楽園に雷光は走る   作:時空未知

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2024/05/27  設定との相違修正



アビドス対策委員会編
夢轍


 

 

 

「う…あ…?」

 

ふと、目が覚めた。

身体に力が入らない。視界が霞む。口の中が砂でジャリジャリする。

 

(わたし…何、してたっけ?)

 

そうしているうちに段々視界が晴れてきた。

弱々しい光源が唯一つ灯った暗い、暗いコンクリートの壁の部屋の中。

相変わらず、身体は動かない。

 

その時、

 

「クックック、目を覚まされましたか?」

 

右方向から不気味な声がしたかと思うと、誰かが自分を覗き込んだ。

黒い服に黒い硬質な肌。その一部がひび割れて、大きく裂けた口と白い炎のようなものが揺らめく右目を形作っていた。

明らかに異質な、不気味なそれ。しかし、不思議と恐怖はなかった。力を振り絞って、口を動かす。

 

「だぁ、れ?」

「誰、ですか。失礼、名乗り遅れましたね。私は黒服と呼ばれているものです」

 

黒服、それはそう名乗った。そのまんまだな…へんな人だな…

そんなとりとめのないことが脳裏に浮かぶ。

そんな私を黒服さんはじっと見つめたかと思うと、ふっと私の視界から消えた。

 

「ふむ、最低限の応急処置はしましたが、意識はまだ混濁していますか…」

 

カツカツ、という靴音に混じってそんな独り言が聞こえてくる。

それからさほどしないうちに再び黒服さんの顔が覗いた。

 

「さて、あなたの現状をお伝えしましょう。

梔子ユメ、あなたはアビドスに潜む預言者の胎動に巻き込まれ、瀕死の重症を負いました」

「…!」

 

その言葉を聞いた瞬間、記憶が閃光のように瞬いた。

 

いつもと変わらないオアシスがあった砂地。

 

私のちょっとしたお散歩に文句を言いながらついてきてくれた可愛い後輩

 

その時、砂嵐が起こって、ホシノちゃんとはぐれて、

 

砂漠を彷徨ってるうち、突然現れたヘイローを巨大な白い蛇。

 

そして、私は、その白い蛇の巨体に轢き潰されて…

 

「…ホシノちゃんっ!」

 

そう…ホシノちゃん、あの場には私の後輩がいたはずだ…!

居ても立ってもいられず私は身を起こそうとした…瞬間、

 

「がぁっ…!?」

 

全身を凄まじい鈍痛が襲った。

息ができなくなるような、内から響く痛み。

 

「…一部内臓破裂、左脚欠損、左腕圧延、左目失明、全身に渡る骨折…私達の技術がなければ、例え神秘の力有れど今頃死んでいます」

 

そんな声が聞こえたかと思うと、鈍痛の中に右腕の付け根にチクリとした痛みが混じる。程なくして、痛みがゆっくり、ゆっくりと収まっていった。

…いつもこうだ。あまり考えず動くから。ホシノちゃんにもいつも叱られてばかりで…

そんな思考がふと過る。

私はおっかなびっくり再び声を出した。

 

「…ホシ、ノちゃんは?」

「クックック、安心してください。暁のホルス…あなたの後輩は無事です。

…恐らく、あなたは死んだものと思っているはずですが」

「そっ、か…」

 

ホシノちゃんが生きてる。

そう聞いてふっと力が抜けた。じゃあ、あとすべきことは…

 

「くろふく、さん。ぁりがとう……で、も…わたし、かえらな、きゃ…」

 

あの子は、いつも私を怒ってばかりだけど、それは全部私の為を思ってくれてのこと。

本当は優しい子だ。

きっと、たくさん泣いてる。

帰って、ホシノちゃんを安心させてあげなきゃ、帰って、ただいまって言ってあげなきゃ。

そして、帰って一段落ついたら、黒服さんに精一杯のお礼を…

 

 

「はて、どういう意味でしょうか?」

「…ふぇ?」

 

 

その思考は、黒服さんの心底不思議そうな声でかき消された。

黒服さんの顔が再び視界から消える。

それと共に、部屋をゆっくり歩き回っているであろう、コツコツという音が響く。

 

「私があなたを助けたのは人情などではありません。取引のためです。

というより、あなたは本来はあの場で死ぬ予定でした」

 

足音は続く。それが一つ、一つ聞こえるごとに、私の背後から恐怖が忍びよってくる。

 

「そもそも考えてみてください。その身体でアビドスへと帰ってどうなさるおつもりで?傷つき、ろくに動かすことのできないその身体で」

「で、で…も、わたし、は…」

「生徒会長、そうでしょう?」

 

黒服さんが私の言葉に被せるように先回りして言った。

私が言葉に詰まっていると、ふと、足音が止んだ。

 

「そう、生徒会長…能天気でバカで無鉄砲な生徒会長。

そうですよね、梔子ユメ」

「…!」

 

その言葉が静まり返った部屋の中で大きく響いた。

その言葉は間違いなく私に向けられた言葉。

いつもなら笑って受け流す言葉。

それなのに、心にそれが深々と、グサリと刺さった。

コツコツコツと、足音が迫ってくる。

 

「クックック、質問です。本当にどうなさるおつもりなんですか?

その身体で、後輩に手取り足取り助けてもらいながら夢物語を語り続けるんですか?」

「やめ、て…くださ、ぃ」

 

サク、サク、サクと心に刃物が刺さってゆく。

聞きたくない、でもどう頑張っても腕は動いてくれない。

 

「きっと暁のホルスは助けてくれるでしょう。

きっとあなたが卒業したとしても。一生、不自由なあなたの為に尽くしてくれるでしょう。

自分のたった一つの身を、一度限りの人生を、あなたへの、あなたの為の生贄として」

「や、めて…」

 

気がつけば目からつう、と何かが伝っていた。

それを気に留めることなく、黒服さんの顔が私の目と鼻の先まで迫った。

 

「全ては、あなたが、なんの力も持たないから。全て、あなたのせいです」

「う、ぁ、ぁああ…」

 

 

パキンッ

 

 

その時、心の中の何がが粉々に砕け散った。 

 

 

__________________

 

 

 

 

(…少し、やりすぎてしまいましたかね?)

 

 

黒服は眼の前の簡素な手術台の上で

「ごめんなさい、ごめんなさい」と泣きじゃくりながら繰り返す様々な機械に繋がれた血塗れの翠色の髪の少女、梔子ユメを見て心の中でそう呟いた。

己の実験に従順に協力させるため、出来るだけ心を壊しておく必要があったがこの様子だと精神そのものが崩壊してしまったかもしれない。

 

「…しょうがありません、か」

 

丁度いい実験体を失うのは心苦しいが、廃人は使い物にならない。生命維持装置を切って手早く処理するとしよう。

黒服は部屋の隅にある制御装置の電源に手をかける。

 

…その時、

 

「じゃぁ、」

 

声が聞こえた。黒服は振り返るとゆっくりユメに近寄った。

 

「じゃあ、なん、で…なんで、あなたは、わた、しを…わたしを、たすけたんです…?」

 

そう力なく言葉を紡ぐユメ。その瞳は全てを諦めたような諦観の色で霞んでいた。

 

黒服の口が、にいっ、と裂けた。

黒服の炎のような白い揺らぎが一瞬激しく揺らめいた。

それは、悪魔が哀れな獲物をみつけて、歓喜に震えているようだった。

ならばあとは逃れられない契約で縛るのみ。

 

 

「…予言をしましょう、このキヴォトスは未来…近いうちに滅びます」

「え…?」

 

 

ユメは黒服の突然の言葉に、呆けた声を発した。黒服は続ける。

 

「空は赤に包まれ、小鳥遊ホシノも、彼女にできた後輩も、皆、死にます。信じるかどうかはあなた次第ですが」

「いや、そんな、こと…そんなことあるわけ…」

 

ユメは必死でその言葉を否定しようとするが、先程以上に震えている声が、彼女の心情を痛いほど物語っていた。黒服はその様子をじっと見ると、再び口を動かす。

 

「私と、私の所属している組織とその滅びをもたらす存在は相容れないもの。だから、私達は捻れたいくつもの世界線の中でその解決策を探してきました」

 

黒服はそこで言葉を一旦区切ると、ユメから視線をはずし、どこか遠くを見上げるような仕草をした。

 

「ことの発端は14年前でした。何の因果か、この世界線と、平行世界ですら無い全く別の世界が一瞬交わった。その時、その世界に存在していたものの一部がこちらに流れ込んだ」

 

昔を懐かしむような黒服の口調に少しずつ、少しずつ、歓喜の色が滲みはじめる。当時の興奮を噛みしめるように。

 

「私達は歓喜に震えました。もしかすれば、もしかすれば未来を変えることができるかもしれない、と…」

 

しかし、と黒服は声を落とす。

 

「その流れ込んできたものたちでは足りなかった。

だから、私達は8年前、意図的にその世界との干渉を引き起こました。実験は成功し、その世界最高の技術と、その開発者の生まれ変わりを手に入れた」

 

喜ばしい事のはず、だが、黒服の口調はすぐれない。

 

「ですが、その技術を手に入れたはいいものの内部は完全なブラックボックス。その開発者も幼児退行と記憶喪失を引き起こしており、解読も不可能。私たちに辛うじて理解できたのはその技術を用いた装置の小型化と、その使用法のみ…

はじめは暁のホルスを用いようと考えましたが、その装置の効果が不透明な上、代償が大きく、そこでキヴォトス最高の神秘を使い潰すには余りにも勿体ない。そんな時、あなたを見つけた」

 

失礼、話が長くなりましたね。そう言ってクックックと笑った黒服は、ユメに視線を戻した。

 

「私が、あなたを4億5000万円で買いましょう。あなたに望むことは従順な実験体であること、それだけです」

「っ…!その、おかね、は…」

「無論、アビドスに渡しましょう」

 

自分の人権を差し出す代わりに自分が夢見ていたアビドスの借金の返済を大きく躍進させる。黒服の言葉は要約すればそういうことだった。その時点でほとんど心が決まったユメだったが、黒服はそこにトドメを差した。

 

「もし、実験が成功すれば、あなたは圧倒的な力を享受出来る。何も出来なかったあなたにも、後輩を守るだけの力が手に入る…さぁ、この契約書に血印を。本来は署名が欲しいところですがね」

 

黒服はそう言うと、何処からともなく契約書を取り出すと、ユメの血に濡れた右腕をとり、その人差し指を署名欄に近づけた。

それをしばらく見つめていたユメだったが、ゆっくりと、決意に満ちた目で黒服を見た。

 

「…も、し、この、けいやくを…しなかっ、たら?」

「クックック、何の価値もない物を生かしておくほど、私は優しくありませんよ。夢想のオシリス」

「あは、は…へんな、よびかた…」

 

ユメはそう言って力無く笑った。

契約を断ったらここで一人で死ぬだけ。

契約を受ければ、私が一人犠牲になるだけで余りあるほどの恩恵が享受出来る。

 

(ごめんね、ホシノちゃん。しばらく帰れそうにないや)

 

ユメは心のなかで自分のかわくて、大切な後輩に謝ると、手に軽く力を込めた。

 

ポン、と真っ白だった紙の上に、赤い印が刻まれた。

 

「…協力に感謝します」

 

黒服はそう言ってユメに一礼すると、くるりと背を向けて扉へと歩き始めた。

 

瞬間、

 

「ふえ?」

 

 

風切り音を立てて降ってきたギロチンの刃が、彼女の四肢を全て、一瞬で切り飛ばした。

 

 

 

 

 

先生がキヴォトスに現れる約2年前の出来事である。

 

 




どもー、時空未知です。
今回は短めで、アビドス編の導入となります。
…後悔はしてない。

自分は小鳥遊ホシノというキャラが大好きです。愛でてよし、幸せで包んでよし、曇らせてよし。
何より死んでしまった先輩に囚われているのが好き。かわいい。
でも、私はこんななりでもハピエン厨です。盛大に曇らせたあとはその人は相応に救われるべきです。これ絶対。
なのでユメ先輩には生きていてもらいます。それがどんな過程であろうと。多分、再開したらおじさん、情緒グッチャグャになるんだろうな…
でも安心してください。ハッピーエンドにはします。因みに私はある特定の人物が幸せなら他がどうなろうとハッピーエンドと認識します。ヤンデレ監禁どんと来い。対戦よろしくお願いします。

因みに、ユメ先輩も大好きです。のほほんとした優しいお姉さん好き。曇らせがいがある(迫真)

さて、次回から本編です。風紀委員襲来あたりからの開始になると思うのでお楽しみにー
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