日本国という国がこの世界に転移して数カ国と交流を始めてから3ヶ月が経とうとしていた。
その中でもクワ・トイネ公国とそのクイラ王国が日本国と国交を結んでから両国は歴史上最も変化したといえる3ヶ月といえよう。
クワ・トイネ公国は日本から大量の食糧買い付けが発生したが家畜にさえ旨い食糧を食べさせることのできるクワ・トイネ公国は、パーパルディアに加え日本からの発注にも答えることができた。
クイラ王国も作物が育たない不毛の土地であったが数年前よりパーパルディアが
日本は輸入の代金の代わりとしてインフラを輸出した。パーパルディアから鉄道システムは輸出されていたのでパーパルディアが輸出できない物を輸出していった。代表例でいえば都市間を結ぶ継ぎ目のない高規格の道路やその交通システムといったものを輸出していた。
さらに日本に対して両国は各種技術……特に軍事技術の提供を求めたが日本では新たに「新世界技術流出防止法」と呼ばれる法律が成立し中核的な技術の輸出は禁じられていた。武器の輸出なども求めたが憲法によって禁じられていたため応じてもらえなかった。しかし日本の整備でさらに輸送インフラが整ったお陰かパーパルディア向けの輸出が更に増えその対価としてパーパルディアで旧式となった大砲や小銃、戦列艦や旧式化した駆逐艦などを輸入することができ、少しづつではあるが有事に備えての軍備は整い始めていた。
一方でパーパルディア皇国からは一時的ではあるものの石油や石炭を輸入し、その後は土壌汚染を取り除くことのできる浄化魔法が組み込まれた布や中の液体を一定温度に保つ水筒(魔法瓶自体日本にもあるが温度を一定に保つのは難しい)や魔法陣を組み込み一定の温かさや涼しさを保つ衣類などの科学魔道具を輸出し、日本からは自動車や各種動力等に使用できる電気技術が輸出されていた。
未だ3ヶ月しか経っていないがクワ・トイネ皇国は文明開化を迎えようとしている……。そうカナタが晩年に出版した回忌録に記すのも無理は無かった。
「すごいものだな日本という国は……」
「はい。交通インフラの整備で輸出が捗りパーパルディア向けの輸出も順調に進んでおります」
「日本が武器の輸出をしてくれないのは残念であるが、パーパルディアから武器の輸入ができただけで良かったとおもうべきなのか……」
カナタは南西方向、ギムの街とロウリア王国がある方を見つめていた。
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ロウリア王国 王都 ジン・ハーク ハーク城 御前会議……――
「国王陛下、準備は整いました」
漆黒の鎧で全身を鎧で身を包みその体つきがわからないほどの重装甲で身に纏った女とも男とも取れる人物が王に跪き報告をする。名前をパタジン。ロウリア王国の将軍であった。
「……2国を同時に相手取って勝てるか?」
第34代ロウリア国王、ハーク・ロウリア34世はパタジンや大臣たちに尋ねる。
「一国は農民の衆、もう一国は麦も育たぬ不毛の民、亜人族の連中に負けることはありませんよ……」
「……列強国でもあるパーパルディアを敵に回すかも知れぬぞ」
「彼の国はロデニウス大陸にさほど関心は無く、戦争に介入してくることは無いかと」
情報局の担当者はそう話すがクワ・トイネ公国とクイラ王国は既にパーパルディアと安全保障条約を結んでいたことを知らない。わざと偽の情報を掴ませていた。
「つい最近接触した日本という国は大丈夫であろうか?」
日本はロウリア王国とも接触したものの、既にクワ・トイネ公国やクイラ王国との国交を結んでいたため、仮想敵国と判断され門前払いを受けていた。
「ロデニウス大陸から北東に1000キロは離れている新興国家なので軍事的には影響は無いかと」
「また、ワイバーンを見たことがないのか初めて見たと驚いておりました。竜騎士の存在しない未開の蛮族国家かと」
「そうか……しかし、ロウリアの手によってこのロデニウス大陸が統一されると思うと、私は嬉しく思うぞ」
「国王陛下、統一の暁にハ、あの約束モ、お忘れ無ク……」
マスクで顔全体を覆い隠した気味の悪い女が耳元で囁く。
「解っておるわ!」 (第三文明圏外の蛮族と侮りおって……!統一した暁にはパーパルディアと共に滅ぼしてくれるわ)
「パタジン将軍よ。今回の概要を説明せよ」
「はっ、総兵力70万、そのうち55万をクワ・トイネ公国へ進撃させます。クワ・トイネについては国境に近いギムをパンドール将軍率いる東方討伐軍で制圧、そこで補給を済ませて電撃的に首都クワ・トイネを制圧します」
「海軍には総数4400隻の大艦隊を持ってマイハークを強襲、制圧を行います。クイラ王国に至ってはクワ・トイネを征服すれば勝手に干上がることでしょう」
「大変結構!我がロウリア王国はクワ・トイネ公国並びクイラ王国への戦争を許可しよう!」
一気に御前会議の会場が湧き上がりそこから波及するように王都全体が喧騒に包まれる。その様子をハーク城から冷めた目で見つめる少女の姿があった。
「……お父上とそのお仲間も大馬鹿者ばかり、やはり私が何とかしなければ」
煩い喧騒を嫌って窓を厳重に閉めると本棚を操作して隠し部屋へと少女は姿を消した。
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クワ・トイネ公国在パーパルディア大使館……――
「と、いう訳でして……貴国から提供された情報を元に分析した結果、ロウリア王国と戦争の可能性が不可避との分析が出ておりまして、その……非常に申し訳ないのですが、万が一開戦した場合、我が国から穀物等の輸出が困難となります」
在クワ・トイネ公国大使のニコールはその言葉を聞き頭を抱える。大穀倉地帯でなおかつ、肥沃な土地を持つクワ・トイネ公国からの輸入で皇国で飢える者は激減した。
そんな中での食糧の輸出停止となってしまえば再び餓死者を出してしまう可能性だってあった。
「なんとかなりませんかね?皇国としても輸入が途絶えるのは大変困るのですが……」
「我が国としても心苦しいのですが、ロウリア王国は強大な軍事力を持っています。戦闘が始まってしまったら都市はもとより肥沃な穀倉地帯を放棄せざるを得なくなってしまうかと。そんな状況下での正常な流通は困難となります」
「……わかりました。本国に報告し指示を仰ぎます。良い結果が得られることでしょう」
「あ、ありがとうございます……!」
この報告がパラディス城にもたらされるとルディアスは激昂し『クワ・トイネ公国は我が皇国にとって生命線である』と声高らかに演説し海軍からは連合艦隊、陸軍は駐屯軍にさらに増援を派遣しロデニウス統一戦争と呼ばれる戦争に介入していくこととなる。
パーパルディアへ救援を求めると同時に日本へも救援を求めたクワ・トイネ公国、それに対して日本国は憲法を守って大勢の餓死者を出すか、憲法を超拡大解釈して、国民及びクワトイネ公国を危機から救うのか。
日本の議会は荒れに荒れるかと思われたが3週間という驚異的と言わざるを得ないスピードで、日本国は、戦後初の海外派兵を決定することになった。
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中央暦1639年4月9日 ロウリアークワトイネ国境付近
ロウリア王国東方討伐軍 本陣
クワトイネ公国外務部から、何度も何度も国境から兵を引くよう魔法通信にて連絡があったがそのすべてを無視する。
もう戦争することはロウリア王の名において決定しているのだ。
東方討伐軍を率いるのはロウリア三大将軍の一人パンドール。彼は満足そうに東方討伐軍の隊列を見つめていた。
歩兵7万、重装歩兵2万に軽騎兵重騎兵合わせて4千、ワイバーン騎兵200騎である。
数の上では、歩兵が多いが、ワイバーン騎兵は1部隊(10騎)いれば、1万の歩兵を足止め出来る空の覇者である。それが200騎も存在していた。
それに加えてリントヴルムという地上棲の竜を使役できる魔獣を50体も預けられていた。
ワイバーンも高価な兵器であるがリントヴルムも大変高価な兵器である。パタジンの話であればワイバーン1部隊で1頭のリントヴルムが用意できるという。
何処からそんな軍事物資がとパンドールは考えたが噂ではあるが、フィルアデス大陸の北方、リーム第二帝国から軍事物資の支援があったとされている。鎖国状態となっている彼の国から一体どうやって運ばれたのかは不明であるが、いずれにせよ、先遣隊に200騎のワイバーンにリントヴルム50頭、この明らかに過剰な戦力にパンドールは満足気であった。
「将軍、ギムでの戦利品はいかがいたしましょう」
「副将アデムよ。全てお前に任せる」
「了解いたしました」
アデムは、将軍に一礼すると、後ろを振り返り、すぐさま部下に命じる。
「ギムでは、略奪を咎めないそうだ。全てを好きにしていい。女は嬲ってもいいが、使い終わったら焼き払いすべて処分するように。一人も生きて町を出すな。全軍に知らせよ」
「はっ!!!」
アデムの部下は、すぐさま天幕を出ようとする。
「いや、待て!!!」
アデムに呼び止められる。
「やはり、嬲ってもいいが、100人ばかり、生かして解き放ってやろう。恐怖を伝染させるのだ。それと……、敵騎士団の家族がギムにいた場合は、なるべく残虐に処分することを命令する。」
恐怖の命令、このアデムの心は人間ではない。そう思いながら、部下は、天幕を飛び出し、命令を忠実に伝えた。