どうぞごゆっくりお楽しみください。
追伸 唐揚げレモン派の人には申し訳けないと思う(唐揚げ非レモン感
『――……ご乗車お疲れさまでございました。まもなくエストシラント、エストシラントに到着いたします。15分停車、1番乗り場の到着で降り口は左側でございます。エストシラントの次はノース・エストシラントでございます。今日もパーパルディア国鉄をご利用いただきまして誠にありがとうございます』
「チトセ!もうすぐエストシラントだよ!ほら起きて!」
「ううん……もうすこしぃ……あとじゅうごふん……」
「15分も寝たら乗り過ごしちゃうよ!」
無理やり寝台の布団を引っ剥がされてちとせは目を覚ました。眠気眼を擦るがまだ寝ぼけている。
「ふあぁ……おはよーらいらはぁん」
「ほら、目を覚まして、乗り過ごしちゃうよ」
なんとか列車が駅に付く前に身支度を整えて寝台車のデッキまでたどり着くことができた。
デッキには先客がおり、小学生ぐらいの子どもが客車のドアを開けて外を眺めている。危ないと思いつつもその子の親がしっかりと首根っこを捕まえているので多分大丈夫であろう。
いくつか分岐点を渡り列車は1番のりばのプラットフォームへとたどり着いた。が減速し今にも止まりそうといったときに子どもが列車から飛び降りてしまった。
「ちょっと!あの子大丈夫ですか!?」
思わず飛び出してしまいそうになるチトセであるが、その子供の両親に苦笑いをされて止められる。
「すみません……ウチの子がヤンチャなばっかりにいらぬご心配をかけてしまったようで……」
「い、いいえ。私の方も急に声をかけてしまった申し訳ございません。でも大丈夫ですか?」
「ご心配なく。うちの子は丈夫ですので」
そういう問題ではないと思いつつも列車はエストシラント中央駅に停車する。
『エストシラント~、エストシラント~、エストシラントです』
完全に停車してからライラとちとせはエストシラントの地へと降り立った。やはりパーパルディア皇国の首都ということだけあって列車からは相当な人数がホームに吐き出されていく。人の流れに身を任せながら改札の外へとたどり着いた。
「……っとそうだ。チトセ、一緒に朝ご飯たべない?美味しい場所しってるんだけど」
そう提案されたちとせは二つ返事で了承するとそのままライラの後ろを歩くこと数分、煉瓦造りの建物が見えて来た。
「ここがオススメのお店よ!」
「お店?ここって……」
ちとせがそう思うのも無理はない。二階建ての煉瓦造りからは湯気がたちのぼり、日本でも馴染みのある温泉を示す地図記号がネオンを纏って灯っていた。
「ここって銭湯……大衆浴場じゃないの」
「?そうよ。夜行列車乗った後にお風呂入って朝食を食べるのよ」
そんなところに立ってないで入りましょうとライラにてを引かれて中に入ると男湯と女湯でわかれていた。
「おばちゃんどうも!女性2人ね!後タオルも貸して!」
「はいよ。二人で700パソ……ああ違うね、タオルもだから900パソだね」
ちとせが入湯料を支払おうとしたがライラに止められる。
「いいのいいの!貴女、何処かの記者さんなんでしょ?ならパーパルディアの良いところを沢山紹介してもらわなきゃ!」
そう言い脱衣所まで案内される。大浴場と洗い場、そしてエストシラントから見えるアルーニ山脈の山々を描いた巨大な壁画が浴場に入った二人を出迎える。
(大浴場に山々が描かれた壁画……まるで日本の銭湯みたいね。世界が違うともこういうのは似るものなのかしらね)
「チトセ、そんなとこで突っ立ってたら風邪、ひいちゃうよ?」
「え、ええせっかくの旅行なんだし風邪なんかひいたらもったいないしね」
身体の芯まで温まったところで浴場から上がり、湯冷めをしないうちにしっかりと髪を乾かし、服を着替える。
「それじゃ、ご飯食べに行きましょうか」
受付の二階が吹き抜けとなっておりそこに食堂が設置してあった。
「んー……Aセット、BセットそれにCセット。全部日替わりの朝食なんだけど……ちとせはどっちがいいと思う?」
「私?えーと、そうだなぁ……AとかBは聞いたことはあるけど……普通は2つまでしか選択肢がないしここはCセットにしようかしら」
「なるほどね。おばちゃんCセット2つで」
「はいよー」
ちょうど空いた席を見つけることができたのでテーブル席を確保する。
「随分と混んでるわね」
「ここは皇都でも上位人気だからね。特に夜行列車でエストシラントに来たらここってぐらいには定番のお店で雑誌に掲載されているぐらいなの」
「お待たせしました!Cセット2つです!」
女給仕が持ってきたのは白米に朝には重たそうな唐揚げがごろごろといくつか積み重なっていた。
「……随分と重たそうなものが出てきちゃったわね」
「そう?私はいけちゃうけど」
そう言うとライラはソースを唐揚げにたっぷりとかけて一口食べると白米を口の中にかきこんだ。まるで男子学生のような食事風景にちとせはドン引きしていた。
「チトセ、食べないとせっかくの朝食が冷めちゃうよ」
「え、えぇ……」
普段ちとせはさっぱりとさせるためにレモンをかける派であるがレモンなどという果実が異世界に存在しているはずもなく、唐揚げとサラダがメインデッシュとして鎮座していた。唐揚げを一口かじれば肉汁が溢れ出してくる。……が、重たい朝食となることが確定していた。
「ライラ……残りの唐揚げあげる」
「そう?美味しいのに……じゃもらうね」
ちとせが食べ切れた唐揚げは2個でそれ以上は胃が受け付けなくなってしまった。残った唐揚げはライラに分けてサラダと味噌汁と白米を残さず平らげた。
「うっぷ……今日は何も食べなくてもいいかも」
「えっ、そうなの!?今日は他にスイーツのお店を紹介しようかと……」
「スイーツ!?ほんと!?」
スイーツは別腹であると言わんばかりにライラの話へ食いついていくちとせ。その光景に若干引き気味になってしまっていた。
「そ、そう。スイーツ、だけど場所が場所でねぇ……」
「いいのいいの!ちゃんと記事として書くから!」
「……エストシラント競竜場なんだけどね」
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『さぁ!3番と5番が並んだ並んだ!どっちだぁ!』
二頭のワイバーンが並んで空中に設けられたゴールラインを通過したと同時に大歓声が上がる。エストシラント郊外に設けられた皇都防空基地、陸海軍共同で運営されている飛行場近くにエストシラント競竜場は開設されており、ワイバーンがレースをするのは世界中どこを見てもパーパルディア皇国のここだけとあってギャン中……もとい観光客やパーパルディア国民に愛されていた。
「まさかこんなところに絶品のスイーツがあるなんて……」
「
競竜場のフードコート、パスタやパンといった軽食を販売している一角にワイバーンの卵を使用したケーキ専門店があったのである。
ワイバーンの卵を丸々ひとつ使っているだけあって巨大であり、大抵の客は一切れで購入していくがライラとちとせは二人で1ホールを平らげようとしていた。
「そういえばライラがここに来ようとしてた理由って……」
「ん、これ」
そう言いライラが取り出して見せてきたのはレーシングプログラム。そこの第11Rに大きく赤丸がつけられていた。
「えーと……『DG1 皇帝記念 10000m』もしかしてこれを見るために?」
「見るだけじゃないわ。今日こそは勝ちにきたのよ!」
いつの間にか手に持っていた競馬新聞ならぬ競竜新聞、そこにはびっしりと赤ペンが書き込まれていた。
「それでなんだけど、私は3番のトキオエンペラーがくると思うの!鞍上はレイス騎手!ここまで三連勝と乗りに乗っている。間違いなく一着でゴールを駆け抜けてくれると思うわ!」
と、ライラが自信満々に語るが確かに実績を伴って実力はある。だがちとせにはどうにもピンと来てなかった。ワイバーン自体見慣れていないのもあるかもしれない。
「うーん……よくわかんない。実際の姿を見られる場所……パドックみたいな物はないの?」
「確かにね、名前と騎手だけ見るだけじゃわからないしね。見に行きましょうか」
パドックに向かうと既に皇帝記念に出飛を予定しているワイバーンたちが集まっていた。
「うーん!やっぱりトキノエンペラーの鱗ツヤは完璧だし体重も不安要素なし!」
「……確かに体調は良さそう。だけどねー……あっ」
ちとせが視線を向けた先にいたのは一騎のワイバーン。長い首をぐったりと下げてへばっているようにも見えるがその鱗ツヤは他のワイバーンと何ら変わりないように見えた。
「私はあのワイバーンが来ると思うの」
「6番のワイバーン?えっと……エンドロリーっていうワイバーンね。騎手は……ロウリア王国から来国したムーラっていう外国人騎手……聞いたことないわね」
ちとせの意見にあまり信用していないライラであった。
「まぁ騙されたと思って買ってみたらどう?もし外れたら夕食はおすすめのお店紹介してくれたら奢るから」
「乗った!もし負けたらその時はよろしくね!」
発行時間が近づく中、ライラは無事に投票券を購入できたようである。ちとせもエンドロリーの単勝1000パソ分を購入しレースが始まるのを待った。
『さぁ第6回
宗谷ちとせ パーパルディア旅行記
デュロから夜行列車に揺られることおおよそ12時間、列車は定刻どおりに皇都エストシラント、その中央駅へとたどり着いた。列車から降りると車内で仲良くなったパーパルディア人の女性、ライラの案内で朝食を取りにいこうという話になる。
だが朝食と聞いて何を思い浮かべるだろう。ちょっとした大衆食堂を思い浮かべる人が多いが私が訪れたのは大衆浴場……いわゆる銭湯が併設されてた食堂であった。夜行列車でエストシラントにたどり着いた乗客が汗を流し、朝食を取る場合が多いためにこのような大衆浴場と食堂が併設されている場合が多い。
浴場内にはアルーニ山脈の山々を描いた巨大な壁画が展示されており、日本の銭湯を思わせる情景があった。
食事は2階で、広々と吹き抜けとなっているため圧迫感は感じることなく食事を楽しむことができるであろう。
定食はそれぞれ日替わりでA、B、Cとあり今回はC定食を注文した。ここでメニューを聞けば良かったのであるが後悔することとなる。
その日のC定食は巨大な唐揚げがゴロゴロと乗せられた定食、さらに新世界にはレモンという果実は存在していないか、栽培されていないようで定食にはレモンは無かった。仕方なくレモンなしで唐揚げを食べるが私には2つが限界であった。朝から重たい物、ボリュームのある食事をしたいのならおすすめである。
その後、満腹であったが『美味しいデザートがある』と聞きすぐさま向かうことにする。満腹で動けないんじゃない?と。知っている?デザートは別腹、そういわれてるからね。
案内されたのは競馬場……ならぬ競竜場であった。航空機の登場によって軍から役目を失いつつあったワイバーン育成文化の保護と振興を目的として創設された経緯があり、今では第三文明圏唯一の娯楽施設としてエストシラント市民に親しまれていた。
そこで出会ったのがこのケーキである。
【巨大なワンホールケーキと映るちとせとライラの写真】
ワイバーンの無精卵をまるまる1個使用した非常に巨大なケーキ、その大きさから一切れ口にすれば満足というケーキであるが大の甘党でもある私と友人となったライラの二人で1ホールを平らげた。これにはケーキ屋の店員もドン引き……していたようで食べ終えた後、『お客様方がワンホールを全て食べたのが初めてです』と言い無料のワンホール引換券をもらえた。これはまた来なければならない。
さて、ケーキの紹介はこのぐらいにして競竜場の楽しみ方について書いていこうと思う。といっても一度は公営競技……競馬や競艇、オートレースをやったことがあるのであれば買い方はほぼほぼ一緒である。私が訪れた際にはDG1、競馬でいうG1レースの『皇帝記念』が開催されていた。
わざわざ競竜場まで来てケーキを食べて帰るというのもありであるが折角来たのである。ちょっとぐらいはギャンブルをしてみよう。
全部で12騎のワイバーンが出場する中で一番の人気はトキオエンペラー、3連勝と波に乗っており勝利は確実といわれていたが私はどうにもピンと来ず、別のワイバーンの投票券を購入した。エンドロリーと名付けられたワイバーンであるがあまり人気は無く、下から数えた方が早い人気であった。
結果としていえば1着はトキオエンペラー、そして2着には私が本命にしたエンドロリーが突っ込んできた。買い方によってはプラスになったのであろうが生憎私は単勝の1000パソしか購入しておらず、複勝で購入していれば当たっていたこととなる。これは悔しいがここでムキになって次のレースを購入するとろくな結果にならないことは明白なので購入はしないことにした。
「っと……後はこれを明日の朝一で大使館の国際郵便を利用して送るだけね」
「チトセー、何書いてるの?」
「仕事よ、仕事。パーパルディアのルポレポートをまとめてるの」
「へぇそうなんだ。私のことも書いた?」
「それは勿論よ。パーパルディアで初めてできた友人だし」
「えへへ、うれしいなぁ」
競竜場を訪れたその日の夜、二人はエストシラント市街のホテルの一部屋を借りて一泊をすることとなった。……同じ部屋で。
「別に同じ部屋じゃなくても良かったんじゃない?」
「いーじゃん減るもんじゃないし、それにチトセのおかげで大勝ちできたんだからさ!」
ちとせは惜しくも外してしまったもののライラはちとせのアドバイスを受けて買い目を変更したところこれが大当たり、掛け金の何倍の配当を手に入れることができたのだ。
「それでも2人分のホテル代を出すのは……」
「いーの、いーの。二人分の宿泊代で使っても大黒字だから」
「でも……」
「その代わり私の故郷を取材してくれたらいいよ!」
「デュロならもう記事に仕立て上げたけど……」
「違う違う。私の出身はアルーニよ。今はデュロへ出稼ぎに出てるけど実家はアルーニなのよ。あそこには皇国農業試験場があって田んぼや畑が多いから風光明媚な場所がいっぱいだから訪れてみて!」
いいことを聞いたと思い、次の取材はアルーニへと決めた。その道中も途中下車をしつつ取材をしながらいけばそこそこの読者を確保できると思いながら明日以降の旅程を考えつつ、ライラの地元自慢を聞きながら夜はふけていった
これで一旦ちとせのパーパルディア旅行記は終了、好評だったらまた続くかも