神秘狂いのキヴォトス動乱道中(凍結)   作:紅琳檎

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Vol.? 神秘発現研究部編
1-1 産声、それは。


「一体……どうしちゃったんだわたし……」

 

姿見の前で少女は独り言ちる。

手にしているのは学生証と、武骨な拳銃であった。

 

トリニティ総合学園中等部1年、荒守(あらがみ)リズ。

 

顔写真とも一致しているし鏡の中の自分はきっとこの少女なのだろう。

 

「いやでも待って、違う、わたしは確か、山間の町を目指して山を登っている途中で滑落、して……」

 

自己認識に大きなズレが生じ、少女はその場に蹲る。

ありふれた名前の、ありふれたそこらの一般人。

自身の仕事の最中に足を滑らせ崖底に向かう最期の意識がフラッシュバックし、少女は嘔吐した。

 

「げ、ぇ……っ……!……はぁっ、……でも、生きて、る……いや……」

 

「これは、わたしじゃない」

 

きっとこの拳銃で頭を射抜けば元に戻れるんだと、少女はごく自然な動作で眉間に銃口を当てる。

まるで祈るかのように引き金を引くと、酷く乾いた破裂音とともに、少女は、

 

「いっっっっったぁぁぁああ…………く、ない!!??」

 

眉間をほんの少し赤くして、寸分違わぬ姿で蹲っていた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「……おもちゃじゃ、ないよねこれ」

 

結果的に自死を免れた形になった少女は床を綺麗に清掃してから、手元の銃を眺める。

少女は現状を、全く自分の知らない世界で自らの精神と肉体が入れ違っているのだと結論付けた。

ありふれた前世ではそれなりに精通していた(仕事でもプライベートでも)内容であったため、「これが異世界転生……」とそれなりに満足げな溜息も吐いてしまっている。

再度、姿見の前で自身を観察している。

 

「アニメやゲームみたいな白い髪。それに一切の装飾無しでとんでもなく可愛いわたし……と、それに似合わないこの拳銃……」

 

一度冷静になった仮称リズは、つい先程の嘔吐や自殺衝動を忘れているようだった。

ここが一体どんな世界観であるのか彼女には想像がつかず、美少女×シューティングのような作品を思い浮かべても一向に見当が付かない様子。

 

「であれば情報収集だよね。この世界にもスマートフォンがあるのはちょっと面白いかも」

 

少なくとも自身がかつて生きていた世界とほぼ同程度の文明レベルがあることに安堵しつつ、リズは調べた情報をノートに書き綴っていく。

 

「キヴォトス、自治区、銃撃戦、クーデター、銃のセール、スイーツの広告、連邦生徒会、カイザーコーポレーション……なるほどね」

 

一通り情報を纏め終えた彼女はノートを眺め、悩まし気に息を吐く。

自身の記憶内には全く無く、かつ想像以上に物騒な世界であることを理解したからだ。

 

「銃器やパーツ、ホルスター、ベルトが一般的なお洒落の範囲内で販売されているのに対し、防弾チョッキ等の防具がほぼ一般流通に無いのは、さっきみたいな肉体の基本防御力が高いことが関係している……?であればわたしが外に出ても違和感を持たれることはないかも。でも銃は使ったことないし、さっきの記事みたいな銃撃戦に巻き込まれたらどうしようもないだろうし、ちょっと慎重に立ち回らないといけないかな」

 

よし、とリズは立ち上がり、恐らく自室であろう1DKを一通り漁ることにした。

中学生にしては少し背伸びした化粧品、多くの私服と、衣類カバーに覆われた恐らく通っているであろう学校の制服。

机には整然と並ぶ空の弾倉と銃弾。

なるほどこういうのも自分でやるんだね、と独り言ちるリズが見つけたのは、学校のパンフレットと拳銃に関連したメンテナンスの冊子だった。

 

「おお、これがあればとりあえずこの銃を持って外出できそうかな?それにこの、トリニティ総合学園って、さっきの制服のデザインが載ってるからわたしが通う学園なんだろうね」

 

冊子をパラパラと捲りながら弾倉に銃弾を詰め、銃を分解整備する。

淀みなく動く手はこの身体の持ち主の記憶が無意識化で働いているのか、とリズは思案する。

万が一この身体の精神、つまり元の持ち主が未だ存在しているのであればそれは自身の内面に潜んでいると容易に想像はつくが、そもそも接触する方法も思いつかない。

 

「……さて、部屋を漁って現実逃避もそろそろ終わりにしないと、かな。いつまでも仮称:リズでいられないし」

 

スマートフォンの画面に開かれたモモトークというメッセージアプリ、先程から断続的に届くメッセージに目を通す。

 

『おはようございます。本日、パテル分派中等部全体での会合が行われます』

『初回のため1年生は各自教室で待機をお願いします。本日15:30に2年生代表の御園ミカさんが各教室まで迎えに行くので準備を整えておくように』

『体調不良など特別な理由がなければ全員参加となります』

 

「グループには入ってるけど特定の友人はいないって感じかな。というよりここまで物が揃っているのに使用感や生活感が無いのは、もしかして小学校とか行ってない感じだったりしない?」

 

机の横に掛けられた、通学用の新品ぴかぴかなスクールバッグ。

弾倉や弾丸の並びから几帳面そうな子のようだと予想したリズは、中身の書類に何かしら自身の情報がないかと調べ始める。

 

「あ。……あー、なるほど。病弱っ子かぁ。初めての学校だったんだねぇ……」

 

初等部の通学歴無し、成績良好、現状見られている疾病の症状と投薬内容など、少女の過去は決して明るいものではなかったようだ。

そして中等部で初の通学、その日に身体を乗っ取られてしまった、ということ。

 

「……うん、いつでも身体を返せるように、しっかり学校に通ってあげよう」

 

トリニティ総合学園の制服に袖を通し、リズは罪悪感に圧し潰されそうになりながら玄関を出た。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「連邦生徒会長が失踪、ね。わたしに何も言わない辺りかなり本気で話してたんだね。ずっと与太話だと思ってたけど悪いことしちゃったなぁ」

 

あれから4年か、と呟いたリズはミレニアムサイエンススクールの別館の一室、神秘発現研究部の部室から窓の外を眺める。

自身を取り巻く環境もこの世界で目覚めてから大きく変わり、その間に知り合った親友とも呼べる生徒会長は行方を眩ませてしまった。

 

「これからキヴォトスは荒れる。自発だろうが事故だろうが、あの生徒会長が何の策もなく失踪するとも思えない。わたしにずっと聞かせていた『盤面をひっくり返す存在(デウス・エクス・マキナ)』が、きっと姿を現すはず」

 

 

「そのためにわたしは招かれたんだ、きっと」

 

 

 

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