時はすこし巻き戻り1634年、エストシラントのパーパルディア皇国海軍本部にはレミール他技研の技術者と海軍からはバルス総司令官やシルガイア海将といった上層部の面々が一同に介し今後のパーパルディア海軍を占う重要な会議が開かれていた。もちろん建物からは人払いがされた上、警護の人員が配置され万が一のことに備えていた。
「これより、第二次バルスプラン計画についてお話したいと思います」
パーパルディア型巡洋戦艦やパ・カーガ型戦艦、パ・リューヒ型正規空母の運用開始から既に10年近く経過しており代替艦、もしくは新造艦を建造する計画が持ち上がっていた。
技研と海軍の担当者、技術者たちが協議と試作を重ねた結果、計画艦の策定が決まり今回、海軍の上層部へ向けて発表回が開かれる慣わしとなった。
「ではまず……主力艦であるフィシャヌス級高速戦艦です」
「速力は32ノット、主武装としましては41センチ連装砲を5基10門、14センチ単装砲16門、その他の武装としまして高角砲や対空機銃を搭載する予定であります」
「ふむ、ムーで建造が進んでいる40センチ搭載のラ・ヤムート型戦艦と比べると砲門数では勝っているな」
ふふんと自慢げに語るのは司令官の一人、しかしレミールはムーで建造されている戦艦が40センチ搭載艦ではなく46センチ三連装砲9門であることに気がついていた。
「失礼、ムーで建造が進んでいる大型戦艦についてなのですが情報に誤りがあります。……ですがこれを公表するにあたってくれぐれも外部に流出させぬようお願いいたします」
いつになく真面目なことを話すレミールに一同はどこか不安そうな顔をしていた。
「ラ・ヤムート型戦艦は40センチ三連装砲ではなくそのさらに上……概算ではありますが46センチ三連装砲を搭載しております」
「馬鹿な!?ムー国ではそのような大口径搭載艦が出来上がろうとしているのか!?」
「レミール所長!情報は確かなものでしょうか!」
「確かな情報筋からの情報です。間違いはないかと」
(確かな情報、とはいうけど……マイラスから『どうでしょうか!』と数字を書き換えた設計図を見せてもらったのよね。しかもそれが……どっからどうみても大和型戦艦だったし、既に
「……ムーに対抗するにはこの第二次バルスプランではいささか不十分ではなかろうか?一度白紙に戻すのか?」
「いえ、その必要はありません。友好国であるムー国と敵対する理由がありません。あちらはあちらの計画で、こちらはこちらの計画で軍拡を進めましょう。続けて」
「はっ、はい」
レミールが主導権を司会に戻すとフィシャヌス級高速戦艦についての質問が上がる。真っ先に上がったのは第一艦隊の指揮官であるシルガイアであった。
「技研が新たに開発しているコウクウギョライ?という攻撃方法の対策はあるのか?」
「はっ、両舷のバイタルパートに追加で装甲を施し、万が一被雷した場合は速やかに区画を閉鎖でき、尚且つ最新式の排水ポンプを設けました。これで生存性は格段に上昇します」
他にも質問が海軍上層部から飛び技研の担当者はそれに答えていく。あらかたフィシャヌス型高速戦艦への質問が終わったところで次の計画艦へとうつる。
「続きまして……ヴェロニア型大型空母です。こちらはパ・リューヒ型を元に大型化かつ新規で設計を行った正規空母でありまして、積載可能機はベルーナとグレイをあわせておおよそ100機を常用で使用できる計算となっております」
「100機、パ・リューヒと比べるとおおよそ2倍の積載量か。かなり大型となりそうだが建造できるのか?」
「建造技術や国力の増大もあって建造が可能と判断いたしました」
ヴェロニア型の完成予想図を見つつレミールは心の中で呟く。
(参考になればと思って適当にかいた空母の絵でまさかエセックス級を選ぶとは思わなかったわ……ま、まぁ国力は十分にあるし国防のためになるのならいいかしらね)
海軍側からヴェロニア級に関して大した質問は無いようで淡々と進んでいき、次の議題へと入る。
「それともう一隻こちらはパ・リューヒを改良した改パ・リューヒ型となるパ・リーウン型中型空母であります。次の資料をご覧ください」
資料にはパ・リューヒ型空母と比べるとほぼおなじような大きさの空母が計画されていた。搭載機はベルーナとグレイをあわせて常用で57機である。
大型空母と中型空母両方を何隻も保有して大丈夫かと言われるが国防の観点から言えば少ないと言わざるを得ない。
大型艦の数はパ・カーガ型戦艦2隻、パーパルディア型巡洋戦艦4隻、パ・リューヒ型空母2隻と国土に比べれば圧倒的に少ない。ましてや北方に仮想敵国がいるのであればなおさらである。
「ここまでが艦隊型艦艇の紹介でございます。続きまして……」
「待て、まだ艦艇の計画艦があるのか?」
「はい。お次の資料をお願いします」
眉を顰めながらページをめくると先程までとは打って変わり一回り程小さい小型の空母の設計図が載せられていた。
「こちらはガルガオン型小型空母です……な、なぜ計画にはない小型の空母があるかといいますと……」
「ここからは私が説明するわ」
海軍側からの視線が鋭くなってきたのを感じたレミールが担当者に変わって演台へと上がる。海軍側は不満げであったが了承した。
「……まず既存の空母についてメリットとデメリットを考えてみましょう」
「それは積載機数が多いことであるな。デメリットといえば……建造に時間がかかる……ということか」
「正しくその通りであります。それに加え、船団護衛には向いていないということもあげられます」
「船団護衛に向いていない?空母を船団護衛に使うというのか?」
「はい。……こちらの資料を」
参加者に配られたのは貿易局の輸出入金額グラフと海軍から提出された船舶事故の件数であり、輸出入金額と船舶事故の件数は比例するようにして右肩上がりであった。
「パーパルディア皇国は年々目覚ましい発展を遂げており、それに伴って諸外国、特に第三文明圏外の国々との貿易が増加しています。しかし、それらの国々はほとんどが島国、物資の輸出入には船舶を使用しています。……ですが、今第三文明圏から文明圏外の国々へ単行船……護衛なしで一隻で航行するには少々リスクが多すぎます」
「……なるほど海魔や海賊か。あやつらには手を焼いているからな」
海賊は武装すればなんとかなるが海魔はそうはいかない。海魔にも様々な種類がいるが近年増えてきていたのは大型クラス。小型の客船ほどはありそうな海魔が異常発生しており、パーパルディア近海を航行する船舶やパーパルディア海軍の悩みの種となっていた。
「その通りであります。1633年のデータでありますが単行船のうち何らかの原因によって沈没したのが22隻、過去最悪の沈没数となっています。船舶の詳細は省かせていただきますが、生存者からの聞き取り調査等から海魔の攻撃によって沈没、ないしは致命的な損傷を受けたのが8割と喫緊の問題となっている状況です」
「海軍の方でも掃海に力を入れているがいたちごっことしか……なるほど。そういうことか空母を使って索敵、あわよくば航空機で撃退をするということか」
「その通りです」
「そういうことなら我々としても歓迎できる」
「感謝いたします」
その後の協議は続き、海軍側で正式にフィシャヌス型高速戦艦、ヴェロニア型大型空母、パ・リーウン型中型空母そして船団護衛用のガルガオン型小型空母、そして護衛艦用として改カシュオン型巡洋艦とフリーグ型駆逐艦を多数採用することとなりおおまかな目標としては1639年までにフィシャヌス型8隻、ヴェロニア型8隻、パ・リーウン型4隻、ガルガオン型は10隻の建造を予定し皇帝ルディアスが正式に許可を出したことでパーパルディア各地の造船所で建造が始まった。
勿論一気に建造を進めるとなれば人手が足りなくなるのは当たり前で都市部にいる浮浪者を高月給かつ3食寝床付きで雇い入れて人手不足解消対策とした。
後世では第二次バルスプランと呼ばれる拡大計画で当時はその建造数を取って「ハチハチヨントオ計画」とも呼ばれた。
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そして、1639年の中頃、計画艦が竣工し海上公試運転が完了して進んでいる。そんな中、レミール率いる技研では空母に搭載する艦載機の試作機を制作しておりつい先日、試作機が完成し空母からの発艦試験、および試験飛行を行う予定が組まれていた。
試験飛行には竣工したばかりのヴェロニア型正規空母のファーストシップ、ヴェロニアが参加しその飛行甲板には塗装の施されていない銀色の機体が駐機されていた。
逆ガル翼の洗練された真新しい機体に甲板員はもとより試験飛行に参加していた海軍上層部そして陸軍上層部からも感嘆の声があがっていた。
「美しい飛行機ですな。バルス司令」
「アルデ司令もそう思いますか?澄み渡る空に銀翼の翼が舞う。魔写にしてもよし、戦意高揚のポスターにしても映えるというものです」
「バルス司令とアルデ司令、どうですか?うちの航空課課長ホーロウの自信作の試作機は」
「所長あんまり褒めても何もでてきませんよ?」
二人が振り返るとそこには技研の所長レミールと技研所属、航空課課長であるホーロウの姿があった。
「これはこれは……レミール所長とホーロウ殿。新兵装である航空魚雷の発表会以来でしたな。いやはあの兵装は海での戦闘戦略の根幹を変えうる兵器です。今回の試作機も期待しておりますよ」
「海軍ばかり贔屓にされては困りますよ。我々陸軍も新型機が欲しいぐらいです」
「ええっと……そ、その……はい」
陸海のトップ二人に挟まれてしまい完全に泡を食っているホーロウ。仕方なくレミールが助け舟を出してホーロウを助け出す。
「お二人とも……ウチの至宝をあんまりいじめないでください。陸軍の新型大型爆撃機に関してはニホンから大量の資料が入手できましたので大きく進展している最中であります」
「ほお、それは楽しみであるな」
『発動機を始動セヨ!』
そんな会話のさなか、甲板に止められている試作機のエンジンに炎が灯り暖気運転が始まっていた。
『発艦準備完了!』
『発艦はじめ!』
プロペラを目一杯に回転させながら飛行甲板から離陸していく試作機、もし正式採用されることとなれば戦闘機となる機体であった。
銀色の逆ガル翼に太陽の光を反射させながら試作戦闘機は自由に空を飛び回る。ある程度エンジンが温まったところで最高速度の試験を行う。
『最高速度……450、500、520、550、560、570、575、……575キロです!』
計測員が最高速度を告げると艦橋内につめていた陸海軍の両方からどよめきが広がった。
「578キロ!?ベルーナよりも100キロ以上早いではないか!」
「それどころかミリシアルの天の浮舟と同等かそれ以上ではないか?」
「計測に間違いはないのかね?」
「はい、機器は正常に動作しております、間違いはありません!」
「ふむ、速度は優れているが……武装はどうなっている?」
驚きを隠せない陸海軍幹部に対しバルスは技術者でもあるホーロウに疑問を投げかけた。待ってましたといわんばかりに資料を読み上げる。
「計画段階では12.7ミリ機銃を6門積載する予定ですが……これでは火力不足でしょうか?」
「ふむ……12.7ミリ6門であれば火力不足とはならないようであるな。陸軍としてはどうだろうか」
「そうですね……今のところは特に非の付け所がありません。強いて言うのであればムーの最新鋭陸上戦闘機『テラズ』と比べると若干速度が劣っている点ですかね……」
アルデの言葉にホーロウは難しい顔をする。何せ仮想敵としたのはムーではなく、ミリシアルの天の浮舟を想定して考えていたため、ムーという友好国との模擬戦等想定していなかったからであった。
「大変申し訳ございません。本機体は仮想敵を天の浮舟としており、ムーと敵対するという想定をしてこなかったこちらの落ち度です」
「いえいえ、軍部として想定されうる全てをシミュレーションしておかねばと思いましてな。皇国と同レベルのムーとはどうなのかと考えただけですよ。ムーが敵対してくるとは考えられないのでもしもの話ですよ」
一連のやり取りを聞きながらムーとの合同演習も計画しておかなければならないなとレミールは考えを巡らせる中、試作型戦闘機が着艦し次の試作機の準備が進められていた。
「新型攻撃機、こちらは陸軍でも近接航空支援が可能となっている機体であります」
逆ガル翼の引き込み脚を採用した単葉機でデモンストレーションとして攻撃……急降下爆撃を行う。エアブレーキを展開し、目標の旧式戦列艦に500キロ模擬爆弾を叩き込んだ。
身軽になった機体で最高速度の計測を行うと560キロを記録、先程の試作戦闘機と比べると速度では劣るもののベルーナよりも速い速度を記録していた。
「ご覧いただきました通り、敵目標に対して確実に爆弾を叩き込むことが可能です。500キロ爆弾を外し250キロを2発、もしくは50キロ爆弾を6発積載可能であります。それと更に……」
「航空魚雷を用いる攻撃も可能と」
「はい。その通りであります」
「そして最高速度560キロ……試作戦闘機と比べてしまえはやや遅いが若干の空戦能力はあるということか」
「はい、戦闘フラップを搭載し、武装も7.7ミリ2門と20ミリ2門それに後部銃座には12.7ミリを搭載しています。ワイバーン程度であれば撃退は可能です」
試作飛行機2機の発艦試験と性能試験は無事大成功に終わり、試作戦闘機はバーバル型艦上戦闘機、試作攻撃機はグレース型攻撃機としてパーパルディア海軍へ正式採用され、グレースはパーパルディア陸軍に近接航空支援機として採用されることとなった。
新型戦艦 新型空母 新型航空機 新型づくしのパーパルディア海軍ですが……。
次回、オペレーションモモタロウwith パーパルディア ご期待ください