アルーニから北西に250キロ、リーム帝国国境の町アンミアまでおおよそ200キロの草原、朝日がまだ顔覗かせていないものの空が明るくなってくる頃、北西に伸びている4本の鉄路に8人ほどの男たちの姿があった。人間、エルフ、ドワーフ、獣人と様々な人種がリズムに
『我等の鉄道 国の礎 雨風氷に 雪にも打込め 我等の鉄道 保線の魂 我等の一振り 国の礎 我等の鉄道 ここにあり 我等の……』
リズミカルな音頭に併せて鶴嘴が振り下ろされバラストを枕木の下へ詰め込むむら直しという作業が行われていた。
「よーし、一旦作業終了だ!総員退避!列車が来るぞぉ!」
遠くから聞こえてきた汽笛と時間を気にしていた作業班長が保線員に退避を促して退避が完了すると青い魔導灯を点灯させて列車が通過可能であるということを知らせる。
まばゆい前照灯を光らせ甲高い汽笛を複数回鳴らしながら
その光景を班長他保線員が片手を水平に上げる片手水平上げて見送る。
列車最後尾の車掌車を見送ると保線員たちは再び仕事場の線路へと戻ろうとするが班長が再度、日本製の腕時計を確認する。
「待て、ハラ減ってるだろ!朝メシにしよう!」
線路脇に全員が集まって焚き火を囲む。冬真っ盛りである今の時期、焚き火は何物にも代えられない格別な場所である。
「班長さんどうぞ。できたてだよ」
「おっ、済まないね。いただこうか」
磨き上げた角スコップの上で焼き上げた卵とウインナーを軽く炙ったパンに乗せてかぶりつく。
「んー、やっぱり坊主が作るスコップ焼きはウメェな!」
「ありがとうございます!……僕にはこれしか取り柄がないんで……」
「何をいうか坊主!お前は俺達人間族よりも力があるじゃないか!」
白髪とシワの多い人間族の男が獣人の青年の頭を乱暴に撫でる。まるで子犬のようにもみくちゃにされた獣人は照れ恥ずかしそうにしていたがその顔は笑顔であった。
「ワシの未来は短い、だがお前らはまだまだだ。早いとこ年長者の技術を吸い取って一人前になってもらわにゃ、死んでも死にきれん!」
「おやっさんはまだまだ現役で頑張って欲しいから引退なんてさせませんよ!」
「ははっ!こやつめ!」
また頭を乱暴に撫でられ、その光景を見ながら他の保線員が笑う。すると蒸気機関車の汽笛が再び聞こえてきた。
「また貨物列車?随分と最近は臨時の列車が走りますね」
「いや、あれは普通の貨物列車とは違うな。というかさっきの列車もだがいつものより長いな……」
「………………」
ここら一体を走る定期貨物列車はだいたいクロニ型の単機か旧式のクシロ型が牽引機として運行していたがここ最近の列車はクロニ型の重連運転ばかりであった。
クロニ型機関車重連率いる貨物列車が再び保線員たちの脇を通過していく。が今度は有蓋車や無蓋車、長物車にタンク車等多種多様な貨車加え、数両客車も連結していた。
その客車には皇国陸軍の軍服をまとった将校が乗車しており、有蓋車や無蓋車をよくよく見てみると中には一般兵たちが積まれていた。長物車にはシートが被さっているものの、戦車や野戦砲と思われる兵器が詰めるだけ積み込まれていた。
「……陸軍の軍用列車ですね。それも長い……」
「ああ、さっきの列車もそうだ。そして昨日見かけた列車も全部軍用列車だ。全て行き先はアンミアだろう。全くリームのやつらのせいで軍の奴らは大変だな」
「…………今見たことは口外しないこと。いいですね!」
「ンナこた分かってますよ!」
「……また、戦争は全く嫌なもんだぜ。俺の息子も陸軍にいるんだがいつ戦地に行くのか不安でしかたがねぇよ……はぁ」
国境の町、アンミア。クーズ王国国境まで数10キロと近く、侵攻以前はクーズ王国とエストシラントを結ぶ宿場町として、周囲を草原に囲まれていた風光明媚な町なのだがリーム帝国がクーズ王国に侵攻してから一変してしまった。草原が広がっていた場所には天幕が立ち並び臨時の司令部と化し、その周辺は兵士たちが休む宿舎が所狭しと並べられかつての風光明媚さがなくなり物々しい要塞都市のような様相となっていた。
そして国境線に沿って何十キロの塹壕戦が掘られ、ところどころに機関銃陣地が設けられ、銃口が目を光らせていた。
――ドロドロドロ……
「いつ聞いても気持ち悪いな……」
第二次フィルアデス統一戦争……正確には第一次フィルアデス大陸統一戦争からの継続であるが休戦期間を挟んだためこう呼ばれることもある。その戦争の最前線、塹壕からリーム帝国軍陣地を覗いたある兵士のつぶやきである。
コンクリートで固められた塹壕陣地から数キロ先にリーム帝国軍の陣地があり、四六時中なんなかの行動を起こしているのか気味の悪い音が常に響いていた。
「様子はどうだ?」
「気味の悪い音ばかりが聞こえてきますよ。」
偵察兵の一団が常に監視の目を光らせている。視線の先にはつい先日まで壁があった場所、今はその高い壁が消え去り、リーム帝国の様子が手に取るように見えていた。
「しかし……本当に不気味というか……気味が悪いというほかありません」
「ああ、全くだ」
リーム帝国の土地は痩せこけているのか地面には草の一本すら生えておらず、茶色い地肌が顔を覗かせている。ところどころに木が生えているもののその枝には青々としは葉っぱはついておらず、何者かによって雑巾のように絞られたような枯れ木がところ何処に点在していた。
そして上空は分厚い雲に覆われ、陽の光すら感じられない薄暗い景色が広がっていた。
「なんでリーム帝国の方があんなに曇っているんでしょうかね」
「さあな。リームの魔道士たちが何か魔法を使ったんじゃないのか?」
そんなことを話していると何処からか鐘の音と笛の音色が聞こえてくる。一体何だと思っていると次第に音が大きくなり、サイレンの甲高い音すら聞こえるようになっていた。
『敵襲ー!敵襲!』
塹壕内が慌ただしくなる。リーム帝国の方をみれば土埃が多数……いや国境全てに立ち上っていた。
「目標視認!ゴブリンとオークを先頭に突撃をしてくる!」
「ここはグラメウス大陸じゃないんだぞ!いつからリーム帝国は魔物の国に生まれ変わったんだ!」
「口じゃ無く手を動かせ!機関銃陣地!撃ち方用意!」
機関銃陣地から曳光弾混じりの銃弾がリーム軍に浴びせられる。
オークやゴブリンといった生身の魔物たちはバタバタと機関銃の前に屍を積み上げていくが、そのうちの何体かは機関銃の銃撃を耐えつつ前進してきていた。どうやら改良されたゴブリンやオークたちのようで、改リンドヴルムのような装甲を皮膚のようにまとわせていたようである。
「機関銃が効かないぞ?!」
「バズーカ砲をもってこい!もしくは砲兵隊の直接射撃でもいい!」
工兵が弾薬箱とともに細長い筒のようなものを運んでくる。
日本からの資料を参考にして技研が開発した歩兵用対戦車兵器である。対リンドヴルム用携行兵器として開発された経緯があるためある程度装甲を持ち合わせた対象には有効との試験結果があった。
「目標!正面の装甲ゴブリン!」
バズーカを構えて狙いを定める。狙われているゴブリンはそんなことはつゆ知らず、パーパルディア陸軍の陣地への突撃を続けていた。
「………、……うて!」
「発射ぁ!」
後方爆風、バックブラストを巻き起こしながら対リンドヴルム弾を装填したロケット弾頭はまっすぐ飛翔し、装甲ゴブリンへと向かいゴブリンの胴体へと命中すると周囲のノーマルゴブリンを巻き込みながら炸裂した。
その後ゴブリンが立っていた位置には血溜まりと肉片が転がっていた。
「命中!周りのゴブリンも巻き添えだ!」
「大変結構!他の装甲化ゴブリンやオークも撃破せよ!」
バズーカで続々と撃破されていく装甲化されたゴブリンやオークがいる中、背丈がオークほどの白いゴーレムのような人型が一歩、また一步とパーパルディア陸軍の陣地へと歩みを勧めてきている。
「また新型か。バズーカで吹っ飛ばせ!」
「了解!」
バズーカからロケット弾が放たれ白いゴーレムに命中する。しかし、白いゴーレムは歩みを止めることなく近づいてきていた。
「バズーカが効いていない!」
「何だと!?砲兵隊に標的を指示しろ!水平射撃でふっとばしてしまえ!」
歩兵部隊から即座に砲兵隊へ目標座標が伝えられ、砲兵部隊所属の105ミリ榴弾砲が照準をあわせる。
「放て!」
砲兵隊長の号令と共に105ミリ砲が火を噴き上げて砲弾を打ち出す。周囲の地面を掘り起こしながら105ミリ砲弾が炸裂する。少々照準がそれてしまったのか105ミリ砲弾は目標の手前に着弾、地面と人型ゴーレムを吹き飛ばす。
「どうだやったか!」
「目標の手前に着弾したようです!」
「第ニ射用意!煙が晴れたらこんどこそ命中させろ!」
人型のゴーレムは爆発の影響で倒れていたがゆっくりと立ち上がろうとする。
「第ニ射!照準!」
「照準よし!発砲準備よし!」
「よし、はな……」
砲兵隊長が第ニ射を放つ前に人型ゴーレムの足が吹き飛びそのまま体勢を崩して地面へと倒れ込んだ。何が起こったのかと歩兵部隊の陣地の方面を見ると人間の背丈の倍はあろうかというバカでかい銃……対リンドヴルムライフル銃やバズーカ砲を携えた歩兵部隊がいた。
『ワリィな砲兵隊!お前たち獲物を奪っちまってな!』
「うるせぇ!そんなことより次の標的がいるぞ!歩兵部隊に遅れをとるな!」
1体の白いゴーレムを倒したが、その後方には多数の白いゴーレムが確認されている。
「砲兵隊!どっちが多くあのゴーレムを倒せるか賭けようじゃないか!勝ったほうが日本製ビールを飲めるってのはどうだ!?」
「決まりだ!歩兵部隊に負けるわけがないからな!」
砲兵隊と歩兵部隊が競い合うようにして白いゴーレムや装甲ゴブリン・装甲オークを薙ぎ払っていき、一進一退の攻防が繰り返すこととなる。