レミール転生   作:久保田紅葉

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列強国からの来訪者

 高らかに2つのレシプロエンジン音が鳴り響く。リーム帝国国境に程近い陸軍飛行場、かつてはワイバーンが発着する場所であったが『リームの壁事件』以降、ワイバーンは姿を消しその代わりにムーから輸入した飛行機械やパーパルディアが独力で開発した飛行機械が並んでいた。

 

 

 

『パール1、離陸を許可』

 

『コントロール了解。パール1離陸』

 

 

 

 たったいま離陸しようとしている二人乗り偵察機の複葉機はパーパルディア先進科学技術研究所、通称技研の研究者たちの努力の結晶である最新式であった。ムーの物と比べてしまえばまだまだ旧式ではあるものの、これを足がかりに単葉機の開発を加速させていくと言うのだという。

 

 短い滑走距離でふわりと飛び上がった複葉機は遠目に復興途中の町や村を眼下に見つつ、一路国境沿いの哨戒空域へとたどり着いた。

 

 

 

『こちらコントロール。様子を知らせ』

 

『パール1、相変わらずリーム帝国支配域は分厚い霧に覆われています』

 

『了解、パール1。引き続き哨戒飛行を頼む』

 

 

 

 彼らが初めて偵察した時と何ら変わらない光景であった。リーム帝国の上空は相変わらず濃い霧のような物で覆われており、偵察はおろか状況確認すら不可能な状態であった。

 

 皇帝陛下ルディアス許可の下、越境をしての威力偵察も数回行われたがこの濃い霧のせいで全くと言っていいほど成果は認められず、国境内からの偵察飛行にとどまっていた。

 

 

 

「しかし……本当に妙だよな」

 

「機長、奇妙とは」

 

「考えてみろ。つい最近までドンパチやってたところの国境にワイバーンや偵察機1つ飛ばさん国がどこにあるってんだ」

 

「確かに不自然ですけど……彼奴等もこの霧のせいで飛ばせないんじゃ無いんですか?」

 

「お前、この霧がいつから出てるか知ってるか?あの壁事件からずっとだ。昼も夜も晴日も雨でも関わらずな」

 

「……そう考えると気味が悪いですね」

 

「まぁそれを考えるのはお偉いさん方の仕事だ。俺たちゃ黙って言われたことをこなしていけばいい」

 

 

 

 偵察機は国境の壁を偵察し、日報には『リーム戦線異常なし』と短い文章が記された。

 

 

 

 

 

▲ ▼ ⏰️ ▼ ▲ ⏰️ ▼ ▲

 

 

 

 

 

「ようこそ先進科学技術研究所、通称技研へ。研究員一同歓迎致します」

 

「ええ、レミール殿下よろしくお願いいたします」

 

 

 

 エストシラントにある先進科学技術研究所、その所長である私はとある人物を迎え入れていた。

 

 列強とみなされていないパーパルディア皇国に神聖ミリシアル帝国の関係者が訪問すること自体が稀であるが、ちょっと魔帝の可能性があるとの噂を流した結果、ミリシアル帝国情報局から人員が派遣されることが決定したのである。

 

 

 

「神聖ミリシアル帝国、情報局のナーヴァ様、我が国にわざわざお越しいただき誠に感謝いたします」

 

「いえいえ、魔帝の情報とあれば我々も喉から手が出るほど欲しいですので……」

 

「ですが魔帝関連とは確定できませんよ?」

 

「それも重々承知しております。では早速向かいましょうか」

 

 

 

 軍の専用機で移動と思ったがナーヴァたっての希望で鉄道を用いての移動となる。しかも市井の民の姿を見たいといい実質お忍びでの移動となった。いつもの男装姿で技研のエントランスに向かうとナーヴァも準備が整ったようであったけれど……。

 

 

 

「ナーヴァ様、その仮面はいささか……」

 

「あら?お忍びといえばこの格好かと思ったのですけど……」

 

 

 

 流石にマスカレード風の仮面をしたままでは悪目立ちしてしまうので外してもらい技研の裏口からエストシラント市街に繰り出す。技研の建物から少し歩けば蒸気式路面軌道の停留所があり、数分も待てばエストシラント中央駅方面に向かう市街線が停留所に滑り込んだ。

 

 

 

『中央駅方面、港町行きでーす』

 

 

 

 私達が乗り込めば女性車掌が小さく鐘を鳴らして発車する。何駅か停車と発車を繰り返せばエストシラント中央駅にたどり着き、30パソを払って市街線を降りる。

 

 

 

「これがエストシラント中央駅……立派ですね」

 

「この駅からパーパルディアの全土へと移動ができるのです。ささ、列車の時刻もありますのでホームに向かいましょうか」

 

 

 

 

 

  ▲ ▼ ⏰️ ▼ ▲ ⏰️ ▼ ▲

 

 

 

 

 

『6番線からデュロ行急行列車が11両で発車致します。ご乗車になられますお客様はご乗車になられてお待ち下さい』

 

『エストシラントー、エストシラントー、エストシラントー。本日もパーパルディア国鉄をご利用頂きありがとうございました。終点エストシラントです』

 

『12番線に到着の列車は急行列車パールネウス経由アルーニ行きでございます。ご乗車の際は急行券に書いてあります乗車番号をお確認の上、ご乗車をお願いします』

 

 

 

 エストシラント中央駅に滑り込んだムー国製ム・テシィ型蒸気機関車牽引、10両編成の特別急行列車が12番線に滑り込む。その様子を私とナーヴァ、そして少し離れた場所で護衛の私服兵士が見守っていた。

 

 

 

「鉄道はやはり文明開化の象徴、素晴らしいですねレミール所長。……ところでこの列車は一体何キロ出せるんでしょう!」

 

「えーとですね。牽引機関車(ム・テシィ型)の設計上最高速度は160キロ……ですが安全上の観点から120キロに速度を落として運行しております。」

 

「120?……大変申し訳ないのですが聞き間違えでなければ120キロと申されましたか?(ミリシアルの機関車でもそこまで出せないはず……一体どうやって?)」

 

「ええ、つい最近までは100キロでしたがダイヤ改正で念願だった速度向上が叶いました。次は160キロだと技研の交通部は張り切っていましたよ」

 

「す、すばらしいですね……(ミリシアルよりも先を行く可能性のある交通網……ね)」

 

 

 

 2人が2等車に乗り込むと発車を知らせるベルがけたたましく鳴り響く。車掌が発車の合図となる笛を鳴らす。

 

 

 

『パールネウス経由アルーニ行き、急行列車が発車致します。お見送りの方は列車から離れますようお願いいたします。パールネウス経由アルーニ行き、急行列車が発車致します……――』

 

 

 

 汽笛を鳴らし列車はスムーズのエストシラント中央駅を発車した列車はエストシラント市街を抜けると一気に速度を上げて加速していく。道中の中小規模の駅は通過し、道中フィシャヌス、ディオス、パールと停車していく。

 

 

 

『ご乗車ありがとうございました。間もなくパールネウス、パールネウスです。10番線到着、お出口は右側です。本日もパーパルディア国鉄をご利用いただきありがとうございます』

 

 

 

 パールネウスにはティータイムの時間(15:00)過ぎに到着する。うん、定刻通りだしダイヤ改正前よりも大幅に時間短縮がなされている。大変結構なことである。

 

 

 

「(エストシラントからアルーニまではおおよそ500キロ、その手前のパールネウスとはいえ……それを半日かからずに到達できるとは……パーパルディア、いやムー国恐るべし!)」

 

 

 

 ナーヴァが何やらぶつぶつと小声でつぶやいているようであるがそっとしておこう気にしないこ

とにしよう。それよりも珍しいものが見られるので先頭に案内する。

 

 

 

「珍しいものとは……?ム・テシィ型がもう一台?」

 

「ええ、これから先アルーニへは峠道となっておりますのでム・テシィ2両による重連運転となっているのです。その手の愛好家には涎が出るほどに珍しいようで……」

 

 

 

 目線の先には魔写機を構えた数人……ミリシアルが輸出規制している魔写機をどうやって手に入れたかは謎であるが駅員が注意すると蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 

 

 

「……列車に戻りましょうか」

 

「え、ええ。そうしましょうか」

 

 

 

 ちょっとした問題があったものの特別急行列車は定刻通りにパールネウスを発車、峠道を力強く登り、登り切ると今度は下り坂へと差し掛かる。その際ぐるりと巨大なループを描くアルーニループ線があり、列車は巨大な弧を描きながら峠を下っていく。いつみてもこれは大迫力である。

 

 

 

 乗客一同興奮冷めやらぬうちに特別急行列車は終着駅のアルーニにたどり着いた。

 

 

 

『ご乗車お疲れ様でした。アルーニ、アルーニ、終点です。本日もパーパルディア国鉄をご利用いただきましてありがとうございました』

 

 

 

「長旅お疲れ様でした。この後は駅前にある国営ホテルで一泊、明日から調査となりますのでよろしくお願い致します」

 

「え、ええレミール所長。今日の案内ありがとうございました。明日もよろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 ▲ ▼ ⏰️ ▼ ▲ ⏰️ ▼ ▲

 

 

 

 

 

 アルーニ駅前にある国営ホテルの一室、バスローブ姿のナーヴァが何やらゴテゴテした機械を取り出してノイズ音を聞きながらつまみを回し周波数を合わせている。

 

 

 

 「こちら調査員ナーヴァ。本部、本部応答願います」

 

 

 

 しばしのノイズの後、通信が確立する。

 

 

 

『こちらミリシアル帝国情報局。随分と報告が遅れたようだが何かあったのか?』

 

 

 

 魔帝の情報を集めるのは本来の目的であるがナーヴァにはもう1つの目的があった。急速に発展しているパーパルディア皇国に対する情報収集である。

 

 

 

「申し訳ございません……何分情報があまりにも多すぎまして……では口頭で伝えさせていただきます」

 

 

 

 ナーヴァは到着からホテルまでのことを事細かく詳細に情報局へと伝える。

 

 蒸気機関を主とした交通インフラ、空から見えた景色、道中ありとあらゆる物をこと細やかに通信先の相手、神聖ミリシアル帝国情報局へと伝える。

 

 

 

「……以上が私からの速報となります。詳細は帰国後に報告書として提出致します」

 

『了解した。しかし……大口径砲を搭載した大型艦、我が国の魔導戦艦に匹敵するとは……』

 

「私も空からの確認したたけですがその可能性は高いかと」

 

『なるほど了解した。引き続き調査の方をよろしく頼たむ。通信終了』

 

「了解、通信終了」

 

 

 

 ノイズしか出力しなくなった通信機を前にナーヴァは唇を噛む。

 

 

 

「本国の連中は何もわかっちゃいないわね……パーパルディアとムー、科学文明国2国が合わさればとんでもない事になることをわからないのね」




今回はちょっと息抜きと共にパーパルディアの交通インフラのご紹介でした
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