レミール転生   作:久保田紅葉

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おそくなりました。本当にごめんなさい。


エストシラント大空襲 下

 日付が変わる頃になるとエストシラント市民の大多数の疎開が完了しエストシラントはほぼ無人となる。

 

 しかし、エストシラントには未だ人影があった。それは皇都を守る陸海軍の軍人や治安維持機構の職員、消防組織の職員はエストシラントに残り防空任務や治安維持、空襲後の消火活動に従事することとなっていた。

 

 西の空が明るくなってくる頃、エストシラント郊外にある陸海軍共同飛行場、そこで魔導レーダーの監視に当たっていた皇国陸軍所属の女性魔信技術士パイは北西方向から接近する点を捉えていた。

 

 

 

「……?おかしいな?レーダーの故障かしら?」

 

「どうしたパイ?」

 

「せ、先輩、魔導レーダーの調子が……こんな風に真っ白になるんですか?……今までに見たことのない事象でして、レーダーの故障でしょうか?それとも……」

 

 

 

 パイの上司である先輩が魔導レーダー画面を覗き込むと顔を真っ青にする。魔導レーダーの左上が真っ白に染まっており、一瞬故障を疑ったが染まっているのではなく、点が密集して白く染まっていたためであり、その範囲がだんだんと広がってきていたのである。

 

 

 

 「り、リーム帝国のワイバーンだ!パイ!航空隊に緊急発進(スクランブル)を!高射隊にもアラートをだせ!停泊している海軍にも対空戦闘の指示だ!」

 

「はっ、はい!」

 

 

 

 航空基地全体にサイレンが鳴り響き、海軍のバーバル艦上戦闘機、陸軍のオスカー陸上戦闘機改二や旧式化しつつあるもののいまだ現役であるベルーナ型戦闘機改も空へと舞い上がる。

 

 そして少し遅れて護衛を伴った爆撃編隊も離陸していく。

 

 

 

「ついに来たか……迎撃を急がせて」

 

「はっ!北西方向に大編隊を確認、やはりエストシラントへ向かっているそうです!現在陸海軍による迎撃、陸軍高射砲陣地と海軍停泊艦隊よる対空迎撃用意が進んでおります」

 

「市民の避難は?」

 

「本日未明にはほぼ疎開が完了しております……」

 

「ならよかった。被害によってはエストシラント全域が灰になるかもしれないからね」

 

「……はい?」

 

 ルディアスの被害予想の呟いた言葉が信じられなかった侍臣であるが事の重大さに気がつくとみるみる顔を青くしていった。

 

 

 

 

 

 ▲ ▼ ⏰️ ▼ ▲ ⏰️ ▼ ▲

 

 

 

 

 

 エストシラント市街外縁部からおおよそ20キロ、高度4000メートル付近の上空ではスクランブル発進した戦闘機隊が敵を見つけんと目を見開いていた。

 

 

 

『パイロット!何か見えるか!?』

 

『何も見えません!本当にこの空域ですか?誤報じゃないですか?』

 

 

 

 パイロットたちは誤報でないかと疑いはじめたが北西の空に雲のようなものが見えた。しかしそれは雲というよりも黒い塊のようであった。

 

 

 

『いたぞ!ワイバーンの群れだ!』

 

『情報は入っていたが一体どれだけいるんだ!?フィルアデス大陸中のワイバーンをかき集めたって足りないんじゃないか!?』

 

『四の五の言わずに迎撃しろ!ここを突破されたらエストシラントまで一直線だ!かかれ!』

 

 

 

 戦闘機隊が迎撃を開始したのだがワイバーンの大群は密集して飛行を続けており、不用意に大軍へ接近してしまえば衝突して墜落する可能性があるため外縁部からヒットアンドアウェイ戦法で削っていく戦法しか取れなかった。それでも2~500は撃墜の確認がとれたがそれだけワイバーンの大群を削ったのだが未だに減った気はしない。

 

 

 

「数が多すぎる!全てに対処はできんぞ」

 

『こちらセイバー04、残弾なし!』

 

『同じくセイバー06残弾切れ!』

 

『防空司令部了解。戦闘機隊、補給のために帰還せよ。爆撃機による空襲が行われる。退避せよ』

 

『こんな大群に爆撃機なんて役に立つのか!?』

 

『繰り返す、一時帰還せよ!』

 

『クソッタレ!基地へ帰還する!』

 

 

 

 戦闘機隊が一時的に退避するとやってきたのは予備機のベルーナ戦闘機に護衛されたグレース艦上爆撃機の編隊であった。

 

 

 

『こちらミーティア1、目標確認。迎撃に当たる。高度と速力を教えられたし』

 

『敵ワイバーン編隊は高度3500メートル、速力150キロメートル、なおもエストシラント方向へ向けて飛行中』

 

『ミーティア1了解。高度5000メートルで投下し帰還する。』

 

 

 

 高度を5000メートル付近でグレース艦上爆撃機は爆撃を敢行する。一見無意味に見える爆撃であるがワイバーンの大群の上空数百メートルまで降下すると炸裂し、内蔵されていた小爆弾がばらまかれて襲いかかる。当然予想もしていなかったであろう攻撃方法によりワイバーンに多数の命中弾があり、相当数撃墜が確認された。

 

 

 

『全弾命中。……続いて第二波会敵、投下』

 

 

 

 続いて第二波が会敵し、空対空爆撃を敢行したが2度目は命中こそしたものの回避行動を取られてしまい一度目ほどの効果は得られない。

 

 

 

『第二波爆撃効果半減す。第三派……爆撃中止、退避せよ』

 

 

 

 戦爆連合編隊が空域から退避したことを確認すると、ワイバーンたちには皇都防空高射砲陣地や停泊している海軍艦隊からの対空砲火が襲いかかる。

 

 色とりどりの花火のように炸裂する対空砲火の中で一際大きな炸裂が見られるがこの日は第一艦隊第三戦隊所属のパ・カーガ型戦艦二隻と第六戦隊所属の巡洋艦四隻、第二水雷戦隊の巡洋艦一隻、駆逐艦五隻がエストシラント軍港へ停泊しており、皇都防空戦へ参加していたのである。

 

 

 

「目標に命中、撃墜確実は30~40、損害はそれ以上かと」

 

「皇都防空司令部から誤差修正」

 

「誤差修正、方位40、距離25000、高度3400」

 

「誤差修正よし!」「てー!」

 

 

 

 戦艦や巡洋艦の大砲は効果的にワイバーンを撃墜していくが流石にワイバーンも学習したのか1つの大集団で飛ぶことをやめて20~30騎の小集団になって別れて飛行する。こうなってしまえば大口径砲による対空射撃効果は薄くなる。

 

 

 

「敵ワイバーン散開!」

 

「高射砲陣地射撃開始!」

 

「機銃陣地も撃ち方を始めろ!絶対に近付けさせるな!」

 

「弾幕を張り続けろ!」「はたき落とせ!」

 

 

 

 小集団に別れたワイバーン群はあらかじめ指定されていたように方々に散開し、飛行場・対空陣地・陸軍施設といった軍事関連施設に始まり、港湾施設・道路・鉄道といったインフラ関連施設を狙っていた。それはパラディス城も例外ではなく、100騎近いワイバーンがパラディス城へ襲撃を仕掛けてきた。

 

 

 

「ルディアス陛下!レミール殿下!今すぐ退避を!」

 

「わかってる!」

 

「ルディアス!こっち!早く!」

 

 

 

 退避していたルディアスも見つけたのか勘のいい一騎のワイバーンが一目散に向かってくるがパラディス城に設けられた対空砲火陣によってバランスを崩して城壁外へと激突する。ほっと一安心するのもつかの間大急ぎで退避を再開する。

 

 

 

「お二方を地下指揮所へお連れしてくれ!」

 

「はっ!地下指揮所へご案内します!」

 

「ああ、たのんだよ!」

 

 

 

 

 

 ▲ ▼ ⏰️ ▼ ▲ ⏰️ ▼ ▲

 

 

 

 

 

「来たぞー!屈めー!」

 

「おい馬鹿野郎!身体を出すんじゃない!持ってかれるぞ!」

 

「23番高角砲被弾!負傷者多数!」

 

 

 

 場所が変わってエストシラント市街、ここも大多数のワイバーンの空襲によって甚大な被害を受けていた。

 

 いくら対空砲や高角砲を用意して迎え撃とうがワイバーンの数の暴力には勝てず、エストシラント市街への侵入を許してしまっていた。

 

 栄華を誇っていたエストシラント市街の大通りには破壊された市電や乗用車、ワイバーンの攻撃によって炎上する建物にワイバーンの死骸が墜落してきて、まさに地獄絵図のようであった。

 

 そんな中でも立ち向かう人間がいる。しかしワイバーンの大群へと立ち向かう軍人ではない。エストシラント消防局の消防隊員であった。彼らは炎と戦い、逃げ遅れた市民がいないか確認をしていたのである。

 

 

 

「東分署 54-2、3、6現着!」

 

『東本部了解。空襲は未だ続いている。警戒を怠るな』

 

「54-2、了解」

 

 

 

 彼らはホースや水魔法を片手に身につけ火災現場へとむかうがその頭上をワイバーンが飛行する。慌てて物陰に隠れたものの見つかってしまいワイバーンがUターン、消防隊にむけて降下をし始めた。

 

 

 

「逃げろ!逃げろ!」

 

「逃げるってどこに逃げるんだよ!」

 

 

 

 周りには瓦礫の山々、到底退避できる場所はない。右往左往している消防隊に向けて着々と近づき、火球を放とうとしていた。

 

 ……だが上方からの銃撃によって体勢を崩されそのまま燃え盛る建物へと墜落していった。上空を見ると一機のベルーナ改が飛んでいた。

 

 

 

「対空砲火の中無茶しやがるな……」

 

「でもそのお陰で助かったようなもんです」

 

「ああ、今度は俺達の番だ!ホースを出せ!急いで消火して次の現場へ向かうとするぞ」

 

「了解です!」

 

 

 

 

 

「……ふぅ、なんとかなってよかった……」

 

 

 

 ベルーガの機内、パイロットでもあるニールはワイバーンを深追いしてしまい、退避命令を受けても従わずにワイバーンへの攻撃を続けていたところ、味方の対空砲火を浴びてしまい必死になって逃げ回っていたらいつの間にかエストシラント市街上空を飛行していたのである。

 

 帰投したら大目玉だと涙目になりながら飛行していると一騎のワイバーンが降下をしているのを発見しそのまま銃撃を加えて撃墜したのであった。

 

 撃墜後、地上を見れば消防局の赤い車両がチラリと見えた。

 

 

 

「消防隊も頑張ってるし、俺も頑張らないとな!」

 

 

 

 ニールはこの後他の消防隊へ襲いかかろうとしていたワイバーンを四騎ほど撃墜しているとエストシラント中央駅から立ち上る黒煙が目に入った。

 

 

 

 

 

 ▲ ▼ ⏰️ ▼ ▲ ⏰️ ▼ ▲

 

 

 

 

 

 9時50分、エストシラント中央駅には1本の列車が停車していた。その列車は平時であればパーパルディア標準時10時丁度発、デュロ行きの特急列車『スワロウ』であった。普段通りの光景ならば乗客やその見送り客でごった返しているホームであるが空襲下のため一人もいない。

 

 だが運休により誰もいない筈のホームに数人の人影と特急列車の姿があった。

 

 

 

「ほ、本当にやるんですか?命令違反とかになりませんか?」

 

「ああそうだ。お前たちはいつものように列車を走らせたらいい。責任は俺が取る!」

 

 

 

 そう話すのは鉄道局局長であるソウゴ、彼は皇国民に向けてパーパルディア皇国とその首都であるエストシラントが健在であるということを伝えるべくある計画を練っていた。

 

 毎日10時丁度に発車するデュロ行きの特急スワロウ、皇都空襲下ではエストシラントを発着する列車全ての運休が決まっていたがソウゴの独断によってこの列車のみの運行が決まっていたのである。

 

 担当機関士がチラリと横をみれば撃墜されたワイバーンが駅前に墜落し火炎球へ引火し爆発が巻き起こり建物を崩壊させている。

 

 

 

「やっぱり無理ですよ局長!こんな空襲下で運行できると思えません!」

 

「非常回線でデュロまでの線路はつながっているのが確認を取れてる!行けるはずだ!駅長!チャイムを!」

 

 

 

 9時58分となりソウゴに付き添っていた鉄鉢姿の駅長が真っ青な顔をしたまま甲高いベルチャイムを鳴らす。先程までウダウダと喚いていた機関士であるがもうヤケとなり運転台へと戻った。

 

 

 

『デュロ行特別急行列車が発車いたします。お見送りの方は白線の内側まで下がってお待ちください。特別急行列車が発車いたします……』

 

 

 

 10時丁度、エストシラント中央駅15番線を発車した特別急行列車『スワロウ』、12両編成の列車であったが当然乗客はいない。デュロ方面へと加速していく『スワロウ』へ早速困難が降りかかった。

 

 蒸気機関車牽引のため煤煙に引き寄せられたワイバーンが列車の上空を旋回し、機を伺っていた。

 

 

 

「上空にワイバーンを確認!やっぱり無理だったんじゃないですか!」

 

「馬鹿野郎!今更引けるか!突っ切るぞ!」

 

 

 

 涙ながらに機関助手が訴える中、機関士がマスコンをめいいっぱい引き上げ、上を見上げるとワイバーンが1騎、鮮血を撒き散らしながら墜落していくのが見えた。

 

 

 

「なんだ?空中で戦闘機とやり合ってるのか?」

 

 

 

 機関助手も窓から空を見上げるとそこにはニールが操るベルーナ改とワイバーン数騎が格闘戦をくりひろげていた。

 

 

 

 「くそっ、落ちろってんだよ!」

 

 

 

 ワイバーンの動きに翻弄されながら若干苦戦したものの上空に張り付いていたワイバーンの撃墜に成功したニールはそのまま燃料の許す限りスワロウの護衛をする。

 

 

 

「なんだかよくわからんが……今のうちにエストシラント市街を抜けるぞ!」

 

「はっ、はい!」

 

 

 

 エストシラント中央駅を出発してから暫くは線路別複々線となり、スワロウの走る列車線は緩行線の駅をいくつか通過していくがどの駅もいずれも何かしらの被害を受けておりひどいところでは脱線した通勤用蒸気動車がホームへと突っ込んでいた。しかしスワロウの走る列車線には瓦礫や被害は少ない……いやほとんどなかった。

 

 

 

 汽笛を鳴らしながら緩行線の駅を通過するとトーチカのように積み上げられた土嚢の影から鉄鉢がいくつも顔を覗かせて敬礼をしている姿が見えた。保線員たちがほっと息を吐いた顔を覗かせていたのである。

 

 

 

「全く!保線員のやつらは命知らずばっかだな!」

 

「それは私たちも一緒ですよ!こんな死にかけの運転、二度とやりませんからね!」

 

 

 

 ガハハと笑いながらさらにいくつかの緩行線の駅を通過していくと空襲の被害が少なくなっていき建物はまばらとなる。線路も複々線だったものが複線となった。

 

 

 

「そろそろエストシラント市街を抜けるか……」

 

「上空で援護してくれた戦闘機も戻るみたいですよ」

 

 

 

 機関士と機関助手が空を見上げるとベルーナ改が左右に羽を上下させてバンクしている。お返しにと汽笛を盛大に数回鳴らすとベルーナ改はちょっとした曲芸飛行をし、エストシラント市街方面へと飛び去っていった。

 

 

 

「さぁエストシラントの危険域は脱した!後はデュロへ向かって行くぞ!」

 

「はい!」

 

 

 

 スワロウは走り抜け沿線にいたエストシラントの避難民たちや住民たちの目にとまり、エストシラントは健在であることを知らしめながら定時運行のままデュロの駅へとたどり着いた。




次回も……未定です……
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