レミール転生   作:久保田紅葉

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超高圧蒸気球

 先進科学技術研究所、通称技研の朝は早い。正確には禁止しているにもかかわらず一晩中研究を進めていた研究者たちの奇声がこだますることから始まる……。

 

 

 

「しょちょー!できました!ついに!ついにできましたよ!」

 

 

 

 大体はこのような技研の所長である私を呼び寄せるような奇声である。今度は一体全体どんな発明品を生み出したのか。……使えるものだといいのだけれども。

 

 

 

「はいはい……ロバート、貴方はもう少し副所長という自覚を欲しいところなのですが」

 

「ハハ、すいません。ちょっと食堂と入浴いってきいます……」

 

 

 

 案の定不摂生にしていたロバートはまた無精髭を伸ばしていたので備え付けの風呂に叩き込んだ上、食事と今回は仮眠も取らせることにした。全く……と、脚を踏み出そうとしたところで何か白いものが倒れているのに気がつく。

 

 見てみるとリンドヴルムの変異体の見聞を行っていた生物学科の女性研究員であった。確か彼女の名前は……セーラム、かわいそうであるがロバートの研究に付き合ってしまったがゆえの結末である。

 

 

 

「ほら、セーラム。こんな所で寝てないで起きなさい」

 

 

 

 軽く頬を叩いてやれば目を覚ます。髪や服は乱れ、眼には大きな隈が見受けられ、眠そうな顔で私の方を向く。

 

 

 

「レミール所長……?おはようございます……」

 

「おはようございますじゃないでしょ。ほら、備え付けの風呂で入浴してきて食べて少し寝てきなさい」

 

「ふああ……ふぁい。わかりましたぁ……」

 

 

 

 ふらふら~とした足取りで研究室を後にする。二人の準備がようやく整ったのは昼を過ぎてからであった。それまでに書類を片付けていると随分とさっぱりしたロバートとセーラムの姿が見える。

 

 

 

「それで?どんなものを発明したのかしら?生物学科のセーラムまで連れて」

 

「はい!今回は彼女、セーラム研究員の力が無ければ実現は不可能だったでしょう!実物は実験室にございます!」

 

 

 

 大々的に押されたのか顔を真っ赤に染め上げるセーラム。そんな男に惚れるよりだったら結婚相談所に登録した方がいいよ。

 

 そんなことを思いながら実験室にたどり着けば銀色のインゴットが鎮座していた。まさかとは思うけど……。

 

 

 

「ロバート、もしかしてこれは……」

 

「はい!リンドヴルム変異体の装甲を解析して量産化ができるようになった金属、『白金銀(ミスリル)金属』です!」

 

「へぇ……これが量産化にこぎ着けたリンドヴルム変異体の装甲ね」

 

 

 

 ひょいと持ち上げてみれば想像していたよりも軽い。確かにあの装甲のようであった。流石はロバートと言わざるを得ない。

 

 

 

「しかし……量産化にあたって2つの問題点があります。まず第一にコストが非常にかかってしまいます。それに加えてオリジナルよりも防弾性が少し下がってしまいました。申し訳ありません」

 

「十分よ。それにこれを紹介するってことは何かしら試作品があるってことよね。見せてくれるかしら?」

 

「はい!いくつか作っておりますので実験室へお越しください!」

 

 

 

 実験室にたどり着けば雑多な研究資料や試作品で溢れかえっている。それらをかき分けて行くと何やらボールのようなものが鎮座していた。これがその発明品とやらであろうか。

 

 

 

「ロバート、これは一体何かしら?」

 

 

 

 半球状になった金属のような物を2つ溶接した上、固くボルトで固定していて、上部には何かを接続するフランジとバルブが設けられていた。よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりにロバートは金属球を抱える。

 

 

 

「こちらですね!量産化にこぎ着けた白金銀を利用して蒸気圧を貯めておくことのできる装置となります!私は蒸気球と呼んでいますが……」

 

「へぇ、色々と活用できそうな代物みたいね」

 

「そうです!その通りなのです!さ、こちらへどうぞ色々と試作してみましたので!」

 

 

 

 屋外格納庫……とは名ばかりのロバートの試作品置き場となった格納庫にはこれまた色々と試作機が立ち並んでいた。

 

 

 

「では……まずはこちら、改良型蒸気式戦闘車です!燃焼部を蒸気球に置き換えたことにより排熱による加熱がなくなった為、従来よりも乗員の安全性を高めることが可能となりました!」

 

 

 

 無限軌道の上に誰が教えたのか傾斜装甲、そして大砲を乗せた旋回砲塔まで搭載している。見た目は転生前であれば誰もが戦車と答えるであろうな容姿をしていた。

 

 

 

「主砲には対リンドヴルム変異種戦で活躍した75ミリ砲を採用しました、加えて車体全体を覆う装甲化を達成できたので乗員の安全性の向上も図りました」

 

 

 

 確かにこれなら生身を晒すよりも格段に安全といえる。……量産ができれば強力な戦力となってくれるだろう。

 

 

 

「続いて!所長ができないかなーとおっしゃっていた蒸気式外骨格装甲服です!」

 

 

 

 こちらは白金の全身鎧であり背後に背負われるようにして蒸気球を設置できるようになっていた。

 

 

 

「主武装は7.7ミリ機関銃か携行可能な大砲を持ち運ぶことが可能でいざとなれば歩兵の盾となり得ることでしょう」

 

 

 

 ふむふむ……だけど量産するにはコストが高すぎるし配備されたとしてもごく一部の部隊にしか配備はできないかもしれないわね。

 

 

 

「ロバート、こんな事を言うのも技術者としてどうかと思うけど……白金銀(ミスリル)じゃなくグレードを下げたバージョンを作れないかしら。このままだとコストが高すぎて量産化に向かないわ」

 

「確かにコストがかかりすぎるのは軍隊としてはよろしくないですよね。完成させた後に思いついて現在白金銀(ミスリル)を使用しない廉価版を開発中です。一月以内にはお見せできる予定です」

 

 ロバートには申し訳ないが古来より物量の方が勝っている。

 

一騎当千の部隊を少数生産するよりもそこそこの質を持った部隊を大量生産できた方が財政的にも戦術的にも戦略の幅が広がるのでメリットの方が多いのである。

 

 

 

 私に高圧蒸気球を見せてから1月もかからない内にロバートは廉価版の高圧蒸気球と改良型蒸気式戦闘車、蒸気式外骨格装甲服を陸軍に向けて発表した。性能は少々落ちたものの軍部から反応は良く、特に改良型蒸気式戦闘車は制式採用に至った。

 

 しかし廉価版といえ、改良型蒸気式戦闘車は少し値段が張ってしまう。すべてを直ぐに置き換えることはできないので年間決められた台数を生産し置き換えるという方針になっていたようだ。

 

 置き換えた旧式の蒸気式戦闘車はトーパ王国やクワトイネ公国、クイラ王国といった友好国に輸出される手筈となっている。

 

 

 

 その一方でどこから聞きつけたのか海軍が蒸気式外骨格装甲服に目をつけて生産して欲しいと頼み込んできた。何でも上陸作戦用の陸戦隊を編成したいそうで、上陸火力の増強をするために採用したいという話である。陸軍向けであったが特に拒否する理由も無いので制式採用されるらしい。陸軍と海軍の仲が良いのはいいことだと思う。




次回は少し時を飛ばしていよいよ原作開始時点へと飛びます。

原作前の物語を……

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