陸での戦いは有利に進みリーム帝国陸軍を元の国境線へと押し戻し膠着状態となる中、リーム王国海軍の大艦隊が工業都市デュロへ向けて出港したとの情報が入った。陸での争いが膠着し白黒つけられないのであれば皇国の拠点を海から決着をつけようというリーム帝国の魂胆であろう。この情報を聞きつけエストシラントの軍港全体が慌ただしくなる。100門級戦列艦であるフィシャヌス級戦列艦が着々と出航準備を進める中、軍港の一部を占めている大型艦、パーパルディア型巡洋戦艦1番艦「エストシラント」の艦橋では真新しい制服に身を包んだ皇国海軍軍人シウスの姿があった。
「艦長!全艦艇の出港準備が整いました!」
「うむ。全艦抜錨!目標デュロ沖!」
巨大な錨が水面から上がり、立ち上がる3本の煙突からは黒煙がモウモウと上がっていく。巡洋艦3隻、駆逐艦5隻からなる第一艦隊、その後続に風神の涙をフル活用したフィシャヌス級戦列艦が続く。重低音の警笛を鳴らし、見送りの市民たちからの歓声を受けエストシラント港を後にした。
艦隊は約15ノット、エストシラント単艦であれば25ノットは出せるが他の戦列艦と足並みをあわせるために仕方なく減速している。そうしている内に水平線の切れ目に黒い点がぽつぽつと現れる。リーム帝国海軍の大艦隊が姿を現した。
「目標ー!1万5000!未だ接近中!どのような形で戦をなされるのですか!」
接近してくるリーム艦隊に対して反航戦の体勢を取っているパーパルディア艦隊、戦列艦の大砲を活かすのであれば同航戦に持ち込みたいところであるが敵艦隊も戦列艦、我々と同じことを考えてくるはずである。
「第一艦隊のみで突撃しフィシャヌス級戦列艦艦隊は指示があるまで後方待機」
「しょ、正気でありますかシウス艦長!」
「正気だとも。この艦は強い。それを証明してやろうじゃないか」
気が狂ったのかと思いつつも副官は魔導通信で各艦に伝達すると船を加速させる。
「両舷前進全速一杯!」
「両舷前進全速いっぱーい!」
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「敵大型艦を含む艦隊。突進してきます!」
「ふん。敵は血迷ったか全艦回頭!あの大型艦を仕留めるぞ!」
戦列艦バ・リームを旗艦としヒキルガ型120門戦列艦を中心としたリーム艦隊60隻はよく訓練された艦隊運動で右へと回頭をし始めるがそれよりも先にパーパルディアの大型艦が爆炎を上げて発砲する。
「敵艦発砲ぉ!」
「まだ10000もあるぞ。威嚇だ当たるはずもなかろう」
そうたかをくくっていた敵司令官であるが不気味な高音と共に狙われたのは舵を切り回頭をしようとした先頭の戦列艦であり、巨大な水柱に包まれてしまい収まった頃には真っぷたつとなっていた。
「ば、バ・ラーマ撃沈!」
「バカな!ぜ、全艦回避行動を取れ!」
…… …… …… ……
「初弾夾叉!なれど敵戦列艦撃沈す!」
戦艦エストシラント露天艦橋ではちょっとした歓声が上がっていた。エストシラント沖での苦しい訓練での成果が報われたのである。
「まだ敵艦は残っておる!取舵一杯!後続の戦列艦にも突撃しろと伝え!」
「了解!とぉーりかーじ、いっぱい!」
艦を軋ませながら船は左を向き大きく傾く。これで同航戦へと持ち込めこの艦の最大火力を引き出すことができる。
「一・二番砲塔は二番艦!、三・四番は三番艦!副砲や対空砲も全て狙え!巡洋艦や駆逐艦も砲撃を開始せよ!」
「敵戦列艦発砲!」
同航戦となることは敵も最大火力を引き出すことができる。……しかし戦列艦の射程は最大で二キロ、それに対してこちらの砲は最大射程25キロ、今回の海戦ではおおよそ10キロと最大射程の半分であり景気の良い実弾訓練のような状態となっていた。
「敵弾!我が艦のはるか手前に着弾!」
「敵ながらあっぱれであるな!全砲門放て!」
再び爆炎と共に質量を伴った砲弾がリーム艦隊へと襲いかかる。35.6cm8門に加え副砲の15.2cm8門、巡洋艦20.3cm砲や駆逐艦の12.7cmが続々と砲撃を開始した。
「アーマ、ウーマ撃沈!続いて……ダメです!撃沈報告が追いつきませ……ぐわっ!」
報告に訪れた兵士が倒れそのまま動かなくなった。エストシラント積載の機銃が射程に入ったのである。距離でいえば戦列艦も射程内に入っているがリーム艦隊は組織的な戦闘を行うことはできなくなっていた。
「くそ……全艦隊撤退!繰り返す全艦……」
敵艦隊司令官の魔信による撤退命令が出されたが命令が全艦に到達するよりも早く20.3cm砲が旗艦バ・リームの竜骨を吹き飛ばし一瞬の後に海の中に消えていった。
「バ・リームが沈没!」
「あんな化け物がいるなんて聞いてないぞ!」
「撤退だ!撤退しろ!」
統制を失ったリーム艦隊は散り散りになりながら撤退していくが追い打ちをかけるようにフィシャヌス級戦列艦が追撃を仕掛ける。
「我々も追撃を行いますか?」
「いや我が艦はリーム海軍の生き残った兵士たちの救助を行う。網と小型艇をおろせ」
デュロの攻撃を目論んだリーム帝国海軍であるが新鋭艦エストシラントを含む第一艦隊によって阻止され、攻め入ったリーム帝国軍は戦列艦36隻が撃沈、5隻が鹵獲され敵司令官を含む1300人にも及ぶ将兵を捕虜として収容する結果となった。
それに対してパーパルディア側の被害といえば撃ち終わった薬莢を拾い上げようとした兵士が手に火傷を負ったり濡れた甲板で滑って転倒した等の負傷者があったぐらいで大きな損傷等は無く、完勝と言って良い勝利であった。
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「……以上がデュロ沖海戦で行われた結果となります」
帝前会議で海軍大臣が発言する。出席した面々からは安堵の声が溢れる。
「これでリームの奴らも懲りてくれるだろう……」
誰かがそう呟く。戦況は優勢なもののいつまでも戦時体制のままでは国の経済が真綿で締め上げられていくことが誰もが分かっていた。
「報告ありがとう。魔導通信を用いて停戦の放送を行って」
「はっ、かしこまりました」
しかし、再三の停戦要請にリーム帝国は沈黙を貫き、攻勢や海戦等目立った戦闘は無いまま3ヶ月が過ぎようとしていた。前線の塹壕線の兵士たちは楽観視が広まっていたが司令部ではこの奇妙な沈黙から緊張感が漂っていた。
次回、リーム帝国の兵器VSパ式蒸気戦車!お楽しみに