――クーズ王国首都クリュッセルから大凡300キロ、リーム帝国との国境付近
リーム帝国が黒い壁を作り上げた当初はクーズ王国も警戒して国境線に王国陸軍を貼り付けていた。だがいつまでも大軍を国境沿いに貼り付けておくわけにもいかないうえ、リーム帝国は亀のように引きこもり侵略戦争を仕掛けてこないことがわかるとクーズ王国では最低限の国境警備隊を残して王国軍本隊は撤退していった。
――中央歴1940年1月18日朝、国境沿いの町や村はいつもと変わらない朝になるはずであった。それは国境警備隊も同じで夜勤と日勤の交代時間であった。
「……なんだ?」
誰かが地面が揺れていることに気がつくとその刹那、地震が彼らを襲う。日本の震度計であらわせば震度2~3ぐらいの地震が国境地帯を襲った。幸い地震によって建物の倒壊やけが人はなかったが国境ではそう楽観視できないことが巻き起こっていた。
「お、おい!壁が無くなってるぞ!」
見ればさっきまであった高さ15メートルほどの壁が全て崩れ去りリーム帝国領内があらわになった。しかし、見る人が見れば10年前の景色とは様変わりしていた。
木々が生い茂り自然豊かだった場所は黒く染まり、木々は粘土を捻って伸ばしたような容姿で大地に根ざしていた。
河川に沿って敷かれた国境線……その川向こうには松明の炎と共にゴブリンやオークといった魔物、全長は2メートルほどはあるゴーレムのような白い人型、そしてところどころがほつれ端のほうに焦げた後のあるリーム帝国の国旗が翻っていた。
「リーム帝国軍だぁ!」
当然市民はパニックに陥り、国境警備隊から通報のあったクーズ王国軍は即座に陸軍本隊をリーム帝国国境へ派遣する決定をしたが……全てが遅かった。
魔導砲とワイバーンの空襲によって少規模な火力しか持たされていなかった国境警備隊は碌な抵抗すらできずに壊滅、国境警備隊という押さえつけるものの居なくなったリーム帝国軍は容易く渡河に成功し、国境周辺の村や町を一瞬にして飲み込んでいった。
国境地帯がまたたく間に占領下となったクーズ王国であるが、ただでやられるワケではない。ワイバーンを主軸とした竜騎士や旧式となったパ製マスケット、パ式牽引式魔導砲を第三国から輸入して、自国で解析し発展させた歩兵銃や魔導砲を装備させ侵略してきた精鋭クーズ王国軍がリーム帝国軍を迎え撃つ準備が整っていた。
この時点で第三文明圏通商条約機構に加入しパーパルディア皇国へ救援を求めていれば結果がまた違ったであろうが、クーズ王国上層部は第三文明圏通商条約機構に加盟しておらず、この条約機構自体をパーパルディアの覇権国家のための条約であると懐疑的に見ていたのである。
「飛竜隊、かかれー!」
「砲兵隊、撃ち方始め!」
クーズ王国軍の引いた防衛戦の上空で両軍のワイバーンが入り乱れ、地上では両軍の砲兵隊によって大地が抉られて砲弾の炸裂場所によっては陣地が吹き飛び兵士の肉片が空を舞っていた。
一進一退の攻防……かに思われたがどうやら砲戦はクーズ王国の方が優勢でじわじわとだがリーム帝国との戦線を押し上げていた。
「将軍!敵が撤退を始めました!」
「そうか、全軍に突撃命令!リーム帝国なぞ我々クーズ王国の敵ではない!」
防衛を指揮するクーズ王国軍大将の号令で歩兵部隊、騎兵部隊がリーム帝国陣地に突撃していく。砲撃を生き残ったオークやゴブリンを数に物言わせて叩きのめしていく。しかし、人型の白いゴーレムのような兵器は魔導砲の砲撃をもろともせずに健在であった。
「ほ、砲撃が効いていません!」
「怯むな!数で押せば勝てる!突っ込めー!」
だが、白いゴーレムたちは攻撃をすべて弾き返し、手にもっていた巨大なサーベルのような刀でクーズ王国の兵士たちを一刀両断にし、一方的な虐殺行為となっていた。
「防御隊列をとれ!」
「駄目です!突撃を受け止めきれません」
「なんとししても止めろ!死守だ!」
そのまま白いゴーレムは司令部の天幕を突き破って上層部を抹殺しようとする。彼らもマスケットや小銃で応戦するもののすべてが装甲によって弾かれる。
『縺励s縺ァ縺上l』
「し、将軍!!!」
聞き取れない言葉でクーズ王国軍大将の首に斬りかかる。だが剣術の覚えがある大将にはそうやすやすと首を落とさせずに剣舞のような戦闘となる。
「ぬう!」
一刀両断しようとするクーズ王国軍の大将であるが白いゴーレムは受け流すと返す刀で大将の首元へサーベルを突きつけた。
『コウフク、シロ』
カタコトの世界共通語で降伏を促したが大将はフッと笑う。
「降伏?バカを言うな銃後にはおふくろやヨメさん。息子や娘たちが残ってるのにむざむざと降伏するワケがなかろう!」
『ソウカ、ナラバ……』
サーベルを振り上げたがその隙をついて大将は自身にくくりつけたダイナマイトに火をつけて白いゴーレムへと抱きついてもろとも自爆した。
「将軍っ……!」
だが自爆で撃破できたのは一体の白いゴーレムだけ。リーム帝国の方向を見れば白い粒がいくつも見えた。
「っ!将軍が戦死なされた!全軍後退せよ!繰り返す……!」
指揮は引き継がれ後退命令が出されたものの、魔信の通信妨害によって伝達が上手くいかずに各個撃破され、精鋭クーズ王国軍の主力は降伏もしくは壊滅し国防上、致命的な敗北を喫した。
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「クーズ王国軍主力部隊は壊滅、クーズ王国政府と軍部は首都クリュッセルでの防衛戦を展開、リーム帝国軍はクリュセルを半包囲……か。第三局長、クーズ王国からの救援要請は?」
「……今のところはございません。ですが第三文明圏通商条約機構加盟国であるパンドーラ大魔法公国からの救援要請が届きました」
「海外派遣軍の編成を急いで、クーズ王国は長くは持ちそうにないわ。パーパルディア皇国民の避難はどうなってる?」
「大使や大使館職員は既にクリュッセルを脱出しクーズ王国国境を超えております。現地に滞在している皇国民はあまり多くなく、ほとんどが脱出できたものと予想できます」
「そう、ならいいわ」
リーム帝国によるクーズ王国侵攻から数日、パラディス城では連日にわたり帝前会議が開催されていた。リーム帝国の動きが逐一報告され、卓上には巨大なフィルアデス大陸があり、駒と数字を駆使して戦況の分析を行っていた。
「国境の動きは?」
「依然リーム帝国軍はパーパルディア国境から越境しておらず動きはありません。前回の反省からパーパルディア国境を迂回してクーズ王国へ侵攻、そこを橋頭堡としてパーパルディアに攻め込むつもりでありましょう」
「クーズ王国を侵攻の道にしたのか。なんて奴らだ」
(中小国を経由して侵攻してくる。まるで帝政ドイツのシュリーフェン・プランのようね)
レミールが考えを巡らせているとまた新しい情報がもたらされる。だが、連絡員の顔を見るに状況は悪くなっているようである。
「く、クーズ王国、首都クリュッセルが陥落!国王と政府はリーム帝国に降伏をした模様です!直ちに臨時政府が設立され現在、残存兵に向けて降伏を促しております!」
「……まさかクーズ王国が1週間持たないとはね……防衛計画の修正を急いで!」
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クーズ王国首都クリュッセル、かつて栄華を誇っていたクリュッセル城は崩落し城下の町のあちこちからは火の手が上がっている。その中央広場の壇上にはクーズ王国国王やその一族が縄をかけられて辱めをうけていた。その周囲には魔物……ゴブリンやオークが気味の悪い歓声をあげて処罰を今か今かとまっていた。
「静まれ!」
壇上にリーム帝国の軍服を身に纏った女が上がる。その姿をみた魔物たちは一瞬大歓声が上がるがすぐに静まりかえる。
「この瞬間からクーズ王国は我らがリーム帝国の一員となった!これは喜ばしいことである!」
「リーム帝国の一員だと?ふざけるな!我々はクーズ王国の民だ!」
クーズ王がそう叫ぶが全く聞く耳をもたない。
「したがって彼らには我々の仲間となる権利がある!そうだろう!」
「そうだ!」
「確かにそうだ」
「彼らには権利がある!」
女将校は部下であるゴブリンたちに指示を出して何かを持って来させる。そこには真紅の宝石とカプセル剤のようなものがあった。
「これを飲めば我々リームの一員となれます……あぁ、あばれないで。そんなに我々と同じ存在になるのがうれしいのでしょうさぁ再臨の儀をはじめましょうか……」
「やめろ、やめ……」
クーズ王の悲鳴が響きわたるが徐々に小さくなっていった。
クーズ王国が陥落、次回からはパーパルディアVSリーム帝国の全面戦争です