ハーク・ロウリア34世がハーク城で拘束されてから数日後……ジン・ハーク沖数百メートルにパーパルディア連合艦隊ならびに海上自衛隊の護衛艦隊が海上に停泊していた。
そのパーパルディア連合艦隊旗艦であるパ・カーガ型戦艦一番艦『パ・カーガ』甲板上でパーパルディア皇国、日本国、クワ・トイネ公国、そしてロウリア王国の間で講和会議が開催された。
各国の代表者はそれぞれ
・パーパルディア皇国 皇帝ルディアス 技研所長 レミール 第3外務局外交官ピアニ
・日本国 総理大臣
・クワ・トイネ公国 首相 カナタ 外務卿 リンスイ
・ロウリア王国 女王 ジェシカ・ロウリア35世 宰相 マオス
以上の面々が参加し透き通る青空の元、進行役を務めるパーパルディア皇国外交官ピアニの号令の元で、開会が宣言された。
「先ずは我が公国が要求する内容はこちらとなる」
クワ・トイネ公国首相カナタが提示したのは以下の通りであった。
・ロウリア王国は正式にクワ・トイネ公国に謝罪を行う。
・ロウリア王国は亜人迫害政策を撤回する。
・ロウリア王国は賠償金としてクワ・トイネ公国にパーパルディア通貨で2億5000万パソを支払う。但し現金だけでなく、現物での支払いを可能とする。
以上がクワ・トイネ公国が要求した提案である。一瞬、ジェシカ・ロウリアが眉を顰めたものの、極めて冷静に努めていた。
そして日本国側の要求は損害がゼロということもあり、ロウリア王国内の資源開発権の優遇や関税の優遇措置といったものであった。
最後にパーパルディア皇国の要求であるが……。
「我が皇国がロウリア王国に求めるのは以下の通りとなる」
・ロウリア王国は第三文明圏通商条約機構に加盟する。
・ジン・ハーク港にパーパルディア海軍基地を設けること。
・ロウリア王国はリーム帝国との取引履歴を可能な限りパーパルディアに提示する。
・パーパルディア皇国はロウリア王国に向けて賠償金を請求しない。
さらにジェシカ・ロウリアの眉が険しくなる。というのもこの世界では戦勝国が敗戦国のすべてをむしり取るというのが当たり前、このような条件はありえないと言えるほど余りにも軽いものだった。
「失礼、敗戦国として申し上げるのは少々おかしな話ではありますが……このような条件でよろしいのですか?」
「……かつて我々がいた世界では一度目の世界大戦が起こり、その敗戦国が天文学的な賠償金を支払うことになりました。その結果、戦勝国に対する賠償や恨み。憎悪が爆発し、二度目の世界大戦が発生することになりました」
「それに加えて……、開戦当時のロウリア王国の事情を考えると妥当だと考えてのことだよ」
転移前の世界で引き起こされた悲劇、そのようなことを起こさせないよう日本が過度な賠償金をロウリア王国に求めないようクワ・トイネ公国へ圧力をかけた結果2億5000万パソという賠償金額に落ち着いた経緯があった。
どれもこれも飲み込めないという理由はなく、パーパルディア皇国皇帝ルディアス、日本国首相有辺信蔵、クワ・トイネ公国首相カナタ、ロウリア王国国王ジェシカ・ロウリア35世の名で結ばれた平和条約は以下の通りだった。
・ロウリア王国はクワ・トイネ公国へ公式に謝罪する。
・ロウリア王国は王都ジン・ハークにパーパルディア軍を駐留させる事。
・ロウリア王国は第三文明圏通商条約機構に加盟する。
・ロウリア王国はクワ・トイネ公国に対して2億5000万パソを支払う事、尚現物での支払いでも可能とする。
そのほかにもか様々な細かい条項があったが、戦勝国が敗戦国に突き付ける条約としては余りにも軽いものだった。
各国の記者、日本やパーパルディアはもとより、遠くはムーのオタハイト・タイムズ社の記者が集まる中、それぞれ調印文書が交わされて約2ヶ月半は続いたロデニウス統一戦争はクワ・トイネ公国と日本国、そしてパーパルディア公国の勝利で幕を閉じた。
▲ ▼ ⏰️ ▼ ▲ ⏰️ ▼ ▲
「――……つまり9年ほど前、特戦隊が目撃した薄気味悪いリーム帝国からの使者がロウリア王国を訪れてから記憶が断片的に途切れていて、ここ数年の記憶がほぼ無いと」
「……ああ、本当に情けない限りである」
「ジェシカ・ロウリア35世が無事だった理由は?」
「あの女が訪れた頃は色々と政敵が多く、安全の為にハークロウリアから離れた離宮で過ごさせていた。だから娘……ジェシカは無事だったのであろう」
講和会議から数日後、パーパルディア皇国はエストシラント郊外にある捕虜収容所……とは名ばかりの療養所にはハーク・ロウリア34世やロデニウス大海戦で戦死したと思われていた海将シャークン、そして東方討伐軍を指揮していた将軍パンドール等、かつてのロウリア王国上層部たちの姿であった。
「お次ですが……大変失礼を承知でお尋ねいたします。貴女はロウリア王国三大将軍の一人、パンドール将軍……で間違いないでしょうか」
「うむ、姿や声が変わってしまっているが間違いない。私がロウリア王国軍の将軍、パンドールである」
資料ではヒゲを蓄えた壮麗な筋骨隆々という人物だったはずだった。しかしだが今はどうであろう。高身長で短いショートカットに大きな瞳、そして女性らしい丸みを帯び、頭部には山羊のような角が生えている女性がパンドールと名乗っていたのである。
「ええと、どうしてそのような身体に……?」
「うむ。……儂の記憶が正しければ、リーム帝国へ軍事顧問の交流として向かった……はずである。その時はまだ男の身体だったはずなのだ」
「リーム帝国へ行ったのですか!?どうやって行ったのか、移動手段をおぼえておりますか?」
「……巨大なへビのような船に乗り込んだはいいがそれからの記憶がない。おそらくそれでリーム帝国へと渡りこんな身体に改造されてロウリアへ帰ってきたのであろう」
「なぜスマーク将軍やミミネル将軍、シャークン海将といった他の将軍たちは行かなかったのでしょう」
「それは儂にも解らん。なんせ記憶がないのだからな」
手をぶらぶらとさせながらパンドールはため息をつく。やはりリーム帝国が関係しているのは疑いようが無い事実であった。
「そうですか……他に覚えていること等ありましたか?」
「そういえば……1つだけ耳に残っていた言葉があったな」
「そ、それは一体?」
「確か、船の中で聞いたのだが……『我々の大審判は必ず実行される』と」
▲ ▼ ⏰️ ▼ ▲ ⏰️ ▼ ▲
「我々の大審判は必ず実行される……か、この大審判が意味することがどれなのかわからないけれどね」
技研の所長室、技研の仕事をこなしつつ、ロウリア王国上層部への尋問調書をまとめていたレミールはこう呟く。大審判という言葉からは罪人を裁く裁判……というイメージが強い。しかし、転生者でもあるレミールにとって大審判という言葉は全く違う意味を持っているのではないかと感じ取っていた。
「杞憂だといいんだけだけど、とあるゲームだと大審判には聖戦……それも絶滅戦争や報復戦争の類を意味する言葉としても使われていたはずだったわね。リーム帝国は大審判を望んでる?一体何故?」
あの壁の向こうでは一体何が起こっているのであろう。良からぬことが起こっていることは間違いないが確認するすべはない。
「ルディアスに国境周辺の強化と疎開都市へ避難の進言をしておこうかしら。……どうにも何だか嫌な予感がする」
ルディアスに進言し、帝前会議が開かれた結果、疎開都市からの事前避難は叶わなかったが、国境警備隊の増強は決定し、最新鋭の装備と人員が配置されることとなった。
きな臭い空気を残しつつもロデニウス大陸での動乱は収まり、一時期とはいえ平穏な時間が流れることとなった。
これにてロデニウス大戦(対ロウリア戦争)は終了、閑話を挟みつつ少しお休みをいただいてから次の章にとりかかろうかと思います。