接触
中央暦1639年1月24日、クワ・トイネ公国空軍の第四飛行隊が公国北西方向での哨戒任務にあたっていた。隣国ロウリア王国との緊迫した状態が続いており万が一とワイバーンと航空機を併用して偵察行為を行なっていた。
「――、……?」
「なんだ?パーパルディアの飛行機か?」
目線の先に何かが見えた航空機のパイロットは目視で確認しようと高度を上げる。旧式とは言え馬力のある発動機を積んだ愛機を操り雲の上へと繰り出した。
「我未確認飛行体を確認、これより要撃を行う」
未確認飛行物体はドンドンと近づいていく。やがて錯綜すると彼は機体を反転させてエンジンを焼ききれんばかりにスロットルを上げて何とか追いつく。
『こちらはクワ・トイネ公国軍第四飛行隊である。貴機は我が国の領空を侵犯している。即刻退去せよ。繰り返す……』
『…………』
未確認飛行物体は魔導通信に返答はなくなおもクワ・トイネ領土へ向けて飛行を続けていた。パイロットは周波数を変更して再び魔信を試みる。
『繰り返す。こちらはクワ・トイネ公国軍第四飛行隊である。貴機は……』
『…………こちらは……国、……隊、通………願う』
断片的ではあるが交信が出来、その周波数に合わせて通信を行う。奇しくもその周波数はパーパルディア皇国の周波数と同一であった。
『こちらは日本国航空自衛隊。貴殿の国名と所属を願う』
『こちらはクワ・トイネ公国軍第四飛行隊である。貴機は我が国の領空を侵犯している。即時退去せよ』
ここでP-3Cの搭乗員たちは一度市ヶ谷に報告し、クワ・トイネ公国軍の指示通りに領空外へ退去せよという命令が下る。
180度方向転換をし飛んできた方向に向かって飛び去っていく。クワ・トイネ軍の複葉機はある程度付いてきたかと思えば領空外に出たのか付いてこなくなった。
P-3Cの機内では搭乗員たちが冷や汗を拭いながら一息つく。
「なんとか撒いたようであるな。攻撃されなくて良かった」
「機長、あの機体ですがどう見ても複葉機です。もしかしたら第一次大戦、もしくは大戦間クラスの文明があると見て良いでしょう」
「しかし無線通信に応答があったとなれば、第二次世界大戦期に相当するかと」
「偵察はできなかったが文明があったという報告ができただけでもよしとしよう」
数日後、P-3Cの情報を元に特使を乗艦させた海上自衛隊の護衛艦である『いずも』を含む艦隊が横須賀から出港、2日の航海の後、クワ・トイネ公国・北方海域にて哨戒中であったパーパルディア艦隊と接触することとなった。
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クワ・トイネ公国首都、公都クワ・トイネで開かれている政治部会。国の代表が集まるこの会議で、首相カナタは悩んでいた。数日前、クワ・トイネ公国軍の防空圏内に飛行してきたニホンコク、コウクウジエイタイ所属の飛行物体。
ワイバーンでは追いつくことができず、パーパルディアから輸入した複葉機を発動機が燃えんばかりにフル回転させねば追いつけない飛行物体はすぐさま領空から退去した。しかしこれは明らかな偵察行為である。
「皆の者、このニホンコクという国についてどう思い、どう考える?」
情報分析部長が手を挙げて発言する。
「情報分析部によれば、同物体は西方の第二文明圏の大国、ムー国。もしくは友好国のパーパルディア皇国が運用している飛行機械に酷似しているとのことです。しかし、両国において開発されている飛行機械は、最新鋭の試作機でも最高速力が時速500キロを超えている事、今回の飛行物体は接触した飛行機械は350キロでしたが領空を出た後明らかに増速しその速度の倍は出ていたとのことです」
政治部会の誰もが信じられないといった表情を見せる。その情報が正しければニホンコクという国はムー国よりも高い技術力を持っているということになる。クワ・トイネの北方にそんな国があると聞いたことがない。
全く未知の国が存在しているということに加えてロウリア王国との緊張状態が続き、準有事体制のこの状態で、頭の痛いこの情報は首脳部を更に悩ませた。
「只今会議中ですので……」
「いえ!大急ぎでお伝えしなければならない事案が発生致しました!」
政治部会に外交部の若手幹部が息を切らして乗り込もうとしてくる。通常は考えられない、明らかに緊急事態であった。
「何事か!!」
「報告します!!」
若手幹部が報告を始める。先ほどクワ・トイネ公国の北方海域に全長約200mクラスの超巨大船を含む大艦隊が現れたとのこと。
付近を航行していたパーパルディア皇国所属の派遣艦隊、その旗艦である巡洋戦艦パールネウスが臨検を行い捜査を行ったところ、外交特使が乗艦しており下記の事項が判明した。
◯我々は日本国、海上自衛隊である。
◯我々は何等かの理由で異世界へと転移し元の世界との全てが断絶されたため、哨戒機により付近の偵察を行っていたところ、陸地があることを発見した。偵察活動として貴国上空に進入しており、その際領空を侵犯したことについては認め深く謝罪をしたい。
◯クワ・トイネ公国と会談を行いたい。
政治部会の面々は驚きに包まれる。しかし、先日マイハーク上空に迎撃の及ばない高高度で進入されたのは事実であり、200mクラスという列強国並の船舶を所有していることが明らかとなっている。
国ごと転移などはムー国の神話(彼の国では公式記録となっている)には登場することはあるが、現実にはありえない。しかし、日本という国は礼節を弁えており、領空侵犯に対して謝罪や会談の申し入れは筋が通っている。
まずはその外交官とやらを官邸に招致することを決定した。
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北方海域の沖合で確認された海上自衛隊の艦隊はパーパルディア艦隊護衛の元、マイハーク港に入港することとなった。
水深が浅いのではないかと海上自衛隊側が不安視していたが巡洋戦艦の喫水を聞けば護衛艦よりも深いため全艦が直接接岸できた。
艦隊には日本国から派遣された田中という特使が同乗しておりクワ・トイネ外務局の職員が対応しそのままマイハークの外務局会議室にて会談が開催されることとなった。
外交官である田中は日本国についての資料を配り説明を続けようとしたが……。
「タナカ殿、この文字は読めませんぞ」
「え?てっきり日本語を話されているので読めるものだと……」
「我々からすると貴方がたが世界共通語を話されているのように聞こえますぞ」
「そうですか……でしたら口頭でご説明させていただきます。まず我が国の面積ですが……」
大まかな日本国の説明がなされる。国土が37万6千平方メートル、1億2千700万人が住む島国、そしてはっきりとした原因がわからないが国土ごと転移してきた転移国家であるという事を語る。
「ふんっ!とんだほら吹き話だな!首相。今すぐにでもコヤツらを摘み出しましょう」
「我が国は貴国の使節団をお迎えするご用意があります。是非よろしくお願い致します」
「……いいでしょう。公国から使節団を派遣する用意があります」
深々と頭を下げる田中に対し、カナタは使節団を派遣する事に決めた。
次回はパーパルディアの様子をお届けいたします。