ロウリア陸軍ではロデニウス沖大海戦での大敗北、さらには列強国であるパーパルディア皇国がクワ・トイネ公国に付いて参戦した悲報について兵士の士気低下を招く懸念から、最前線の兵に対してはその情報は隠蔽され一部の高級将校のみに伝達されていた。
「急げ!今日中にはエジェイの見える場所まで軍を進めるのだ!」
ロウリア王国東方討伐軍から抽出された東方偵察隊を指揮するジューンフィルアは休息もままならぬまま一路エジェイが見える丘まで侵攻していた。ここまで急ぐのには理由があり、東方討伐軍本隊からの指令書……指令主パンドール将軍となっているが、正確には恐怖の副将アデムであった。
その恐怖の指令書にはこう書かれていた。
――城塞都市エジェイの西側5km地点まで兵を進めよ。そこで、本隊合流まで待機せよ。
ジューンフィルアは、指令書を読んで、胃が痛くなっていた。
城塞都市エジェイ……国境の町のギムやその周辺の村々とは訳が違う。クワ・トイネ公国がその生存を賭け、来るべき対ロウリア王国戦のために作り出した城塞都市、町そのものが要塞であり、城であり、基地である。
ギムとは防御力の次元が違っていた。城塞都市エジェイはギムから東に約50キロの場所に位置する。
アデムの指令に逆らったら、自分が死ぬのはもちろんのこと、家族も恐らく惨たらしい死を遂げる事になるだろう。それだけは避けなければならない。
ロウリア王国東部諸侯団クワ・トイネ先遣隊約2万名の兵は、東へ兵を進め始めた。
一方その城塞都市エジェイでは駐屯兵約3万人に加え、ギムから撤退してきた兵士たち約3000人、そして援軍と増援が合わさったパーパルディア派遣軍5000人が突貫工事で防衛戦を構築していた。
エジェイを任されていた将軍ノウはパーパルディア派遣軍がわざわざ城塞の外で防衛線を構築している理由がわからなかった。
「彼らは何をやっているのだ?わざわざ城壁の外に穴を掘るなど……守りを捨てているとしかいえないな」
「まぁまぁ、彼らのおかげで私やギムの民は救われたようなものです。彼らには彼らなりの作戦があるのでしょう」
憤るノウを宥めるようにしてモイジが収めようとしている。
「ノウ将軍!モイジ団長!日本国陸上自衛隊の方々が来られました」
「わかった。情報確認を兼ねて会議と行こう。リージャック司令官を呼んできてくれ」
「はっ!かしこまりました」
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「失礼します。日本国陸上自衛隊のオオウチダ司令官とパーパルディア陸軍のリージャック将軍をお呼びしました」
ノウとモイジが入室を許可するとまだら模様とシンプルな服に勲章をいくつか身につけた人物がそれぞれ立っていた。
「日本国陸上自衛隊、第7師団長の大内田です」
「パーパルディア陸軍クワ・トイネ派遣軍指揮官のリージャックと申します」
綺羅びやかに着飾っている軍服とは違い、実用性に富んだ軍服の二人のことをノウは下に見下していた。
「これはこれは……良くおいで下さいました。私はクワ・トイネ公国西部方面師団将軍ノウといいます。このたびは、援軍ありがとうございます。感謝いたします」
「クワ・トイネ軍西部方面騎士団団長モイジです」
「日本の師団長殿、ロウリア軍は焦土作戦で撤退したギムを根城にし、まもなくこちらエジェイへ向かって来るでしょう。しかし、見てお解かりと思うがエジェイは鉄壁の城塞都市である。これを抜く事はいかに大軍をもってしても無理でしょう」
「我が国は侵略を受けているがロウリアの連中に一矢報いようと国の存亡をかけており、これに国民総出で立ち向かおうと思います」
「日本とパーパルディアの方々は東側5キロの位置のあなた方が作った基地から出ることなく、後方支援をしていただきたい。ロウリアは我々単体で退けます」
「ノウ将軍!ギムと我々西部騎士団を救ってくれた命の恩人に対してその言い草はないだろう!」
邪魔者たちは居なくても良いとノウは考えていた。相手国のメンツやプライドがあることを承知の上である。この発言にはパーパルディアに命を救われたモイジは怒りをあらわにするがリージャックが抑えた。
「解りました。我々は基地から後方支援を行います……ですが観測と連絡要員をエジェイに配置させていただけませんか?」
「そのぐらいならば……いいでしょう」
日本とパーパルディアの将は退室した。『私も失礼する!』とモイジも怒り心頭のまま退室し、作戦室にはノウが残された。
「ふん、いくら我々より技術が優れているとはいえ5キロ後方から支援などできないであろう」
「全く、あのノウという将軍は偏見が過ぎますな!」
「まぁまぁリージャック司令官、そう言わずに……」
作戦室の外に出た二人であるがリージャックが憤るのを大内田が抑え込んでいた。建物から出て日パ共同基地へ撤退を進めていると慌てたようにモイジが追いかけてきた。
「オオウチダ司令官!リージャック指揮官!先ほどは申し訳なかった!」
「モイジ団長、そこまでお気になさらないでください。私たちは私たちなりにできることを行いますので」
ロウリア王国東部諸侯団クワ・トイネ先遣隊約2万の兵は、特に障害を受ける事なく、城塞都市エジェイの西側約5キロ付近にある丘まで進軍した。
アデムが確保しろと司令書で指示をした丘を無事に確保できたジューンフィルアはここで野営することに決定した。
本来であればギムでの略奪や強姦で兵士たちの英気を養う予定であったがクワ・トイネの焦土作戦によって物資は全て焼き払われてしまったのである。
しかし兵士たちの顔には疲労が浮かんでいるがエジェイを落とせば戦利品がたんまりあると予想ができ士気は高かった。
「本隊到着まで敵の戦意を削ぐ、騎兵隊は交代で陽動を実施せよ」
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「ううむ……、まずい事になったな……」
ノウはあせっていた。敵兵2万がエジェイの西側5キロの位置に陣取っていた。ロウリア陸軍の先遣隊であろうと予想がついたが敵騎兵が夜な夜なエジェイの城壁へと近づいて怒声をあげ、去っていく事をくり返している。
そのたびに威嚇射撃で追い払っているものの本格的進攻かどうかの判断がつかず、兵が神経をすり減らしていた。
「ノウ将軍!クワ・トイネ公国救援基地から連絡が!」
「何と?」
「はっ!エジェイ西側5キロ付近に布陣する軍隊は、ロウリア陸軍で間違いないか?ロウリアであるなら、支援攻撃を行ってよろしいか?と、それと同時に支援攻撃にクワ・トイネ兵を巻き込んではいけないため、ロウリア軍から半径2キロ圏内へクワ・トイネ軍は立ち入っていないか確認したいとの事であります」
「基地から出るなと言っているのに……結局は手柄がほしいのだな……。まあ良い。日本軍とパーパルディア陸軍がどんな戦いをするか、高みの見物をするとするか……。許可する旨伝えろ!」
晴れ渡る空、その日は雲の少ない良い天気だった。朝は少し肌寒く、空気は乾燥している。空気に埃などの不純物が無いため、遠くの空まで良く見渡せる。
ジューンフィルアは少し高い丘から深呼吸する。
彼の兵たちは疲労が少し残っているものの士気は依然として旺盛だった。交代で300名ほどの騎士が夜間威嚇に向かう。他のものはしっかり眠れるがギムで食糧を略奪はできず、持参した干し肉や硬パンで腹を満たすしか無かったがそれでも士気は高いままであった。
クワ・トイネはエジェイに引きこもって戦うつもりのようだ。密偵の情報によれば、敵のワイバーンは50騎近くいるらしい。一応は脅威ではあるが損害を恐れて使用してこないようである。
このまま本隊の到着まで待てば、ワイバーンによる上空支援を受けられる。圧倒的兵力をもって、エジェイを落とせる。
そんなことを考えているとエジェイの方向から何かがやってきているのが見えた。飛行機械が3機編隊を組んでロウリア軍陣地へと向けて飛行していた。
敵襲か!とロウリア軍陣地が騒がしくなるが特になにかするというわけではなくただ陣地の上空を通り過ぎる。その際に白い何かがばら撒かれた。ひらひらと舞っている物をジューンフィルアは手に取るとどうやら上質な紙のようであった。
その紙にはロウリア語と大陸共通語で書かれた文字がありジューンフィルアが読むと一瞬にして動きが止まった。
『2時間以内に退却を開始せよ。さもなくば、貴軍を攻撃する。 日本国陸上自衛隊第7師団長 大内田 および パーパルディア陸軍クワ・トイネ派遣軍指揮官 リージャック』
「おい、パーパルディア皇国がクワ・トイネについてるなんて聞いてないぞ!」
「冗談じゃない!列強国相手にどうやって戦うんだよ!」
兵たちがうろたえる。しかしパーパルディア軍やニホンコクの軍の姿は見ていない。単なる脅しであろうとジューンフィルアは決めつけるがどうにも武者震いが止まらない。
「うろたえるでない!こちらは2万!多少攻撃を受けたところで撤退するのか!?」
活を入れれば動揺が落ち着く。攻撃をわざわざ教えてくるとはなんと律儀な国であろうと思い、ジューンフィルアは隊列を組み、戦闘準備を取るよう指示した。
同時刻、エジェイの東方5キロに位置する日パ共同運営のクワ・トイネ公国救援基地ではロウリア軍攻撃のために準備が進められていた。
「リージャック司令官、88ミリ野戦砲の準備が整いました」
「よし、ニホンの軍隊と同時攻撃を行う」
パーパルディア軍は最新鋭の88ミリ野戦砲を多数配備、陸上自衛隊はMLRS……多連装ロケットシステムというパーパルディアにはない兵器が12台、それに加え155ミリ自走榴弾砲という自走兵器が多数展開されており、作戦開始の合図を今か今かと待っていた。
2時間が経過した。
「ロウリア軍に動きはないか?」
『隊列を組み、戦闘態勢を整えつつあります。付近にクワ・トイネ軍は展開しておりません。……ご決断を』
「そうか……しかたがないな。攻撃を開始せよ!目標敵武装集団!」
大内田の合図と共にMLRSから轟音と共にロケット弾が連続して発射、さらに155ミリとパーパルディア陸軍の88ミリの大砲が砲撃を開始した。