Q,それはさておきサクッと終わらせる予定の回がなんでこんなに延びに延びてるんです?
A,私にもわからん
時間は流れ、その日の夜。
「……」
ホシノは自分の部屋の布団の中で一人、物思いに耽っていた。
脳裏に浮かぶのは昼間の特務士官との会話。あの時は気丈に言いかえしたものの、ずっとあのときの言葉が小骨のように引っかかっていた。
「……意味がない、か……」
考えないようにしてただけで、あの言葉は何処までも正論だった。借金を返した所でようやくスタートライン。
その借金を返すことすら、出来るかどうかわからない。
……でも、もし、もし私があの提案を受ければ、スタートラインに立つことは出来るかもしれない。
昔だったら浮かばなかったであろう思考。
私が居なくなったらアビドスが支えを失ってしまうだろうから。
でも、今は違う。あの人なら、あの、先生なら……
心は、決まった。
私は、ポケットに手紙をしまうと、制服を来て学校に歩き出した。
「……どしたの?二人とも怖い顔して…」
学校では、シロコちゃんと先生が待ってた。
先生から差し出されたのは私の鞄に入ってたはずの退部届。
「うへ~、いつの間に……! これ、盗ったのはきっとシロコちゃんだよね? 全くシロコちゃんったら、いくら何でも先輩のかばんを漁るのはダメでしょ~。先生、きちんとシロコちゃんを叱っといてよ~? あのままじゃとんでもない大悪党になっちゃってもおかしくないってー」
そう言って、まくし立てて、煙に巻こうとする私を先生は静かに見つめた。
「"ホシノ"」
「…………そっかー」
ただ一言、そう言われた。
……きっと、私が何をしようとしているのかわかっているのだろう。逃がしてくれそうには……ないだろう。
「はあ、仕方ないなあ。面と向かってっていうのも何だし……先生、ちょっとその辺一緒に歩かない?」
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「けほっ、けほっ……うわぁ、ここも砂だらけじゃ~ん……」
深夜の校舎の中、シロコに願いを託された先生はホシノと共に廊下に出た。渡り廊下につながる扉を開くと、砂埃が舞う。
それが顔にかかったのか、ホシノは軽く咳き込んだ。
「ま、仕方ないんだけどね。掃除しようにもそもそも人数に対して建物が大きすぎて……。砂嵐が減ってくれれば良いんだけど」
そう呟くと、ホシノは先生の方をちらりと見た。
「うへ~、せっかくの高校生活が全部砂色だなんて、ちょっとやるせないと思わない?」
「"……ホシノにとってこの学校はかけがえのないものなんだね"」
「……今の話の流れで、本当にそう思う?」
一見会話の繋がってない先生の言葉に、ホシノは少し、困ったような表情になった。
「"私は先生だよ、生徒の事はしっかり見てるつもり。……それに、昼間のことがあったらね"」
「そっか……ま、それはそうだよね…」
その言葉を聞いて、ホシノはしみじみとそう言うと目を伏せると、
ホシノは窓に寄りかかって外の景色に目を向けた。住宅の光もまばらで、遠くに目を凝らせば砂ばかりの砂漠がどこまでも広がっている。
「…………砂漠化が進む前、アビドスはかなり大きくて力のある学校だったって言われてるけど……そんな記憶も実感も、おじさんには全く無いんだよね。最初から全部めちゃくちゃで、ちゃんとしたものなんて何一つない学校だった」
ホシノがそう語り始める。これはある種の独り言……独白のようなものなのかもしれない。
「おじさんが入学した時のアビドス本館は、今はもう砂漠の中に埋もれちゃったし。当時の先輩たちだって、もうみんないなくなった。今いるここは、砂漠化を避けて何回も引っ越した果てに辿り着いた、ただの別館」
そこで一旦言葉を区切るとホシノはくるりと振り返って、笑った。
「……ま、でもここに来てシロコちゃんやノノミちゃん、アヤネちゃんにセリカちゃんと会えたから……うへ、やっぱり好きなのかもしれないなぁ……」
「"月並みかもしれないけど、きっとそうだよ"」
儚い、けれど、柔らかい笑みだった。
先生は使い古された、そんな言葉を言って、しばらく考え込んむと、
ホシノの隣で、同じように窓に寄りかかった。
「"……先輩って、どんな人だったの?"」
ふと、先生がそうホシノに尋ねた。ホシノが少しだけ顔を上げた。
「先生、世の中にはね、あんまり深入りしちゃいけないことがあるんだよ」
「"……あっ……その、ごめんね"」
申し訳なさそうに顔を伏せる先生。しかし、ホシノは首を振った。
「誰も話さないとは言ってないよ。
先生だから、話すんだから……と言っても
今まで言ったこと以上のことはなにもないけどね」
そう前置きして、ホシノのは再び話し始めた。
「先輩は……今、おじさんがここにいる理由みたいな人でさ、
能天気だけど、優しい、そんな人だった。振り回されてばっかりだったし、偶に大ポカやってそれを助けたこともたくさんあったな……」
そこまで言うと、ホシノは自分の、すっかり長くなった髪をくるくると弄った。
「でも、大好きな人だった。今も、先輩の……ユメ先輩の影を追ってばかりだな……うへ」
「"……そっか"」
その言葉は、少し、曇り、掠れているように聞こえた。
ユメ……あの特務士官は梔子ユメと言っていた。
……何が起こったのか、詳しいことは何もわからない。でも、その先輩の身に何かあったことが察せられないほど先生は鈍感ではない。
ただ、そのことがホシノにとっての大きな転換期だったのだろう。
そして、しばらく夜風の音だけが暗闇の廊下に響きわたった。
「……先生、正直に話すよ」
ホシノが、観念したかのように、しかし、何か諦めていないような決意に満ちた、
そんな口調で静寂を破った。
先生が自分のほうを向いたのを確認して、ホシノはゆっくりと話し始めた。
「私は二年前から、変なやつらから提案を受けてた。
カイザーコーポレーション……かなって今まで思ったけど
特務士官のいうことにはそのスポンサーで、上司らしいけど」
「"……ゲマトリアの黒服、だっけ?"」
「うん。私が始めてあいつと会った時に適当につけたあだ名が気に入ったらしくって」
そう言うと、それの姿を思い出したのかホシノはわずかに顔をゆがませた。
「何となくぞっとするやつで……キヴォトス広しといえども、
ああいうタイプのやつは見たこと無かった。
ただ、怪しいやつだけど、別に特段問題を起こしたりもしなかった」
……ここ、キヴォトスには多種多様な人々がいる。
羽の生えた生徒にエルフ耳の生徒に動物の耳が生えた生徒……
生徒はどちらかというと先生のような人間に近く、ヘイローを持つが、
生徒以外にもキヴォトスでは柴大将のような動物がそのまま二足歩行をしているような住民や、
カイザー理事のようなオートマタもいる。
そんな場所で長く暮らしている彼女が見たことがないと断言するとは、よほど異質な相手なのだろう。
その相手から、スカウトまがいの提案を数えきれないほど、定期的に受けていたらしい。
1年ほど前に数か月ほど途切れたことがあったそうだが、それも再開し今に至る。
この前の紫関ラーメン襲撃の時に駆けつけることができなかったのも、その提案があったかららしい。
その言葉は、いつもと同じように始まったという。
[あなたに、決して拒めないであろう提案をひとつ。
アビドス高校を退学し、私共の企業に所属する。その条件を呑んでいただければ、今アビドスが背負っている借金の全てをこちらで負担しましょう。
ククッ、ククククッ……さあ、答えを聞きましょう。もしイエスならば、こちらにサインを……]
そんな事を言われたらしい。そこまで説明して、ホシノは軽く肩をすくめた。
「ま、断ったけどね。それは誰から見たって破格の条件だった。
でも、その時は私がいなくなったらアビドス高校が崩壊するって思ってたからこそ、
ずっと断ってたけど……」
けど、と。そこまで言いかけて、ホシノの言葉が止まった。
「"……けど?"」
「……いや、何でもないよ。あいつら、PMCで使える人材を集めているみたい」
「……けど」。前後の言葉から察するにホシノの、
あの退部届の意味シロコの予想通りはそういうことだったのだろう。
先生はそうあたりをつける。
「"じゃあ、この退部届は……"」
「……うへ」
未だ自分の手のうちにあるホシノの退部届。
ここで選択肢を間違えると、ホシノがいなくなってしまうかもしれない。
先生の身がわずかな緊張を帯びる中、本人は少し気まずそうな顔をした。
「まあ、一ミリも悩んでなかったって言ったら嘘だし。
ちょっとした気の迷いっていうか……うん、もう捨てちゃおっか」
「"ほへ?"」
しかし、ホシノが発した言葉は彼女が予想したものとは全く異なっていた。
先生が斜め上の回答に驚愕し、固まっている中、
ホシノはサッとその手から退部届を抜き取ると、
それの上部にゆっくりと手をかけた。
「"あっ"」
ビリ、と音が響いた。ホシノの手の中の、紙が裂ける。
真っ二つになったそれを重ね合わせ、もう一度手をかける。
再び、紙が裂ける音が響き渡る。
2度、3度、4度……
音が鳴り止んだ時、目の前の夜景の中に、真っ白な紙吹雪が舞った。
それを呆けたように見る先生の横で、ホシノは軽く手を払った。
「うへ〜、スッキリした」
いつものように笑ってそう言うと、ホシノは先生の方を向いた。
「余計な誤解を招いてごめんね。ただ、こんな話をみんなにしたところで、心配させるだけで良いことも何も無さそうだったからさ」
「"そ、そうなんだ。それなら、良かったよ……"」
ようやく意識が追いついたのか慌ててそう答える先生にホシノは少し考え込ながら自分の後ろ頭をさすった。
「でもまあ、可愛い後輩たちにいつまでも隠しごとをしたままっていうのも良くないし……明日、みんなにちゃんと話すよ。聞かされたところで困らせちゃうだけだろうけど、隠しごとなんて無いに越したことはないだろうし」
「"……そうだね。あの時はみんな言わなかったけど、ホシノ、大分辛そうだったし、みんな心配してたから……安心させてあげて"」
「うへ、そうするよ~」
ホシノはそう言うと、再び窓枠にもたれかかった。
「実際のところ、今はあの提案を受ける以外、他の方法は思いついてないんだけどね」
「"……どうしたの?"」
「うへ、なんでもないよ〜」
ポツリ、とホシノが見えないように、ふっと表情を落として呟く。
先生に聞き取れないほど微かな、小さな声だった。
(……そうだなあ。奇跡でも起きてくれれば良いんだけど……)
心の中で、そう呟く。
そういえばあの時も……先輩と会えなくなった、前の日にも、
私は奇跡について話していたような気がする。
……あの日を、後悔しなかったことはない。
「奇跡、かあ」
もう一度、そう小さく呟くと、ホシノは腰を上げた。
「……さ~てと、この話はこれでおしまい。じゃあ、また明日。先生」
ホシノはそう言うと、先生にくるりと背を向けた。
何気ない、普通の別れの言葉。
「さよなら」
そう。何の変哲もない、普通の言葉のはずだ。
でも、それが、永遠の別れを表しているように思えて……
「"ホシノ!!"」
「な、なに?」
気がつけば、先生はホシノにそう声をかけていた。
急に大きな声を出したから驚いたのか、ホシノの足が止まり、くるりとこちらに振り向く。
……なんというのが正解かわからない。しかし、先生は胸に手を一瞬当て、深く息をついた。
「"私が、大人として……みんなの先生として、きっと、解決してみせる……だからっ!"」
「……」
ホシノは虚を突かれたように呆けると、少しして、儚く、笑った。
「……うへへ。私、そんなに元気がなさそうだったかな?」
そう小さくかすれそうな声でホシノはつぶやくと、にへらっと先生に笑いかけた。
「うん。ありがとう、先生」
その言葉を最後にホシノと別れた次の日、教室に来た先生らが目の当たりにしたのは、ホシノの退部届とアビドス対策委員会、そして、先生へと宛てた手紙だった。
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手紙を最初に発見したのはアヤネだった。
彼女からの切羽詰まった連絡により、誰もがすぐさま教室に駆けつけた。
手紙に書かれていたのは、謝罪と、決意と、願い。
ホシノは後輩達を救うために、アビドスを守るために自らの身を断った。
……それが、たとえ後輩たちの望まぬものだったとしても。
「そんな……!」
「何なの!?あれだけ偉そうに話しておいて!捨てないって……諦めないって言ったのに!こんなの、受け入れられるわけないじゃない!」
「……助けないと。私が行く。対策委員会に迷惑がかかるし、私一人で」
ノノミは悲痛な声を上げ、
セリカは怒声とも、悲哀とも取れる叫びを上げ、シロコは堅い決意を秘めた表情でそう宣言する。
「"……私の、力不足……いや、だめだ。アロナ、ホシノの現在地を……"」
「落ち着いてください、今はまず足並みをそろえないと──きゃあっ!?」
先生は何とか自身を奮い立たせ、ホシノ救出のために動き始めようとする。アヤネは、自分の不安を押し殺して空中分解しそうな仲間たちに声をかける。しかし、事態は待ってくれない。
「爆発……!?」
「近いです、場所は……っ!? ……そ、そんな、市内……!?」!」
……アビドス高等学校の近郊、装甲車の上にカイザー理事とアーマーを装着した特務士官の姿はあった。逃げ惑う市民たちを、PMCの兵が、戦車砲の爆炎が追い立てる。
「ふふふっ、ふふふふふふふ…………! ついに、条件は全てクリアした。最後の生徒会がアビドスを退学……これで実質的に、アビドス高等学校は消えた!」
その様子を見て、自分の勝利を確信しているのか理事は高笑いを上げる。
そのそばにいる特務士官は、その大きな声すら聞こえていないかのように、うつむいていた。
……ああ、必死で抑えているつもりなのに、歓喜の震えが止まらない。あと少し、あと少し……
「待ってて、ホシノちゃん。あと少しで呪縛から開放してあげる。またみんな一緒に、平和に暮らせるから」
鬼神の中に囚われた梔子ユメは、小さくそう呟いた。
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とある、地下奥深くの実験施設。その一室にあるモニターに映し出された光景に、ホシノは絶句した。
そこら中で爆炎の上がるアビドスの町並み、学校に向けてアリのように群がっていくカイザーの軍勢。
そんな彼女に、後ろに立っていた黒服が話しかけた。
「どうかされましたか?ホシノさん」
ホシノは、何かをこらえるようにゆっくりと振り返ると、目の前の相手を怒気の籠もった目で睨みつけた。
「どうして、どうしてアビドスの町を攻撃するんだ!!」
「どうしてと言われましても……何もおかしいことはありませんよ、ホシノさん」
ホシノの怨嗟の声。しかし、それに怯むことなく、黒服は何でもないことのように告げた。
「あの借金はきちんと完済させていただきますとも。それが私たちの間に交わされた約束ですから」
「だったら、何故……!!」
「それはそうとして……あなたが退学してしまい、残念ながらアビドス高等学校にはこれ以上、公的な生徒会メンバーが残っていないようですね。これでは学校は成り立たないでしょう」
黒服は淡々とその旨を告げた。ホシノの、青と金の瞳が大きく見開かれる。驚愕で固まった彼女をじっと見て黒服は続ける。
「……ホシノさん、私たちの目的は最初からあなたでした。あなたに契約書へサインしてもらうこと、あなたに関するすべての権利を頂くこと。その目的のために利害関係が一致したのでカイザーコーポレーションに協力していた。ただそれだけのことです」
……そうだ。特務士官だって自分はあくまでスポンサーだと言っていた。なんで、なんでそのことに思い至らなかったのだろう。
[切羽詰まっていると人は何でもしてしまう]その言葉が脳裏を巡る。
「……さて、ホシノさん。あなたのキヴォトス最高の神秘……私はそれを使い、とある実験をすることが目的でした」
「っ!!」
実験、という単語を聞きホシノは身構える。
……生憎武器というものは持っていないので、それは気休め程度のものであったが。そんなホシノを、黒服は諌めるように手を動かす。
「まあまあ、そんなに警戒しないでください。
実験は当初と異なる形ではありますが達成されたのですよ。
ククッ、曖昧な空虚な夢が、それを為す意志と転じた時、あそこまで膨大な神秘を持つとは思わなかったもので」
黒服は当時の事を思い出したのか、少しだけ笑うと咳払いをした。
「失礼しました。あの時の高揚は素晴らしいものだったので。
それはさておき、実験を終えた時点で私は撤退するつもりだったのですが、私の部下があなたの身柄が欲しいと言い出しましてね。いつも助かっているので簡単なご褒美にと」
「……特務士官か」
ギリ、と口を噛みしめるホシノ。その言葉を聞いて黒服は興味深そうに首をかしげた。
「……なるほど。そういえば、あちらであなたと会ったとうれしそうにしていましたね。なるほど……まあいいでしょう。
あとはお願いします」
「!!」
黒服は面白いことを聞いた、とも言いたげに何かブツブツと言っていたが直ぐにそれを打ち切ると、何処かに指示を出した。
その瞬間、いつの間にかホシノの背後に回り込んでいた2機の大柄なオートマタがホシノの身体をがしりと拘束した。そのまま2機は、黒服に付き従って何処かへ歩いてゆく。
「くそっ、放せ、放せっ!!」
ホシノがいくら身を捩っても、オートマタ達の拘束は揺るがない。そもそも、武器も何も無い彼女が暴れた所で、一体何になるというのだろうか。そんな彼女を見て、黒服はクックッ、と笑った。
「まあまあ、そう暴れないでください。あなたは傷つけないようにと部下から言付けられているので」
そして、ホシノの抵抗も虚しく、オートマタ達は廊下の一角にある黒樫のような質感の扉の前にたどり着いた。黒服が近くのパネルに手をかざすと、扉からカチャリと音が聞こえ、重々しく扉が開く。扉の先は、薄暗く細い廊下が続いており、奥の更に別の扉が、光が溢れる部屋とを隔てていた。
「それでは。他の皆さんが来るまで、ここで彼女の遊び相手をお願いします」
「は?」
どことなく漂う不気味な雰囲気。
それにホシノが一瞬、身を強張らせたその時、黒服が言った予想だなしない言葉に彼女は思わずそんな声を上げた。
「他の皆さんが来るまで」???まさか……!
ホシノの思考がそれに至った瞬間、廊下の中心辺りに、ホシノの身体が突然放られた。
「!!」
ホシノは、素早く、的確に着地すると扉の向こうへ消えようとする黒服らへ向けて駆け出した。しかし、無情にも扉は閉まりはじめる。ホシノが追いついたときには、扉はぴったりと閉まった後だった。
「はあ……はあ……はあ……」
しばらく、ホシノが息をつく音だけが廊下に響く……
瞬間、その右足が大きく振りかぶられた。
「ふざ、けるな!!」
ガン、と、ホシノは全力で扉を蹴り飛ばした。
丈夫な金属を弾くような音が扉から響く。
やはり木は見た目だけだったようだ。しかしホシノは止まらない。
何度も、何度も、拳を、蹴りを、扉に打ち付ける。
「私だけでも、アビドスだけでも飽き足らず、お前らは……!!ここから出せっ!!!」
……しかし、扉は揺らがない。徐々に、徐々にその音の強さも、頻度も、小さくなってゆく。
「……出して、お願いだから、出してよ……」
最後に、とす、と、拳も打ち付け、ホシノは止まった。
全部、私のせいだ。
自分を犠牲にしてみんなを守ろうとしたのに、自分のせいで学校はなくなり、更にはみんなも……
「ごめん、……シロコちゃん……ノノミちゃん……セリカちゃん……アヤネちゃん………先生」
そして、最後にポツリと、
「ユメ、先輩……」
ホシノは、その場に蹲った。その目にはもはや何の光も宿していない。絶望した、抜け殻だけがそこに転がっていた。
ああ、これからどうしよう……どうすればいいかな?
どうすれば……
「だあれ?」
声が、背後から響いた。あどけない、無垢な声。
僅かな物音の後に、誰かがトテトテと近寄ってくる。
実は、ホシノの動きが止まった当たりから、物音を聞きつけた何者かが奥の扉からひっそりと様子を伺っていたのだ。扉の開く物音はしていたが、ホシノがそれに気づくだけの余裕はなかった。
何者かは、ホシノの背後で足を止めた。
「……あなたが、くろおじさんのいってたあたらしいおともだちなの?おおきなおじさんがあそべなくなちゃったから、かわりにきてくれるっていってた子?」
何も反応を示さないホシノに、声の主はそう尋ねる。
くろおじさん……黒服のことだろうか?ホシノは僅かに反応した。彼女はゆるゆると顔を上げる。
「やっぱりそうなのね?」
彼女が反応したことに気がついた何者かはそう言うと、
トテトテと彼女の正面に回り込むと、コテン、と首を傾げた。
「……だいじょうぶ?とっても、かなしいおかおだよ?」
そこにいたのは小学生位の少女だった。
多分、身長はホシノ以上に小さい。
暗い赤毛に少し大きさにあっていない黒縁眼鏡、ブルーベリーのような青紫の瞳。額に生えた小さな赤い一本の角。頭上に浮かぶヘイローはどこか特務士官のカメラアイを思わせる色と形。
……精神年齢が見た目以上に幼く見えるのは、気の所為だろうか?
いや、それよりも何故、こんな場所にこんな女の子が?
理由もわからず放心するホシノ。そんな彼女をしばらくジッと見つめると、少女はどこかにトテトテと走り去っていった。
「!!待ってっ!」
「ひゃうっ!?」
ようやく思考が追いついたホシノは慌てて少女を呼び止める。
しかし、その声に驚いたのか少女はぴょん、と飛び上がるとバランスを崩し、そのままコケた。
「あ、ご、ごめんね……驚かせちゃって。大丈夫かな?」
「……ふぇ、う。……だいじょうぶ、カーラつよいこだもん」
染み付いた癖で、いつもの口調に戻るホシノ。
少女はというと自分を励ますようにそう言うとぴょこりと立ち上がってホシノの方を向いた。
……その割に半泣きになっているがそれを指摘するのは野暮というものである。……さて、
「……おじさんは小鳥遊ホシノって言うんだ。よろしくね〜」
ホシノは、取り敢えず様子見で名前を名乗ることにした。
恐らくこの少女に事情を名乗っても問題ないとは思うが万が一ということがある。それに、少女は長い間ここにいる様子。もしかしたら、もしかしたら脱出の鍵が見つかるかもしれない。
(……こんな子を利用使用するなんて、私も大概か…)
ホシノが自笑気味の思考に浸る中、
少女は目をぱちくりと瞬かせると、ニッコリと、ひだまりのように笑った。
「カーラはね、カーラ・ミッチャムって言うの!あなたがおねぇちゃんのいってたホシノちゃんなのね?よろしくね!」
……戦争は、彼女の産み出した怪物は、少女の殻に閉じこもった彼女を逃してくれることはない。
どもー、時空未知です。
ということであれですね。
お労しやカーラ上定期。
ということでかわいいかわいいカーラちゃんが出てきました。
ダリルたちと比べ転生するタイミングが遅かったためガチ幼女になっています。精神退行してるから丁度いいですね!
ちなみに、原作では元から恋人同士だったダリルが父親代わりとなったため精神の回復が比較的早いですが、
こちらは初対面の人外かつ、おじさん代わりの黒服、同じくカイザー理事、一番懐かれているお姉ちゃん代わりのユメ先輩、その他カイザー職員という組み合わせなので知識の回復に対して精神の回復速度はめちゃくちゃに低下しています。
だからおじさんと接触させて精神の回復が早まるか確かめる必要があったんですね。