翌朝、目が覚めると日は高く登っていた。夜遅くまで語り合っていたルディアスの姿は既に無い。化粧台の上に書き置きがあり、『改革の準備があるので先に出る。今日1日は休んで欲しい』……とのことである。ルディアスも同志となってくれたのでひとまず改革は進んだと言えよう。ルディアスは私に休んで欲しいらしいがしかしそんな時間はない。私も私なりに出来ることを頑張っていかなければな。
まずは会談である。ムー、それからクワ・トイネ公国とクイラ王国である。クワ・トイネとクイラは後回しでもいいがムーは早急に会談をしなければ、魔導文明という理由のわからない物よりも慣れ親しんだ科学文明を早急に導入したい。さらに旧式とはいえ鉄道や自動車といったインフラ関係の輸入ができれば御の字である。
起きたことをメイドに告げ、朝食を待っている間に別のメイドを呼びつけムー国の大使に都合をつけられるようにする。
「レミール殿下!もうお身体の方は大丈夫なのですか?」
「ああ、心配をかけて済まなかったわ。それよりもムー国の皇国駐在大使、ムーゲとの面会を取り付けてほしいのだけれど」
「かしこまりましたレミール殿下。朝食を取られている間に確認いたします」
パンとスープを齧り朝食を取っているとメイドが再び戻ってくる。どうやらムーゲ大使との面会を取り付けられたようである。早々に朝食を終えて用意された馬車へと乗り込む。
「従者よ。ムー国大使館へ向かってくれ」
「畏まりましたレミール様」
数分馬車に揺られたはいいがあの乗り心地はよろしくない。これもムーから早急に自動車を輸入、もしくは皇国で自主生産する必要性が出てきた上、舗装も必要となる。……ひとまずはこの話を置いておいてムー大使との会談である。先方を待たせているので足早に向かわなければ。
「レミール様、ムー国大使館前です」
「助かった。ありがとう」
「え?ええ」
少し怪訝な顔を従者からされたが気にせず、ムー国大使館の中へと入る。連絡が入っていたのかスムーズに会議室に通されてムーゲ大使との会談が叶った。
「無理を言って申し訳ない。外務局監査室のレミールです」
「は、はい。ムー国在パーパルディア皇国大使ムーゲです」
ぎこちなさそうにムーゲ大使が握手を求めてきたので普通に握手を握り返すとなぜか不思議がられてしまう。社会人として当たり前のことをしただけなのだが一体どうしてなのだろうか。
「オホン……改めましてレミール殿下。今回は一体どういった要件で会談を希望されたのでしょうか」
「うむ、今回は貴国にしか頼めないことなのである。聞いてもらえるか?」
一体どんな無理難題をふっかけられるのであろうと呆れ顔とも取れる顔をしているムーゲ大使。大丈夫、今回はそんなに無理難題を押し付けるわけではない。紅茶を口に含んで喉を潤して要件を伝える。
「皇国へ蒸気機関を輸出してほしいのです」
「なるほど我が国の蒸気機関を所望していると……大変申し訳ないのですが理由をお聞きしてもよろしいですか?」
本音で言えば見慣れぬ魔導機械よりも見慣れた科学機械の方が扱い易いし何より技術力の伸び代がある……のだが馬鹿正直にムーゲ大使へと伝えるのは正しくない。少し言い換えて説明してみるか。
「私やルディアス皇帝陛下は常々考えていたのです。いずれ魔導文明は頭打ちとなってしまうのでは無いのかということを」
ムーゲ大使は砂糖を溶かしていたマドラーの手を止めて驚いていた。それほど驚くことだったのだろう落ち着かないまま紅茶を一気飲みしてしまっている。
「き、貴国は魔導文明国ですよね。それに我が国よりも魔導文明国であるミリシアル帝国の方が国力、技術力ともに優れていると思いますが一体どういった風の吹き回しですか!」
あまりに驚きすぎて敬語を無くしてしまっているムーゲ大使。
「落ち着いてくださいムーゲ大使。確かにミリシアル帝国は列強第一の座に居ます……現段階ではと但し書きが付きますが。彼の国は古の魔法帝国のサルベージやリバースエンジニアリングで技術の本質を理解しているとは思えないのです」
乾いてしまった喉を潤すために再び紅茶を口に含む。ほどよい甘さと茶葉の香りが口いっぱい広がる。
「その点ムー国は科学技術国、ほぼ独学で列強国の一強を担っているのです。ムー国のマリンもいずれは発展しミリシアルの天の浮舟をも超えられることでしょう。たとえばこんな風に……済まない紙を拝借致します」
さらさらと簡単な絵を描く。題材は旧日本軍の九試単座戦闘機であるがこれを見たムーゲ大使はほう……と唸りを鳴らす。技術畑出身ではない彼でもこのデザインがムー国にとっても先進的であると捉えられたようである。
「……かなり洗練されたような機体ですね。それに全金属製の単葉機、これが我が国で生産できるかもしれないと。……失礼ですが本国へと送ってもよろしいですか」
「構わないが……そのかわりに蒸気機関の実物の輸入や設計図の購入や技術者の指導を頼みたい。空想と取られかねないかもしれないが他の絵もいくつかかいてやろう。空と来たら次は陸と海か、なにかリクエスト等はあるか」
「そう言われましても……一度本国からの指示を仰ぎます。」
「うむ。ぜひそうしてくれ」
これでひと通りの会談は終了、前向きに検討して貰えそうで何よりである。ムー大使館を後にした後は第三外務局へと脚を運ぶ。クワ・トイネ公国・クイラ王国の両国とコンタクトをそして改革派筆頭でもある第三外務局局長のカイオスを抱き込むためである。
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「これはこれはレミール殿下。どういったご要件でしょうか」
カイオスがごますりをしそうなほどに手を拱いている……ように感じる。まぁそれは放って置いて本題に移ろうかと思う。
「クワ・トイネ公国から食料を輸入して欲しい。それとクイラ王国から燃える石も」
「わかりました。直ちに皇国監察軍を……」「いやその必要はない」
「はい?ではどうやって食料を搾取するので……?」
「いや、ロウリア王国からの庇護を名目に艦隊を進駐させる代わりに食料を輸入させる」
「皇国内で食料は属領からの搾取しているので不足は無いのでは?」
「……段階的に属領からの搾取を減らし、皇国内での生産へ切り替えていく計画がある。そのためにクワ・トイネ公国からの輸入を必要としているのだ」
納得がいっていないような態度をとっているカイオス。これでは埒が明かないので私の体験してきた未来を彼にも伝えることにした。
「なんと……それは真ですか!?」
「私が体験してきた未来なのだ。どうして嘘を言う必要があるのだ?……ところでカイオス、君に問おう。愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶという。君は一体どちらを選ぶ?」
「勿論賢者です。」
「それは良かった。カイオス君。君が改革派を組織しているとの噂を聞いた。今皇国には改革が必要である。これは提案なのだがそこに私と……ルディアス皇帝陛下も加えてもらえないだろうか。きっと力になろう」
「ぜひ!皇帝陛下が改革派についてもらえるのならば百人力です!」
そのまま雰囲気良く会談は終了、クワ・トイネ公国とクイラ王国との会談の予定を取り付けることができた。
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ムー国の首都、オタハイトにあるムー統括軍、その情報通信部に激震が走っていた。パーパルディア大使のムーゲが本国に送ってきた数枚の絵である。いずれもレミールという貴族が書いた戦闘機の絵であるがどれもこれも革新的かつ洗練されたデザインの物ばかりである。ムー統括軍は最新鋭の戦闘機、ブルドック改を配備したばかりであった。旧日本軍の九五式艦上戦闘機の様な戦闘機で既存のワイバーンを凌ぐほどの性能を持ち合わせていた。
そんな中で送られてきた数枚の絵によって情報通信部と技術部は大地震のように揺れている。特に技術部はその絵を寄越せ!と技術部総出で情報通信部に殴り込みを仕掛けようと計画しているほどであった。
情報通信部の部局長は頭を抱えていた。『パーパルディア皇国へ渡り絵の出処を調査し詳細な情報を求める』との上層部の命令が下ったからである。
「失礼します」
頭を抱えていた部局長の元へベテランの職員が訪れた。彼にはこれからパーパルディア皇国に飛んでもらうことになっていた。
「話を聞いているとは思うが君にはパーパルディア皇国に行ってもらう。何か要望などはあるか?」
「はっ、では一つ。新人を一人連れて行きたいのです」
「ほう?一体誰かね」
「新人のマイラス・ルクレールです。彼は将来ムー国の未来を担える人材となるでしょう。」
「わかった許可しよう」
「ありがとうございます」
それから1週間後、ベテランの情報通信部職員と新人のマイラス、そして旧式の蒸気機関、蒸気機関車と技術者を乗せた臨時貨物船がオタハイトから出航した。
九試単座戦闘機を出したかと言うと私がすきな飛行機だからです(風立ちぬ大好きマン)