これは勇者アンスルが旅を始めて数か月での出来事
アンスルは一人、冒険者が集まる地元の集会所にて受付の女性に愚痴っていた
「・・・・仲間が!見つからない!」
「あはは・・・・」
受付の女性も少し困ったように笑う
というのもこういったアンスルの愚痴は今に始まったことではなく、アンスルがこの集会所に来るようになってしばらくしたらこのようになったのだ
「ホントなんで来ないんでしょうね・・・募集もかけてるんですよ?」
「そういわれても・・・」
「これホントに僕に原因あるんですかね」
「もしかしてうちに問題あるって言いたいんですか?」
「いやそうじゃないですけど・・・」
アンスルがそんな風に愚痴っていると、一人の女性が話しかけてくる
「いやいや。あんたに仲間ができない理由に心当たりはあるよ」
「!本当ですか!マスター!」
話しかけてきたのはこの集会所のマスター
噂によると、前時代の凄腕冒険者だったらしい
「あぁ」
「なら是非教えてください!」
アンスルが身を乗り出して聞くと、マスターはコップ一杯の酒をグビっと飲み干して答える
「ぷはぁ・・・それは・・・」
「それは・・・・?」
「ズバリ・・・」
「ズバリ・・・・?」
「なんと・・・・」
「なんと・・・?」
「まさか・・・・」
「いやもういいよ!?どんだけ貯めるんですか!?」
「ハッハッハ!冗談だよ!まぁ今教えるからちょっと待ってな」
「そういってさらに飲まないでくださいよ!」
マスターはさらにジョッキ一杯の酒を四杯ほど飲んで話し出す
「・・・・ふぅ。ま、単純だよ」
「だからその単純な理由を教えてと・・・・」
そうアンスルがつぶやくとマスターはアンスルに人差し指をビシッと向ける
「それは・・・あんたが『勇者』だからだ」
「・・・・はい?」
アンスルはよくわからないというように首を傾げる
「簡単に言うとね?あんたの役職が重いんだよ」
「いや重いって・・・」
「言い方が悪くなるけどね。ここにいる冒険者たちの殆どは本気で魔王を倒そうなんざ思ってないわけ」
「・・・冒険者なのに?」
「そうさ。冷静に考えてもみな。数百年、ずっと倒すこともできなかった魔王を自分たちが死ぬ可能性が高いのに戦うか?」
「そ、それは・・・」
「戦わない。いや違うね。はじめはみんなあんたみたいに『うおおおおおお!魔王絶対ぶち殺してやるぜ!!!!!』って来るんだけどね。数か月もすればみんな『え?魔王?あぁ、無理無理。倒せないって。それよりこの辺の雑魚モンスター狩って金持ちになろうぜ?』ってなるんだよ」
「・・・」
マスターの話を聞いているアンスルは、それを否定できなかった
何故なら自分もそういった冒険者を何人か見てきたからだ
魔王を本気で倒そうとするなら、それ相応に強いモンスターや危険な区域に行くことになる
当然命の保証はない
「だから人間は魔王軍に支配されたエリアの奪還が全然進まないんだ。王都の方の冒険者はこっちに比べたらやる気はあるからね。それでも総合的に見れば死人のほうが多い。王都で訓練を受けたり、そもそものエリートですらそうなんだ。こんな田舎じゃなおさらでしょ?」
「は・・・反論できない・・・!」
「だからお偉いさんはしびれを切らして異世界からの冒険者なんぞ呼んでるんだろうね。まぁあいつらはあいつらで問題児ばっからしいけど・・・」
アンスルはマスターの話を聞いているうちに、気が遠くなってきていた
勇者という役職に選ばれた
その時はまさに有頂天!
自分が魔王を倒す!
ただそれだけを胸に抱き、修行し、モンスターを倒してきたのだから
「・・・・でもさ」
だが勇者は止まらない
否、止まれない
何故なら魔王とは
「僕は魔王を倒すよ。少なからずそう思っている人がいることもわかったから」
勇者が倒す存在だからだ
「・・・まぁ、数人はいるだろうけどね」
「そう!だけどその数人に出会えない!!!」
「だから言っただろう?『勇者』とパーティを組むってことは、死ぬ確率もグンと上がるってことだからねぇ・・・」
「いーや!絶対にいる!よし決めました!今から一番初めに僕に話しかけてきた人を仲間にします!」
「うわぁ・・・それでいいのかい???」
「そうでもしないと仲間が集まらない!!!!」
そんな話をする二人に、一人の人物が近づいてくる
黒いロープを羽織り、まさに魔女といった姿をした人物はアンスルの横にドスっと腰掛ける
「・・・ねぇ?」
「はい!あなた仲間ね!」
「は!?」
「よっしゃぁ!一人目ぇ!!」
そういってアンスルはその女性の腕をつかむ
「待ちなさい!」
「待ちません!」
「ふざけんなよこのクソ勇者!!」
「ふざけてません!本気です!!!」
「まずは・・・!話を・・・!聞きなさい!」
女性はそういって腕を振り払うとコホンと息を整える
「・・・一つ聞きたいことがあるの」
「何ですか?年齢?趣味?」
「どうでもいいわよあんたの情報なんて」
「ひどいなぁ・・・」
「それより!あなた本気で魔王を倒そうと思ってるの?」
女性がそう聞くと、アンスルは「もちろん!」と勢いよく立ち上がる
「僕は本気で魔王を倒そうと思ってます!」
アンスルがそう大声で宣言すると、集会所は静まり返る
「「「「・・・・・ぷっ」」」」
数秒後、どこからともなく集会所は大爆笑の渦に巻き込まれる
「だっはははは!!おい聞いたか!!!」
「あぁ聞いたぜ!!!こいつは大馬鹿だ!!!」
「魔王を倒すぅ????夢見てんじゃねぇよ!!!」
そんな声を無視し、ただ女性をまっすぐ見つめるアンスル
そんなアンスルの言葉に、女性は「そうね・・・」と小さくつぶやいて立ち上がる
「なら、契約しましょ?」
「契約?」
「えぇ。あたしがあなたの一番目の仲間になってあげる」
「!ホントですか!?」
「えぇ、ただし」
「ただし・・・?」
「あなた、私を守ってね」
「・・・???それは仲間なら守るだろ???」
アンスルが当然のことを言った女性を困惑の表情で見る
「あぁ、そういうのじゃなくて」
女性は頭に被っていたフードを取る
「私、魔女だから。魔法の研究がしたいの」
「研究?冒険じゃなくて?」
「そう。だから私からしたら・・・そうね。冒険は研究のおまけ。基本的に戦わないし、あなたが戦闘中だろうが研究対象があればそっちを優先する。それでもいいのよね?」
魔女がそう言うと、アンスルはよくわかってないのか首を傾げる
「んー?まぁよくわからないけど。仲間になってくれるならなんでもいいですよ」
「言ったわね!?よっしゃぁ!!!これで勇者の研究もできるぅ!!!!あっ、私の名前はルジュルン。よろしくね。とりあえず家を頂戴」
「とりあえずで要求するもんじゃねぇ!?」
こうして勇者アンスルは一人目の仲間、ルジュルンと出会ったのであった
カスとの出会い