目が覚めたら亡国の戦犯だった
――さま。……様!起きてください!
うっすらと聞こえてくる女性の声、私としては毎日、日付の変わる時間帯まで残業をして貴重な休日の朝を邪魔されたくはない。……いや待て。私は一人暮らしだったはずであり、女性の声等聞こえてくるはずはない。恐る恐る眠気眼をこすりながら眼を開けると眼の前には給仕服を身に纏ったメイドがいた。
「よかった!お目覚めになられましたか!今侍医を呼んでまいります!」
私が声をかける暇も無くメイドは部屋から飛び出していった。一人残された私は寝かされていた部屋をぐるりと見回す。1LDKのこじんまりとしたアパートは私の暮らしていた部屋であったが今はどうだ?一人で使うには広すぎる室内に豪華な装飾品が並ぶ。まるで貴族が暮らしている寝室のような……。
「殿下!レミール殿下!お目覚めになられましたか!」
などと物思いに耽っていると侍医、つまるところは医者が到着したようであるが彼は今私のことを殿下、レミール殿下と呼んだか?
「すまッ!?ない……き、記憶が混濁しているのだ。ところで今日は何日なのか教えてくれないだろうか」
声帯から発せられた声は男の物ではなく女性のもの。何とか平静を装って日付を聞き出す。
「落ち着いて聞いて下さいレミール殿下。今日は中央暦1625年の5月7日で御座います。貴方は外務局監査室の建物から出られた際、誤って放馬した馬と衝突されたのです」
聞き慣れぬ暦の読み方に戸惑いつつも中央歴という言葉、レミールという貴族の名前に心当たりがあった。暇さえあれば読んでいたネット小説のひとつに同姓同名のキャラクターがいたはずである。
とある国の貴族だった彼女であるが慢心からくる差別意識や自身の性格が災いし、圧倒的な国力差を見抜けずに戦争の引き金を引き最終的には祖国を亡国の一歩手前に導いてしまう大戦犯となってしまう貴族、それがレミールと名乗っていた。
「れ、レミール殿下!急に体を動かされては危険です!」
医者が止めようとするが構わずに私は窓の鍵を開ける。そこには排気ガス等の空気汚染が無い澄んだ空気、そして眼下には中世から近世のヨーロッパ風の建物が立ち並ぶ。空にはワイバーンが編隊を組んで舞っていた。
できればそうであってほしくないと館に設置されている掲揚旗をみれば赤地に亀のような生き物が描かれた旗がはためていていた。
「う、うっ……うーん」
「ああ!大変だ。殿下、殿下!メイド!レミール様をベットへ!」
「は、はいっ!」
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「夢オチならどれほどよかったか。やっぱりこれは現実ということなのね……」
気絶し一眠りすると自分の記憶の他にじわじわと他人の記憶が染み出す様に思い出されて来た。これがレミールの記憶なのだろう。
身体を起こして鏡を探す。幸いすぐに見つかり覗くと長い銀髪のツインドリルヘアーは下ろされたロングヘアーの美女……というか少女の姿があった。右をみたり左をみたり、口を開けたりしてみるが鏡の中にいる美女は瓜二つの行動を映す。髪の毛をさらりとさわってみればその感覚が返ってくる。やはり夢などではなく現実のようであった。外を眺めれば市場があり物売りの街人たちの張り上げる声が私の部屋まで響いてくる。
原作時空だと中央暦1640年にはパーパルディア皇国という国は敗戦、私の身は犯罪者として日本送りとなってしまう。だが今は1625年、ルディアス皇帝が即位して間もないからか、大規模な拡張政策をとっていない。というか属領を攻めたてて併合したという歴史は無く、北方の帝国、リーム帝国の圧力に対抗するために複数の国がまとまりパーパルディア皇国が建国したという歴史がある。これであればまだ取り返しのつく範囲ではある。がしかし時間は無いとも言えないしあるとも言える。
もし私が何もせずに物語どおり進んでいくのであれば市中の皇国民たちの未来を私が脅かしてしまう……どうしたものかと考えていると部屋の扉がノックされる。
「レミール私、ルディアスだよ」
ルディアス……パーパルディア皇国の皇帝であり最後の皇帝でもある。パーパルディア皇国が世界を征服し、その支配者となること望んでいる野心家であり、皇国崩壊の原因でもあった人物だ。
……というか私が外交関係に余計な口を挟まなければこの国は日本国との侵略戦争からの絶滅戦争を行うことは無く、亡国の危機に陥ることなく存続していたのだ。
「どうぞ、皇帝陛下」
「うん。入るよ」
既に前皇帝は崩御しておりまだ幼いながらも新皇帝として執務を行っているルディアス。会ってみようとは思うが確か彼の性格は傲慢な男だったはず。しかし扉を開けて入ってきたのは男……ではなく中性的な顔をした少女とも青年とも取れる人物であった。
「大丈夫かいレミール。僕は心配して公務が全く務まらなかったよ」
「こ、皇帝陛下……お心遣い感謝致します」
見た目と同じような中性的な声をしているルディアスから相当心配されていたようである。私の横へ座り私の頬を撫でてそのまま抱きつく。
「本当に無事で良かった。君が居なくなってしまったら僕は……」
抱きつきが強くなり、ふと男性には無い感触が返ってきた。やはりこのルディアスは男ではなく……。
「ルディアス殿下!おられるのですか!?」
扉を強く叩く音が聞こえ、ルディアスが慌てたようにして立ち上がる。声からしてルパーサが探しにきたのであろう。
「おっと邪魔をしたね。しばらくはゆっくりとするといいよ」
「あの……皇帝陛下。今夜お時間があるようでしたら少しお話があります」
「話か?体調が良くなってからでも良いんじゃないかな?」
「本当に……どうしても外せないお話があるのです」
「……分かった。今夜は空けられるように努力しよう。君の目が覚めて本当に良かったよ」
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その日の夜、公務を終えたルディアスが私の部屋へとやってきた。手頃なイスを引っ張りだして私が寝かされているベッドの横に座り込む。
「それで話とは一体……?」
「皇帝陛下……いえ、ルディアス様。これから私が話すことを正直に受け入れてくれることを誓いますか?」
「……分かった。話を聞こう」
「私が馬に轢かれて眠っている間、不思議な夢を見ていたのです。これからの世界や我が皇国の未来をです」
「……我が皇国の未来?詳しく聞かせて」
ルディアスが食いついてきた。これならば警告とも取れる私の言葉を信じてくれるだろう。……そう信じるしかない。
「今後10年でこの国は北からの侵略に抵抗するという名目で周辺国を属領とし列強国の仲間入りを果たすことでしょう」
「へぇ!それは本当なんだね!?」
パーパルディア皇国はまだ列強国という位置ではなく準列強国扱いである。レミールの記憶が正しければ列強はまだ神聖ミリシアル帝国、ムー、レイフォル、エモール王国の4カ国であり、列強国入りを果たすとなれば喜ばしい未来のはずだ。
「しかし、その一方で皇帝陛下の指示以上に横暴を働いてしまう統治機構職員たちは属領等に対して圧政を敷いては搾り取るだけ搾り取っておき、属領の民を声を無視した恐怖支配で支配を続けているのです」
「なんと……私の言葉を都合良く利用して甘い汁を吸う輩がいるとはね」
皇帝陛下自らが断罪をする計画を立てている様子であるが更に重い未来を叩きつけたらどうなるであろう。
「ルディアス様。私が未来を見たもっと先を話を聞きたいですか?……この未来は私自身も信じたくはありませんが」
「悪い話もあるの?ぜひ聞かせてもらいたいな」
「はい。今から20年以上先の話ではありますが……本当に聞きますか?」
私の言葉に気を押されてか静かにルディアスは頷いてくれたので正直に話せる。
「パーパルディア皇国は列強国以上の力を持つ国にあろうことか殲滅戦を宣言。一方的に惨敗を繰り返し陸海軍はほぼ壊滅60万の戦死者を出します。さらに属領が一斉に蜂起、反乱軍となって首都に押し寄せ皇国は無惨に敗北。ルディアス様は幽閉、その戦争の主犯である私は犯罪人として敵国に捕らえられます」
「列強国から転がり落ちた上領土は分割され、皇国民に餓死者を出すほどにまで落ちぶれます」
「そんなことがあってたまるかっ!」
一瞬の怒りにまかせてルディアスが立ち上がると私の首をベッドへ押し付ける。息が苦しくなり危うく失神しそうになるが理性を取り戻したルディアスが手を離してくれたので意識を失わずに済んだ。申し訳なさそうな顔をして再び椅子に座る。呼吸を整えて……。
「げほっげほっ……気は済みましたかルディアス様。これはあくまで私が見てきた未来の話です。未来というものは行動によって変えられます。それに、この未来から得られることは活かせることができるのです。」
ベッドから起き上がってルディアスに絡みつきその体制のまま語りかける。
「かつての偉人が残した言葉があります。愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶといいます。ルディアス様はどちらを選ばれますか?」
「それは勿論賢者だ。愚者など皇帝にふさわしくはないからな」
「ええ、それでこそルディアス様です。喫緊の課題としては属領への圧政、統治機構の腐敗があります。これを解決しないことには皇国の未来は暗いものとなるでしょう」
一呼吸置いて私は再び口を開く。
「属領の問題を解決しつつ次は富国強兵……国を豊かにし、強い軍隊を作ることを目指しましょう。列強国……とりわけムー国の技術は魔導技術を上回る実力を発揮できるポテンシャルを持っています。一から学ぶということも富国強兵の第一歩となるでしょう。私がムー国と交渉致しましょう」
「国は良くなることは良いことである。レミール。君にはムー国との交渉は頼んだよ」
それと……と私は臣民統治機構長であるパーラスの名前を挙げる。
「……彼が一体どうしたと言うのだい?」
「臣民統治機構の腐敗……主に現地職員の不正や暴走を黙って見過ごしていた。はっきりと言ってしまえば皇国の癌なのです。今すぐにでも追放か断罪をすべきなのです。彼がいたことで皇国の衰退が早まったといっても過言ではありません」
「それほどまでに臣民統治機構は腐敗しているのか……調査が必要であるか。他にはどんな物を見てきたのか教えて欲しい」
「はい。例えば鉄道というものですが……」
その晩ルディアスは私の話に耳を傾ける。よほど未来の話を聞きたいのであろう。そのまま二人でベッドへ横になり長時間、未来のことや皇国の今後についてひたすら語り合った。そしてルディアスは私の予想通り男のフリをした女性、男装の麗人というやつであった。
こんな感じで進めていきますので応援よろしくお願いしします