「私は、カイザーコーポレーションの理事を務めているものだ。
そして君たち、アビドスが借金をしている相手でもある」
そのオートマタ……カイザー理事の言葉に、アビドスの生徒たちは目を見開いた。
「正確に紹介すると、カイザーコーポレーション、カイザーローン、
そしてカイザーコンストラクションの理事だ。今は、カイザーPMCの代表取締役も務めている」
ここまで律義に開設するのは職業柄か、それともただ単純な性格によるものか……
そんな理事に、シロコが剣吞な視線を向けた。
「……要はあなたがアビドス高校を騙して土地を奪って、搾取した張本人ってことで良い?」
「……ほう」
シロコの糾弾に、理事はそう興味深そうに声を漏らした。
先輩の声に、セリカが追従する。
「そうよ! ヘルメット団と便利屋を仕向けて、ここまで私たちをずっと苦しませてきた犯人があんたってことなんでしょ!? あんたのせいで私たちは……アビドスは……!」
彼女達の声を一通り聞いた理事は、ほとほと呆れ果てた、という風に首を振った。
「やれやれ……最初に出てくる言葉がそれか。勝手に私有地へと侵入し、善良なる我がPMC職員たちを攻撃しておいて……だが、口の利き方には気を付けた方が良い。ここはカイザーPMCが合法的に事業を営んでいる場所。まず君たちは今、企業の私有地に対し不法侵入しているのだということを理解するべきだ。
……と言っても、恐らく優秀なうちの特務士官が君たちに説明してくれたはずだがな」
先生は特務士官との最初の会話を思い出す。
曰く、理事の言う通りここはカイザーが正式に手に入れた土地で、宝探しのようなことのために作られたのだと……
生徒達もその事を思い出していたらしい。
「た、宝探し?とか言ってたけど…あんなふざけたこと……」
「く、ははは、宝探しか……面白い例えだな。それでいて的確だ」
セリカの言葉を聞いて、理事はその例えがツボに入ったのか軽く身を震わせた。
……その口ぶりから、特務士官の言った宝探しという言葉はあながち間違いではないようだ。
「ふ、くくく…まあいい。アビドス、何であろうと貴様らが私の私有地に侵入し、善良なる社員達を傷つけた。それ相応の対応はせねばな」
理事はそう言うと、懐からスマホを取り出し電話をかけた。
「……私だ──ああ、そうだ、進めろ」
「な、何……? 急に電話……それに「進めろ」って……」
「残念なお知らせだ。どうやら、君たちの学校の信用が落ちてしまったそうだよ」
セリカの言葉に理事がそう告げたと同時、通信機から電話の音が鳴り響いた。電話をとったアヤネがスピーカーに切り替えたのか、電話の声が聞こえてくる。
[こちらカイザーローンです。現時点を以ちまして、アビドスの信用評価を最低ランクに下げさせていただきます]
[えっ……!]
[変動金利を3000%上昇させる形で調整。それらを諸々適用した上で、来月以降の利子の金額は9130万円でございます。それでは引き続き、期限までにお支払いをお願いいたします]
[はい!? ちょ、ちょっとそんな急にどうして!?]
耳を疑うような言葉にアヤネが抗議の声を上げるが、無慈悲に電話はプツリと切れた。
「きゅ、九千万円!?」
「……くっくっくっ。これで分かったかな。君たちの首にかけられた紐が今、誰の手にあるのか」
「ちょっ、嘘でしょ!? 本気で言ってんの!?」
動揺を隠せないアビドスの生徒達の中でも、一際セリカが混乱している様子だった。その様子をあざ笑うように理事は続ける。
「ああ、本気だとも。しかしこれだけでは面白みに欠けるか……そうだな、九億円の借金に対する保証金でも貰っておくとしよう。一週間以内に、我がカイザーローンに三億円を預託してもらおうか。この利率でも借金返済ができるということを、証明してもらわねばな」
「"言語道断の横暴だ…!!今すぐそれを……"」
「そんな事を言える立場にあると思っているのか?先生?」
普段の様子からは考えられないほど強い口調で理事を糾弾する先生の言葉を、理事はピシャリと打ち切った。
「先程も言った通り、これはアビドスがここに侵入したことに対する対応であり、そもそもシャーレとこの件は関係がない。超法規的機関だからといってその権限がどこにでも及ぶと思わないほうがいい」
……何も、言い返せなかった。先生は何か言い返そうと理事を睨みつけながら必死で頭を回転させるが、何も思い浮かばない。
[そんな……! そんなお金、用意できるはずが……今、利子だけでも精一杯なのに……]
通信から、アヤネの悲痛な声が漏れる。
それを聞いた理事はふっ、と息を漏らすと、絶望する彼女らにさらなる追い打ちをかけようとした。
「ならば、学校を諦めて「ねえ、カイザー理事長さん」…む?」
その言葉を、ガビガビとした声が遮った。……特務士官だ。
「……なんだ、特務士官?」
「今回の問題は、アビドスのみんながここを攻撃したことによる信用の問題で起こった……そうだよね?」
「……そうだ、それがどうした?」
何をするつもりだ?語外にそんな雰囲気を滲ませる理事。
それは先生らも同じだった。誰もが特務士官の方を見る中、
特務士官は理事の方を赤い瞳でじっと見ていった。
「だったら、私がここに居ること、そしてその過去の功績でそれを帳消しに出来ない?」
「"え?"」
先生は思わず声を上げた。単純に理解できなかったのだ。
何故ここで何も関係のないはずの特務士官の功績の話が出てくるのか、何故それを等の本人が言い出したのか?
先程からやけに友好的ではあったがそれだけでは説明のしようがない。生徒達も同じ考えのようだった。
しかし、その後答えた理事の言葉は、彼女達にそれ以上の衝撃を与えた。
「……今更、古巣が恋しくなったのか?」
誰もが、その言葉に驚愕で目を見開いた。
「え、は、はあっ!??」
「そ、そんなことが…?」
「……!」
[古巣……もしかしてOBなんですか!?]
セリカを筆頭に後輩たちが各々驚愕を露わにする中、
ホシノだけは、全く違う反応を示していた。身体がカタカタと震え、信じられないものを見たような表情で特務士官の方を見ていた。
「……そんな、まさか」
そんな彼女らをよそに、特務士官と理事の会話は続く。
「そうとってもらって構わないよ。私が今までに上げた功績……更に今回のことも被害は最小限に食い止めた。
それに合法の手続きとはいえ所在を明らかにせず、アビドス生徒が来かねない場所に駐屯地を作ったことはあなたの非じゃない?」
「確かに、そうだな……」
理事は顎を軽く擦った。しかし、まだ納得しているようには到底見えない。
「だが、今は君はこちらのスポンサーであるゲマトリアの所属で、こちらにも派遣されたに過ぎん。シャーレと同じくこの場には無関係だ」
「……スポンサーの゙意向は企業にとって大事なものだと思うけど」
食い下がる特務士官に、理事はふん、とスチームを鳴らした。
「そもそも君は黒服の部下だろう?そのような権限はあるまい」
「……うーん、確かに、昔はそうだったね。というかそれ以下だったかも」
理事の言葉に、特務士官は、頭を軽くさすると軽く笑った。
瞬間、
ジャコン
金属部品が激しく動く駆動音があたりに響いた。
音源は特務士官、その背中に折りたたまれていたサブアームが展開し、背中にマウントされたドラムマガジンのついた奇妙な形の銃を掴み上げると、それを受け取った特務士官が理事にそれを突きつけたのだ。特務士官は告げる。
「でも、今は違う。黒服さん、私のわがままを結構聞いてくれるんだよ?」
「り、理事長!!」
周囲のPMC隊員が一斉に特務士官に銃を構えるが、理事も、特務士官も、其の場から動かない。
「……流石に、このような横暴は黒服も聞き届けてはくれないのではないかね?」
「そうでもないんだよ。ゲマトリアとしてはアビドスでの目的は当初と過程は違えど既に達成したの。ここに私がいるのだって私のわがままのせいでね、逆説的にここで何をどうするかはほとんど私に一任されてるんだ」
ガチャン、と音が響いた。更に、背部の2機のサブアームが片方はバズーカを、もう片方はもう一つの銃を持って展開する。
「どうする?私がここでちょっとした癇癪を起こして基地を壊滅させてもいいんだよ?」
特務士官の声は、底冷えするような殺気で満ちていた。
両者ともに、無言でにらみ合う。
その様子を、先生と生徒たち、PMCの兵達は固唾を飲んで見守っていた。
……最初に動いたのは理事だった。
はあ、とため息をつくと肩を下ろした。
「私の計画に加担しているのに、よくもまあそうも言えたものだな」
「かわいい後輩ちゃんたちのがんばりが無駄になるのを黙って見てられなかったからね」
「ふん、昔と比べてずいぶんな交渉術が身についたものだ。さて、銃を降ろせ。もう必要ない」
理事に指示されたPMCの兵が恐る恐る、といった様子で銃を降ろすのを、先生達は信じられないものを見た、という表情で見ていた。
その方を見もせずに、理事は再び電話をかける。
程なくして、通信から再び電話の音が聞こえてきた。
通信先のアヤネが恐る恐る、その受話器を取る。
[は、はい。もしもし……]
[こちら、カイザーローンです。先程の信用評価の件ですが、こちらに手違いが見つかったため、先程の処理は取り消しとさせていただきます。それでは引き続き、期限までにお支払いをお願いいたします]
それっきり、やはり一方的に電話は切れた。しかし、告げられた内容は真逆のものだった。
[本当に、処理が取り消しになった…?]
アヤネの呆然とした声が通信機から漏れる。
「……特務士官、さっさとお客様を帰らせろ。あんな場所で長時間居座られても困る」
「はいはい、それじゃみんな、出口まで案内するね?」
武器をマウントし直した特務士官が彼女達にそう声をかけた。
______________________
日の傾きだしたカイザーPMCの駐屯基地。
その出入り口に特務士官に案内される先生とアビドスの生徒達。
しばらくの間互いに話しかけることなく無言だったが、いよいよ目的地が見えてきた時、先生が意を決して特務士官に話しかけた。
「"さっきは、なんで助けてくれたの?"」
「後輩ちゃんが可哀想だったから。それだけだよ。
……私は、途中で抜けた組だったしね」
「"そうなんだ…"」
途中で抜けた組……彼女(?)も荒廃してゆくアビドスを諦め、他校に移っていった人だったのだろう。
自分が諦めたものを必死で守っている彼女達に、何か思うところがあったのだろう。
そんな彼女に、アヤネが通信機からおずおずと話しかけた。
[あ、あの!先……輩?]
「私のこと?確か……奥空アヤネちゃんだったかな?」
特務士官が軽くカメラアイを動かして先生の持つ端末の方を見た。
アヤネは少し言葉を詰まらせたが、やがて意を決して話しかけた。
[先輩、もしよかったら……私達に、アビドス対策委員会に…]
「それはできない相談かな」
アヤネの言葉を遮るように、特務士官はそういった。取り付く島もない、拒絶の意志のこもった言葉だった。
息を飲むアヤネに変わってシロコが尋ねる。
「……理由を聞いてもいい?」
「うーん、そうだね……私はそもそもここの所属だし、それに……」
特務士官はカリカリと頬を掻くような動作をすると、くるりと振り返って彼女達を見た。
「確かに私はみんなの今までのがんばりを大切に思う。
それがどれだけ無駄でどうしようもないことでも、やったことに意味はある。少なくともそれは踏み躙られていいものではない」
「……無駄?私達のやってきたことが全部無駄だって言うの?」
空気が重くなった。
セリカが、怒りのこもった目で特務士官を睨みつける。
他の生徒達の目も厳しい。特務士官は続ける。
「そうだよ。だって、たくさんの借金を返してそれからどうするの?街の復興、生徒を再び呼び込めるだけ学校の体制を整えるのだってお金も、時間もかかる。肝心の砂嵐だって、解決してない。……もしかしたら、砂嵐以上の災害が来て、全部無駄になるかもしれない。私としては、そんなことのために後輩ちゃんが苦しむ姿は見たくない」
「……だからと言って、私は学校を捨てたりしません」
「そうよ……、私たちの学校なんだから。 私たちは見捨てない…見捨てられるわけないでしょ!」
「アビドスは私たちの学校で、私たちの街」
……確かに、特務士官の言うことは何処までも正論だ。
しかし、それだけでは、理性だけでは切り捨てられないものがそこにある。生徒たちは、特務士官の言葉を否定する。
固まる特務士官。そんな彼女に、ホシノがふっと話しかけた。
「……さっきからずっと、混乱してた。あなたの姿が、何度も何度も、おじさん……いや、私の先輩と重なってさ」
「………」
特務士官は何も言わない。ただ、じっとホシノのことを見つめている。
「でも、違った。私の先輩は……生徒会長は、私から見ても、ずっと何も知らないままで、笑ってばかりの人だった。
でも、笑ってばかりで、一度もあきらめたりはしなかった。ずっと自分の大事なものを守るために前を向いてた」
そこで言葉を区切ると、ホシノは特務士官の顔を見た。
その視線は特務士官のカメラアイを真っ直ぐ射抜いていた。
「言い方は悪いけどさ、先輩があなたみたいに諦めることはないよ。絶対にね。
だから私も、その
「ホシノちゃん」
特務士官が、強い口調で一言そう言った。
まるで、その言葉を拒絶するかのように。
一瞬、場を静寂が満たす。……その静寂の中で、特務士官はぽつりと言った
「……梔子ユメは、死んだんだよ」
「……」
合成音声でも隠し切れないほど、低く、暗い声だった。
ホシノは何も言わない。ただ特務士官をじっと見つめていた。
永劫に及ぶかに思えた沈黙の末、急に特務士官が動いた。
「はい、これで話はおしまい!みんな、気をつけて帰ってね」
特務士官は、明るくそう言った。
_____________________
砂漠の地平線の向こう側へと去っていく5人の人影。
それを基地の最上階から、カイザー理事は見下ろしていた。
「ふん、ようやく帰ったか」
そう独り言を言うと、椅子をくるりと回して執務机に向き直った。そして、その表面にいる人物に話しかけた。
「大層な事を言っていたか、良かったのか?
特務士官、梔子ユメ」
そこには、一人の少女がいた。豊かな身体に、腰ほどまである翡翠色の髪。しかし、ゆったりとした黒いコートと白い手袋に覆われた手足は不自然なほど括れて細く、顔の左半分は深い傷跡が幾重にも走っていた。そして、命に等しい頭上のヘイローは、黒く、砕けていた。梔子ユメ、そう呼ばれた少女は理事ににへらっと笑いかけた。
「大丈夫だよ。半分、事実みたいなものだし……
まあ、ホシノちゃんにとってあそこまで私が大切だったのは予想外だったかな?」
「だな。全くもってバカな生徒会長はもういない。改めてあったときなど変わりように私も驚いたからな」
そういって理事は嘆息すると、ユメの方を再び見た。
「それで、一体どうするつもりだ?あの副会長がいる限り私はアビドスに侵攻できん。本来ならあそこで法外な補償金を課してそちらが行っている取引に応ぜざるを得ない状況を作り出そうと思っていたのだが……このままではそちらとしても困るだろう?」
暗に、お前のせいで計画が崩れた、と責める理事。しかし、ユメの笑みは崩れない。
「それについても大丈夫だよ。あんな事を言ったらホシノちゃんはきっと来る。あの子が取引に応じればアビドスは借金から開放される。ホシノちゃんがアビドスの呪縛に囚われてる限り、取引に応じる時は絶対に来るから」
「随分、信頼してるようだな」
「もちろん、可愛い、大切な後輩ちゃんだから」
皮肉とも取れる理事の言葉に、ユメは柔らかく、しかし力強くそう答えた。そんな彼女をしばらく見ていた理事だったが、
やがて背もたれに深く身体を預けると、一つ息をついた。
「本当に変わったな。この立場にありながら少し寂しく感じるぞ」
「あはは、それはどうも。それじゃ、私はこれで。
次来る時はあの子を連れてくるつもりだからお願いね」
そう言って部屋を出ていこうとするユメに、理事は身体を軋ませて不満をあらわにした。
「あの子……とは黒服と君の連れてきたあの子供か?」
「うん、そうだよ?最近一人遊びばかりでそろそろ別の刺激を与えようって黒服さんがね。あの子は理事に懐いてるし」
その言葉を聞いた理事は、頭をガシガシとかくとふてくされたように机に肘をついた。
「あの子供のお守りを任せるのはいい加減にやめろとあれほど……無駄に元気な上に大人でも理解に苦しむ数式を遊び道具にしているんだぞ。調子が狂う上に私の威厳も何もあったものではない」
「でも、スポンサーからの要望だからしょうがないよね?じゃあね」
「あ、おい、待てっ!」
理事の静止も虚しく、ユメの姿は扉の奥に消えた。
落ち着いて聞いてください。この作品のユメ先輩は、闇落ちしました。
ということでどもー、時空未知です。
今回の作品はいかがだったでしょうか?
……うわーん!小説の展開のさせ方がわかりませーん!!
このままだとヒナ吸いを決めるしかなくなっちゃいますよー!!
こんな調子の作者ですがよろしくお願いします。
さて、ブルアカ知っててもサンボル知らない人がいるのでは?
と思い始めたこの常日頃
ということで知らない人向けにR.P.D.の解説をどん。
R.P.D.
リユース・サイコ・デバイスの略。
本来はとある学者が傷痍軍人でも再びモビルスーツによる戦闘を行えるようにするため開発を行っていた技術で、専用の義手、義足をつけることでパイロットをマシンに直接的接続することで、直感的かつ反射的な行動が取れるようになる。というもの。
しかし、それにより実際の効果は開発者の想定を大きく上回っており、戦局を単機で覆すほどの圧倒的な戦闘能力を得ることが四肢を切断するだけで可能となってしまった。誰が言ったか「俺の失った手足よりも自由」