先人に倣い、掲示板形式にも挑戦したいところ。
神秘について独自解釈がありますので要注意。
「突然だが、『神秘』と聞いて何を思い浮かべるだろう。
神の御業だとか、超常現象だとか、人間の理解できないものだとか。
そういった学術的なものは一旦すべて忘れてくれたまえ。
我らが研究と実験がもたらした結果としてそれらを『第二の血液』と名をつけた」
ミレニアムサイエンススクールで最も大きい公演ホール。
ライトアップされた舞台上で堂々と、そしてどこか好奇心を擽られる芝居染みた話術。
荒守リズ率いる神秘発現研究部の上半期研究発表会が執り行われていた。
「手元の資料3ページ目、『神秘とは』を見てもらおうか。
何度か足を運んでくれた諸君には耳にタコが出来るような話だろうが、
20ページほどで構成された冊子をひらひらと振りながらリズは言う。
背後の巨大スクリーンに映された冊子のアップをレーザーポインターで指した。
「前提として『神秘はこのキヴォトスに存在する全物質に宿る』。
これはマストなので覚えておくように。
そして『神秘とは循環するように物体内で流れを持っている』ということが判明している」
これを見てもらおうか、とリズの取り出した手のひらサイズの丸い宝石に、万を超える視線が集中する。
青白くどこか粘度を持ったような光が、宝石の中で乱雑に渦を巻いていた。
「この光こそが『神秘そのもの』だ。
様々な手法を用いようやく観測することができ、実験を繰り返し、可視化することに成功した。
っと、この情報は今回が初出だったな。
ゲヘナ自治区の鉱山から出土したクリスタルだが、元のサイズはこれの3倍ほどあった。
研究のために粉砕したり研磨したりしていたらここまで小さくなったのだが、それでもこれだけ濃厚な神秘を秘めている」
傍聴席からすっと手が上がった。
キヴォトス内で唯一『神秘』についての研究で成果を上げているグループであるため、技術や情報の秘匿はしないと決めたリズが質疑応答があればその場でと通達を出している。
ミレニアムサイエンススクールの大学教授ロボットだ。
「質問を失礼いたします。
まだ始まったばかりで恐縮ですし後に語られるでしょうからひとつだけ。
もちろん他の自治区で同じように採掘し実験を行われているでしょうが、それらで別の特性が見つかったりはしたのでしょうか?
一応、資料には無い情報でしたので」
「ああすまないな、この神秘の可視化はこの研究発表会の直前に成功したのだ。
そしていい質問だ。
結果で言えば『全く変わりはなかった』ということだ」
部員たちがそれぞれ、ひと塊の原石を抱えて壇上へ上がる。
大きさも色も形もどれも一致しないが、同様に青白い光が渦を巻く、可視化された神秘を零している。
「ミレニアム産ピジョンブラッドルビー。
トリニティ産アクアマリン。
レッドウインター産トパーズ。
そしてゲヘナ産のクリスタル。
この4つはすべての条件が違えども、同じ神秘の輝きを持っているわけだ。
資料外の内容だったからいつ紹介しようか迷っていたけれど、助かった」
受け答えに満足した教授ロボが席に着くと、会場は大きな拍手に包まれる。
基本的に受け身にならざるを得ないこの研究発表会では、質問に対して敬意を表するための拍手があるのだ。
今回も治安がよろしいと、リズも満足して頷いた。
「さてこの神秘だが、実験と観察の結果、
クリスタルなんかはさっき話した通り1/3程度のサイズになってしまっているせいで他の宝石に見劣りする程度の神秘しか内包していない。
だが破砕した破片や研磨で出た粉末も同じように少量だが神秘を宿しているのが確認されている。
結論として『
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「""話の、話の難易度が高い……!""」
「まぁ、先生は初めてですからね……初回からずっと聞いてる私でも、新発見が出るたびに追いつくのに必死ですから」
会場の来賓席でキヴォトス唯一の『大人』である先生が頭から煙を上げて突っ伏していた。
横にいた護衛兼案内役の早瀬ユウカは苦笑いとともに手元の冊子に素早くメモを取っていく。
6月と12月に行われる神秘発現研究部の研究発表は「何処の誰が来ても良い」代わりに席数に達した時点で受付を終了とする、いっそ清々しいまでの早い者勝ちというスタンスだ。
反面、研究部から招待されるミレニアムの身内(セミナー、ヴェリタス、エンジニア部しか居ないのだが)にはしっかり来賓席を用意しているあたり、問題児集団の面はあれど帰属意識もしっかりあるようだ。
「""あの子が、ユウカが紹介したい子なんだね""」
「ええ。
神話を日常に書き換える荒唐無稽な天才。
ついた通り名は
荒守リズです」
「……さて基本的な知識のおさらいは終わりだ。
資料の4ページ、こちらは以前の研究発表にて行われていた『神秘の物質化』について。
観測出来た神秘を抽出し物質化する、これも可視化を目指した研究の一環として引き続き行ってきたわけだが……結論から言うと、現状の研究段階では失敗に終わっている。
観測に成功した実験以来、トリニティ総合学園の文献を参考に『神秘とは運用・転用可能な未知のエネルギーである』と仮定し研究に取り組んできた。
しかし今回の可視化に成功した結果、その根幹が大きく揺らぐ結果になってしまった」
「""リズはユウカにとってどんな子なの?""」
軽快に滑っていたペン先がぴたりと止まり、少し縒れた文字とともに再び動きだす。
そうですね、とどこか虚ろな目をしたユウカはいつもより数段低い声。
「1つの実験でどこから持って来たかもわからない部費以外のとんでもない金額を動かしたり、爆発とか倒壊とかでミレニアムの地形を変えたり、かと思えば資金が余ったとか言って全体の半期予算くらいの額をぽんと置いていったり……まぁでも、憎めない子ではありますよ、確実に」
「""そ、そうなんだ……""」
「観測、可視化を経て、『神秘とは神秘としてしか運用できない』という仮説が立ったわけだ。
資料の6ページは前回の内容とそれの補完を記載している。
今回の発見によって仮説からデータに転落したものだが、一点注目してほしい欄がある。
『神秘の観測上の量における弾速、弾道、威力の変動について』のデータが非常に面白い形で仮説に関わりだした。
神秘を多分に含む弾丸は空気抵抗や火薬の量に左右されず、一部物理法則を無視するといった特異な性質を示すことは前回公開した通りだな。
さてその辺りを踏まえて今回の研究から突貫ではあるがいくらかの方程式を―――……」
次々に並びたてられる計算式に、先生は完全に沈黙してしまった。
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「……―――では、これにて上半期研究発表会を終了する。
手元の資料のコピーが欲しければ出入り口に研究部のスタッフがいるので声をかけてくれ、ひとり3部までお渡しする用意があるぞ。
各自治区までの乗り合いバスは十分な数を手配しているので気を付けてお帰りを」
ぶつんとマイクの接続が切れるとともにスタンディングオベーションで見送られたリズが壇上を降りる。
その足で来賓席のユウカの元へ訪れると、すいと右手を差し出した。
「はー、毎度のことだけど発表会は緊張しちゃうね。
さてセミナーの早瀬ユウカさん、今回も無事に成果の発表ができたわけだけれども、下半期の我が部の予算はいったい如何ほど貰えるのかな?」
「最初の一言で安心したわ、研究発表会の猫被った姿はいつ見ても慣れないもの。
でも、ま、今回も進行具合は良好みたいだし、前年度5%増しで見積もってあげましょう」
「20%」
「無理よ、譲歩しても10%」
「まぁお金に困っていないからね、10%増量なら部の皆も納得するでしょ。
じゃあそれでよろしく。
……で、この脳ミソがパンクしちゃってる方が、例の?」
固く握手を交わした両人が視線を下げると、濃厚な物理・数学に叩きのめされ、目を回した先生が机に突っ伏していた。
にんまりと頬を緩めたユウカが先生の口元をふにふにと弄ぶ姿に、リズはもしかしてねんごろなアレソレなのかな、と友人から少し距離を取ることを内心で決めていた。
「そう、連邦捜査部シャーレの先生よ。
流石にミレニアムの中でも特濃の分野には精通していないけど、各自治区や部活同士のつながり、バランスを理解して取り持ってくれるから、困ったことがあれば相談してみるといいわ」
「""うう、最近の子たちはすごい研究をしているんだね……。
ちっともわからなかったよ……""」
身体を起こした先生はリズを視界に収めると人好きのする笑顔を浮かべた。
その顔にときめいてるであろう友人を尻目に、リズもビジネスライクな笑顔で応える。
「どうも先生。
神秘発現研究部部長の荒守リズです。
遅くなりましたが、本日はお忙しい中、ご足労頂きありがとうございます」
「""こちらこそ、お招きありがとう。
連邦捜査部シャーレの先生です""」
よろしくお願いしますね、
リズが飲み込んだ言葉をまるで聞いていたかのように、先生は握手を求めた。