エストシラント空域に敵ワイバーンが確認されなくなるまで2日ほどかかり。空襲警報がようやく解除される。
皇都上空に侵入したワイバーンはほとんどが撃墜されたかリーム帝国へと逃げ帰っていったようであるが道中で力尽きて墜落したワイバーンが殆どであり、一部は翼を負傷して不時着したところを保護……もとい捕獲されている。
空襲警報が解除されたことによって疎開していたエストシラント市民たちがエストシラントへの帰還を希望するものの、エストシラント市街地は甚大な被害を受けていると言われ、しばらく疎開先にとどまる者、どうしてもエストシラントに帰りたいという者と様々である。
エストシラント上層部は帰還を希望した市民は帰還させ各地へ避難キャンプを設けることを決定し、帰還した市民たちは復旧した鉄道でエストシラントへと戻ってきたものの帰ってきた市民たちが目にしたのは変わり果てたエストシラント中央駅と慣れ親しんだ街並みであった。
美しかったエストシラント中央駅、その天井には大穴が空き、ワイバーンの死骸と瓦礫が一緒になっていくつかのホームと線路を塞いでいる。
駅の外へ一歩出れば子供を連れて買い物をした駅前の商業施設は墜落したワイバーンによって倒壊して瓦礫の山と化し、通勤通学や買い物で使われていた大通りも倒壊した建物や廃車となった自動車や乗合バス、ワイバーンの死骸によって埋め尽くされていた。
「ど、どこから手をつけてやれば……」
「ため息をついている暇があったら手を動かせ。ほら、そっち持ってせーのっ!」
それでも生活を営もうとまずは道が通れるようにと道路に転がっているワイバーンの死骸を蒸気車や馬車に積み込み郊外の焼却場へと運び込みここで死骸を火葬にかける。市街地で死骸の焼却をすると死骸から魔素が大量に放出され魔素中毒に陥ってしまうため、おいそれと焼却ができない中でも少しづつ死骸が除去されていく。
中には鉄道局の無蓋車を借り上げて死骸を積み上げ、専用の貨物列車を仕立てそれを郊外で大規模に焼却処分をするという荒業も見られた。鉄道局は文句をいいたいところではあったが文句を言ったところで無視されるか最悪貨車や鉄道施設の打ち壊しなんかに発展してしまえば目も当てられない事態となってしまうため、下手に文句も言えず黙認するしかなかった。
市民たちや民間企業といった民間が元の生活に戻ろうと片付けを進めている頃、官庁……パーパルディア皇国上層部も動き始めていた。
「それでは定例……いや今回は軍部の方々も参加されておられますが……帝前会議を開催したいと思います」
ルディアス城の帝前会議場、通常の帝前会議通り局長クラスが勢揃いしているだけではなく、今回は軍の上層部を何人か出迎えての会議が始まる。先日のエストシラント大空襲の損害が癒えてない為、会議場のガラスがところどころ割れ、天井を見ればちいさな青空が顔を覗かせていた。
割れたガラスから外……市街地の方に目をやればワイバーンの死骸を焼いているのかあちらこちらから白煙が立ち上り、復興作業に尽力していることが見て取れる。
「まず……被害状況から知らせてもらおう。状況は?」
「はっ、都市管理局から報告を読み上げさせていただきます」
都市監理局局長からのエストシラントの被害状況が読み上げられるがエストシラントの被害は甚大であった。エストシラント市街地はおおよそ6割が何等かの被害を受け、話を総合すると1割ほどの街区は完全に炎に包まれて破壊され灰となってしまっていた。
民間施設だけでなく、軍基地の被害もあり、陸軍の兵舎や対空機銃陣地、海軍の艦艇、駆逐艦を始めとした軍用艦に大なり小なりの被害が発生していた。
また、官民共用で使用されていた港湾設備や飛行場がワイバーンの火球によって損害をうけたとの報告があり死者は陸海軍の軍人、民間人は消防局職員、避難を希望しなかった市民等を合わせると少なくともわかっているだけで100人弱、さらなる追加調査によってはそれ以上の死者が予測される。
鉄道や道路、空港といったインフラ関係の被害も甚大であり、市民の足となっていた市内を走行する蒸気トラムは市街線の全ての区間で運休、乗合バスも市街地の道路網があちこちで瓦礫やワイバーンの死骸によって分断されているため運休していた。
空港設備への被害は少ないものの、滑走路に大穴があけられてしまい当分は使い物にならないらしく、しばらくは民間機の欠航が続くという被害状況である。
パーパルディア鉄道局からはソウゴ局長の尽力によってなんとかアルーニからエストシラントを経由し、デュロまで繋がるパーパルディア本線は何とかつながっているがエストシラント市街を縦断し周辺都市を接続する緩行線やエストシラントの北西部の郊外に位置する巨大貨物駅、エストシラント中央操車場は空襲によって周囲の建築物を巻き込みながら大火となってしまい、焼失した貨車や熱によって変形した線路の復旧にはそこそこの時間がかかる見通しとなっていた。
それに加えて臨時のワイバーンの死骸運搬列車が臨時ダイヤの合間を縫って運行している。
「と、いうことは……しばらくは鉄道による前線への軍需物資輸送は行えないということか?」
「はい、パーパルディア陸軍鉄道連隊と鉄道局が協力し迅速に復旧作業を行っておりますが復旧には少し時間がかかるかと……重要物資等は空路を用いて輸送可能です」
「では陸軍から申し上げよう。補給線の復旧なくして攻勢はないと断言いたしましょう。無理な攻勢は軍を弱める。これだけはご理解いただきたい」
「わかったわ……海軍の方はどうかしら?」
「はっ、我々の損害は比較的軽微でしたので反抗戦の足がかりとしてひとつ作戦案があります。ですがこの作戦には陸軍の皆様との共同作戦をお願いしたく……」
「ふむ、聞かせて貰おうか」
海軍側が見せてきたのは海図、そこにはフィルデアス大陸と日本列島が写っているもの、そしてもうひとつはパーパルディアと日本が書き加えられた衛星写真と呼ばれるもの、日本で発行された航空地図をどこからか借用してきたとのことである。
「海軍としましては……ここ、旧リーム王国時代の玄関口であったボンレー港に艦砲射撃や航空爆撃を仕掛け上陸作戦を敢行する計画をたてております」
「なるほど、玄関口を押さえてそこから強襲上陸か」
「いいえ、ここは少数精鋭の強襲上陸を行って占領、本命はここボンレーからさらに北へ行ったこの海岸線……。ここは砂浜でできておるため、揚陸のしやすい地点となっております。そこへ大規模な上陸作戦を敢行し、ボンレー港を包囲しようとしたリーム帝国陸軍を粉砕し、一路ヒルキガを目指します」
「しかし、揚陸しやすいということはリーム側もわかっているはずだ。わざわざ敵陣の中に突っ込んでいく愚か者なぞおらん」
「だからこそのボンレー港強襲上陸です。……上陸地点を2つにすることによって戦力の分散を狙います……ですが1つ問題があります。それは情報の無さです。鎖国状態となっていたリーム帝国なので10年以上前の情報から考えられる推測情報しかありません」
第一次フィルアデス大陸統一戦争時から10年も経過しておりその間は壁を作り上げて鎖国状態となっていたリーム帝国、地理情報は10年前から更新されていないのである。
「……ならば海軍特戦隊を潜入部隊として活用できませんか?彼らならば容易く情報収集が行えるかと」
「陸軍の精鋭部隊の選別も進めておきましょう」
「その手がありましたか!是非検討させていただきます!」
一旦箸休めで次回は鹵獲したもののなんかをかこうかと考えてます