ロウリア王国首都、ジン・ハーク、そこにあるハーク城で開かれていた王前会議は完全にお通夜状態となっていた。
「……状況を説明せよ」
重い空気の中、ハーク・ロウリア34世が口を開く、宰相でもあり王前会議の進行を務めていたマオスが報告書を読み上げる。
「昨日、ギムに駐屯していたパンドール将軍率いるロウリア王国東方討伐軍と魔導通信が途絶えました。おそらく敵の攻撃を受けたと思われます。現在予備兵力10万をギムに向かわせていますが……ギム陥落は時間の問題かと」
「敵はクワ・トイネとニホンコクか?」
「いいえ、先日パーパルディア皇国大使を通して正式に宣戦布告を受けました。現在、我が国は3国と戦争状態にあります先日の攻撃はパーパルディアからのものと推測されます」
「……誰か今の状況を打開する方法を知っているか?できれば我に教えてほしい」
三大将軍のミミネルとスマーク、新しく海将に任命されたホエイルはうつむいたまま口を開かない。そんな中、マスクで顔全体を覆い隠した気味の悪い女は不気味な笑い声を上げていた。
「うふフッ……国王陛下、取り急ギ支援は必要、ですかネ、代償ハお安く、しておきマスよ」
「……仕方あるまいな。うむ分かった」
「敵はおそらく工業都市のビーズルを攻め落とすであろう。それが終わればここ、ジン・ハークだろう」
「それでは陸軍5万人をビーズルへ移動させる。追加の支援はジン・ハークへと揚陸してくれ」
「いっひっヒッ……まいどあリがとうゴざいます」
無事に契約が交わされる……そう誰もが思った時下士官の一人が王前会議に転がり込んできた。
「ビーズルからの緊急魔導通信がありました!」
「詳細は?」
「突如、飛行機械が飛来し大量の紙をばら撒いて飛び去っていったそうです」
「防空は一体どうなっているのだ……と聞きたいがそれはひとまずは置いておこう。して紙と言うのであれば何かしら書いてあったのだな」
「はっ!それでは読みあげます」
――明後日、ビーズルの街へ攻撃を行う。非戦闘員は避難されたし パーパルディア皇国クワイトネ派遣軍 第二航空旅団指揮官 アルカオン ――
「現在敵のプロパガンダとしてビーズルに駐屯している兵たちで紙の回収を行っています」
「うむ、続け給え。わざわざ攻撃の日時を指定してくるとは優しいものだな。予定通り陸軍を移動させる。追加支援は間に合うか?」
「いひヒ、ご心配なク、しっかりとジン・ハークニ送り届けますヨ」
ロウリア王国はビーズルに攻撃があると確信し準備を進めている。ジン・ハークの守りが薄くなってしまいそうであるが3重の城壁に守られたジン・ハークは鉄壁であった。
「お父様も馬鹿ね。とんでもない大馬鹿、ビーズルは陽動かもしれないって気が付かないのかしら?それに15万も兵を向かわせて王都の守りが薄くなることの意味もしらないで……」
「……お嬢様、いよいよですか?」
「いいえ、まだよ。決行はこの王都が攻められた時……それが決行の合図よ」
「畏まりました」
▲ ▼ ⏰️ ▼ ▲ ⏰️ ▼ ▲
攻撃までの2日間、工業都市ビーズルの街は避難民と駐屯している兵士たちでごった返していた。敵のプロパガンダとして回収されていたあビラであったが一部の市民が回収して持ち帰ってしまったため、人づてにビーズルが攻撃を受けると広まり避難しようとする市民で溢れかえったのである。
「市民の皆さん、落ち着いてください!我々で敵の撃退は可能ですので安心して自宅にお戻りください!」
「安全だと?列強国のパーパルディアが攻めてきてるのに安全もクソもあるか!」
結果として駐屯していた憲兵隊は統制に失敗しビーズルの市民たちは続々と市外へと脱出し、伝のある者は街から去ることができたがほとんどは伝などなく、街が見える小高い丘へと陣取り持ち寄った物を集めていた。
一方で街に残る人間もいる。ロウリア軍の関係者やビーズルを離れたくない一部市民たちが普段通りの生活を過ごそうと努力していた。
「ん?何だあれは?」
哨戒に登っていたワイバーン隊が前方になにかを発見する。虫のように小さな黒い点がいくつも空にあり、だんだんと近づいていている。見張り兵が目を凝らしてみると鉄の翼に回転するプロペラ、翼には二重歯車が描かれておりパーパルディア軍の飛行機械であることが一目瞭然であった。
「……!敵だ!敵襲!敵襲!」
慌てて魔導通信を使用してビーズルの本陣へと通報するが時すでに遅し、ワイバーンはパーパルディア陸軍所属のベルーナ改の20ミリ機銃の一斉射によって肉片に変えられ破壊された。
「くそっ!上げることのできる騎は今すぐ上空に上げろ!全騎離陸!急げ!」
ビーズル郊外にあるワイバーン基地、その司令官が声を荒らげてワイバーン隊が次々と離陸するが、上がれたのはたったの50騎、のこりはグレイ改の急降下爆撃によって空に飛び立つことなく厩舎ごと押し潰されてしまったり。離陸中に機銃掃射を受けてそのまま撃墜されたりした。
運良く上空に上がれたワイバーンも同数相手のベルーナ改には太刀打ちできずに全騎が撃墜されしまう。
『こちらセイバー05、
『セイバー05了解。基地へ帰途せよ。ビーズルまでのエスコートはナイトが行う』
爆撃の邪魔となるワイバーン隊は潰され、いよいよ丸裸となったビーズル。その上空に向けて護衛と共にゆうゆうと大型機が20機ほど飛行していた。
4機のレシプロエンジンを搭載した大型機、積載量3000キロを誇るリィズ型重爆撃機はその腹の中へ大量の爆弾を抱えて一路ビーズルの工場地帯を爆撃するべく高度3000メートルの位置を飛行していた。
「間もなく爆撃予定地点です」
「よし、全機に伝達!爆弾倉を開け、目標ビーズル工業地帯!」
飛行隊長の号令のもと爆弾倉が開かれる。腹の中には黒光りしている100キロ爆弾の数々が虎視眈々と爆撃開始の合図をまっていた。
「右3度旋回!そのまま、そのまま、そのまま……投下!」
爆撃手の号令と共に50キロ爆弾が次々と投下されていく。1機あたりに100キロ爆弾が30発、編隊の総爆弾量合計すると60000キロ、60トンの爆弾が投下されていった。
「……あれは一体何なのだろう?」
ビーズルの街が一望できる丘で朝食の用意をしていた避難民が見たのは鳥のような物が編隊を組んでビーズルへと向かってきてそのまま飛び去っていく。
何も起こらないじゃないかと思ったが何処からか聞き慣れない音が聞こえ、その音が止まると同時にビーズルの街が爆ぜた。一度ならず続け様に連続して爆ぜていく街に避難していた市民たちは恐れ慄く。
「こ、この世の終わりだ……」
「おお、神よ……お許しください!」
爆発が収まる頃には、瓦礫と化した工房街とそこから飛び火して市街のあちらこちらから火の手が上がるビーズルの街があった。
「……依然としてビーズルとの通信途絶、応答はありません」
「やはり、狙いはビーズルか!援軍10万に加えてさらに援軍を送り込め!」
ビーズルが爆撃を受けてから数時間後、ハーク城ではビーズルの街が次の目標だと断定し増援を送り込むことが国王の名において決定し、リーム帝国からの支援もビーズルへの増援となった。
ひとまずは一段落とロウリア上層部が緩んでいたところで別の伝令がハーク城へ凶報をもたらした。
「報告します!じ、ジン・ハーク沖合にきょ、巨大な大型船が多数!いずれもパーパルディア皇国の国旗を掲げております!」
慌てたように海を見ると塔がいくつも海の上に見えた。
この時ジン・ハーク沖にいたのはパーパルディア連合艦隊、戦艦6隻、空母4隻を含む28隻の大艦隊であった。
「ロウリアの奴らは驚いてるだろうな」
「ならばもっと脅かしてやりましょうか取舵一杯!左舷砲戦用意!目標ジン・ハーク港!」
『取舵いっぱーい!左舷砲戦よーい!目標!ジン・ハーク港!』
よく訓練されたパーパルディア艦隊は乱れなく艦隊行動を終える。主砲・副砲も旋回を終えていた。
「主砲並びに副砲。射撃用意。目標、ジン・ハーク港!距離8000!」
『主砲!副砲撃ち方用意!目標ジン・ハーク港、距離8000!』
パーパルディア型巡洋戦艦4隻、パ・カーガ型戦艦2隻、そしてパール型巡洋艦6隻、それぞれの主砲がジン・ハーク港を目標に捉えていた。
「照準よし!いつでも撃てます!」
「全艦、撃ち方はじめ!」
砲煙が上がるたびにジン・ハーク港に泊まっていた魔導戦列艦や魔導装甲艦が次々と爆ぜていく。しかしただでやられるようなロウリア海軍ではない。なんとかかんとか砲撃を受けている港を出港し一矢報いようとしていた。
「敵は強力だ!だが我ら防衛隊の前には到底及ばないであろう!全速前進!」
「ジン・ハーク港より艦影!魔導装甲艦3!戦列艦15!」
「警戒隊は迎撃をせよ、第一戦隊、第二戦隊は砲撃を続行する!」
砲撃を続ける第一、第二戦隊から分離した警戒隊はパール型巡洋艦2隻、駆逐艦6隻を伴ってジン・ハーク防衛艦隊の前へと立ちふさがった。
「巡洋艦は魔導装甲艦を!駆逐艦は戦列艦を狙え!砲撃訓練よりも容易いぞ!」
「照準よし!撃て!」
12.7センチ連装砲が木製の戦列艦を容易く貫通、弾薬庫で誘爆して爆沈する。巡洋艦の20.3センチ連装砲も魔導装甲艦を目標として射撃を開始し即撃沈、とはいかないものの魔導装甲艦を穴だらけにして行き足を止めさせた。
「敵艦隊、撃沈ならびに沈黙!」
「方位79°に機影を多数確認!海軍特戦隊の空挺隊です!」
「よし、撃ち方止め!海軍特戦隊の到着をもって陽動作戦を完了とする!特戦隊の作戦成功を祈る!」
ジン・ハーク港が火の海になる少し前、日・パクワトイネ救援基地では航空自衛隊のF-15J改やF-2がギムの本隊への攻撃準備を進めている中、その隣の滑走路ではパーパルディア海軍所属の大型輸送機5機と護衛のベルーナ改、そして近接攻撃機のグレイ改が整備班に見送られつつ続々と飛び立っていく。目標はロウリア王国首都ジン・ハーク、後世で語られる一連のロデニウス戦争最後とも言える作戦が始まろうとしていた。
「パーパルディア皇国軍の海軍さんたちはあの機体でジン・ハークを焼き払うつもりなんだろうか?」
自衛隊員はそう溢す。この作戦に使用された大型輸送機、ヴェルダル輸送機は先進化学技術研究所、通称技研が設計、開発した輸送機で2つのレシプロエンジンを搭載し、全長20メートル全幅30メートル、操縦士2人を除けば28人もの兵員の輸送ができる傑作輸送機であった。
「何でも空挺降下でロウリア城とロウリア王を確保するらしい」
「いくら空挺兵だって城まるまる1つは制圧できんだろう?」
「パワードスーツみたいなものを着ているのを見たぞ。あれ欲しいな……」
そんな愚痴が聞こえないが如くパーパルディア海軍の飛行隊は離陸し、一路ジンハークへと向かって飛び立っていった。
ヴェルダル輸送機内では真新しい純白の騎士鎧を身に纏った兵士たちが向かい合うようにして座り込み思い思いのことをして過ごしていた。その中の一人、パーパルディア海軍特戦隊パルはヴェルダルの中で一人ペンダントに入った写真を覗き込んでいた。
「何を見ているんですかパル隊長」
「え?ああこれですか?妹と一緒に取った写真を見ていたんですよ!かわいいでしょ私の妹」
「右の女の子ですか?かわいいですね。名前は?」
「パイよ。今は陸軍で魔信技術士をしているの。ロウリア戦争が終わったら久しぶりに二人でエストシラントで買い物デートをしようかと」
「いつまでもお姉さん思いの仲良し姉妹でいいじゃないですかー!」
えへへ……と笑い合う海軍特戦隊であるが、降下10分前になると表情と雰囲気が一変する。飢えた狼のような眼をしながらある者は機関銃や散弾銃の最終確認、また別の者は盾を磨いていた。
『降下5分前ー!』
その号令と共に隊長でもあるパルは特戦隊員たちに檄を入れる。
「今作戦は非常に重要である!ロウリア王、ハーク・ロウリア34世を確保し同盟国を救う!その鎧に輝く降下猟兵の証を胸にかかかげよ!」
『降下準備!』
▲ ▼ ⏰️ ▼ ▲ ⏰️ ▼ ▲
「ジン・ハーク港はどうなっている!?」
「あちこちで砲撃による火災が発生し手の施しようがありません!さらに海軍本部との連絡が途絶しております!」
「ビーズルは陽動だ!伝令でもなんでもいい!防衛隊を海岸線に向かわせろ!敵は海からやってくるぞ!ビーズルから増援を呼び戻せ!」
ハーク城の王前会議は紛糾していた。それに加えてギムに駐屯していた東方討伐軍からの連絡も途絶えており、既に状況の把握が困難となっていた。
情報が錯綜している中で『飛行機械が接近』という情報は上層部に届くことはなかった。
「敵が空から降ってきたぞ!ワイバーン隊は一体どうした!」
「魔導通信が途絶している!俺達でなんとかするしかない!対空バリスタ準備!」
「準備よし!」「放て!」
そんな状況の中でも守備隊の兵たちはありもので迎撃をしていく。三重の城壁上に設置された対空バリスタであるが第一城壁と第二城壁からバリスタは射出されず、ハーク城に近い第三城壁だけからバリスタが射出されていた。狙いは降下中の海軍特戦隊であった。
『いてっ!彼奴等当ててきましたよ!』
『大丈夫だ。この装甲は踏ん張りがきくなら
海軍特戦隊はハーク城近く、第三城壁内へと全員が無事に降下し戦闘を開始する。
「駄目です!バリスタが弾かれています!」
「敵はたったの100人だ!数で押し切れ!突撃!」
直剣をもった一人の騎士が海軍特戦隊、それも隊長のパルへと向かって切りかかっていった。
「もらったぁ!」
脳天めがけて叩きつけた……がいとも容易く直剣は折れて近くへと突き刺さっていた。
「なっ、ばかな……っ」
その直後、切りかかった騎士の意識と身体が勢いよく吹き飛ぶ。パルがゼロ距離で散弾銃を放ったのである。
『第一、第二小隊は私に続け!目標はハーク・ロウリア34世!ただ一人!』
海軍特戦隊がハーク城に突入しようとした同時刻、ジン・ハーク市街地からは陸軍の兵士たちがハーク城へ向けて進撃を始めていた。
「お嬢様、パーパルディア海軍の特戦隊がハーク城に侵入、戦闘を開始しました」
「わかったわ。全軍ハーク城に向けて進撃、ハーク城を包囲するわ。だけどくれぐれもパーパルディア軍との戦闘は避けてと全軍に伝えて」
「承知いたしました」
次回 終戦 お楽しみに