エストシラント空襲から数日、ようやく市街地の幹線道路の瓦礫除去が完了し、仮設住宅の建設が急ピッチで進められている。日本からプレハブ工法を導入して即席の3階建てのアパートのような仮設住宅が続々と立ち並ぶようになる。
これを機に旧市街の再開発を行おうと都市管理局が計画を進めているようで連日会議を重ねている。陸軍と海軍もボンレー強襲上陸作戦に向けての卓上演習や部隊の編成を急いでいる中、郊外にあったため戦火を免れた先進科学技術研究所、通称技研の格納庫には先のアンミア会戦で会敵した装甲魔物や鹵獲した白いゴーレムらしき人型兵器が続々と運びこまれていた。
「これが機関銃を跳ね返したゴブリンとオーク?見た目は普通のゴブリン種やオーク種にしかみえないけど……」
「見た目は旧来の種と変わりません。しかし一枚皮をめくってみると……」
研究員の一人がメスを用いてオークの死骸の皮へ切れ込みを入れると皮膚の下には鈍く真珠のように輝いている装甲板が存在した。
「……リンドヴルムの装甲板みたいね。性能の方は?」
「はい。陸軍からの報告書によりますと機関銃の雨をことごとく跳ね返し、バズーカ、もしくは対リンドヴルム銃で撃破したと報告があります」
「となれば……複合装甲の類はなさそうね。分析はまだかしら」
「解析は進められておりますが……進捗は芳しくありません」
「そう、なら日本にいくつかサンプルとして送ってみて。何かしらわかるかもしれないから」
確かロウリア王国の騎士の一人が伝説の盾なるものを持っていたことを思い出したのでどうせなら日本で解析してもらって技術発展に貢献できるのなら渡してもいいと思う。なんせサンプルは大量にあるからね。さて、魔物はこれぐらいで……問題の背丈がオークほどの白いゴーレムのような機体?である。
見た目はよくあるゴーレム……というよりかはどちらかといえば特撮やロボットアニメに出てきそうな機体であり、真っ白い流線型のボディには銃弾の凹みやら爆発痕、爆炎でできた黒ずみ等が見受けられ、現地皇国陸軍との戦闘の激しさが伺えた。しかもであるただのロボット風ゴーレムかと思いきや中には何やらケーブルやらバイザーやらが備え付けられており、パイロットが搭乗するだけの空間があった。
「これじゃあまるで海軍特戦隊の騎士鎧を大型化した機体みたいね。だけど大型だけど搭乗スペースは小さめ……ちなみにこの機体に搭乗していた者は?」
「はっ、併設されている収容所に留置しておりますが……」
私の付き添いでやってきている職員が言いよどむ。なにか不都合な出来事でもあったのだろうかと勘ぐってしまう。
「まさか捕虜に手を出したりしてないでしょうね?」
「そんなことは一切ありません!ただ……その、ですね……」
「もったいぶらずに言いなさい。所長命令よ」
職員は観念したのかゆっくりと重たい口を開いた。
「パイロットは15歳から18歳と思われる少女たちでした」
『少しは話す気になったか?』
『……………………?』
技研に併設されている収容所、その尋問室に軍服姿の軍人二人と薄ピンクの病衣を来た少女らしき囚人が座っていた。
短い白髪に赤い瞳とまるでアルビノの少女のようである。しかし、尋問官の質問にはまるで意味がわからない。といった感じの反応を示しており、まともな証言は未だに取れていないという。
「所長……やはり肉体的な尋問を行うべきでは?」
「それはダメね。第一あんな少女に拷問なんてしたら文明圏、特に日本からの非難が集まるわ。少し私にやらせてみて」
「ですが……」
「大丈夫、少し秘策があるから」
尋問官二人と入れ替わるようにして尋問室へと入る。椅子に座る少女は興味深そうに視線を動かしながら私が座るのを待っていた。
「よいしょ……さてと、私は先進科学技術研究所、所長のレミールよ。貴女の名前は?」
まずは軽く自己紹介……という感じで話してはみたものの、少女は先程と同じように首をかしげている。黙秘……というか言葉自体の理解が追い付いていないのかもしれないと思った。
(世界共通語じゃ通じないってことね……だとすればこっちかしらね)
『こんにちは、私はレミール』
『おねえさん、ことば、わかるの!?』
初めて少女となった捕虜が話す。マジックミラー越しに尋問官たちと職員が驚愕している姿が目に浮かぶ。私は別に特別なことはしていない。ただ、世界共通語じゃなくて拙い古代フィルアデス語を片言ながら話しただけであるがこれで少しはっきりしたことがある。
(リーム帝国は古代フィルアデス語を用いている……これで作戦行動が把握できるようになると良いのだけれど)
『レミールおねえさん、どうしたの?』
尋問室にいるのを忘れて思考に至ってしまった。まずは尋問を進めないといけない。
『ごめんなさい。あなたの、名前は?』
『私は……D2-54327、しせつの人からサニーナってよばれてる!』
『サニーナ、いい名前ね。貴女は、どこからきたの?おかあさんやおとうさんは?』
『わかんない、さいしょは……なんか、えきたいの中に浮かんでるの……まわりにも私みたいに浮かんでて……それでね、ある日出されて、服を着きてしろい人形に乗せられたの!それから……眠っちゃって気がついたらここにいたの!』
『そうなの?くわしく教えて』
『……ごめんなさい、ずーっと夢をみてるみたいで……くわしいことは……わかんない』
『そう……わかったわ』
サニーナとの会話は彼の国……リーム帝国を理解するには十分な情報が得られた。ある程度の所で会話を切り上げて別れを告げるとサニーナは少し悲しそうな顔をしていた。
『また、来てくれる?』
『……ええ、また今度ね』
サニーナのいる尋問室から出るとすぐさま尋問官二人に詰め寄られる。どうやって情報を聞き出したのか。あの言語は一体なんだと次々と質問が矢のように飛んでくる。それを抑えながら要点を伝えていく。
「まず第一にあの娘は世界共通語を扱えなかったわ。彼女……ニーナが話していたのは古代フィルアデス語よ。リーム帝国では世界共通語は使用していないようね」
私の言葉に尋問官たちはなにか腑に落ちたようであーでもない、こーでもないと次の尋問計画を立てているようである。
「それと……ニーナはまだ子供……というか生まれて間もないみたいだから……尋問がてら教育もしてあげていって」
「しょ、所長。それって一体……」
私がニーナから聞き出した情報を元に考察と推測を混ぜた簡単な推論を話すと研究員はおろか尋問官も顔を真っ青にする結果となった。
「ま、まさか彼女たちは……」
「あくまで推論だけどね。他の捕虜たちも同じような環境だった可能性があるからそこら辺の管理もよろしく。私はこの事実を早急にまとめ上げて数日後の帝前会議でルディアスに報告書を書き上げるわ。後はよろしく」
数日後の帝前会議になんとか間に合わせるために徹夜して資料を制作したため、髪はボサボサ、目の下には隈まで出来上がってしまっている。これでは良くないと宮廷魔道士を呼んできたがあまり芳しくはない。回復魔法じゃ疲労は回復できないという知見が手に入っただけよしとしよう。
「仕方がない……このまま帝前会議に出席するわ」
「も、申し訳ありませんレミール様……私が至らないばかりに」
「いいわよ。ありがとうね」
宮廷魔道士と別れて帝前会議会場に急ぐ。私がドアを開いた頃には全員が勢揃いしており、後は私が到着するのを待っていただけのようであった少し足早に私の席へ着席すると隣に座っていた鉄道局のソウゴ局長が心配そうに声をかけてきた。
「レミール殿、随分と顔色が悪そうですが大丈夫ですかな?もし何でしたら今からでも……」
「ご心配いりません。自分自身のことは自分自身が一番良く分かっていますから……」
「えー全員揃ったようですので……定例の帝前会議を開催致します。まずは外交から、第一外務局……」
順序に報告が進められていき、いよいよ技研の報告となった。私が壇上に登るとやや会場が騒がしくなる。ただちょっと寝不足気味なだけなのに。
「はい、えー……次は技研からの報告となります。配布した資料を、ご覧ください」
……出だしから失敗してしまった。まるで大学のレポート発表みたいになっている。これが終わったらしっかりと休養を取っておこう。もちろんルディアスと一緒にね。
「つい先日、アンミアで鹵獲された生物兵器や駆動兵器について解析が完了しましたのでご報告を。お手元の資料、4ページからご覧下さい」
徹夜でまとめたページには調査結果とともにある程度の詳細を掲載している。流石に撃破直後のグロテスクなものは取り除いてはいるけれども。
「彼の国……リーム帝国は魔物を使役し軍へ導入しております。また、これらの魔物たちは古来からの魔物……というよりかは品種改良、もしくは日本でいう遺伝子改良を行っているものと予想できます」
「用語がいまいち不明だが……以前の魔物よりも強力となっているという事だな。なんとも厄介な……」
「現地からの報告にもあったが白いゴーレムなるもの、そちらはどうだ?我が軍で採用できそうなものなのか?」
「そちらは次のページに掲載しておりますが……正直に言いますとあまり気分のいいものではありませんが……」
「レミール。続けて、私たちには知る権利があるから」
「……かしこまりましたルディアス陛下、それでは……15ページをご覧ください」
ルディアスの言葉に少し重みがあったような気がしたけれども気にしないよう報告を続ける。15ページからはあの白いゴーレムモドキとその搭乗員たちの記録についてである。
――調査によってこの白いゴーレム、リーム帝国の命名によると『コペリアニマ』と呼ばれる人型のパワードスーツでした。海軍特戦隊の蒸気式外骨格装甲服と似たような性能ではありますが……海軍特戦隊は機械動力を用いておりますがコペリアニマは魔導を使用しておりますが……魔素を貯蔵しておく貯蔵タンクのようなものは存在しておりませんでした。
「となれば一体どうやって動いているのだ?まさか搭乗者が膨大な魔力庫となっているとでも……?」
――コペリアニマの動力は……パイロット、つまるところの搭乗者となっております。それに加えてこの搭乗者というのが……年端もいかない少女たちだということです。その名簿が次のページとなります。
捕虜になったサニーナを含むコペリアニマのパイトットたち、いずれも年端もいかない少女たちであるがその実際は王宮魔道師の数倍もの魔力保有量を誇っていた。だがその代償として身体が非常に弱いということが調査で判明したのである。
さらに問題は続く。
「この少女たちの出生ですがひとつ大きな問題がありまして……自然分娩、つまることろ、自然の摂理に基づき誕生した子供たちではなく……計画的、機械的に生産されている人間ということです。……彼女たちからの得られた証言等の推測ではありますが……」
「……ひとまずこの情報は上層部のみに共有する秘匿案件とすること、下手をすると皇国が戦争に傾斜して国が傾くわ」
「でしょうね。ただ、身寄りのない少女たちを戦場に連れ出している。という情報は戦意を高めるのには効果的ですが……」
「だめね。皇国民が陸軍や海軍の詰め所に押しかけてパンクする未来が見えるわ。やはり秘匿案件にしたほうがいい」
「そうね。この秘匿案件に賛成のものは挙手を」
多少反対意見が出たものの、この少女たちの件は秘匿案件として軍の上層部など一部の者にしか情報共有されず、一般市民等に公開されることはなかったが、新型の兵器の情報等は日本やムーに共有され対策が次々と上がることになる。
次は閑話かなぁ……なお更新予定は未定です。