中央歴1639年4月10日、クワトイネ公国の西部にある街ギム。
国境からおおよそ20キロの場所にありロウリア王国との戦争が始まってしまえば真っ先に侵攻されてしまうことが明らかであった。
西部方面騎士団団長モイジは、焦燥感にかられていた。
モイジに預けられた西部方面隊の兵力は歩兵3000、騎兵300、飛竜24騎、魔導師30人という平時からでは考えられない人数であり、クワトイネの総兵力から考えるとかなりの兵力である。しかし、国境沿いに張り付いているロウリア王国軍はその兵力を遥かに凌駕していた。
即座に撤兵するよう魔導通信で呼びかけてはいるが通信の一切をロウリア王国側は無視しつづけていた。
市民の大部分は、クワ・トイネ本線でエジェイやクワ・トイネに設けられた疎開キャンプへの疎開が進み今日までに市民の8割は疎開を完了していたが残る2割は『ギム防衛隊』を名乗りクワ・トイネ軍と行動を共にしていた。
「モイジ団長!間もなく避難民を乗せた最終の避難列車がギムの街を旅立ちます」
「そうか……無事にクワ・トイネまでたどり着けることを祈るしかない」
暗い報告ばかり続く。だがたった今入った報告は明るい報告であった。
「ほ、報告します!ぱ、パーパルディアの援軍が到着いたしました!」
「何⁉︎それはまことか!」
モイジが司令部から飛び出して駅へと向かえばマイハークから仕立てられた特別輸送列車に兵士や物資に加え、フィルアデス大陸の王者とも言われる蒸気戦闘車が荷卸しされその頭上には二重歯車の紅い国旗がはためいていた。間違いないパーパルディア陸軍の正規軍である。
「クワ・トイネ、クワ・トイネ公国軍の指揮官はおられるであろうか!」
「私だ!クワ・トイネ軍西部方面騎士団団長モイジである!」
堂々とモイジが名乗り出れば指揮官らしき人物が出てくる。
「待たせて申し訳ない。クワ・トイネ派遣軍のリージャックである。手短に状況の説明を頼む」
パーパルディア歩兵とクワ・トイネ歩兵隊が塹壕の設置を進める中、ギムに設けられた野戦司令部にはクワ・トイネ、パーパルディア両軍の指揮官たちが勢揃いしていた。
「現在ロウリア王国軍は越境していませんが時間の問題かと、敵総兵力はおおよそ6万5千、これは先遣隊と見ており本隊は後方に位置しているものと思われます」
「ふむ、それに対して我が方は総兵力およそ3000、それにパーパルディア皇国軍1000を合わせて4000、やれんことはないですな」
リージャックは自信満々に話すがモイジは不安が拭えない。
「ロウリアは地竜を使役しておりまする。撃破するのは至難の業かと……」
「まて、何?……地竜だと?」
地竜という言葉に反応したリージャック。部下に指示を出して魔写をモイジへ見せる。
「その地竜とやらはこんな見た目をしていたか?」
「いえ、フィルアデス大陸に生息している普通の地竜と判断しております」
「それならばやりようはあるな……もし魔写のような地竜を発見したら即時我々に報告してくれたまえ」
中央歴1639年4月12日早朝……ようやく塹壕を掘り終え防御陣地の設営が間に合ったところでロウリア王国側から赤い煙が上がる。双眼鏡を用いていた偵察兵からの魔信がけたたましくなる。
「ロウリア王国の歩兵隊ならびにワイバーンが越境を開始!侵略を開始した!くり返す、ロウリアの奴らが侵攻を開始した!」
「第一飛竜隊及び第二飛竜隊は全騎出撃!敵ワイバーンにあたれ!」
「砲兵隊は対空戦闘用意!飛竜隊との連絡を蜜にせよ!」
飛竜が上空に舞いあがり、24騎のクワ・トイネ飛竜隊は迫りくるロウリア王国の飛竜隊を待ち受ける。やがて前方にポツポツと黒い点が大量に現れてきた。ロウリア王国東方討伐軍先遣隊の飛竜第一次攻撃隊その数75騎、その数に驚愕していた飛竜隊であるが直後魔信が入る。
『こちらパーパルディア砲兵隊、只今より対空射撃を開始する。退避せよ』
その直後クワ・トイネ陣地から砲撃煙が立ち上り少しするとロウリア王国の飛竜隊の中で炸裂していく。
ロウリア王国飛竜隊を指揮するのは竜騎士団長アルデバラン、彼は一気に空での戦いのケリをつけるつもりだったが炸裂する謎の爆発によって何騎かが撃墜され隊列が乱れていた。
「何だ!一体何が起きているんだ!」
対空射撃が炸裂するたびにワイバーンの翼や竜騎兵に命中し続々と数を減らしていく。何とかしてギム方面を見れば発砲炎が見える。
「そうか!魔導砲の対空射撃か!全騎高度を取れ!」
高度を取れば当たらないと判断したアルデバラン、良く訓練されたロウリアの飛竜隊であったが15騎ほどが落とされてしまった。
敵討ちとばかりにクワ・トイネ軍陣地に向かっていく飛竜隊に対して今度はクワトイネの飛竜部隊が勇猛果敢に突っ込んでいった。
太陽を背にし、2部隊24騎のワイバーンが1列になって突っ込んでくる。彼らは、すれ違いざまに、火炎弾を発射した。良く訓練されていたとは言え混乱の最中にあったロウリア王国の飛竜隊は12騎が撃墜される。
一撃離脱……とはならずに乱戦となった。ロウリア側は混乱から立ち直りながらも交戦し数の力でクワトイネの飛竜隊を撃墜していくが時折炸裂する対空砲で数を減らし、クワトイネ公国飛竜部隊を全滅させる頃には半分にまでワイバーンは数を減らしていた。
「予定より時間が掛かってしまったが地上部隊を支援する。全騎、支援射撃を実施せよ!」
しかし全滅したクワトイネ公国飛竜隊の抵抗は無駄ではなく、攻撃側のロウリア王国にとっては大きな痛手となっていた。地上支援を行うはずであった地上ではロウリア先遣隊のリンドヴルムを先頭にした歩兵と重装歩兵、騎兵の総兵力おおよそ10万がパーパルディア・クワトイネ連合軍4000と交戦状態になっていた。
出遅れたとアルデバランは残念そうであったが数の暴力でクワトイネなど押し切れると思っていたが陸での戦いはパーパルディアとクワイトネ両国の機関銃陣地や砲兵陣地、塹壕からの射撃、さらに蒸気戦車によって予想を遥かに上回る勢いでロウリア王国軍側の損害が拡大していた。
突撃しか戦術の無いロウリア王国はパーパルディア陸軍、クワイトネ軍にとって動く的でしか無くワイバーンの火炎球も塹壕によって防がれてしまいほとんど効果が無いように見えた。
虎の子のリンドヴルムも砲兵隊の水平射撃や機動力に優れる蒸気戦車の餌食となり次々と撃破されていった。
「アデム副将!リンドヴルム隊全滅!さらに歩兵隊の被害甚大!騎兵隊は敗走を開始!撤退のご判断を」
歩兵隊は壊滅、重装歩兵とリンドヴルムに至ってその遅い移動速度によって全滅。騎兵隊も機関銃陣地の餌食となり指揮官が戦死、統制が取れないまま敗走を始めていた。
「くそ、撤退だ!撤退するぞ!」
アデムが撤退の指示をすると生き残っていたロウリアの兵士たちはロウリア王国側へと撤退を開始する。勝どきをあげる連合軍であるが追撃し深追いをする必要があるとモイジは主張したがリージャックは否定する。
「ロウリア王国は予備役の兵隊を揃えているはずだ。そこに攻勢をかけても予備兵力のない我々は殲滅されて全滅、悪ければ逆侵攻を受けてギムを落とす可能性だってある」
「しかし!この好機を逃せば……!」
「そもそもこの戦は
はっとした表情をしたモイジ。結果として追撃は行われなかった。
このギム防衛戦でロウリア側はおおよそ7割の兵士を失い撤退、それに対して連合軍はワイバーン24騎と重軽負傷者多数であったものの戦死者はいなかった。
ギムの町をなんとか守りきったものの弾丸や砲弾が底を付き、補給が間に合わないとして防衛の行いやすいエジェイへと退却をクワ・トイネ公国上層部が決定しギムの放棄の命令が発せられた。
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「……故郷を捨てるということは大変心苦しいとは思いますが騎士団長、ご命令に従ってください」
生まれ故郷のギムを捨てるなどモイジにとっては屈辱である。……しかし、公私を混同しては軍人が務まるはずもない。
「……わかった。だが最後にギムの町を歩いても構わないか?」
無人の町となったギムの町を歩くモイジ、その胸の中は悲しみで一杯であった。
(あの場所……娘とよく遊んだ公園だったな、妻と良く買い物に行った店は……そこか。あそこの店はパンが美味かったな。あぁ全てが懐かしい。……そして悔しい。なぜあんな蛮族国家に……)
血が滲み出るほど拳を強く握り締めるモイジ、その後ろ姿をリージャックは静かに見つめていた。
「モイジ団長、お気持ちは大変わかります。私もその経験がありますから……」
公園のベンチに二人は座り過去話に花を咲かせる。リーム帝国の国境にほど近い町の出身であったリージャック。国の疎開命令によって故郷の町から引き離され新天地で新しい生活を始めているのだという。
「住めば都なんて言葉もあります。私も疎開先で新しい生活を始めて、このくらいになる息子がいるのですが『お父さんみたいな軍人になる!』って聞かないんですよ」
「……元気な息子さんですな」
「ええ、だから私は生き残って息子や妻の顔を見たい。モイジ団長、貴方だだってそうでしょう?」
「隊長!モイジ団長殿、ここにおられましたか。最後の撤退列車が到着しました。駅へ向かいましょう」
三人が駅にたどり着けばクワトイネ、パーパルディア両軍の残存していた兵士たちが整列していた。
「団長、あなたの言葉を待っているのですよ」
「……わかった」
壇上にモイジが上がれば兵士たちは敬礼を返す。
「諸君、我々はギムを発つ。……しかしこれは敗北ではない。勝利を掴むための作戦である」
時折り啜り泣く声が響く。モイジも目元を真っ赤にしながら続ける。
「ギムは一度灰となる。……だが我々は生き残った。灰を片付け、家々を立て直しまた帰ってこられる権利を手に入れることができたのである!ギムは不死鳥のように蘇るのである!」
大歓声が上がる。
「クワトイネ万歳!」
「「「「クワトイネ、万歳!」」」」
兵士たちを乗せた列車は哀愁の汽笛を鳴らしつつギムの駅を旅立つ。
ギムの町はあちこちから火の手が上がっている。ロウリアの奴らに使わせてなるものかとクワトイネ兵たちが街中のありとあらゆる場所に火を放ったのである。
赤く染まるギムの街の最期を見届けようと最後尾にはクワトイネの兵士たちがあつまっていた。誰かが叫ぶ。
「さようなら!」
それはたちまち大合唱となりギムの姿が見えなくなるまで続けられた。
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中央歴1639年4月15日、クワトイネ公国臨時政治部会が開かれていた。ロウリアとの国境の街町ギムは焦土作戦の後、ロウリア王国に落ちた。だがパーパルディア皇国協力の元でほとんどの住民が疎開済、守備兵の損害も騎竜24騎(竜騎士は生存)と負傷者、戦死者は無かったため最小限に抑えられたことでクワトイネ軍の士気は未だ下がっておらず徹底抗戦の構えを崩して居なかった。
「現状を報告せよ」
首相カナタの命令に、軍務卿が答える。
「はっ!現在ギム以西は、ロウリア王国の勢力圏となっております。奴らの総兵力は、先遣隊だけでおおよそ10万以上、ロウリアに潜らせている密偵の情報によると、作戦兵力は55万に達する模様です。また不確定情報でありますがフィルアデス大陸のリーム帝国が、密かに彼らへ軍事支援をしているとの情報もあり、現に今回200騎以上のワイバーンやリンドヴルムと呼ばれる地竜を投入してきております。またつい先日4400隻以上の艦隊がジン・ハーク港を出航した模様です。」
悪い報告ばかりであるが良い報告もある。外務卿が手を挙げる。
「首相、発言よろしいでしょうか」
「外務卿か。うむ、発言を許可する」
「政治部会が始まる直前、日本大使館とパーパルディア大使館から連絡が入りました」
「……内容は?」
「はっ、パーパルディアからロウリア殲滅のため追加の援軍、そして本国より連合艦隊が出撃した……と、そして日本国からはこのような通告が……全文を読み上げます。『日本国政府は、武装勢力による現状変更の試みは断じて容認しない。クワトイネ政府に、徹底した武装勢力の取り締まりを要望する。なお、クワトイネ政府からの要望があれば、日本国政府はクワトイネに対して武装勢力排除のための自衛隊を派遣する用意がある』とのことです」
「パーパルディアはわかるが……援軍を日本国は送ってくれるということなのだろうか?」
「非常に遠回しの表現となりますがこちらから要望すれば、援軍を送るといった意味かと思います。彼の国は憲法によって武力での紛争の解決を禁止しているので、ロウリア王国を国とは認めず、武装勢力と表記したのかと思われます」
「使えるものはなんでも使う。日本国に武装勢力排除のための応援を要請してくれ給え。勿論パーパルディアにもだ。それと援軍の食料はこちらで準備するとも伝えろ。また、領土、領空、領海での行き来を、武装勢力排除までの間、自由に往来を認めるとも伝えるように」
「はっ!了解致しました!」
これが無事に完結できればいずれ透き通る世界の二次創作も書きたいですね……