パーパルディア皇国首都エストシラント、その郊外にある先進科学技術研究所、通称技研の格納庫には先日国境線から運ばれてきたリントヴルムの変異体と思われる個体の外骨格と骨格、冷凍魔法を施された肉や火炎袋といった内臓が運び込まれていた。
「なかなか見られる光景じゃないけれどね……」
「そうですね所長。……うっぷ、すみませんちょっと用を足しに」
「あー……はいはい、気をつけてね」
工学を専攻していたロバート副所長はあまりの光景に目をやられてトイレを行ったり来たりしている。……私も正直胃から込み上げてくるが必死に堪えていた。
「所長、これで全てです」
「え、えぇ……ご苦労様。後は我々に任せてください」
「……あまり無理はなされないでくださいね。皇帝陛下が心配なされるので」
釘を刺されてしまったがやらなければならないので仕方がない。リントヴルムの方から見ていこう。
「この装甲は野生種のリントヴルムには見られない物ですね。恐らくは品種改良された種かと」
生物学派の研究員がそう話す。蒸気戦闘車の砲撃を弾いたのだ、さぞ重たいのであろうと思ったのだけど……。
「……予想していたよりも軽いわね」
「はい、軽量ですがかなりの防弾性を持っている物だと思われます。現に蒸気戦闘車の12ポンド砲を容易く弾き返しておりますので」
だとすればこの装甲を量産することが出来ればより良くより強い戦闘車が作り出せる。もしかしたら鎧の材料として採用できれば銃弾を弾き返せる騎士団ができる。
「この装甲の生産はできそうかしらね」
「今のところは何とも、詳しく材質を見てみないことには量産できないかと……ですが不可能ではないかと思われます」
これで蒸気式戦車を先頭にフルアーマー騎士団が戦場を席巻できる段取りができる。
「それじゃ、工学科の方には話を伝えておくわ。よろしくお願い」
「はい!わかりました」
格納庫から建物に入って地下室のさらに入り組んだ研究室、ここではあまり表にはできないような技術への対策として設けられた施設であるため入り口には警備兵が常駐していた。
「お疲れ様です。レミール所長ですね……はい。確認が取れましたのでどうぞ」
実験室の中には科学や魔道関連の実験道具が並び怪しげな雰囲気が出ているが今回はスルー、目的の場所まで向かう。
「どう?何かわかったかしら?」
「所長、ええ、リーム帝国の軍隊は随分と倫理という物を蔑ろにしているみたいです」
「……どういうこと?」
私が問うとガスマスクらしき物のフィルターを外してみせた。その中には何か結晶のようなものと綿がぎっしりと包まれていた。
「この白い結晶はリーム・ドーヴァーとリーム帝国歩兵たちに呼ばれているらしく、身体能力の強化や疲労感回復、眠気解消等……といった効果が得られるそうです」
何処かで聞いたことがあるな……と思いつつも黙って話を聞く。
「その一方で断続的に気化接種をしていたリーム帝国軍捕虜からは強い幻覚作用や妄想、強い依存性などが確認されており現在治癒士での治療が試みられております」
その言葉に私は頭を抱えた。転移前の世界でも社会問題となっていた違法薬物の一種……それを強制的に兵士へと投与していたというのである。元いた世界ではかつて軍隊の兵士に向けての疲労回復や士気回復して重宝されていたらしいがやはり中毒患者が発生していたという。
「それにこのペンダントなのですが……」
取り出されたのは何やら少々豪華な装飾が施されているペンダントのようなもの。中央部には深い紫色の宝石のようなものが埋め込まれていた。これをリーム帝国軍の兵士全員が身につけていたという。
「……それが一体どうしたの?」
「このペンダント。どうやら魔道具の一種のようして、効果としては記憶障害や記憶の改変・抹消、ならびに認知改変が、このペンダントによって行われていることが捕虜に対する尋問で判明しました。彼らもこのペンダントをどうして持たされたのか分からないまま戦場に立っていたようです」
リーム帝国はそんなことをしなければならないような非人道的な行為を行っているのだろうか?末端の兵士の一兵に至るまでこんなペンダントをばら撒いてまで……謎は深まるばかりである。
「まだまだ情報が少ないわね……何かしらの進展が見つかったら報告を上げてちょうだいね」
「了解しました所長」
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「……以上が現時点で得られた情報となります」
技研で集めた情報をルディアス他が出席する帝前会議にて公表する。明るい話は多々あったが……やはり空気はどんよりと重たいような気がした。リーム・ドーヴァーという麻薬、記憶変換を行うペンダント等、人の心が無いような代物ばかりを利用しているリーム帝国に対して怒りを通り越して哀れみすら感じられていた。
「……リウス。捕虜収容所の設備はどうなっているのか」
「はい陛下、現状は最大2万人を収容できますが……もし規模を拡張せよとのご命令があればいつでも拡張を行えます」
「直ちに許可する。それとリーム帝国からの逃亡者に向けての広域拡声魔導放送を行う」
「畏まりました。直ちに開始させていただきます」
第2外務局の長であるリウスは深々と頭を下げ会議の終了を待たずにパラディス城を後にする。収容所の拡張やら前線への魔導放送拡声器の設置等の準備のためである。
数週間の後に巨大魔導拡声器が設置されてリーム帝国向けの放送を開始すると、隙を見つけて逃げ出してきた兵士や民間人たちの姿があり、日を追う事に人数や規模が増えてき私やルディアスが気が付いた頃にはちいさな都市まるまる1つはできそうなほどに逃亡してきた市民や軍人で収容所が膨らんでいた。
今更ですがリーム王国は徹底的悪役として描かせていただきますのでリーム王国が好きな人はごめんなさい……。