日本国とクワトイネ公国の会談から数週間後、工業都市デュロの沖合には多数の大型艦が航行していた。マストには白地に赤い日の丸の国旗が掲げられおり、一目で日本国の船であることが一目で分かった。
「艦長、間も無くパーパルディア皇国の領海を越え合流地点であります」
「わかった。見張り員とレーダー員は厳にせよ」
「了解しました」
白波を立てて航行するのは第二護衛隊群の艦艇たち、その旗艦の護衛艦「いせ」には二名の外務省の外交官が同乗していた。しかし、その顔は優れない。
「パーパルディア皇国という国、第2次大戦前後の技術力を持っているそうだが……帝国主義国家で無ければどれだけ良いか」
「朝田さんは心配し過ぎですよ。外交官ならもう少し胸を張ってください」
「はぁ……胃が痛いよ」
対外交渉経験の浅い朝田は初めての外交会談となるため数日前から胃を痛めていた。
「朝田さん、篠原さん。パーパルディア艦隊との合流地点です。艦橋までお越しください」
自衛隊員に連れられて二人は『いせ』の艦橋に辿り着く。
「お待ちしておりました。間も無く合流となります。」
前方に城のような大型艦が見える。パーパルディア艦隊はパーパルディア型巡洋戦艦二隻にパ・ターカ型巡洋艦2隻、駆逐艦4隻を伴う艦隊で第二護衛隊群の艦隊を出迎える。
息の整った艦隊運動で輪形陣となり一路デュロ港を目指して航行していく。
「……報告にあった通り本当に
篠原が民間発行の軍艦図鑑を見ながら解説をしていく。何故かパーパルディアの軍艦は旧日本軍の軍艦そっくりであったからである。
やがてデュロの街並みが見えてくると港には停泊していた民間船に立ち並んだ赤煉瓦造の倉庫群、埠頭には鉄道の引き込み線が引かれていた。
知る人が見ればかつての横浜港のような景色を見つつも艦隊はパーパルディア皇国軍デュロ海軍基地へと入港した。
接岸をして朝田と篠原がタラップから降りると軍楽隊の華やかな音楽と共に銀髪の女性が二人を出迎える。
「お待ちしておりました。ニホンコクの方々。私はパーパルディア皇国、先進科学技術研究所所長のレミールと申します」
「日本国外務省の朝田と申します」
「同じく篠原です」
名刺を差し出してきたので丁寧な動作で受取り、懐へとしまい込んだ。そのままレミールは二人を連れてデュロ海軍基地にある応接室へと案内しパーパルディア皇国での日程について話す。
「長旅でお疲れでしょう。本日はデュロ海軍基地をご案内致します。デュロ駅前の国鉄ホテルで一泊、翌日特急列車に乗車し、皇国首都エストシラントでパーパルディア皇帝ルディアス陛下へと謁見の予定です」
「1つよろしいでしょうか?パーパルディア皇国には鉄道が走っているのですか」
「ええ、国中の都市という都市を結んでおります。特に質問が無ければ案内を始めようかと思いますが……」
二人からの質問は無く、デュロ海軍基地の案内を開始するがレミールは行く先々で海兵や整備員たちから『レミール様!』や『所長!お疲れ様です!』等と声をかけられている。
「随分と慕われているようですね」
「誰か言ったのかわかりませんが『科学技術の母』……なんて呼ばれているんですよ。全く子も産んでいない私には意味が分かりませんよね」
「あ、ハハハ……」
そんな雑談をしながらたどり着いた場所にはパーパルディア最新鋭の戦艦が停泊していた。
「我が皇国軍最新鋭戦艦のパ・カーガです」
朝田や篠原が沖合で会合したパーパルディア型巡洋戦艦よりも少し長く、その分主砲が一機多く搭載された5基10門、そしてハリネズミのように搭載された対空機銃群はまさしく最新鋭と呼ぶにふさわしい戦艦であった。その威風堂々とした彼女の姿に圧倒されてしまっていた。
「
「ええ、41センチ砲を5基10門、間違いなく世界最強の戦艦といえます。が……盟友のムーはもっと大型の戦艦を建造しているそうです。何でも40センチ三連装砲を3基9門も搭載しているそうで……我が国も負けていられませんね」
「ムーという国があるのですね?パーパルディア皇国と似たような技術体系なんでしょうか」
「そうですね。ムー国大使館がエストシラントに有りますので会談の場を設けましょう」
そんな話をしつつも海軍基地に併設された陸海軍合同飛行場に辿り着く。
「この世界では鉄竜……あなた方が飛行機と呼んでいる機体ですね」
白く塗られた機体に赤い二重歯車が両翼に一つずつ描かれ、前部に推進力を生み出すプロペラ、その横に機銃が4機配置され、格納式の主脚に、特徴的な逆ガル翼を持った単葉機が駐機してあった。
「皇国の戦闘機『ベルーナ改』です。最大速度は480キロ、両翼に20ミリ機銃と7.7ミリ機銃をそれぞれ両翼に1門づつ搭載しています。……ですが貴国の戦闘機と比べてしまったら雲泥の差、ですがね」
朝田と篠原は驚きを隠せない。つい先日、異世界へ転移してしまったばかりだがここまで情報が漏れ出ているとは予想をしていなかったのである。
「ど、どうしてそれを……?」
「報告のあった貴国の航空機を見ればわかります。我々の飛行機をより発展させていけばあのような航空機へと進化していくのでしょう?」
さすがは技術研究所の長、迂闊なことを喋れないなと二人は思いつつも用意された蒸気自動車へと乗り込む。
その後、デュロ駅に程近い国営ホテル、そのスイートルームへと案内されると、朝田と篠原は朝田の部屋へと集まり、密談をする。
「篠原からみてこの国はどう映る?」
「パーパルディア皇国という国……戦艦等の技術力を考えると第二次大戦レベル、しかし戦後のアメリカ合衆国のようなのような軍事同盟が在るなどチグハグであると言えます。そして蒸気機関を使用しているにも関わらず空気が非常に澄んでおり、大気汚染と無縁のように思えます」
ホテルに向かう道中、路面蒸気や乗合蒸気車等とすれ違ったがいずれも煤煙を上げる様子なく、白い蒸気のみを吐き出して走行していた。
「話を聞いてみたらほんの十数年前まではこんな風に豊かでは無かったそうだが……先進科学技術研究所、通称技研なる施設と案内をしてくれたレミール所長、そして皇帝ルディアス陛下のおかげだそうだ」
「明日謁見できるということですが……一体どんな人物なのでしょうね」
朝田と篠原は、パーパルディア皇国という国について明日へ響かない程度に議論を交わした。
▲ ▼ ⏰️ ▼ ▲ ⏰️ ▼ ▲
翌日、朝食を済ませた二人がロビーへと降りるとレミールが二人のことを待っていた。
「おはようございます朝田様、篠原様。昨晩はよく眠れましたか?」
「おはようございますレミールさん。おかげさまでぐっすり眠ることができました」
「それはよかったです。エストシラント行の急行列車の時刻まで少し余裕がありますので……私お気に入りの喫茶店を予約しています。そこで珈琲でもいかがですか?」
レミールの誘いに乗り、駅前ホテルから大通りを渡ったデュロ駅、その橋上駅舎内にレミールお気に入りの喫茶店が入っていた。
「よく、仕事が嫌になったときはエストシラントを抜け出してここで列車を見ながらのんびりと過ごしているんですよ」
「は、はぁ……」
朝田が珈琲を口に含みながら入線して来る列車を眺めていると蒸気機関車牽引ではない列車が入線してきているのが目に入った。
「レミールさん。あの列車は……?」
「あちらですか?都市近郊型の711型蒸気動車ですね。4両固定編成ですが今は通勤時間帯ですので2編成8両で運行しておりますわ」
3人の視線の先には4番線に入線するクリーム色と朱色のツートンカラーの車体が見えた。
「あれが……蒸気機関?それに蒸気機関特有の煤煙は一体どこに……?」
つい朝田がこぼしたのをレミールは聞き逃さなかった。
「……そうですね。そろそろ列車の時刻ですのでホームへ降りましょうか」
『間もなく2番線にエストシラント行急行列車が12両で参ります。ご乗車になられるお客様は乗車券の他に指定席特急券が必要となります。あらかじめご用意してご乗車をお願いいたします』
「さて、急行列車も到着したことですし……ご説明いたします」
先頭にいる牽引機関車……ム・テシィを発展させてさらに大型にした
「煙突を見てください。あそこに刻んである呪文に浄化魔法が込められております」
「浄化魔法?申し訳ございません。魔法というものが日本にはありませんので……つまるところ人体へ有害な物質を取り除くことが可能ということですか?」
魔法がない。という言葉にレミールが反応を示す。これは商気だと感じたのか
「察しよくて助かります。この浄化魔法は煤煙中に含まれる有害物質をほぼほぼ浄化できます。もし輸入なされるのでしたら今すぐにでも輸出をすることは可能ですが……」
「……今すぐにでも我が国に導入したいところですね、いくつか試供品を頂きたいところです」
汚染された土地や元鉱山跡地に使用できれば公害問題を解決できるのではないかと朝田は考えたのである。
「そのお話も今日の帝前会議にて取り決めをしましょうか。さ、列車の発車時刻が近づいてきましたし乗り込みましょうか」
3人を乗せたデュロ発エストシラント行の急行列車は定刻通りにエストシラントへ向けて発車した。
きりがいいのでこの辺で……次回も遅くなると思います。