「さてこの家に住むにあたって、いくつかの条件がある」
自宅に帰ってきた吹上とアンスルはイスに座り向き合う
「条件?」
「まぁそんなに難しいことじゃない。この国に住む以上最低限のことだよ」
「任せてください。勇者ですから」
「どういうこと?会話になってなくね?」
「勇者は様々な依頼をこなしますからね。ドラゴン退治におつかい、盗人確保となんでもござれですよ」
「いやそんなにハードなことじゃねぇよ。」
そういうと吹上は三本の指を立てる
「条件は三つ。まず一つはこの家に毎月5万円は入れること。住む以上家賃とか光熱費とかはお前も負担しろよ」
「別に働かなくても、女神さまが口座にめちゃんこお金入れてくれたので困らないと思いますけど・・・」
「うるせぇ働け」
「なんでそんな喧嘩腰なんですか・・・。まぁ故郷でも労働は生ある者の義務でしたからいいんですけど」
「そうだったんだ」
「えぇ。経典の三条目にかかれてます」
「意外としっかりしてるんだな。異世界の国家ってのも」
「国王に全権があるわけではないですし意外とニホンと近いかもしれませんね」
「・・もしかしてその国もこっちからの転生者が作ったとかだったりしてな」
「まっさかぁ!」
それがナイナイと笑うアンスルに対してどうだかなぁという目を向ける吹上
それはそれとして、吹上は立てていた指を一本曲げる
「二つ目だが・・・まぁ一つ目とほぼ同じだな。働け。バイトでも何でもいい。ずっとこの家に住み続けるわけじゃないだろ?」
「えっ」
「なんで驚くんだよ・・・」
「いやだってこういうのって共同生活を長くするもんじゃないんですか!?」
「なんでだよ。別にそんな決まりないよ」
「そんな・・・」
へなへなとこの世の終わりのような顔をして俯くアンスルに吹上は驚いたような声を出す
「そんなに落ち込むもんか!?」
「僕は・・・てっきり仲良くなれたものだと・・・」
「どこをどう見てそう思ったんだよ・・・出会ってまだ二日だぞ?いや二日もたってねえわ」
「一緒に出掛けたじゃないですか!」
「それだけ!?それだけで友情が芽生えたと!?」
「だって二人で服屋に行ったんですよ!?実質デートじゃないですか!」
「何真面目にふざけたこと言ってんのこの勇者!?気持ち悪いわ!」
「気持ち悪いとは何ですか!僕知ってるんですからね!ニホンでは同性愛も普通にあると!その中で男性同士の恋愛。通称びーえるが一大文化だと!王宮司書のウメダさんに聞いたんですよ!?」
「そいつがおかしいだけじゃねぇか!別に同性愛もあるけど男が全員同性愛なわけじゃねぇからな!?少なくとも俺はノーマルだ!」
「僕だってノーマルですよ!嫁も子供も、ついでに孫もいるんですよ!そんな人になんてこと言わせるんですか恥ずかしい!」
「お前が勝手に言い始めたんだろうが!?」
ギャーギャー醜く二人が言い合う
アンスルがあー言えば吹上がこー言い
吹上があー言えばアンスルがこー言う
そんな言い合いが数分も続けば疲れてくるわけであって
「はぁ・・はぁ・・」
「・・はぁ・・はぁ」
二人とも息が上がっていた
そんな中アンスルがクスッと笑う
「ハハハっ」
「おう・・なに笑ってんだ・・」
「いや・・こんな風に誰かと言い合いしたのが久しぶりで・・」
「あぁ?」
「・・昔、子供のころは幼馴染とこんな喧嘩をしてたんですよ。でも勇者になってからはそんなこともしなくなって・・・」
どこか懐かしむように語りだしたアンスルに茶々も入れず、黙って聞く吹上
「冒険してるときは本当に・・たまーに仲間と言い争うこともあったんですけど・・」
「仲間がいたんだな」
「そりゃいますよ。僕を何だと思ってたんですか・・」
「ソロで魔王をぶっ倒したバケモン」
「ひどい!」
真面目にそう思っていた吹上はさも当然のように答えるが、アンスルに否定される
「僕もパーティを組んでたんですから・・。まぁちょっとばかり問題児が多かったですけど・・」
「まぁ筆頭がお前じゃな」
「いちいち煽ってくるのなんなんです?」
「俺の座右の銘が『煽れるうちに煽っとけ』だからな」
「最低な座右の銘!」
「別にいいだろ座右の銘なんて。都合のいい時に代わるんだから。・・・それで?」
「あぁ僕の話の途中でしたね。まぁそれで冒険してたわけですよ。途中でメンバーがいなくなることもありましたけど。何とか魔王を倒したわけですよ」
「あーそれは言ってたな。その褒美でこっちに来たんだろ?」
「えぇ。まぁそこはまた今度話しますよ。・・・それで王国に帰ってきたんですけども、もう英雄扱いで。パレードなんかも開かれちゃって・・・。もちろんはじめはうれしかったですよ?そりゃ子供のころからあこがれてた英雄になったんですから」
@@@
夢がかなった。
それだけじゃない。
このパレードに参加しているあの人もあの人も。
僕が守ったんだ。
それがどうしようもなくうれしかった。
それから数日は毎日が有頂天だった。
メイドや執事が身の回りの世話をしてくれて
食事も不自由なく、最高級のものが毎食出てきて
仲間たちと毎日楽しかった。
楽しかったはずなんだ
けれど
どこか
穴が開いたように感じていたんだ
@@@
「特別扱いされていたんですよね」
「そりゃそうだろ。国を救った英雄様だろ?そらそんな扱いになるよ」
「えぇ。そうなんですが・・。田舎育ちの僕からしたら刺激が足りなくってですね」
「足りなくて?」
「王宮から逃げました」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「逃げて隠居して。そして死にました」
「・・・お前アホだろ」
「ははっ。そういわれても無理ありません・・。不自由ない生活を捨てて、手に入れたのは不自由だらけの隠居ですから。アホですよ」
「わかってんならなんで・・・」
「つまらなかったんです」
そう答えるアンスルに首をかしげる吹上
そんな吹上を見て、話を続けるアンスル
「みんなが僕を勇者として見てくるんですよ。アンスルとしてじゃなく。それが窮屈で窮屈で・・・。だから今みたいなくだらない言い合いも懐かしくなっちゃって。ごめんなさいね」
「・・・」
吹上はただ静かに話を聞くしかなかった
なんて答えたらよいのかわからないからだ
少し気まずい雰囲気のまま夜を迎えた
自由は不自由