「……以上がトーパ王国派遣軍と世界の扉防衛部隊からの報告となります。喫緊の危険性があると判断し早急に報告をと……」
「わかった。任務ご苦労様、しばらくはゆっくりと養生をしてね」
「はっ、皇帝陛下の慈悲に感謝申し上げます」
トーパ王国軍派遣軍隊長リージャックと世界の扉守備隊長ノーマンが下がると帝前会議場全体が大きくため息をついたような感覚になる。
「まさかリームの奴等がおとぎ話だと思ってた魔帝とやらの軍門に下っているとはね……急な拡大政策と一方的な壁の建築からの鎖国した理由がわかった気がするよ」
「……リーム・ドーヴァーや人道に欠ける魔導具の使用等倫理観に欠ける行為を行っていたのもつながりますわね」
うんうんと納得しているレミールとルディアスであるが、ため息をつきつつもアルデ司令が諭す。
「お二人共、納得している場合ではありません。速やかに国防計画を見直さなければなりません」
「そうだね。……パンドーラ大魔法公国とクーズ王国の国境線を加えて急ごしらえかつ簡易的な要塞線と防衛戦の設置……ああ、それと野良ワイバーン対策もしなきゃ行けないね」
「陛下、それだけではなく野生のリンドヴルム対策もしなければなりません。正確な生息数を把握できていませんので束になって襲撃を受けるとひとたまりもありません」
「競竜用のワイバーンは一時第三文明圏外の友好国へ退避させる必要があるかもしれません」
しかしそれだけではない。鉄道局や内務局からも要求や要請が上がってくる。
「国防の準備を整えるのも大切ですが……こちらも重要かと。多少進んではおりますがリーム帝国からの避難民や国境沿いの村、町、都市からの段階的な疎開も進めていかなければなりません」
「幸い鉄道局のダイヤに余裕はまだありますが……今以上の軍用列車の増発や前線へ向けての軽便鉄道の敷設を行えば確実に人員不足でパンクします」
「はぁ……やることが多すぎてどこから手をつけていけばいいのかわからないよ」
ルディアスの言葉に局務長たちは同じ意見であった。
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一方その頃トーパ王国では魔王討伐後、城塞都市トルメスが陥落しかけたことを鑑みて第二の世界の扉を作ろうという計画が上がっていた。
具体的には今現在世界の扉がある場所から北方方向へ20キロほどいったところ、グラメデウス大陸とフィルアデス大陸を繋ぐ地峡の終わり周辺に建設する計画である。
新世界の扉計画案とされた案の中には新たな世界の扉からトーパ王国の首都ベルンゲンまでを結ぶ鉄道が建設され軍の迅速な移動を可能としていた。
「それで……皆に集まってもらったのはほかでもない。この新しい領土となる土地をどのように活用すべきか意見が欲しい」
新・世界の壁計画で新たな領土を獲得することとなりベンルゲン王城にて会議が開かれていた。
「入植を募って街をつくりましょう」
「それではトルメスの二の舞ではないか?」
「ではこうするのはどうでしょうか?」
会議が進行する中で、一人の貴族が発言する。彼は田舎領主ではあったものの、トーパ王国を支える食の生産を彼の領地で行なっていた。
「国家主導の元で農地を切り開き、ニホンやパーパルディアから最新式の農業道具を取り入れて大規模農園とするのです。収穫できた農産物は国内外へ輸出してゆけば外貨も稼げて一石二鳥となるでしょう。今は砲撃の穴ボコだらけでまずは整地から始めなければなりませんが……」
「……という意見が上がったが皆の意見はどうかね?」
「街を作り上げるよりかは短時間で済みそうである」
「万が一魔王のような魔物が現れてもダメージは少ないか……?」
様々な意見があがったものの、農地として開拓する方針で決定した。
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世界の壁から北方へ10キロ、日本製の黄色やオレンジ色の重機が土地改良のためにせわしくなく動く中、トーパの農務局の担当者とお雇いの農学者の二人が会話をしていた。
「いやぁ……!これだけ広い農地を広げるとはトーパ王国のお偉いさん方は思い切った決断をしましたなぁ!少し地面を触りましたがまるで耕されように柔らかくて非常に良い土地ですな!」
「本当にそうですね。ナミロウさん……」
ヒノマワリ王国農務局のナミロウと日本の民間NPO団体から派遣されてきた屯田林豊が会話をしていた。
ナミロウはトーパ王国で発生した出来事を伝えられていないのか艦砲射撃によって耕された土地であることを知らないようであった。屯田林が農務局員の方に目をやれば視線を背ける。
(……伝えてなかったんだな)
という反応をされた。
「トンダバヤシさんはニホンという国の方でしたかなしたかな?よくよくみたら我々ヤムート人と似ていますなぁ」
会話を進めていく中で屯田林はナミロウがどこか日本人と似通った顔つきをしていると思った。
(そういえばムーも転移国家らしいが……もしかしたら訪日外国人のように古代日本人がムーの転移に巻き込まれた可能性もあるのか。後で報告書にまとめておこう)
屯田林がそんなことを考えているとナミロウが盛大にくしゃみをする。いつも彼が愛用している麦わら帽子ではなく防寒着を何枚もきっちりと着込んでいた。
「しっかし、ここトーパ王国は冬とはいえ寒いですなァ」
「確かに冬は凍るような寒さの日が数日あるそうですが雪はあまり降らず、夏は暖かく20℃近くまで気温が上がるそうですよ」
「20℃ですかぁ、なら栽培するのはこいつに決まっておりますでしょう」
「ムギですね」「じゃがいもですね」
「「え?」」
「小麦は良い考えだとおもいますが……」
「トンダバヤシ殿、その馬糞のようなものが食べ物なのですか!?」
「ええ、じゃがいも……別名で
「ほへー…そんな作物があるんですねぇ。ヒノマワリ王国でも育ちますかねぇ」
「んーヒノマワリ王国の気候にもよりますが……もしよろしければお譲りいたしましょうか?」
「え?いいんですか!?」
「ええ、種芋として数を持ってきていますのでいくつかお譲りいたしましょう」
こんな会話をしている二人はある程度栽培ができて収穫ができれば良いと考えていたのだが、彼らは知る由もなかった。
屯田林豊がトーパ王国に、ナミロウがヒノマワリ王国へと持ち込んだ馬鈴薯……それはムギやコメの育たない土地であっても育ち、麦よりも量が取れる。だが続けて育てると土壌に病をもたらしてしまうというデメリットがあったがそれすらも有り余るメリットが馬鈴薯にはあった。
馬鈴薯が持ち込まれるとたちまちトーパ王国とヒノマワリ王国中に広がり、寒さや痩せた土地でムギやコメの育たぬ土地に作付けが進んでいった。
トーパ王国ではムギで作ったパンよりも馬鈴薯を蒸したり茹でたものが一般市民の食事となり、ヒノマワリ王国もヒエやアワ飯一杯だった食事が馬鈴薯とセットになっていき、貧しい食事が少しづつであるが改善していく。
ナミロウとトンダバヤシはたちまち両国から祭り上げられ一時期は銅像が建てられるというところまで行ったが二人は『銅像を建てるより建設費は国のために使ってくれ』と辞退した。
そのことが市民に伝わるとより一層神格化が進んでしまうことになるのだが二人は見て見ぬ振りをした。
「ふむ。兄上がやられたか」
「どうされます?今からトーパ王国へ報復を?」
「いやしない。そんなことをしても無駄であるからな」
「では予定通りに」
「ああ」
「かしこまりました」
黒い影が消えるように居なくなると会話を繰り広げていたモノは窓の外を見る。視界一面濃い霧に覆われた眼下では松明が灯り、ゴブリンやオークに混じって人間族や亜人族が大砲や小銃、そして人の形を象った何かの整備作業をしているのが見えた。
「バンクスよ」
「…………はい」
「近い内に始める。準備をしておけ」
「……かしこまり…………ました」
虚ろな眼でバンクスと呼ばれた女性が後ろへと下がる。その胸元には深い紫色の宝石が光り輝いていた。
人形兵器はロマン