中央市場に敷かれていた検問を無事?に突破した私とルディアス。エストシラント中央駅へと戻ったが次の行き先を決めかねていた。
「お兄さん!1部どう?今日のレースが丸わかりだよー!」
新聞売りの少年が話しかけてくる。今日のレース?と思い、記事を見れば皇都防衛隊陸軍基地の近くにある競馬場での開催レースについての新聞であった。
「今日のメインレースまではまだ間に合うよ!一度でいいから行ってみて!」
少年が妙に推してくるので視察という名目でいってみることにした。早速、陸軍基地方面の路面蒸気が到着したので乗ろうとしたが乗車率が大変なことになっていた。機関車を合わせて3両編成の路面蒸気なのであるが後ろ2両の客車は満員であった。
「あらあら……超満員。大人しく次の路面蒸気を待ちましょうか」
数分後に到着した路面蒸気も同じように混雑していたがなんとか乗り込むことができた。満員の車内の中、揺られること数十分、エストシラント競馬場正門前の停留所へ到着する。人の波へと押し流されるように車外へと押し出された。
「馬による競争はやっていると聞いたけど……ここまで盛大にやってるとは予想してなかったなぁ」
ルディアスがそう考えるのも無理はない。入場料を支払って入ればそこには巨大なスタンドに広大な土地に整備されたコースが眼下に広がっていた。パンフレットによれば1週2400メートル、スタンド前のホームストレッチは533メートルであり、陸軍基地のあるデュロやアルーニにも同様の競馬場が整備されているそうである。
次のレース7R、距離は1800メートルで競争が行われるようで準備が進んでいた。
「おや?お兄さん方は競馬場は初めてかい?タダで案内しよか?」
突っ立っていたのを見かねたのか赤鉛筆を耳にかけた帽子を被った中年風の男性、リーザキがいた。所謂馬券師と呼ばれる人種なのであろう。
「うーん……タダならお願いしようかな?」
「よっしゃ!ほな行こか。ワシはリーザキっちゅうんや。よろしくな」
「僕はレオ。彼女が……」「ルイーザよ」
自己紹介をしたのはいいものの、ルディアス……もし怪しい人だったらどうするのと思いつつ何かあれば殴り飛ばせる準備をしておく。
「馬券を買わんでも競馬は楽しめる。だけどひりつくんだったら馬券は買ったほうがええな。例えば単勝やが……」
リーザキと名乗ったおじさんは親切丁寧に私とルディアスへ馬券の買い方、競走馬の見方等を教えてくれた。
「で、どの馬が来ると思うんや?」
パドックをぐるぐる回っている馬を見るけど、正直どの馬がいいかなんて分からないけれど……なんか7番の馬がずっと私の方をじっと見つめてきていた。買うのはこの仔にしよう。
「うーん……私は4番の馬かな?なんかかわいい顔してるから」
「僕は、7番の馬が来ると思う。なんかこう……運命?を感じたから」
「その感性はええな。買い方はどうする?」
「二人の馬を合わせて拡大馬番号二連勝複式勝馬投票にしようか」「いいわね。」
「……長ったらしいからワイドでええで。いくら買うんや?初めてなら100パソ、奮発して1000パソとか」
「2人でそれぞれ2万パソにしようか」
「ふ、太っ腹やなぁ……」
窓口に買いたい馬の番号と馬券の種別、そして金額を支払って馬券を購入する。あとは場所どこで競馬を見るか……。
「やっぱりゴール前が鉄板やが……人が多いからやめておこか、儂のおすすめは……」
第四コーナーから最終直線での攻防が見られるスタンドの端に陣取った私たちは第7レースが始まるの待っている間、出馬表を眺めていた。
「4番の馬パープルビスタって馬、馬主がエルト?ってなってるね……あの人競走馬持ってたのね。7番の馬は……カイオス?どうりで私を覚えているわけだ」
「何や、カイオスとかエルトとか言うてるけど……やけに親しげやな。知り合いか?」
「そういうとこって感じ……とだけ言っておきます」
なるほどな。とリーザキはこれ以上追求することはしなかった。スターターが旗を振ればいよいよスタートとなった。民生用の巨大魔導拡声器を使用して実況が行われている。
『本日の第7レース、全馬ゲートの中に収まりまして、スタートしました!』
私が選んだ7番スマイルスクエアが気持ちの良いスタートダッシュを決めてそのまま先頭に立つ。ルディアスの選んだ馬、4番パープルビスタは馬群の中団に取り付いてレースを進めていた。大きな隊列の変化がないまま第4……最終コーナーへと突っ込んで来た。
私達の眼の前を通過していって最終直線の攻防が始まった。
『逃げるスマイルスクエアがまだ粘っている!大外からパープルビスタがぐんぐん足を伸ばしてくるが、スマイルスクエアが粘っている!7番スマイルスクエア1着でゴールイン!2着には4番パープルビスタ、3着には6番のバースキーガンが入線しました!』
「当たった!当たったよ!」
「……確定するまで馬券は捨てちゃいかんぞ。降着なんかで順番が変わることがあるからな」
順位が確定したので換金をする。6番と7番のワイドの倍率が5.3倍、100パソが530パソに変わる計算となる。私とルディアスはそれぞれ2万パソ分購入していたので単純計算で20,000の5.3倍、106,000がそれぞれ私達の手元へと返ってくる計算であった。
「競馬ってすごいんだね……」
「せや、当たればがっぽり返ってくることもあるんや」
「おじさんは?」
「『予想は』当たってた……つまるところ外れやな」
「面白いね競馬って、次のレースも買ってみよう」
「なら転がしてみたらどうや?」
転がしとは払戻金全額をその次のレース資金に当てて、そのレースが当たった払戻金額全額をまたその次のレースに充てるような購入方法だそうで。複勝やワイドといった比較的中確率が高いと思われる馬券に使われることが多いらしい。
「やってみるか?」
「そうだね。何事も経験だしやってみようか」
次の8レース私はワイド、ルディアスは複勝に全額を突っ込んでこれを的中、9レース、10レースと連続して私とルディアスは馬券を的中させる。それに対してリーザキは的中ぜす、素寒貧となっていた。
「つ、次や……!次こそは当てるで……!」
リーザキは気合い十分のようであるが次のレースはメインレース、大きな波乱は少ないような気がするけれども、こればっかりは時の運としか言いようがない。
「引き際が大事とか言ってませんでしたっけ……?」
「男には引けない時があるんや……堪忍してくれ」
駄目だこりゃと思いつつも出走する馬たちの状態を見ようとパドック周辺に移動する。1番人気なのは3番の馬のようであるがどうにもピンとこない。ルディアスも同じ意見のようでこの馬を買うことはないであろう。
「よっしゃ!1番人気に全ツッパや!これで儂は億万長者やでぇ!」
「……おじさん、3番は辞めたほうがいいと思うよ」
「なんやて!?じゃ何がええんじゃ」
そう言われても……と考えていると一頭の競走馬と眼が合う。芦毛のやる気のなさそうに見えるが何となくだけど良いところまでは行きそうな雰囲気を醸し出していた。そしてネーミングもちょっとイカしている。
「僕は4番の馬が来ると思う」
「私も」
「4番?カイザークラバクかぁー正直連敗続きで買う要素ナシやが……」
「まぁ、騙されたと思って買ってみてくださいよ」
懐疑的な目をしていたリーザキであるがちゃっかりと私たちの予想に乗っかって4番の馬券を購入していた。
『第11レース、本日のメインレース……スタートしました。おおっと4番カイザークラバク出遅れました』
「何やってんねーん!しっかり乗れや!」
隣でリーザキが罵声を上げるがそれでもレースは着々と進んでいく。最終コーナーを目前にして4番は未だ最後方をちんたらと走っていた。
『第四コーナーを回りまして先頭は1番ヤルコンヒエンが気持ちよく逃げている!大外からカイザークラバクが猛烈に追い込んでくる!カイザークラバクが2番手!のこり300先頭とはまだ4馬身ある!カイザークラバク追ってくる、粘るヤルコンヒエンに迫るカイザークラバク!』
『逃げるのかヤルコンヒエン!大外からカイザークラバクが猛烈な追い上げ!逃げるか差すか!どっちだー!』
大接戦のゴール前、カイザークラバクが差し切ったようにもヤルコンヒエンが逃げ切ったようにも見えた。
「この場合ってどうなるんですか?」
「結審するまで結果はわからん。それまで馬券を破り捨てたらいかん」
しかし、判定は中々出ず、段々とリーザキの苛立ちが募っている……ように感じていた。
『お待たせしました。第11レースの審議についてお知らせいたします。1番、ヤルコンヒエンと4番、カイザークラバクが同時に入線し、審査の結果2頭を同着として確定致します』
『払戻金につきましてご説明致します。単勝勝馬券は1番、ヤルコンヒエンと4番、カイザークラバクの払戻金を合算し等分割した金額が払戻となります……』
同着、あまり聞き覚えがないのかリーザキも茫然自失といった感じで立ち尽くしていた。当たっていたことを伝えると大急ぎで換金所へと向かっていった。
無事に換金できたのか私たちの元へ戻って来ると満面の笑みを浮かべて戻ってきた。
「いやぁ!あんたらのおかげで今日の負けはパーや!あんがとな!そこの食堂で晩飯おごったるわ!」
競馬場に併設されている食堂、そこで早々にリーザキは上機嫌のまま串焼きを頬張りエールビールのジョッキを煽っていた。私はクワ・トイネ産の麦を使用した手延麺、ルディアスはおにぎりセットをリーザキから奢ってもらった。
「今日はありがとうございました。リーザキさん」
「おじさんや。いやー今日はワシも楽しかったわ。久しぶりに勝てたからな!」
ガハハ……と笑いながらエールビールを傾けていた。
▲ ▼ ⏰️ ▼ ▲ ⏰️ ▼ ▲
「ういー、ヒック」
「もう酔い過ぎですよ全く……家はどこなんですか」
「東エストシラント区ぅ23番通りぃ……」
「はいはい、東エストシラント地区の23番通りに向かってください」
「はいよー」
あれからもう2杯エールビールを煽った上、度数の高い蒸留酒を上機嫌に飲んだリーザキを辻馬車に押し付けて私とルディアスは競馬場をあとにする。
すっかり日が暮れ、街道沿いにガス灯が灯されている。
「今日は楽しかったねレミール」
「うん、ちょっと大変だったけど楽しかったわ」
停留所で路面蒸気を待ちながら今日の思い出を振り返る。とてもじゃないけど普段の私やルディアスの姿ではできないことをやれた1日だった。またお忍びでこんなことをしたいなと思いつつ到着した路面蒸気に乗り込んだ。
「それじゃ。またねルイーザ」
「うん、じゃあね」
翌日、何事も無かったように技研に出勤した私は所長室の扉を開けるとそこには山のように積み重なった書類たちが私のことを出迎えてくれた。
「あっ、所長!どこにいってたんですか!昨日の決済書類が溜まりに溜まってますので目を通して確認してください」
唖然としていると書類の中からロバートが顔を出してきた。正直勘弁してほしかった。
原作前の物語を……
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見たい
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原作開始はよ
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