ゲームスタート(1)
日曜日のある日の朝。ミレニアムサイエンススクールの校舎のそばを先生は歩いていた。
「"ここがミレニアムかぁ……ユウカが所属してる学校ってことは知ってるけど、こうして来るのは初めてだな……"」
そう呟きながら先生は物珍しそうにあたりを見回す。
休日の朝ということもあり、校内の人通りは少ない。
閑散とした中央広場を、朝日が柔らかく照らしている。
さて、先生がこんな朝早くにミレニアムへ来ていたのにはある理由があった。
端的に言うと生徒と思われる人物から助けを求める手紙が届いたからである。
……と思われる人物というのは、届いた手紙の内容がどうにも変だったためである。
古いRPGのオープニングのセリフのような口調のその手紙……
先生は少し困惑したものの、生徒からの助けを求める声である可能性が捨てきれないため、
結局行くことにした。そして今、廃部の危機にあるというゲーム開発部の部室を探しているところである。
その時だった。
「うわああああんっ!!まただ、また環境のパーフェクトパフェ軍団だあああっ!!」
2階の窓から少女のものと思しき悲鳴が聞こえてきた。
「環境も何も……550コストに行かなければいいだけじゃないの、お姉ちゃん?」
「というかモモイ、いい加減にゲームもほどほどに……って何しようとしてやがるっ!?」
更に別の2人の少女の声が聞こえてきたかと思うと、どたばたとした物音が連続する。
瞬間、
「誰が二度とスイーツ戦士ウォーオペレーション2なんかやるもんか!!!」
ガッシャ―ンッ!!
先生の頭上から何やら何かが割れるような音が聞こえてきた。
「"え?"」
上を見上げればキラキラと輝くガラス片と共に、
四角い未知の重量物Xが自分の脳天目がけて落下してきているところだった。
……言うまでもなく先生はキヴォトスの人間ではない。
重量物が脳天に直撃しようものなら普通に死ねる。
(あ、私ここで死ぬんだ)
既に回避しようにも間に合わない距離まで近づいたそれの角を見ながら、
先生は嫌に冷静な頭でそう思った。
そして……
「っ!!あぶねぇっっ!!?」
ドガアン!!
かわいらしい声色とは裏腹に粗暴な声が響いたかと思うと、
大きな衝撃波を伴った射撃音がそれに連続する。
瞬間、今まさに先生の脳天に直撃しようとしていた重量物Xが粉みじんに砕け散った。
「"みぎゃっ!?"」
中から飛び出してきた基盤やら外装やらの破片をもろにかぶり、先生が悲鳴を上げる。
顔に乗ったそれをぶんぶんと頭を振ってふるい落とす先生だったが、
そんな彼女の耳にさらなる物音と少女の悲鳴が聞こえてきた。
「お、お姉ちゃんなにs、
あ、ああああああっ!!プライステーションが……プライステーションがあっ!?」
「わ、私は悪くないもん!!イオ先輩がプライステーション撃ち抜いちゃったんだもん!」
「おいこらモモイ、さっきのは勢いに任せてゲーム機をぶん投げやがったお前が悪いだろうがっ!
危うく人に……しかもヘイローのない奴にあたるところだったんだぞ!!」
「あばばばばばばゆれるううううううううう」
「"……なにあれ"」
一通り破片をとって先生がゲーム機が飛んできた窓の方を見ると、
そこにはかなり奇妙な光景が広がっていた。
まず視界に移るのは緑とピンクの色違いの服を着た見た目もそっくりな少女2人。
……会話の流れから見るに双子なのだろうか?
緑の少女の方は頭を抱えており、
もう片方の少女は背の高い……メイド?。何故かメイドの服を着た少女に
肩をつかまれがくがくと凄まじい速度でゆすられていた。
……メイド?と書いたのは、
少女の右腕に明らかに服と不釣り合いな切り詰めたスナイパーライフル二丁を連結したような見た目の
シールド付きの大型の武器が装備されていたからである。
と、ここで顔を上げた緑の少女と目が合った。
「"……あ、どうも"」
とりあえずよっと手を上げて反応を窺う先生。
少女はそれを見てぱちくりと目を瞬かせる。
そして……その表情がすぐに蒼白になり、どうしようどうしようと
口がパクパク動く。
その少女は、ようやく揺さぶり攻撃が終わって目を回している自分の姉に
慌てて話しかけた。
「お姉ちゃん!もしかしてあの人って……」
「んえぇ……ミドリ一体な……」
目を回しながらピンク色の少女がこちらをみる。そして、その瞬間その動きが固まった。
みるみるうちに少女の表情が変わる。
……それは、緑色の少女とは異なり歓喜に満ちたものへとだったが。
「ミドリ……やっぱりあの人って!」
「そうだよお姉ちゃん、あの人って……」
そう言った2人は、同時に……しかし、全く対称的な表情で顔を見合わせた。
「「先生だ!」」
そう言うと同時、ピンク色の少女はぴょんぴょんと飛び跳ね、
緑色の少女は頭を抱えた。
「やったあっ!前に送ってた手紙が届いたんだ、これでやっと問題が解決できるよ!!」
「どうしよう……寄りにもよって先生にお姉ちゃんが投げたゲーム機が……どうしよう」
きゃいきゃいと騒ぐ2人を、先生とメイド服の少女は呆然と見つめていた。
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そしてしばらく時間は流れる。
場所は変わり、現在地は助けを求めていたゲーム開発部の部室内。
そのロンリウム製の床に周りのものを無理やりどけて作られた室内のスペースに先生は腰かけていた。
目の前ではメイド服の少女と緑色の少女が
ピンク色の少女の顔面を床にこすりつけながら正座していた。
「この度はうちの部員が危うくあんたに大怪我させかけて……本当に申し訳ない」
「私からも謝ります。ごめんなさい、先生」
「ミ、ミドリぃ、イオ先輩ぃ……いい加減痛いよお」
ピンク色の少女の顔面を固定したまま頭を下げる両2名。
そんな彼女たちに先生はあわてて手をパタパタと振った。
「"いいよいいよ!その子も悪気はなかったみたいだし……私はこの通り、全然大丈夫だからっ!"」
そう言ってエッヘンと胸を張る先生。
その服や髪から、ゲーム機の細かい破片がパラパラと落ちた。
……それをみて、どちらの少女も何とも言えない表情になったが、
やがてため息をつくとようやく拘束を解放した。
瞬間、おでこを若干赤くしたピンク色の少女ががばりと起き上がった。
「ふう……やっと起き上がれたよ……」
「お姉ちゃんも少しは反省したらどうなの?」
「うぅ、一様反省してるよ、ほんとだって」
緑色の少女にたしなめられて半泣きになるピンク色の少女。
それを呆れた目で見つめるメイド服の少女。
そんな彼女たちに、とりあえず先生は話しかけることにした。
「"えっと……君たちがシャーレに手紙を送ってきたゲーム開発部で間違いない?"」
「あ、そうそう!いやー、まさか本当にあんな手紙を読んでくれて……
しかも来てくれるなんて思わなかったよ」
先生の言葉に答えたのはピンク色の少女。
緑色の少女もこのことは知っている様子だ。
……が、メイド服の少女は何のことか分からないようでキョトンとしている。
「……手紙?」
「あー、昨日の夜、先輩があっちのお仕事でいないときに煮詰まったお姉ちゃんがシャーレに助けてほしいって手紙を送ったの。
まさか昨日の今日で来てくれるとは思ってなかったから言い損ねちゃって……」
「なるほどな……へぇ、あんたが噂の先生か……」
そういうと少女は物珍しそうに……いや、品定めするように先生をジロジロと見つめた。
その不躾な視線に、先生は狼狽える。
「"え、えと……何かな?"」
「……なるほどな」
先生の問には答えず、少女はそう呟くと、
フッとその端正な顔を不遜な笑みに歪めた。
「あのユウカがご執心で、つい最近もド田舎の危機を救ったと噂の先生サマが一帯どんな大人かと思えば……胸が平均ちょい上ぐらいで以外と平凡な女か。ちと拍子抜けだな」
「"え、ええ……"」
どんな言葉が飛び出してくるかと思えばメイドのイメージを粉微塵に粉砕するような上品さも何も無い粗雑な言葉だった。
よく見ればいつの間にか胡座をかいてるし……
ドン引きする先生に、疲れたような表情をした緑色の少女が話しかける。
「気にしないでください先生……先輩は初対面の人にはいつもこんな感じなので」
「そういうこった」
そう言うと、少女は先生に向けて軽く手を広げてみせた。
「さて、改めて俺たちゲーム開発部にようこそ。
わざわざ来てくれてありがとな。歓迎するぜ?」
「"あ、どうも……みんな知ってるみたいだけど、
私はシャーレの先生だよ。よろしくね"」
先生がそう言うと、ピンク色の少女がニコリと笑った。
「じゃあ私も私も!ゲーム開発部の1年、シナリオライターの才羽モモイだよ、よろしくね!」
「私も同じ1年の才羽ミドリです。イラストレーターで、ゲームのグラフィック全般を担当しています」
続けて緑の少女……名前もそのまま、ミドリが自己紹介する。
名字と見た目から察するに、二人共双子の姉妹なのだろう。
最後にメイド服の少女が軽く手を挙げた。
「音響担当の2年、迅雷イオだ。服装については兼部先のメイド部の制服だから、気にしてくれるな」
「"メ、メイド部……?"」
そんな部活があることにも驚きだが、イオがこの雰囲気でメイド部に入っていることも驚きである。
てっきり、ゲーム開発関連の何かかと思っていたが、
……まさか、コスプレが趣味だったりするのだろうか。
何とも言えない表情になる先生に、当のイオは半眼でそれを見た。
「……その顔、さては信じてないな?」
「"だ、だって……イオが、お帰りなさいませご主人様。なんて言ってるとこ全く想像できないし……"」
「……否定はしない」
先生からの言葉に自覚はあるのか軽く肩をすくめるイオ。
しかし、その横で何故か、モモイがフッフッフと何やら企んでるような笑みを漏らした。
「それもそのはず。実はメイド部は仮の姿
……その正体はあらゆる敵を[お掃除]するミレニアム最強の特殊部隊、C&ムゴッ!?」
次の瞬間、モモイの口をイオの手が塞いだかと思うと、
またまたバイブレーション攻撃が開始される。
「モモイ〜っ!!うちは一応機密部隊なんだよっ!!
それを部外者に教えてどうするつもりだこらぁッ!!!」
「だだだだってえぇ、ほとんど公然の秘密じゃん!!」
「だからと言って言って良いことにはなんねぇだろうがよ!!!」
しばらくモモイを揺さぶっていたイオだったが、やがて諦めたように溜息をつくと先生の方を見た。
「……というわけだ先生。うちのバカがもう言っちまったからあれだか……て、どうした?」
イオが困惑した声をあげる。
というのも先生が部屋の隅に急速退避してガタガタ震えていたからである。イオに見られた先生はビクリと身体を震わせた。
「"あ、あわわわ……け、消されちゃう。
知らなくていいコト知っちゃったから消されちゃう……お掃除されちゃう……"」
「そんなことしないぞ。こいつの言う事を認めるのは癪だが……」
「ふふふ……そうなんだよ、なにせここにいるのはC&Cの最強戦力が一翼、
コールサイン04こと冷酷無比なジャズの悪魔……迅雷イオ先輩なんだから!!」
「"ひえええええ"」
「おいコラモモイ!!話をややこしくすんじゃねえっ!!」
またまた繰り返されるバイブレーション攻撃。
……今日もキヴォトスは平和である。
________________
「うぷっ……流石に3回もされるとキツイ……」
「全面的に自業自得だと思うけどね」
しばらく時間が経ち、短時間で複数回揺すられたモモイが目を回しており、
それを隣でミドリが呆れ顔でみていた。
イオもそれを見て溜息をつくと、ようやく落ち着いた先生の方を見た。
「まあともかく、あんたを消すようなことはしないから安心しろ。
むしろ、うちじゃ本当に公然の秘密になっちまってるから一々消してたら埒が明かない」
「"そ、そっか……"」
どことなく疲れたような表情のイオを見て、先生は若干同情した。
「……まあ、あと紹介するとすれば、企画周りを担当しているうちの部長のユズを含めて
俺たちがゲーム開発部だ。本人は……まあ、そのへんのロッカー適当にあさればいると思うぞ」
「"えぇ、そんな珍獣みたいな……"」
余りにも雑な部長の説明に困惑する先生。更に……
「……そう思えば割と珍獣かも」
「あはは!結構面白い表現かも……うん、珍獣ユズ。いいね」
「"ええぇ……"」
モモイとミドリまでそんなことを言い出して更に困惑は加速した。
それと同時、ガタンと抗議するようにロッカーの一つが揺れた。
彼女たちが驚いてそちらを見たものの、直ぐにロッカーはピクリとも動かなくなっていた。
「……噂をすれば、だな。まあ、人見知りなんだよ、
そのうち出てくると思うからそっとしといてやってくれ」
「"う、うん"」
先生はイオの言葉に頷いた。
さて、ようやく道が逸れまくった自己紹介が終わり、
本題に移る。何せ、先生は廃部になりそうだから助けてほしいとしか言われておらず、
具体的に何が何なのか分からないのである。そして……
「よしっ!じゃあ先生も来たことだし、廃墟に行くとしよっか!」
その説明とかそのへんの過程を全部吹っ飛ばしてモモイがそう宣言した。
「"……ちょっと待って何を持ってそうなったの?そもそも廃墟って……?"」
先生が訳も分からず混乱する中、モモイはすっかり失念してた、といわんばかりにポンと手を打った。
「あ、じゃあ最初から順に説明するね。えっと……」
「おい、モモイ。お前今廃墟に行くっつったか?」
その言葉を遮ったのはイオだった。
心なしか、いつも鋭い目つきが更な鋭くなっている気がする。
イオの圧力のこもった視線に気圧されるのも一瞬、モモイはイオに気丈に言い返す。
「だって……イオ先輩に言ったら絶対反対されるし……」
「当たり前だろうが。あそこは連邦生徒会長がいなくなる前は立ち入り禁止になってたエリアだ。
何があるかわかったもんじゃない。そんなところにそう易々と……」
「でもっ!あそこにはゲーム開発部を廃部の危機から救うものが確かにあるんだって!!
それに、私だって危ないのはわかってるから先生を呼んだんだよ?
これで大丈夫だって」
「"え、危険なの??"」
自信満々にこちらを指さすモモイに先生は驚愕と若干忍び寄ってくる嫌な予感を覚え、
モモイにそう話しかけるが、本人は全く気付いていない。
そして、イオはというとモモイと先生の表情を交互に見返し、やがて溜息をついた。
「……取り敢えず話は聞いてやる。つまらないことだったら許可するつもりはないぞ」
「やったあっ!!」
「"え、えぇ……"」
自分抜きにトントン拍子に話が進み、困惑する先生だったが、
まあ、生徒のすることにはどうせついて行くつもりだし……
と思い直し、とりあえず大人しくすることにした。
話が纏まったことにモモイは嬉しそうにしながら改めて説明を始めた。
「まず、私たちゲーム開発部は今までずっと平和に16ビットのゲームとかを作ってたんだけど。
ある日、急に生徒会から襲撃されたの」
「襲撃……」
「……いくつか語弊があるが、まあいい」
モモイの言葉になんとも言えない表情になるイオとミドリ。
その表情と先程までのモモイの様子から、苦労してるんだな……と先生は遠い目になる。
そんな周りの空気はいざ知らず、モモイは言葉を続ける。
「一昨日には生徒会四天王であるユウカから最後通牒を突き付けられて……」
「"最後通牒??"」
自身の知り合いがでてきた上に何やら最後通牒などという不穏な単語が出てきたため、
先生は素っ頓狂な声をあげる。
彼女がそのままモモイにその意味を聞こうとしたその時、
「それについては私から説明しましょうか?」
声が、部室内に響いた。
どもー、時空未知です。
ということで今回の作品はいかがだったでしょうか?
……ようやくスマホが復活しまして、カタカタ執筆していたところ
予想外に長くなりまして……取り敢えず前半部分を投稿した次第です。
廃墟に行くのはあと1、2話先になるかも。
さて、いよいよイオが登場です。戦争から救われて
ゲーム開発部の振り回されながらも元気にやっているイオです。
先生への第一印象は少々警戒している程度。
まだまだ初対面で、しかも大人だからねしょうがないね。