楽園に雷光は走る   作:時空未知

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魔王に従う生骸

 

 

「な、何なのよこれっ!」

 

 

良く晴れた空の下、ユウカの悲痛な声が響き渡った。

まあ無理もないだろう。正面には数多の不良たち……

但し、銃火器や爆発物を持っているものとする、が無秩序に暴れる戦場が広がっていたのだから。

さて、話はここに来る前にさかのぼる。

行政権を復活させるため、現在行方不明の連邦生徒会長が先生に残したあるものを入手するため

一行は先生が所属する超法規的機関、

連邦捜査部S.C.H.A.L.E(以下、シャーレ)の部室に向かうことになったのだが、

そこで連邦生徒会に不満を持つ不良たちが暴動を起こしているとの報が入ったのだ。

その為、丁度いたリン曰く、「各学園を代表する暇な人達」こと、

ユウカ、ハスミ、チナツ、スズミ、ダリルを連れてシャーレの奪還に訪れていた。

 

「なんで私たちが不良たちと戦わなきゃいけないの!?これでも私はうちの生徒会所属で……」

「サンクトゥムタワーの権限復活……

引いていえば学園都市の混乱を収めるには部室の奪還が必要ですから」

「それはそうだけど……」

 

なおも文句を言いたげなユウカだったが、運悪くその後頭部に流れ弾が直撃した。

思わず頭を押さえて膝をつくユウカ。

 

「"だ、大丈夫!?"」

 

思わず彼女のもとに先生が駆け寄る……が、

 

「痛ったああああああああ!?あいつら、違法JHP弾使ってるじゃない!」

「"むぎゃ!?"」

 

額に青筋を浮かべて勢いよく起き上がったユウカの頭が直撃し、あえなく後ろに倒れこんだ。

 

「先生っ!?」

「大丈夫ですか!?」

「あなたたち急にどうしたの……ってええ!?」

「"あはは……大丈夫だよ、心配しないで……"」

 

他の生徒たちが慌てて駆け寄り、遅れて気が付いたユウカもそれに加わる。

当の本人はというと、若干額を赤くはれさせたものの大丈夫そうである。

それを見たハスミは、安堵半分、呆れ半分でため息をついた。

 

「……先生、少しごたつきましたが、これで私が言った言葉の意味が分かってくれましたね?」

「"よくわかりました……痛いほど"」

 

彼女が言った言葉とは、キヴォトス人は外に住む人々よりはるかに肉体強度が高いことだ。

事実、先生はたんこぶを作っているが、

対するユウカはたんこぶどころかぶつかった部分が赤くなってすらない。

 

「作戦は先生の身の安全が最優先、次いでシャーレの奪還です」

「"私は戦術指揮を執るよ。みんなの武器は?"」

 

ハスミの言葉に続いて先程の様子から一転して

真剣な面持ちになった先生が、そう言って生徒たちを見回した。

 

「わ、私は二丁サブマシンガンです。一応即席のシールドも作れますけど、

あくまで生徒会の役員ですからね?戦闘は専門外で……」

「私はアサルトライフルと閃光弾を少々。戦闘には心得があります」

「私は一応拳銃を持ってますが……委員会では基本的に遠隔応急キットで後方支援をしています」

「"わかった。それじゃあ、ユウカは前線で敵の撹乱、スズミはその援護、

チナツは私と一緒に後方支援をお願い"」

「「了解しました」」

「え、ええ!?ちょっとまって先……ああもう、わかったわよ!」

 

スズミとチナツとは対照的に、ユウカはやけくそ気味にそう頷く。

先生はそれを確認すると、今度はハスミとダリルの方を向いた。

方やスナイパーライフル、方や対戦車ライフル、特に何か言われなくてもだいたい予想はつく。

 

「"二人は…狙撃が得意なんだよね?"」

「うーん、大体あってますけど俺は超長距離狙撃が主体で

ハスミさんの方が交戦距離は近めです。あと、記憶が正しければAP弾を持ってたはずです」

 

それに答えたのはダリルだった。柔らかい風貌も相まって優しい印象を受ける。

 

「"へぇー、詳しいんだね。二人は仲良しな…"」

 

そこで先生の言葉が途切れた。原因はダリルの横で、殺気にも似た黒い不満オーラを噴出させているハスミが原因である。ダリルは相変わらずニコニコしているので、余計にそれが強調されていた。フリーズする先生に、慌てた様子でチナツが話しかけた。

 

「先生、私達ゲヘナ学とハスミさん達、トリニティは仲がかなり悪いんです!特に、先輩は風紀委員会に入る前は所構わず襲撃を仕掛けるテロリストで有名だったので、あちらの治安維持部隊に所属していて何度も戦闘しているハスミさんとは折り合いが…」

「"テ、テロリスト…"」

「いやー、あの頃は身の回りの環境の変化が激しく、精神的に荒れていたもので、お恥ずかしい限りです」

「先輩はこれ以上話をややこしくしないでください!」

 

恥ずかしそうに頭を掻くダリル、それに反応して更に隣のオーラが濃くなったのを察してチナツがそう悲鳴を上げた。

…大人しそうな子だと思ってたけど実はかなりやばいのでは?

先生は訝しんだ。

 

「"えと…ハスミ…さん?"」

「…えぇ、大変不本意ですが、彼女の言葉に間違いはありません。大変不本意ですが」

「"じゃ、じゃあ、ハスミは前線に出てもらって、ダリルは私の護衛と支援攻撃をお願い"」

「「了解しました」」

 

ようやく話がまとまった…先生はほっと一息つくと未だ銃声と爆炎の耐えないシャーレへの道を見た。

 

「"それじゃあみんな…行くよ"」

 

_________________________

 

 

目の上のたんこぶだった連邦生徒会が機能不全になった。

その連邦生徒会が大切にしている何かがここにある。

 

そんな噂が不良たちの間で流れた。

 

…日頃から溜まりきっていた鬱憤、そんな噂を聞きつけた彼女たちが暴動に及んだ事にはなんの不思議でもない。

その大切なものがなにかはわからないが、取り敢えず集まっていた沢山の仲間たちと暴れる。

たったそれだけのことだったが、彼女たちがある種の高揚感に包まれるには十分だった。

しかし、その高揚感は長くは続かない。

 

突然、隣にいた仲間の1人が横合いから襲ってきた弾幕によって意識を刈り取られた。慌ててその方を向いた彼女の目に写ったのは、自分に寸分の狂いもなく飛んでくる銃弾だった。

 

 

「"ユウカ、正面に15人、周辺に瓦礫も多いからシールドは温存。前に出過ぎすヒットアンドアウェイで削って。

スズミは死角のカバーを"」

 

「"ハスミ、ダリル、痺れを切らして出てきた敵の撃破をお願い"」

 

「"スズミ、敵が固まった。右奥約10メートルに閃光弾を投擲して。ユウカはシールドを張って吶喊!"」

 

矢継早に下される先生の命令、それに的確に従い生徒達が動く。

統率の取れていない不良はろくな反撃もできす瞬く間に鎮圧されてゆく。

 

「先生、路地から敵の増援が!」

「"っ、ダリル!近くの車を…"」

「わかってますよ、先生」

 

先生がその言葉を言い終えるよりも早く、大口径の銃弾が放たれる。戦車の装甲を貫通することを前提に作られたその弾丸は、放置された車のガソリンタンクを一瞬で貫く。

一拍遅れて、車が路地の出入り口を巻き込んで起爆した。

 

「うぎゃっ!?」

「て、撤退!後方に退避しろー!」

「あちっあちっ!誰か消して!服が燃えて裸になっちゃう!」

 

せっかくの増援が悲鳴を上げて逃げてゆく。

戦況が無理な状況でこのような事が起きたとなると…

 

「…か、勝てるわけがない」

「に、逃げろっ!」

 

瞬く間に相手の前線は崩壊。

不良たちがこの一角からいなくなるのに、然程時間はかからなかった。

それを確認した先生がふう、と一息ついた。

 

「敵部隊の撤退を確認しました」

「"取り敢えずここ一帯は鎮圧できたかな…一旦休憩にしようか"」

「わかりました。それにしても……今日は戦闘がなんだかやりやすかった様な気がします」

 

一時的とはいえ戦闘を終えて休息に入ったため、ほっと一息ついて近くの瓦礫に腰かけたスズミがふとそんな事を言った。

 

「確かに、先生の指揮のお陰で、普段よりもずっと戦いやすかったです」

「生徒会長が選んだ人だから当たり前なのかもしれないけど……それでもここまで凄いなんて……!」

「素早い地形の認識と敵の把握、そこから導かれる的確な戦況判断と指示…俺が知る中でも間違いなく一、二を争うほど素晴らしい指揮官です」

「"いやー、それほどでもー。皆が優秀なお陰だよー"」

 

口々に褒められて照れくさそうに頭をかく先生。

そんな彼女をどこか羨ましそうな目で見ながら、ダリルは髪に隠れた左耳辺を弄った。

それに偶々気がついたチナツが「む、」と声を上げた。

 

「先輩、また音楽聴きながら戦闘してたんですか?」

「別にいいじゃないかチナツ。キチンとイヤホンしてるし…」

「危ないじゃないですか。指示や戦闘音を聞き逃したりするかもしれないですし…」

「大丈夫だよ。昔からやってることだから慣れてる」

 

チナツは心配して言っているのであろうが等のダリルはどこ吹く風である。

 

「"へぇー、ダリルは音楽が好きなんだ…どんなジャンルなの?"」

「お、聞いてみますか?」

「ちょっと、先生まで…」

 

悲しいことに、先生までダリルに乗っかった。完全に諦めた様子のチナツを余所に、ダリルはイヤホンを外すと、先生の耳に軽く当てた。

 

「"これは…"」

 

そこから流れてきた歌はラブソングだった。少なくとも曲調も歌詞も戦場のそれとは程遠い。意外そうな表情になる先生に、ダリルは少し期待に満ちた目で話しかける。

 

「どうですか、先生?」

「"ちょっと意外かも。もっとギャーンとかギュワーンみたいな曲を聴いてるかと思ってたから"」

「そ、そうですか…」

 

何とも言い難い擬音語で答えられてダリルは少し反応に困った。

ここでユウカが彼女たちに近づいてきた。

 

「へぇ、あなたも戦闘中音楽を聴くのね」

「ユウカさん、でしたか。どうかしましたか?」

 

唐突に会話に参加してきたユウカに少しばかり驚いたようだったが、それ以上にユウカの言葉が気になったのかダリルは首を傾げてそう訪ねた。それに対し、ユウカはイオと共に彼女達が散々起こしてきた被害を思い出したのか疲れたような表情になる。

 

「うちにもいるのよ、似たようなことをする人が…

最も、あっちはイヤホンなしで大音量で流してるけど」

「…なるほど」

 

この時、彼女のすぐ近くにいたチナツはダリルがそう呟くと同時、瞳が剣呑に細められたのを見た。

 

ゾクリ

 

ほのかに漂ってくる背筋が凍るような殺気。

チナツは明らかに様子のおかしい自身の先輩に何か声をかけようとしたが、その気配に圧されて何も言うことができない。

 

「その方はどんな曲が好きなんですか?もしかしたら気が合うかもしれません」

 

もしかしたら自分と趣味の合う人かもしれない、ただそれを確かめるためだけの質問の筈なのに、その言葉には妙な緊張感があった。答え次第では……

 

不吉な予感を覚えたチナツが意を決して声をかけようとしたその時、

 

「どうでもいいのよそんなこと!それよりあの人…

いや、それをひっくるめてうちの治安維持部隊は所構わずそこら中壊したり武器を

次々だめにするせいでそのしわ寄せが全部会計の私に来るのよ!」

 

ダリルの放っていた殺気は悲痛な声を上げてその場に膝をついたユウカによって完全に立ち消えた。

改めて殺気を放っていた本人見れば、先ほどまでの様子はどこへやら、

困惑と哀れみのこもった目で彼女を見ていた。

 

「"ユ、ユウカ、大丈夫…?あっ、泣かないで泣かないで、頭なでてあげるから…"」

「わかります…わかりますよその気持ち。

私達の部長も無意味に壁をぶち破ることがよくありますので。

そのとばっちりが書類仕事のできる私に…」

「…何か、困った方々なんですね…」

 

今までの苦行を思い出したのか涙をザアザアと流すユウカに、

先生は心配そうにしてしゃがみ込むとその頭を撫で、

その隣でハスミが同士を見つけた、と言いたげに肩を抱き、

ダリルは何とも言えない表情でそうこぼした。

その次の瞬間、勢いよく立ち上がったユウカがものすごい速度でダリルの元へ駆け寄って

その両肩をがしりと掴んだ。その勢いに思わずダリルが引き気味になるがユウカは気にしない。

 

「今からでも遅くないわ、ダリルさん。うちに来ない?

戦闘を見させてもらう限りあなたの狙撃は一人につき一発だけ、

それどころかさっきなんて弾丸一発で敵を一網打尽。

余分な破壊も全くないしとても洗礼されていたわ」

「あ、あはは…テロリスト時代は弾薬に限りがあったし、

今でも議会からの嫌がらせで度々予算が減らされるしで節約癖が身についていまして…」

「その能力をどうかうちで役立ててくれないかしらっ!?悪いようにはしないわ!」

「腕を買ってくれてるのはうれしいですけど俺はヒナ委員長に絶対の忠誠を誓っているので…」

「そうですよ!それにダリル先輩がいなくなったら

ただでさえ書類仕事で過労気味の委員長が倒れちゃいますって!」

 

グイグイ勧誘してくるユウカをチナツがなんとか引き剥がしたことで、何とか騒動が終わった。

その時、突然、彼女たちの間にリンのホログラムが現れた。

 

[皆さん、今、この騒ぎを巻き起こした生徒の正体が判明しました]

 

開口一番そういうが早いかリンの姿が掻き消え、

キツネ耳をはやしてキツネの面をかぶった和服姿の生徒の映像が現れた。

肩に担いでいるのは銃剣のついた旧式の小銃か。

 

[狐坂ワカモ。百鬼夜行連合学院で停学になった後、矯正局を脱獄した生徒です。

七人囚の一人に数えられ、自治組織との戦闘行為、破壊活動などの前科がいくつもある危険人物で……]

「あらら、連邦生徒会は来ていないようで……」

 

リンがそう言い終わるよりも早く、妖艶な響きの言葉が辺り一帯に響き渡った。

全員が声がした道の先を見た。

そこには今写っているホログラムと全く同じ少女が、不良たちを引き連れ立っていた。

 

[…少し、遅かったようですね]

「"大丈夫だよ、リン。ありがとう…みんな、休憩は終わ"」

 

先生がそう言おうとした瞬間、

 

ガァン!

 

大音量の銃声がその声を掻き消した。

音源はワカモが現れた瞬間に戦闘態勢に入っていたダリルの対戦車ライフル。

その銃口から放たれた大口径弾は寸分の狂いもなくワカモの額に着弾し、

その肢体を大きく仰け反らせた。

 

ガチャン

 

排莢、次弾装填、照準、

 

「なに、が…っ!!」

 

着弾時の衝撃で若干ふらついていたワカモだったが

キラリと陽光に反射したスコープを視認すると反射的に物陰に飛び込んだ。

 

瞬間、

 

「みぎゃっ!?」

 

近くにいた不良が対戦車ライフルの銃撃を受けて吹っ飛んだ。

 

「スナイパーがいますわ、警戒を!」

 

動揺する不良達にワカモはそう声をかけると、仮面の中で臍を噛んだ。

 

「まさか、あの子がいるとは…厄介なことになりましたね」

 

 

 

 

 

さて、場面は先生達の元へ戻る。

 

「"うえっ!?どど、いつも間に!?"」

 

唐突すぎて軽いパニック陥る先生、周りも少なからず同じようだった。

それに、ダリルはスコープから目を逸らす事なく応じる。

 

「ここは戦場ですよ、先生。例え休息中であろうと警戒は解くべきではない。

それにしても、ワカモはまだ甘いな…

少なくとも敵の全容がわからないのに姿を晒すべきではなかった」

 

そうしてある間にも、一回の銃声ごとに一人の少女の身体が崩れ落ちる。

敵の陣容が崩れはじめているのは目に見えて明らかだった。ならば、今すべきことは…

 

「"ユウカ、スズミ、ハスミ、物陰に隠れた敵は私が教える。

相手にトドメを刺すよ!"」

「「「了解っ!」」」

 

3人が突撃する中、先生は前線から目を離さないままダリルに話しかける。

 

「"ダリル、相手の子…ワカモと知り合いみたいだけど"」

「テロリスト時代、一時期成り行きで共闘してたことがあったんですよ」

「"そうなんだ……、!!ユウカ、そこ右に3人!シールド張って突っ込んで!

スズミは左奥の瓦礫に閃光弾っ!」

 

一拍遅れて銃声と閃光、そして悲鳴が連続する。

生徒たちが無事なのを確認すると、先生は次の攻撃位置を示した。

 

「"それで、よければワカモの戦闘スタイルとか弱点とか教えてほしいんだけど…"」

「それなら心配ありませんよ。このまま押し切って勝てます」

「"え、そうなの?"」

 

先生のキョトンとした言葉にダリルは答える。

 

「彼女は戦闘能力も高いですが、

それ以上に厄介なのはあらゆる手を駆使して場を支配し、厄災と見紛うほどの混乱に陥れること。

でも、それを最大限に活かすには事前の準備が必須。

その策を突破され彼女自身が後手を取った時点で勝ち目は薄い」

「"…よく見てるんだね"」

 

ハスミのことと言いだが、ダリルはどうも一度会った相手の戦法を徹底的に覚えているようだ。

先生の感心したような口調と視線に、ダリルは少し苦笑して言った。

 

「相手の戦法や行動パターンを覚えておけば次の手が予想しやすくなる。

戦場に立つ上で自分の心掛けです」

 

 

 

 

「くっ…」

 

ワカモは遮蔽物に隠れながらそううめき声を漏らした。

相手にダリルがいる時点でそう安々と勝てる戦いではなくなったのはわかっていたが、

その他の生徒たちが想像以上に厄介だった。

所属が全く持ってバラバラのはずなのに後方で指揮を取っている

謎の大人のせいでまるで熟練部隊のような動きを見せている。負け筋は濃厚、ならば…

 

「ここが潮時でしょうか…」

 

ワカモはそう呟くと近くで必死で相手に撃ち返している不良に声をかけた。

 

「あれを出してください。私は建物内にある大切なものの破壊に向かいます」

「わかった、わかったから今話しかけんな!

クソッ、あの太もも女、シールドなんて張りやがって…

お前ら!戦車であいつらを吹っ飛ばしてやれ!」

 

不良の少女は敵が中々倒れないことに苛立っているのかそう乱暴に返答する。

 

「…えぇ、頼みましたよ」

 

仮面の中で薄っすらと口角を上げて囮と時間稼ぎを、と語外にそう言うと、

ワカモは身を翻してシャーレの建物へと向った。

 

 

 

 

「だ、れ、が、太もも女ですってっ!?聞こえてないとでも思ってたの!!」

 

怒りに任せたユウカの乱れ打ち攻撃。

その怒りの嵐に巻き込まれた不良たちが瞬く間になぎ倒される。

その時、弾幕と遮蔽の隙間からハスミは戦線を離脱する和服の端を捉えた。

 

「皆さん、ワカモが戦線から離脱しました!」

[こちらからも確認したけど射角がとれない。狙撃は無理だ]

「なんですって!?今すぐ追撃を…」

["待ってユウカ、何か来る!"]

 

今すぐにでも単騎で吶喊しそうなユウカを、先生が慌てて押し留めた。

それに、その言葉は嘘ではない。

段々、僅かな振動と大きな駆動音がこちらに迫ってきていたのだ。

そして、間もなくそれは道の角から現れた。

 

「「「戦車!?」」」

[…クルセイダー、確か…]

「…ええ、私達、トリニティ学園で正式採用されている巡航戦車です。それにしてもこんなものを…」

 

ダリルの言葉に不承不承といった様子でハスミが応じる。

しかし、その戦車に向けられる視線は厳しい。

 

「行けー!やっちまえー!!」

 

不良の1人がそう言うが早いか砲塔がギチギチと動き、ポカンとしているユウカに向いた。

 

「え、ちょっと待って」

["ユウカ、避けて!!"]

 

瞬間、主砲から衝撃波とともに榴弾が放たれた。

ユウカは間一髪スズミが引っ張って回収したが、その爆発で後方に吹き飛ばされる。

流石のキヴォトスの人間でも、直撃したら軽いけがでは済まないだろう。

 

「ムハハ!どうだ見たか!これでお前ら全員ぶっ潰してやる!」

 

響き渡る不良の勝ち誇った声。

しかし、彼女は今自身が置かれている状況をわかっていなかった。

片や、こういったときの為にAP弾を携行していたハスミ、

片やそもそも得物が対戦車ライフルのダリル。つまり…

 

["ハスミ、ダリル!"]

[わかってますよ、先生]

「クルセイダーのことはよく知ってます。当然、装甲の脆い箇所も…」

 

 

操縦席が貫通弾で蜂の巣になった大きなスクラップが出来上がるのに、然程時間は掛からなかった。

 

 

________________________

 

戦車を破壊したら、遂に心が折れたのか不良達は散り散りに逃げてしまった。

その後、シャーレ内に侵入したであろうワカモと戦闘が起こるかに見えたが、

先生が地下に入っていってしばらく経ったかと思うと、いきなりワカモが飛び出して逃げていった。

その場にいた全員が困惑を極めた。

まあ、それはさておき、その後無事連邦生徒会に行政権が戻り、

先生に一言挨拶したあとそれぞれの帰路についていた。

 

「大変な日になりましたね…」

「そうだね。でも、これで一つ委員長の心労が減った」

 

疲れたのか、ふう、と一息つくチナツに、ダリルがそう言った。

チナツもその言葉にそうですね、と頷く。

 

「そういえば、先輩は先生についてどう感じられましたか?」

「純粋ないい人だよ。それでいて有事にはしっかりしてる。

…書類仕事が得意ならシャーレの権限を使ってうちの委員長を手伝ってもらいたいよ」

「確か、先輩のお陰で鎮圧任務の負担がほぼなくなったと思ったら

万魔殿からの嫌がらせで書類が増えたんでしたっけ?」

「そうなんだよ…クソっ、イブキの存在がなければ

あんなふざけた議会、塵も残さず消してやるのに」

 

隠しきれない殺意を漏らすダリルに、チナツは苦笑いで応じた。

そして、ふと何か思いついたのかダリルに再び話しかけた。

 

「先輩、昔はその…かなり有名なテロリストだったんですよね?どうして風紀委員に?」

「あれ、イオリ達から聞いてなかったの?」

「え、いや、あまり聞かないほうがいいかなと思っていたんですが……」

「いいよ別に、そこまで隠すようなことではないしね」

 

チナツがためらいがちにそうダリルに尋ねると、

ダリルは特に気を悪くする様子もなくそう答えると、

「そうだな…」とつぶやくとどこか昔を懐かしむような表情となった。

 

「とにかく昔の俺は、

いろいろあっていきなり天地がひっくり返ったみたいに変わった

環境についていけなくて荒んでたんだ。それで……」

 

 

 

彼女、往骸ダリルはこの世界への転生者の一人だった。

前世の彼女の人生は幸せと呼べるものが数えるほどしかないほど荒んだものだった。

住み慣れた地球から遠く離れた宇宙への移住。そして軍に入り、戦場で両足を失った。

偶々狙撃の腕が見いだされて同じような境遇の仲間たちと会って、戦火の中で恋人もできて……

そこに、白い悪魔が現れた。

 

一度目の戦いで仲間と自分の片腕を奪われた。

 

そして、戦争の狂気に文字通り身を捧げ、最後の腕と引き換えに圧倒的な力を手に入れた。

せめて、せめて、生きて帰りたかった。

この地獄で生き抜き、もう一度愛する人と出会うため。

 

しかし、悪魔との相討ちという形で終わった故、その小さな願いがかなうことは終ぞなかった。

 

始めて目覚めたとき、奇跡が起きたのかと思った。約束が果たせる、そう思った。

しかし、目覚めた世界は彼女の知る世界ではなかった。

別世界に生まれ、彼女が背負ったのは、

大義も、帰る場所も、守るべき人も何もかも失った喪失感だけだった。

 

唯一、戦場だけが彼女の空っぽの心を満たしてくれた。

銃声と硝煙、緊迫感がもたらす刹那的な快感だけが拠り所となった。

戻った四肢と天武の戦闘能力が、あの時のような爽快感を生み出してくれた。

けれど、何か欠けていて、何かが足りなかった。

 

それが満たされたのは現風紀委員の委員長、

空崎ヒナとの戦闘の後だった。

己の全てを賭した戦闘の末、

行動不能に陥り地面に倒れ伏した自分を冷たく見下ろす、大きな黒い翼を広げたその人。

全てを統べているかのような暴力的で、圧倒的で、それでいて神々しい、正に絶対的な正義を象徴する様なその姿。

それに、ダリルは心を奪われたのだ。その時、彼女は自身の生きる場所を再び見つけた。

 

無論、この数奇で現実味のない過去を詳しい事までを語ったことは一度もない。

ただ、環境の変化についていけず荒んでいた時、ヒナと戦い、その姿に一目惚れした。そう言うだけだ。

 

 

 

「なるほど…だから委員長のことを人一倍慕っているんですね」

「まあね。あ、誤解のないように言っておくとあくまで委員長の事は尊敬してるだけだよ。恋愛的な意味で愛してる人は…今も昔も一人だけだから」

 

チナツに一通り話を終えたダリルは最後にそう付け加えた。

その言葉にチナツは驚いた表情になる。

大抵戦闘任務で出払っている上、委員会内にいる時は部屋の隅か委員長の側で静かに立っていて、そもそも2人だけになって事務的な事以外を話すのが初めてだったため単純にそのことが想像できなかったのだ。

 

「え、だ、誰などんな人なんですか?先輩の好きな人って…」

 

そうなるとその事を根掘り葉掘り聞きたくなるのは少女の性か、チナツがそうどこか興奮した様子でダリルに尋ねる。

それを見たダリルは、少し寂しそうな表情になった。

 

「…少なくとも、争い事とは無縁であるべき、優しい人だったよ。今は、もうどこにいるかすらわからないけどね」

 




どもー時空未知です。
さて、今回の作品はいかがだったでしょうか?
前回からポツポツと評価も増えてきております。
誠にありがとうございます。うれしい…うれしい…

ようやくプロローグが終わりました…
次回からはアビドス編です。でも、割とカットが多くなります。
ゲヘナ要素は多少あるとはいえミレニアム要素とかこれっぽちもないからねしょうがないね。

あと、本作には性癖の捩じ曲がった作者による多分な曇らせを含みます。
…まあ、サンダーボルトをクロスオーバーさせた時点で避けられないことです。


ということで今回はダリルの簡単な設定をどん

往躯ダリル

ゲヘナ学園2年
風紀委員会所属

黒のくせ毛黒目高身長。優しい風貌。額からサイコザクと同じ角が生えていて、申し訳程度に腰からコウモリの羽が生えている。スリーサイズは起伏少なめ。
一人称は俺

ゲヘナ生の中では珍しく優しい風貌の通り物静かで温厚な性格。
勉強と書類仕事は少し苦手。
部下からも慕われており、周囲の信頼も今は厚い。
しかし、1年生時代はゲヘナの不良も恐れを成す筋金入りの不良生徒だった。自治区内外問わず、戦闘が起こると唐突に乱入してきてそこにいた全員を殲滅することを繰り返してきた。その性質上、風紀委員会だけでなく正義実現委員会とも度々戦闘しており、今もゲヘナの中でも特にトリニティと折り合いが悪い。
C&Cとも数回戦闘しているが、イオとはまだあったことがない。
ヒナが潜伏中のダリルを襲撃、これを辛くも撃破して以降は何かあったのか風紀委員長であるヒナに心酔しており、よくも悪くもヒナのことを最優先に動く。因みに、彼女が戦闘任務に率先して出るためヒナの心労はかなり軽減された。
ポップス、特にラブソングが好きで戦闘中でも片耳イヤホンをして聞いている。しかし、本人曰くこれは昔あったことの緊張を和らげるためにしていたことがそのまま癖になってしまったとのこと。
こと戦闘にかけてはビッグ・ガンと通称される固定式大型大口径の改造対戦車ライフルによる超長距離狙撃することを得意とするが、刃を潰したタクティカルアックスによる接近戦も可能。諸事情によりビッグ・ガンが持ち込め無い時は普通の対戦車ライフルを使う。その狙撃能力、接近戦能力は高く、ヒナを一度追い詰めた。

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