、黒服は少しだけ考え込んだ末、そう呟くと、ユメの側に近づいてぽんと肩に手を置いた。

 

「梔子ユメ、あなたの行ったことは残念ながら全くの無駄に終わりました。しかし、少なくともあなたは目的の為にがんばった……それでいいのではないですか?」

「………」

 

数十秒ほど、ユメは身じろぎ一つせず、何も答えなかった。

 

「……私、がんばったかな?」

 

ポツンと、ユメがそう言った。

ポタ、ポタと金属の床に水滴が落ちる。

黒服は何も答えない。

 

「……わたしは、わたし、なりにがんばった……それで……いいかな……」

 

その掠れた声もやがて小さな嗚咽の中に消える。

その様子を確認すると、黒服はそっと立ち上がり部屋を出ると、静かに扉を閉めた。

 

 




どもー、時空未知です。
と言うことで今回の作品はいかがだったでしょうか?

……正直、アビドス編は今回と次回を書くためだけにあったとも言えます。今回で、ユメ先輩の執着は心にダイレクトアタックしつつ消し飛びました。次回で最終回兼、おじさんに追加攻撃のお時間です。お楽しみに!

ホシノの今後についてどれがいい?

  • 何とか立ち直ってユメ先輩を連れ戻す。
  • ヤンデレ化してユメ先輩を監禁する。
  • ホシノちゃん壊れちゃった……
  • ユメ先輩とおそろい()になる
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。