ある日の朝、いつものように先進科学技術研究所、通称技研の研究所へと出社?出向すると一人の研究員が待っていましたとばかりに私の元へと駆け寄ってきた。
「おはようございます!レミール所長!ついに!ついにできましたよ!」
彼の目の下には大きな隈ができており、散髪にも行かなかったの伸びた無精髭や髪の毛が伸び放題であった。おまけに風呂にも入って居なかったのか匂いも少しきつい……。
「話は聞くからまずは備え付けの風呂で入浴をしなさい。そうしないと話を聞きませんよロバートさん」
「今すぐにでも……いえ、はい。わかりました所長」
私の睨みが効いたのか大人しく従うロバート研究員。数分の後に彼は戻ってきた。伸びた髪を後ろで一つにまとめ、無精髭も剃ってさっぱりとした印象であった。
「いやぁ久しぶりの風呂は中々良い物ですな!」
「全く……徹夜はするな、身体に毒と何回も言ったはずですよね?」
「全く面目ない。あと少しで完成するとなれば少しぐらいは良いかと……いや本当に申し訳ない」
私よりも年配であるロバート研究員であるがどうも彼は研究キ……いや馬鹿の気質があった。一度ハマれば完了するまで睡眠や食事は最低限、ひどい時だと両方をおろそかにしてしまう研究員である。……ズボラではあるが彼の研究自体が優秀なのだから玉に瑕であるけれども。
「それで……私に見せたい物がある。だったかしら」
「そうでした!そうでした!ついに完成いたしましたよ!」
そういうと屋外の実験用格納庫へ案内される。蒸気機関車や蒸気自動車の試作車両が多数保管されている場所であるがここに一体何があるのだろうか。
「レミール所長ここです。私だ。ロバートだ通してくれ」
「はっ、只今!」
ご丁寧に陸軍の兵士が立哨していた。厳重な鍵を開けて中へと入る。
「少し暗いですがご容赦ください。今照明をつけて参りますので」
少し待つと格納庫全体が明るくなり部品やらパーツの中に布で覆われた物体が鎮座していた。
「陸軍からの依頼を覚えていらっしゃいますか?『戦闘に参加でき、なおかつ大砲や物資輸送が可能な輸送車両の開発』その試作車両が完成したのです!どうぞレミール所長ご覧ください!」
布が取り払われ現れたのはムーから輸入したと思われる無限軌道、前方に軽量砲、車体中央部は蒸気機関をそれぞれ積載した車両であった。
「ろ、ロバートさん。これは一体……」
「試作型パーパルディア式蒸気戦闘車です!これ一台あれば戦闘は勿論のこと開発中の専用カーゴを用いれば人員、物資、大口径砲の輸送も行うことができます。いかがでしょうか?」
このロバートとかいう研究員、いきなりの技術のブレイクスルーでぶん殴ってきた。確かに正直に言ってしまえば弓矢やコンパウンドボウで撃破されるような
さらに輸送手段としても悪路走破性能は優秀そうなので皇国軍で採用されることは間違いないであろうが……個人的に気になる点が一つ。
「歩兵や砲兵から守られる分の装甲厚はありそうね。……乗員席が開放式なのが少しいただけないけれども」
「申し訳ございません。しかし、装甲で全体を覆ってしまえば蒸気機関の熱が籠もってしまい逆に乗員の命が危うくなってしまいます。ですが速力がありますので万が一、ワイバーン等に攻撃されても避けられるかと」
「難しいところですね。陸軍の方からはなんと?」
「いえ、朝方完成したばかりでまだ。皇帝陛下や陸軍の方々にお披露目できれば一番なのですが……」
「手筈を整えておきましょう。但し、動作不良等起こさないように念密に整備を行いなさい」
「かしこまりました所長。ありがとうございます」
陸軍省やルディアスと相談した結果、2週間後にデモンストレーションを行うことが決定した。
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エストシラント郊外にある三大陸軍基地の1つ、エストシラント陸軍基地、パーパルディア国鉄陸軍専用線が引かれた等の整備が進んでいた中で、演習場に技研の所長である私レミールの他、パーパルディア皇国皇帝ルディアスの他、陸軍総司令官、皇国新聞社、さらにはムー国からは統括軍関係者とオタハイト・タイムズの錚々たる面子が集まっていた。
「所長、私ちょっと用事を思い出したので帰らせていただきたく……」
「何を言ってるの。貴方の発明なんだからもっとしっかりしなさい」
ロバートの背中をバシンとたたいて活を入れて大一番のステージへと立たせる。
「み、皆さん。お集まりいただき、ありがとうございます」
緊張からなのか声が震えてしまっている。こればっかりは本人の頑張り次第である。
「かねてより陸軍から要望がありました『戦闘に参加でき、なおかつ大砲や物資輸送が可能な輸送車両の開発』。此方の試作車が完成致しましたので本日はデモンストレーションを兼ねた発表をさせていただきます」
「ですが長々説明を行うよりも実物をお見せした方がお早いでしょう。どうぞ!試作型パーパルディア式蒸気戦闘車です!」
黒煙を上げ参列者の目の前に現れた蒸気戦車、操縦手と砲手、装填手の三名で運用されており、通り過ぎた後は試験用コースに用意された障害物をまたぎ、乗り越えて走行していた。
これには観客一同は歓声や驚きの声が上がる。
「ご覧の通り、農業用として開発された無限軌道を採用し不整地または悪路での走破性を重要視いたしました」
「主砲はムー式12ポンド野戦砲を採用し最大射程3.1キロ、今回は有効射程2.5キロの対魔弾鉄鋼式装甲への射撃訓練をお見せいたします。始めてくれ」
陸軍の兵士がテキパキと作業を行い射撃訓練の用意が整う。
『目標!対魔弾鉄鋼式装甲!打ち方用意!距離2500!弾種、徹甲弾!』
『装填完了!』
『打ち方始めー!』
12ポンド砲が火を吹く。初撃は僅かに目標の手前へと着弾する。
『誤差修正!……装填完了!』
『撃て!』
二撃目で命中。遠眼鏡で、観察すると見事に対魔弾鉄鋼式装甲を貫通していた。これには参列者の歓声、特に陸軍側からの大きな歓声が上がっている。
「これを北方、リーム帝国国境に投入することができれば……!」
という声が聞こえてくるほどであった。
「続いてですが、牽引車のご説明をさせていただきます。現在開発中ですが……兵員輸送タイプ、大口径砲輸送カーゴ。有蓋車タイプなどを開発予定です……以上がパーパルディア式蒸気戦闘車の説明となります」
ロバートがやり切った……といった表情を浮かべていたが問題はここからであった。陸軍とムー統括軍関係者が一斉にロバートの元へと押し寄せたのである。
「ロバート氏、技研ではなく陸軍技術士官として勤めないか!勿論相応の待遇で君を迎えよう」
「いいえ、我が国で研究者として第二の人生を歩みましょう!きてくれますよね!?」
「え、ええと……その……」
「皆、一応皇帝の御前だよ?不毛な争いはやめてもらいたいものだけど……」
取っ組み合いの争いに発展しそうだったところをルディアスが収める。それぞれ不服そうであったがルディアスは気にせずロバートへと言葉を向けた。
「ロバートと言ったかな。この蒸気戦闘車は素晴らしい。今すぐにでもデュロで生産を開始しよう。量産が始まった暁には数台をムー国へ向けて輸出、機械文明は元をたどれば彼の国から伝わった技術、恩返しとは言わないが感謝の意を込めての輸出である。双方異論は無いね?」
揉めていた両者は双方を見つめあうと合意したように頷いた。
「ルディアス陛下、誠に感謝致します。これで我が国の技術がまた一歩進歩することでしょう」
ムー国の代表が感謝を伝え握手を求めるとそれに答えてルディアスはその手を握り返した。パーパルディアとムー両国の新聞社がスクープだと言わんばかりに写真を収めていた。
翌日の皇国新聞には『パーパルディアの恩返し!』とルディアスとムー代表が握手を交わす写真が一面を飾っていた。しかしルディアスはというと『なんだか恥ずかしいね』と照れくさそうにしていた。
2ヶ月後、デュロに蒸気戦闘車の生産工場が完成し、ようやく蒸気戦闘車の量産が始まり付随した牽引車の生産も軌道に乗り始めた頃、国家情報局から北方での戦乱が終結したと報告があった。
結果は下馬評通りリーム帝国の圧勝。トーパ王国とクーズ王国以外全ての北方諸王国の全てを占領下とし、自らの国名をリーム第二帝国を名乗りフィルアデス大陸の正統な支配者だと主張し始めた。北方の統治が終わったとなれば次の標的は我が皇国、リーム軍は全軍を南下させて来ているとの情報が合わせてもたらされた。
中央暦1629年の夏が終わろうとする頃、確実に戦乱の影がパーパルディアを支配せんとうごめいているのは確実であった。
蒸気式戦闘車のイメージは某蒸気少年の英国軍蒸気戦闘車を脳内イメージで保管してください……私は絵が描けないもので、申し訳ない。